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16.差し出せる信用
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保真智がなぜかもじもじしだして、一輝は多少イラついて、はっきり話せと促した。
「・・・いや、あの、多分、彼女にわかる形、わかりやすい形、だな。それで信じてもらうにはどうしたらいいかと、言う事・・・」
「・・・へぇ?」
イマイチ話が見えてこない。
「・・・だからさ。あー、結婚するまでは手を出さない、って言った」
「え?何で?お前が?相手がそう言ったんじゃなく?」
「言わせちゃダメだろ。だから、その、は、初めてだって言うし・・・」
そう言って、保真智は赤くなった。
「・・・あ、そう・・・。今時、それもまた珍しいねえ・・・」
「だよな。そうなんだよ、そう・・・だからさ・・・。でもさ、会うとその、触りたくなるし。でも、会わないわけに行かないんだよ、会いたいから」
何だか小学生の時のような口調になってしまっている。
あの頃がこいつ一番バカだったなあと思っていたが、逆戻りか。
「・・・何?お前、だから別で遊んでんの?・・・そんな無理な申し出しなきゃよかったじゃ無いかよ!」
「・・・じゃあ、俺、どうやって信じてもらうんだよ・・・」
差し出せる信用、担保が無い。
「お前ね・・・。いいか、お前、今まで、いい加減に生きてきたから、自分に信用がない事自分でわかってんだわ。・・・正直に話せ」
保真智は今度は青くなった。
「・・・そんなわけに行くかよ・・・。かっこ悪ぃ・・・。信用全て失って、嫌われるだろ?!」
「・・・まあな。バカみたいっつうかバカだよな・・・」
赤くなったり青くなったりする弟を呆れながらも、おかしくて仕方ない。
こんな弟は初めて見る。
よほど入れ込んでいるのか。
「ああ、わかった。だから、お前、そんな重い約束取り付けさせて、若い娘を縛りつけてんのか」
兄にズバリと言われて、保真智は絶句した。
「・・・なあ、その子が、自分が世間についていけないんじゃないかって不安あるならさ、お前が励ましてやれよ?年上なんだしさ。とりあえず社会に出てみるのって悪くないだろ?結構出来ることあるはずだよ。ほんで、いろいろ分別ついてさ、そしたら改めて結婚なり、すればいいんじゃないかよ?」
あまりにも正論。
それは、善き年上の交際相手としたら正しい。
「ダメだろ・・・」
「は?どこが?何が?」
何か間違ってた?と一輝は心底驚いた。
面識は無いが、弟の交際相手の状況や人柄を鑑《かんが》みるに、ベストな答え、まるで先生みたいだと思ったのに。
「俺がダメだろ?!だってさ、桃ちゃん、今だから、そんなもんなんだーって俺と付き合ってんのかもしれないじゃないかよ?社会に出て、世の中を知ったらさ。自分が結構いろいろ出来る事もわかっちゃって、いろんなやつと出会って、俺の事なんか、つまんなくなるかもしれないじゃないかよ?」
真剣な顔で告白されて、一輝は唖然とした。
これはもはや、モラハラだのセクハラだのではないだろうか。
いや、そんなにその女に惚れ込んでいるのか。
「・・・小さい男だなあー、お前は・・・」
情けなくも、羨ましくもあり。
小さい男と言われて保真智は言い返そうと思ったが、やめた。
あまりにも、それは的確だと自覚がある。
どうにか、弟を励ましてもやりたいと、一輝は深くため息をついた。
「いや、そのお嬢さんもさ、お前のそんなバカみたいなとこ、気にしないと思うけどなあ」
「・・・俺が気にするんだわ・・・」
「・・・何にしてもさ。お前、それじゃ、誠意になってねえだろ。・・・母ちゃんに知られてみろ、結婚式の前にお前が殺されて葬式だっての」
