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23.パレード
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私はシャーロットをおんぶして厨房に立った。
よく眠る子で、本当に助かったの。
ただ、残念なことに私、あまりお乳が出なくてね。
そうしたら、そんなこともあろうかとって大哥が大威張りで連れてきたのはリリという新しい恋人。
そして、私と同じ頃にやっぱり女の子を産んでいた。ええ、大哥の子です。
大哥、他にも子供は数人いますけどね。
「大哥ったら、早く産め早く産め、お星様が飢え死にするって急かすのよ。だから予定より二週間も早く産まれちゃったわ」
私より三歳年下の彼女の登場に正直呆れたけれど、本当に助かった。
彼女は、自分の娘とシャーロットに交互にお乳をあげてくれた。
小柄なのにびっくりするぐらいお乳が出てねえ。
その子はシャーロットとは姉妹のように育ちましてね。今はオーストラリアにいるそうです。
金蘭酒楼、このお店は当時随分繁盛したんですよ。そのうち、暁子が和食も出したらって言い出した。
あの頃、日本は景気が良かったから、日本人もたくさん香港にいましたしね。
そう、入り口の暖簾は暁子が持ってきてくれたの。
暁子が、染め屋さんに行って自分で染めたんだからと自慢してね。
凝り性と言うか酔狂と言うか、そんなところのある人でした。
そして数年後にレイモンドが産まれました。
私、やっぱりお乳が出ない。
レイモンドの時も、リリがお乳の面倒を見てくれた。
リリは毎年のように子供を産んでいたから。
ああ、レイモンドの時はちょっと大変だった。
大哥とママが揃って、新作の映画の宣伝のために車に乗ってパレードをすることになっていたの。
時代劇のあの派手な衣装と化粧でね。
それはもう豪華な車列でした。
沢山の色とりどりの花びらの形の紙吹雪や、中には本物のお金も舞っていた。
「若奥さん!大哥と鳳姐が来るよ!」
そう言われて私は厨房を抜け出して通りに見に出ていた。
皆、ママや大哥に花束やプレゼントやおひねりを渡していた。
先に来たママはにこやかに微笑んで、私を見つけると、花束を掲げて手を振った。
私も飛び上がって手を振って。
そしたら私、いきなり産気づいちゃったの。
座り込んだ私に、周りにいた人も驚いて。
ママが車を止めてと大声を出して、停車した車から慌てて降りると人を押しのけてやってきた。
「まあ大変!早く病院に行かなくちゃ!」
「鳳姐!もう産まれるよ!」
騒ぎを聞いて駆けつけた産婆の経験があるというおばさんが、私の股座を覗き込んで言ったの。
「そんなの困るわ!新しいお星様が道端で産まれたら大変!」
とにかく中へ、と店の中へ運ばれて。
お産というのは、変よねえ、産むのにまず死にそうになるのよ。
その痛いのったら・・・。
ママは痛いのに滅法弱いから、私が苦しんでいるのに自分が貧血になりそうと言ってブルブル震えていた。
「ああもう、こんなに痛いのよね。暁子の時もそうだった。あの時も、私、腰が抜けて泣いてたんだから!・・・誰か!凍檸檬茶持ってきて!」
と言って自分が飲んでいたっけ。
でもレイモンドの時は安産で、三十分もしないで産まれたのよ。
「お星様が産まれたわ!男の子よ!」
大時代な衣装と厚化粧のママがそう叫んだ。
扉の向こうで大哥が快哉を叫んだ。
そこからは厨房も大わらわの大宴会。
たまたま居合わせた人達も混ざって、それは賑やかになった。
大哥は、道すがら貰った山のようなプレゼントも赤い袋のおひねりも逆に配っている有様。
恥ずかしいけど、新聞に載ったのよ。
ニュースになった。
それを東京で見た太郎と太郎の勤める新聞社から大きな花束が届いたの。
これがそれ、とアルバムの切り抜きを見せられる。
漢字ばかりでよくわからないが、隣には英字新聞も。
新聞を見て、お客さんがもっと来てくれるようになってね。
私も数ヶ月後にはまた調理場に立ち始めたの。
そうだわ。そろそろレイモンドの誕生日だわ。
