6 / 38
第6話 高貴な下衆
しおりを挟む
学園生活も二年目に突入した今、私はとある令嬢と対峙している。
ディアナ=ベラルクス公爵令嬢。
立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花、を地でいくような見目麗しい御令嬢。
はっきり言って、この御令嬢が第一王子の婚約者候補として出てきていたなら、私やクソ忌々しいマリーベルなんかでは逆立ちしても勝ち目は無かった。
だがある事情により、ディアナ公爵令嬢は婚約者候補戦には参加しなかった。
いえ、しなかったと言えば語弊がある。正確には出来なかったのだ。
彼女と第一王子はいとこ同士。
現在の王と王妃もいとこ同士であり、血縁が近い婚姻を繰り返してはならないという単純にして、至極当然な事情があったわけである。
そしてこのディアナ公爵令嬢は第一王子シュナイザー殿下の婚約者となった私が大層お気に召さない様子で、二年時で同じクラスとなってからは事あるごとに突っかかってくる。
「メルトリア様はこれから国を背負って立つ殿下を支えなければなりません。私がお稽古に付き合う事を喜ばしく思って下さいませね?」
こう言っては何かと気にかけている風を装い、校舎の裏庭に毎度呼び出してはバシバシと非常識な威力の魔法を飛ばしてくるのだ。
私は侯爵令嬢で、彼女は公爵令嬢。
身分の上では彼女が上で、家の持つ力もあちらが格上。
公の場では彼女からの誘いは断れない為、呼び出されれば応えないわけにはいかない。
魔法の特訓と称しては致死レベルの攻撃を毎度放ってくるし、こちらが反撃を加えようものなら故意に私の魔法に接触してはほんのちょっとの傷を作り、それを理由に私が最上位貴族を傷つけた等と言い掛かりを付けてくる。
ぶん殴りたい。
更に酷い時なんかだと周囲に人の気配が無い場合において、突然不意打ちのように攻撃魔法を放ってくるのだ。
ぶん殴りたい。
ゲームの設定だと常に防御魔法を発動させておかなければならない為、メルトリアが異常に疲労しやすい状態となり訓練コマンドどころではなくなってしまう。
本当にぶん殴りたい。
私の場合、二年になったばかりのこの時期ではあり得ないくらいステータスが高い事に加え、出力を絞った防御魔法を常時発動させる事でカバー出来ているので疲労しづらいのが救いではあるけど……。
「今日は中級魔法のお稽古を致します。頑張って耐えて下さいませ。」
何がお稽古だよ。魔法の的に私を使ってるだけじゃん。
敵対ヒロインの女って、どうしてこうも性根が腐り果てているのかしら? 性根が腐ってないと死ぬ病気か何かなの?
ちなみに、審判をする男はディアナの婚約者。当然あちら側の人間であり、私はひたすらに防御魔法で耐えるしかない。
超ぶん殴りたい。
しかもこのクソ女、実家が魔法の大家である。
当然のようにディアナ自身も魔法には明るく、魔法ステータスが最低でも80はないと防御魔法が破られこちらが大怪我してしまうのだ。
そうなった場合は長期療養という形で学園から暫く離れるハメになってしまい、訓練コマンドや選択肢を選ぶなどのゲームに必要な行動を一切実行出来ず、いつの間にか我がアースダイン家が家ごと嵌められて処刑エンドとなる。
はっきり言ってクソイベントである。
まぁ、今の私は全ステータス160超え。
この世界での魔法ステータス160は宮廷魔法士レベルであり、一国に三人もいれば良い方だと言われるような存在である。
凡ミスでもして処刑エンドなんて事になったらどうせ死ぬのだ。宮廷魔法士レベルの実力で大暴れしてやろう。
ディアナなんてはっきり言って目じゃない。
このクソ女の倍以上の数値を誇っているし、特に苦もなく防御も出来ている。ステータスさえ満たせていたなら、さして苦労するイベントではないのだ。
ストレスは半端じゃないけど……。
「くっ! 防御魔法だけは御出来になりますのね。」
悔しさを滲ませながら捨て台詞を残して去って行く公爵令嬢。どれ程醜いセリフを吐き、汚い真似をしても、異様に様になるのがまた腹立たしい。
流石に王家の血を引くだけの事はあるってか。
ぶん殴りたい。
「まぁ、こういう事なんです。」
ディアナ公爵令嬢が去った事を確認してから茂みの向こう側に話しかけると、ガサガサと藪をかき分けイケメンが登場する。
「姉さん……いつもこんな事をされていたの?」
「えぇ。今日はまだ良い方よ。」
私が一年時の夏休みを利用して親密度を上げまくり、シスコンに育て上げた我が弟ハイデルトだ。