当然冗談なのだが、あの母の事だ。
半殺しくらいにはされそうだ。
「いいか。そのお嬢さん。母ちゃんとお前の話聞いた限りじゃ、かなりいい物件だぞ。お前には身に余る程だ。・・・いいか。身の丈に合わないものは、身につかないもんだ。・・・それでもと思うなら、お前が、変われ」
これでも生き馬の目を抜く世界で生きている。
ここ一番で何が大切なのかはわかっているつもりだ。
それが、この弟にわかるかどうか。
彼にとってこれはきっと試練になるだろう。
今まで積み上げて来たもので勝負するか、それが無いなら、出たとこ勝負するしか無いわけだけれど。
歳の離れたこの弟には、どうか報われて欲しいと思うけれど。
保真智は、手の中の紅いリンゴの実を転がしながら、ああでもないこうでもないと、思案しているようだった。
子供達に遊ばれてしっちゃかめっちゃかにされた保真智が帰った後、もっと結婚式の話が聞きたかったと美智子が少し不満気だった。
「ねえ、一輝、美容室もう予約しちゃった方がいいかな?披露宴するうちのホテルに何店舗かあるでしょ?和装のお仕立てが得意なとこがいいんだけど」
「・・・美容室の予約、ねぇ・・・?」
「もう!ちゃんと考えてよ。親族だから、きちんとしなくちゃ!あの色留袖着るの楽しみ!・・・宝ちゃんはどうするかって聞いた?」
義妹の服装まで気になるようだ。
「宝は着物なんか無理だろ・・・。着物なんか着せたら、右手と右足同時に出ちまうもの。・・・うーん、あのさ、美容室はさ・・もうちょっと、待ってたら?ほら、皆、出席者は時間帯バッティングしちゃうからさ。大体出そろったところで、一番いいとこ押さえてもらうからさ・・・」
「・・・あら、そう?」
「それにさ、結婚式の前に両家の顔合わせの食事会とかあるだろ?まずはそっちに軸足を置いてさ。ほら、服でも見て来たら?」
「確かにそうだわ!お食事会が先!そうね。ワンピースでいいわよね!」
あなたにしては気が利くじゃないの、と妻は嬉しそうにキッチンに向かって行った。
「・・・いや、あの、多分、彼女にわかる形、わかりやすい形、だな。それで信じてもらうにはどうしたらいいかと、言う事・・・」
「・・・へぇ?」
イマイチ話が見えてこない。
「・・・だからさ。あー、結婚するまでは手を出さない、って言った」
「え?何で?お前が?相手がそう言ったんじゃなく?」
「言わせちゃダメだろ。だから、その、は、初めてだって言うし・・・」
そう言って、保真智は赤くなった。
「・・・あ、そう・・・。今時、それもまた珍しいねえ・・・」
「だよな。そうなんだよ、そう・・・だからさ・・・。でもさ、会うとその、触りたくなるし。でも、会わないわけに行かないんだよ、会いたいから」
何だか小学生の時のような口調になってしまっている。
あの頃がこいつ一番バカだったなあと思っていたが、逆戻りか。
「・・・何?お前、だから別で遊んでんの?・・・そんな無理な申し出しなきゃよかったじゃ無いかよ!」
「・・・じゃあ、俺、どうやって信じてもらうんだよ・・・」
差し出せる信用、担保が無い。
「お前ね・・・。いいか、お前、今まで、いい加減に生きてきたから、自分に信用がない事自分でわかってんだわ。・・・正直に話せ」
保真智は今度は青くなった。
「・・・そんなわけに行くかよ・・・。かっこ悪ぃ・・・。信用全て失って、嫌われるだろ?!」
「・・・まあな。バカみたいっつうかバカだよな・・・」
赤くなったり青くなったりする弟を呆れながらも、おかしくて仕方ない。
こんな弟は初めて見る。
よほど入れ込んでいるのか。
「ああ、わかった。だから、お前、そんな重い約束取り付けさせて、若い娘を縛りつけてんのか」
