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聖女の暴力編

第31話 聖女のルーツ

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「もう……お許し下さい……。」

 魔王は地面に這いつくばり、許しを請う。

 もうちょっと強いと思ったのだけど……負け犬根性が染みついてるのかしら?

「少しは反撃してくれないと面白くありませんよ?」


 ゴシャっ!


 私は魔王への不満を言葉にして頭に杖を打ち下ろす。


「お、おい。いくらなんでもそれは酷いんじゃねぇか?」

 ギャモー。その言い方だと、私が悪いみたいじゃないの。

「そうですか? でも見て下さい。まだまだ元気そうですよ?」

「勘弁して下さい。俺が悪かった俺が悪かったごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

 魔王は私の攻撃にも耐え抜き、元気そうに謝っている。

 私の攻撃を受けてこんなに元気な生物を見るのは生まれて初めてね。

「心が完全に折れてんな。」

「そうですね……。」

「そんな事より、戦いはどうでした? 私の評価はSSSランク上位になりそうですか?」

 お母さんがちゃんとした評価を受けられるように頑張ったんだし、そうじゃないと困るわ。

「安心してください。SSSランクどころか、その上のランクも検討しないといけない事が分かりました。」

「なら良かったです。ストレス解消にもなりましたし。」

 ストレス解消は健康にも良いから、お母さんが頻繁に魔王を叩きに来るのも分かるわ。

「聖女様、せっかくなのでお母様に会っていきませんか? ここからなら2日で着く距離ですよ?」

 良いのかしら? でもそう言ってくれるなら……

「はい。是非お願いします。」

 私達は魔王を放置し、お母さんの所へ向かった。






 村人は相変わらず私に対して酷い態度で、向かってきた人から順にブッ叩いておいた。

 魔王との闘いが楽しかったせいか加減を大分間違えてしまったが、回復魔法で治したので文句はないと思う。言った人は更にブッ叩いたら文句が出なくなったし……。

 この村に住んでいる人は関節が柔らかいみたい。

「ただいま。」

「あら、アリエンナじゃない。今日はどうしたの?」

「ミレイユさんがお母さんと話したいんだって。」

 ミレイユさんはギルドの調査員として、お母さんと話したい事があるそうだ。

「ギルドの調査員ミレイユと申します。」

「これは御叮嚀に、アリエンナの母です。いつも娘がお世話になっています。」

 お母さんとミレイユさんは互いに挨拶し合う。

「早速ですが、本題に入りたいと思います。アリエーンさんは神ですか? それとも上級悪魔ですか?」

「私はどちらでもないわ。どうしてそう思ったの?」

 神や悪魔は分かるけど、上級? ってなにかしら?

「聖女様があまりに人間離れした強さを見せたので、それ以上に強い母であるアリエーンさんがその類いなのではないかと……。」

「そういう事か……アリエンナったら分からないって顔してるわね。」

「うん。上級悪魔って聞いた事ないよ。」

 私が質問するとお母さんは説明してくれた。

 悪魔には等級が存在し、1~3級の悪魔は上級悪魔と呼ばれるそうだ。3級でさえもSSSランク上位、2級以上はSSSランクの枠には収まらないと言われている。

 公式記録によれば、2級以上の悪魔は人間界に姿を現した事はないとされているが、非公式な記録は存在している。

「ドゥーでは悪魔に対しての差別はありませんし、神だからと言って何かを求められる事もありません。ですので、本当の事を言って頂きたいのですが……。」

 お母さんは仕方ない、と言った風に告げる。

「他国には内緒よ? 私は1級悪魔と人間のハーフ。アリエンナは私の娘だから、クオーターって事になるのかしらね。」

「やっぱり。」

 ミレイユさんが一人で納得している。

「差別は無いと言っても、面倒事にはなるからあまり人に言いたくなかったんだけどね。流石に娘の勤め先の人を口封じする訳にはいかないし。」

 冷や汗を流しているミレイユさん。お母さんはそんな事しないって言ってるんだから大丈夫なのに…………多分。

「気になったんだけどよ。アリエンナの母ちゃんと更にその母ちゃんだとどっちが強ぇんだ?」

 私もちょっと気になる。要は私のおばあちゃんって事でしょ?

「そうねぇ。今はまだ母の方が少し強いかしら? 10年もあれば追い越せそうだけど。」

「おばあちゃん? とはどのくらい差があるの?」

「悪魔には等級があるって話をしたわよね?」

「うん。」

「3級以上は更に下位、中位、上位と細かく分類されるんだけど、母は1級の上位よ。私は上位に手が届きかけている中位ってところかしら。」

 お母さんの話によると、下位と中位、中位と上位の差は人間のランクと一緒で、およそ倍程度の差があるそう。

 今の私は悪魔換算で1級の下位に匹敵するらしい。

「今のアリエンナと私が2人で協力して戦えば勝てる程度の差しかないわ。」

「純粋な悪魔じゃないのにその強さ……アリエーンさんは何歳なのですか?」

「34歳よ。」

「っ!?」

 ミレイユさんが驚いている。お母さんが年の割に見た目が若いから?

「その反応……悪魔が年齢を重ねると強くなる事を知っているのね。」

「はい。」

「やっぱり口封じした方が良いのかしら?」

 お母さん? ミレイユさんがぷるぷるしてるからやめてあげて?
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