「許せない、世界一素晴らしい僕だけの姉さんに何て事を……。」
彼はギリッと歯軋りが聞こえてくる程に歯を食いしばり、拳をわなわなと震えさせて怒りを抑えきれない様子。
今ではどこに出しても恥ずかしくない程の立派なシスコン。
いや、ここまでシスコンだと外に出したらちょっと恥ずかしいかもしれない。まぁ、シスコンにしたのは私なんだけどさ。
ゲーム攻略において、ハイデルトは重要なお助けキャラ。
彼との親密度が高い場合においてのみ、様々なヒロイン達の謀略から救ってくれるようになるのだ。
ちなみに、シュナイザー殿下は殆ど助けてくれない。婚約者なのにどれ程親密度をあげようとも、だ。
なので、嫌われない程度に時々親密度を上げる行動だけしておけば良い。
あんな男、はっきり言って眼中にない。婚約破棄したい。ぶん殴りたい。
「姉さん、この件は僕に任せて。」
「良いのよ、ハイデルト。私が耐えれば丸くおさまるのだから。下手に動けば何をされるか分かりませんし……。」
「ダメだ。いくら姉さんのお願いでもそれは容認出来ないよ。絶対に悪いようにはしないからさ、僕に姉さんを助けさせて欲しい。」
何て姉思いな弟なのかしら。
日本人として生きていた頃の弟はしょっちゅう私を足蹴にするような奴だったと言うのに。
もし元の世界に戻れたら、弟の弱みを握って脅迫したり全力全開で足蹴にしてやろうと思った。
最近出来たとか言ってた彼女との仲を邪魔してやっても良いかもしれない。
「貴方、言っても聞かないですものね。絶対に危ない事はしないと約束して?」
「それは約束出来ないかな。姉さんの為だったら何だってしてみせるさ。」
「全くもう……。」
うん。彼は紛れもなくシスコンの鏡だ。全国の弟はこのハイデルトを見習って欲しい。
でもちょっとこの子、シスコンでは済まないような感情を抱いてないかしら?
本来のシスコン設定よりも若干濃い気がするわ。
ディアナ=ベラルクス公爵令嬢。
立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花、を地でいくような見目麗しい御令嬢。
はっきり言って、この御令嬢が第一王子の婚約者候補として出てきていたなら、私やクソ忌々しいマリーベルなんかでは逆立ちしても勝ち目は無かった。
だがある事情により、ディアナ公爵令嬢は婚約者候補戦には参加しなかった。
いえ、しなかったと言えば語弊がある。正確には出来なかったのだ。
彼女と第一王子はいとこ同士。
現在の王と王妃もいとこ同士であり、血縁が近い婚姻を繰り返してはならないという単純にして、至極当然な事情があったわけである。
そしてこのディアナ公爵令嬢は第一王子シュナイザー殿下の婚約者となった私が大層お気に召さない様子で、二年時で同じクラスとなってからは事あるごとに突っかかってくる。
「メルトリア様はこれから国を背負って立つ殿下を支えなければなりません。私がお稽古に付き合う事を喜ばしく思って下さいませね?」
こう言っては何かと気にかけている風を装い、校舎の裏庭に毎度呼び出してはバシバシと非常識な威力の魔法を飛ばしてくるのだ。
私は侯爵令嬢で、彼女は公爵令嬢。
身分の上では彼女が上で、家の持つ力もあちらが格上。
公の場では彼女からの誘いは断れない為、呼び出されれば応えないわけにはいかない。
魔法の特訓と称しては致死レベルの攻撃を毎度放ってくるし、こちらが反撃を加えようものなら故意に私の魔法に接触してはほんのちょっとの傷を作り、それを理由に私が最上位貴族を傷つけた等と言い掛かりを付けてくる。
ぶん殴りたい。
更に酷い時なんかだと周囲に人の気配が無い場合において、突然不意打ちのように攻撃魔法を放ってくるのだ。
ぶん殴りたい。
ゲームの設定だと常に防御魔法を発動させておかなければならない為、メルトリアが異常に疲労しやすい状態となり訓練コマンドどころではなくなってしまう。
本当にぶん殴りたい。
私の場合、二年になったばかりのこの時期ではあり得ないくらいステータスが高い事に加え、出力を絞った防御魔法を常時発動させる事でカバー出来ているので疲労しづらいのが救いではあるけど……。
「今日は中級魔法のお稽古を致します。頑張って耐えて下さいませ。」
何がお稽古だよ。魔法の的に私を使ってるだけじゃん。
敵対ヒロインの女って、どうしてこうも性根が腐り果てているのかしら? 性根が腐ってないと死ぬ病気か何かなの?