兄にズバリと言われて、保真智は絶句した。
「・・・なあ、その子が、自分が世間についていけないんじゃないかって不安あるならさ、お前が励ましてやれよ?年上なんだしさ。とりあえず社会に出てみるのって悪くないだろ?結構出来ることあるはずだよ。ほんで、いろいろ分別ついてさ、そしたら改めて結婚なり、すればいいんじゃないかよ?」
あまりにも正論。
それは、善き年上の交際相手としたら正しい。
「ダメだろ・・・」
「は?どこが?何が?」
何か間違ってた?と一輝は心底驚いた。
面識は無いが、弟の交際相手の状況や人柄を鑑《かんが》みるに、ベストな答え、まるで先生みたいだと思ったのに。
「俺がダメだろ?!だってさ、桃ちゃん、今だから、そんなもんなんだーって俺と付き合ってんのかもしれないじゃないかよ?社会に出て、世の中を知ったらさ。自分が結構いろいろ出来る事もわかっちゃって、いろんなやつと出会って、俺の事なんか、つまんなくなるかもしれないじゃないかよ?」
真剣な顔で告白されて、一輝は唖然とした。
これはもはや、モラハラだのセクハラだのではないだろうか。
いや、そんなにその女に惚れ込んでいるのか。
「・・・小さい男だなあー、お前は・・・」
情けなくも、羨ましくもあり。
小さい男と言われて保真智は言い返そうと思ったが、やめた。
あまりにも、それは的確だと自覚がある。
どうにか、弟を励ましてもやりたいと、一輝は深くため息をついた。
「いや、そのお嬢さんもさ、お前のそんなバカみたいなとこ、気にしないと思うけどなあ」
「・・・俺が気にするんだわ・・・」
「・・・何にしてもさ。お前、それじゃ、誠意になってねえだろ。・・・母ちゃんに知られてみろ、結婚式の前にお前が殺されて葬式だっての」
当然冗談なのだが、あの母の事だ。
半殺しくらいにはされそうだ。
「いいか。そのお嬢さん。母ちゃんとお前の話聞いた限りじゃ、かなりいい物件だぞ。お前には身に余る程だ。・・・いいか。身の丈に合わないものは、身につかないもんだ。・・・それでもと思うなら、お前が、変われ」
これでも生き馬の目を抜く世界で生きている。
ここ一番で何が大切なのかはわかっているつもりだ。
それが、この弟にわかるかどうか。
彼にとってこれはきっと試練になるだろう。
今まで積み上げて来たもので勝負するか、それが無いなら、出たとこ勝負するしか無いわけだけれど。
歳の離れたこの弟には、どうか報われて欲しいと思うけれど。
保真智は、手の中の紅いリンゴの実を転がしながら、ああでもないこうでもないと、思案しているようだった。
子供達に遊ばれてしっちゃかめっちゃかにされた保真智が帰った後、もっと結婚式の話が聞きたかったと美智子が少し不満気だった。
「ねえ、一輝、美容室もう予約しちゃった方がいいかな?披露宴するうちのホテルに何店舗かあるでしょ?和装のお仕立てが得意なとこがいいんだけど」
「・・・美容室の予約、ねぇ・・・?」
「もう!ちゃんと考えてよ。親族だから、きちんとしなくちゃ!あの色留袖着るの楽しみ!・・・宝ちゃんはどうするかって聞いた?」
義妹の服装まで気になるようだ。
「宝は着物なんか無理だろ・・・。着物なんか着せたら、右手と右足同時に出ちまうもの。・・・うーん、あのさ、美容室はさ・・もうちょっと、待ってたら?ほら、皆、出席者は時間帯バッティングしちゃうからさ。大体出そろったところで、一番いいとこ押さえてもらうからさ・・・」
「・・・あら、そう?」
「それにさ、結婚式の前に両家の顔合わせの食事会とかあるだろ?まずはそっちに軸足を置いてさ。ほら、服でも見て来たら?」
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