だからかしらね、こんな話を桜子ちゃんにしたくなったのは。
シャーロットもレイモンドも私の大切なお星様だものね。
よく眠る子で、本当に助かったの。
ただ、残念なことに私、あまりお乳が出なくてね。
そうしたら、そんなこともあろうかとって大哥が大威張りで連れてきたのはリリという新しい恋人。
そして、私と同じ頃にやっぱり女の子を産んでいた。ええ、大哥の子です。
大哥、他にも子供は数人いますけどね。
「大哥ったら、早く産め早く産め、お星様が飢え死にするって急かすのよ。だから予定より二週間も早く産まれちゃったわ」
私より三歳年下の彼女の登場に正直呆れたけれど、本当に助かった。
彼女は、自分の娘とシャーロットに交互にお乳をあげてくれた。
小柄なのにびっくりするぐらいお乳が出てねえ。
その子はシャーロットとは姉妹のように育ちましてね。今はオーストラリアにいるそうです。
金蘭酒楼、このお店は当時随分繁盛したんですよ。そのうち、暁子が和食も出したらって言い出した。
あの頃、日本は景気が良かったから、日本人もたくさん香港にいましたしね。
そう、入り口の暖簾は暁子が持ってきてくれたの。
暁子が、染め屋さんに行って自分で染めたんだからと自慢してね。
凝り性と言うか酔狂と言うか、そんなところのある人でした。
そして数年後にレイモンドが産まれました。
私、やっぱりお乳が出ない。
レイモンドの時も、リリがお乳の面倒を見てくれた。
リリは毎年のように子供を産んでいたから。
ああ、レイモンドの時はちょっと大変だった。
大哥とママが揃って、新作の映画の宣伝のために車に乗ってパレードをすることになっていたの。
時代劇のあの派手な衣装と化粧でね。
それはもう豪華な車列でした。
沢山の色とりどりの花びらの形の紙吹雪や、中には本物のお金も舞っていた。
「若奥さん!大哥と鳳姐が来るよ!」
そう言われて私は厨房を抜け出して通りに見に出ていた。
皆、ママや大哥に花束やプレゼントやおひねりを渡していた。
先に来たママはにこやかに微笑んで、私を見つけると、花束を掲げて手を振った。
私も飛び上がって手を振って。
そしたら私、いきなり産気づいちゃったの。
座り込んだ私に、周りにいた人も驚いて。
ママが車を止めてと大声を出して、停車した車から慌てて降りると人を押しのけてやってきた。
「まあ大変!早く病院に行かなくちゃ!」
「鳳姐!もう産まれるよ!」
騒ぎを聞いて駆けつけた産婆の経験があるというおばさんが、私の股座を覗き込んで言ったの。
「そんなの困るわ!新しいお星様が道端で産まれたら大変!」
とにかく中へ、と店の中へ運ばれて。
お産というのは、変よねえ、産むのにまず死にそうになるのよ。
その痛いのったら・・・。
ママは痛いのに滅法弱いから、私が苦しんでいるのに自分が貧血になりそうと言ってブルブル震えていた。
「ああもう、こんなに痛いのよね。暁子の時もそうだった。あの時も、私、腰が抜けて泣いてたんだから!・・・誰か!凍檸檬茶持ってきて!」
と言って自分が飲んでいたっけ。
でもレイモンドの時は安産で、三十分もしないで産まれたのよ。
「お星様が産まれたわ!男の子よ!」
大時代な衣装と厚化粧のママがそう叫んだ。
扉の向こうで大哥が快哉を叫んだ。
そこからは厨房も大わらわの大宴会。
たまたま居合わせた人達も混ざって、それは賑やかになった。
大哥は、道すがら貰った山のようなプレゼントも赤い袋のおひねりも逆に配っている有様。
恥ずかしいけど、新聞に載ったのよ。
ニュースになった。
それを東京で見た太郎と太郎の勤める新聞社から大きな花束が届いたの。
これがそれ、とアルバムの切り抜きを見せられる。
漢字ばかりでよくわからないが、隣には英字新聞も。
新聞を見て、お客さんがもっと来てくれるようになってね。
私も数ヶ月後にはまた調理場に立ち始めたの。
そうだわ。そろそろレイモンドの誕生日だわ。
だからかしらね、こんな話を桜子ちゃんにしたくなったのは。
シャーロットもレイモンドも私の大切なお星様だものね。
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