ちなみに、審判をする男はディアナの婚約者。当然あちら側の人間であり、私はひたすらに防御魔法で耐えるしかない。
超ぶん殴りたい。
しかもこのクソ女、実家が魔法の大家である。
当然のようにディアナ自身も魔法には明るく、魔法ステータスが最低でも80はないと防御魔法が破られこちらが大怪我してしまうのだ。
そうなった場合は長期療養という形で学園から暫く離れるハメになってしまい、訓練コマンドや選択肢を選ぶなどのゲームに必要な行動を一切実行出来ず、いつの間にか我がアースダイン家が家ごと嵌められて処刑エンドとなる。
はっきり言ってクソイベントである。
まぁ、今の私は全ステータス160超え。
この世界での魔法ステータス160は宮廷魔法士レベルであり、一国に三人もいれば良い方だと言われるような存在である。
凡ミスでもして処刑エンドなんて事になったらどうせ死ぬのだ。宮廷魔法士レベルの実力で大暴れしてやろう。
ディアナなんてはっきり言って目じゃない。
このクソ女の倍以上の数値を誇っているし、特に苦もなく防御も出来ている。ステータスさえ満たせていたなら、さして苦労するイベントではないのだ。
ストレスは半端じゃないけど……。
「くっ! 防御魔法だけは御出来になりますのね。」
悔しさを滲ませながら捨て台詞を残して去って行く公爵令嬢。どれ程醜いセリフを吐き、汚い真似をしても、異様に様になるのがまた腹立たしい。
流石に王家の血を引くだけの事はあるってか。
ぶん殴りたい。
「まぁ、こういう事なんです。」
ディアナ公爵令嬢が去った事を確認してから茂みの向こう側に話しかけると、ガサガサと藪をかき分けイケメンが登場する。
「姉さん……いつもこんな事をされていたの?」
「えぇ。今日はまだ良い方よ。」
私が一年時の夏休みを利用して親密度を上げまくり、シスコンに育て上げた我が弟ハイデルトだ。
「許せない、世界一素晴らしい僕だけの姉さんに何て事を……。」
彼はギリッと歯軋りが聞こえてくる程に歯を食いしばり、拳をわなわなと震えさせて怒りを抑えきれない様子。
今ではどこに出しても恥ずかしくない程の立派なシスコン。
いや、ここまでシスコンだと外に出したらちょっと恥ずかしいかもしれない。まぁ、シスコンにしたのは私なんだけどさ。
ゲーム攻略において、ハイデルトは重要なお助けキャラ。
彼との親密度が高い場合においてのみ、様々なヒロイン達の謀略から救ってくれるようになるのだ。
ちなみに、シュナイザー殿下は殆ど助けてくれない。婚約者なのにどれ程親密度をあげようとも、だ。
なので、嫌われない程度に時々親密度を上げる行動だけしておけば良い。
あんな男、はっきり言って眼中にない。婚約破棄したい。ぶん殴りたい。
「姉さん、この件は僕に任せて。」
「良いのよ、ハイデルト。私が耐えれば丸くおさまるのだから。下手に動けば何をされるか分かりませんし……。」
「ダメだ。いくら姉さんのお願いでもそれは容認出来ないよ。絶対に悪いようにはしないからさ、僕に姉さんを助けさせて欲しい。」
何て姉思いな弟なのかしら。
日本人として生きていた頃の弟はしょっちゅう私を足蹴にするような奴だったと言うのに。
もし元の世界に戻れたら、弟の弱みを握って脅迫したり全力全開で足蹴にしてやろうと思った。
最近出来たとか言ってた彼女との仲を邪魔してやっても良いかもしれない。
「貴方、言っても聞かないですものね。絶対に危ない事はしないと約束して?」
「それは約束出来ないかな。姉さんの為だったら何だってしてみせるさ。」
「全くもう……。」
うん。彼は紛れもなくシスコンの鏡だ。全国の弟はこのハイデルトを見習って欲しい。
でもちょっとこの子、シスコンでは済まないような感情を抱いてないかしら?
本来のシスコン設定よりも若干濃い気がするわ。
35
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる
国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
婚約破棄を目撃したら国家運営が破綻しました
ダイスケ
ファンタジー
「もう遅い」テンプレが流行っているので書いてみました。
王子の婚約破棄と醜聞を目撃した魔術師ビギナは王国から追放されてしまいます。
しかし王国首脳陣も本人も自覚はなかったのですが、彼女は王国の国家運営を左右する存在であったのです。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる