【完結】担任教師の恋愛指導。先生、余計なお世話です。

隣のカキ

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第9話 恋愛? それって詐欺ですよ。

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「もう無理。我慢とか本当に無理。むっくんと私は今日からお付き合いをスタートする事に決定しました!」

「え?」

「え? じゃないよ。むっくんと私は付き合うの。」

「いやいやいや! 教師と生徒が付き合ったらダメでしょ。」

「そんな常識は捨ててしまえぇ!」

「ちょっと、本当に色々と待って!」

「待たない。」


 この人、相変わらず強引だな。


「一応さ、零子ちゃんに告白みたいな事もされてるし、そこをハッキリさせてからじゃないと……。」

「そっか。言っておくけど、私って教師やってるから高校生に比べて経済力はあるし、零子ちゃんよりおっぱい大きいよ?」

「そうだね。」

「更に言うなら、零子ちゃんと違って処女だよ?」


 俺の聞き違いか?

 凄い情報をカミングアウトされた気がするんだが。


「他の男を知らない私を、むっくんの色に染め上げる事が可能です。」


 目の前にビシッと指を立てて自らの優位性をアピールするミイちゃん。


「自分好みに女を染めてみたくないの?」


 そりゃあ勿論興味はあるし、どうせなら染めてみたい。

 これは男なら誰しもが思い描く夢の一種のようなものだ。

 俺はゴクリと唾を飲み込み、その音が聞こえてやしないかと無駄な事を考えていた。


「……何気に零子ちゃんの情報まで漏らしてない?」


 今の俺には話題を変える事が精一杯の抵抗だ。

 そもそも零子ちゃんには彼氏がいた事だってあるんだし、性体験があっても全く不自然ではない。

 経験があったからと言って驚きはしないが……。


「と言うか、何で零子ちゃんの性事情まで知ってんの?」

「ライバルになりそうな女の情報は予め調べておくのが普通でしょ?」


 全然普通じゃないだろ。つい先日までは疎遠だった幼馴染の事まで調べ上げる必要性があるとは思えない。

 まさかガチのストーカー?


「……普通じゃないと思うんだけど。」

「細かい事は気にしちゃダメ。恋愛は先手必勝。そもそも幼馴染のはずなのに他に目移りした人なんてむっくんには相応しくないよ。」


 ミイちゃん……結構な毒吐くよね。

 怪しい光が灯り、まるで狂気を感じさせるかのような眼に、俺は吸い込まれていくような錯覚を覚えた。


「むっくんには、私のような一途な女が合うと思うな。」

「うっ……。」


 ダメだ。これ以上ミイちゃんの眼を見続けるのは危険な気がす……
「むっくん。私の眼を見て答えて。」


 何がなんでも眼を合わせようと俺の顔を両手で挟み込み、決して視線をずらせないよう固定してしまう彼女。


「恋愛に興味を無くしてしまったとは言え、性的欲求がなくなったわけじゃないでしょ?」

「……そうだね。」

「性的欲求があるなら、女に対する関心は僅かながらも残っているでしょ? どうせだったら、一生自分のモノに出来る女が良いはずよね?」

「う……うん。」

「むっくんは自分が恋愛出来ない事を考慮して、相手を傷つけないようお付き合いを避けている……違う?」

「……その通りだね。」

「なら、私のような凄く重たい女が適任だと思わない? 何がなんでもむっくんを手に入れたい私なら、傷つくどころか心の底から喜んで一生身を捧げるけど?」


 ヤ……ヤンデレぇぇ……。

 ミイちゃんの瞳にはガッツリ狂気が宿り、怪しい光を放ちながら俺の視線を捕えて離さない。

 視線を逸らさないといけないはずなのに、何故か視線を外すことが出来ないでいると……


「ねぇ。私をモノにしてみたくない? 貴女の女である証を刻みたくない? 自分だけの専用にしたいとは思わない?」


 超爆弾発言が飛び出してきた。

 正直、恋愛的な意味での興味は相も変わらず湧き出る事はない俺だが、性的な意味での興味がグングン湧いてきている。

 しかしこの病んでいるかのような発言から察するに、一度手を出そうものなら容易に関係を切る事が出来るとも思えない。


「むっくんはこのままいけば結婚どころか恋人を作る事さえ躊躇するだろうし、事情を理解し受け入れる事が出来る私で手を打つって選択肢がオススメだよ?」

「流石にそれは……。」


 自信を持って好きと言えない相手との結婚なんて申し訳なさ過ぎる。


「貴方が手に入るのなら……恋愛的な意味で好きになってくれなくても、人として好きになってくれればそれでも良い。性欲から始まる愛だとしても私は構わない。」

「……。」


 どうしよう。

 ここまで言われて断るのも気が引ける。というか、断ったら後が怖い。


「……ちゃんと好きになれたら言うから、それまで待ってくれる?」


 これが俺から言える精一杯の返事だ。

 ヘタレだと笑いたければ笑え。ミイちゃんは病みが深いのだ。


「今はそれでも良いかぁ。じゃあ、今日から恋人としてよろしくお願いします。」


 つい今しがた見せていた怪しい雰囲気はなりを潜め、丁寧に頭を下げて挨拶をするミイちゃん。


「あぁ、よろし……」


 ちょっと待て。


「何で付き合う事になってんだ?」

「好きになれたら結婚してくれるんでしょ? じゃあ、それまでは恋人じゃん。」

「……。」


 この人は一体どんな思考回路してんだ? 結婚するとは一言も言っていないぞ。

 言ってないはずだ。うん。言ってないよな?


「恋人になるかどうかを保留する返事をした気がするんだが……。」

「以前、指導室に呼び出した時に結婚したいって言ってたでしょ?」


 うん?


「前に?」

「忘れちゃった?」

「言ってなくない?」

「言ったよ。一字一句間違いなく覚えてるよ。」


 俺が忘れているだけなのだろうか? 言ってないと思うんだけどな。


「もしかして……私って恋梨君の好みじゃなかったりする? って聞いたら『いえ、恋愛を諦める前なら結婚したいと思った。』って言ったじゃない。」


 そんな事言ったか? というか、いくら何でも突然そんな事を言うだろうか?


「聞き間違いじゃなくて?」

「そんなセリフを聞き間違うはずないでしょ。」


 言ってないと思うんだけどなぁ……。


「だから、その前段階の恋人からスタートするの。とても理にかなっていると思わない?」

「うーん……。いきなり付き合うってのはちょっと。」

「むっくん、そんなに嫌?」


 ミイちゃんが泣きそうな顔で問いかけてくる。正直断りにくい。


「嫌って言うか……。結婚とか言ってないし。」

「酷いっ! 証拠だってあるんだから!」


 え? 証拠?


「これよ。」


 ミイちゃんは自らの肩にかけた学校指定のカバンをごそごそと探り、小型の機械を取り出して俺に見せつけてきた。

 カバンまで学校指定の物を用意するなど、大層凝った変装である。


「何それ? MP3プレーヤーみたいな感じ?」


 音楽でも聴くのか?


「これはボイスレコーダーよ。あの時のやり取りが録音してあるの。絶対に言い逃れは許さないんだから!」


 録音ねぇ……。

 確かに録音してたら証拠にはなるか……って待てよ?


「いや、勝手に録音するなよ。」

「むっくん芸人目指してるの? 良いツッコミだね。」


 話を逸らすんじゃない。

 俺がジトーっとミイちゃんを見ていると……


「まぁ、ははは。その事はもう良いじゃないですかぁ。それよりも証拠の音声を聞いてみて下さいよぉ、ねえ?」


 揉み手をしながら卑屈な笑顔で下から来る24歳JK。娘が自分の生徒にこんな事をしているだなんて、親御さんが知ったら泣くぞ?

 強引に誤魔化された感が凄いが、とにかく聞いてみない事には話が進まない。


「じゃあ、取り敢えず聞いてみようか。」


 俺が言うに合わせ、ミイちゃんはボイスレコーダーを操作し再生ボタンを押した。


『もしかして……私って恋梨君の好みじゃなかったりする?』
『いえ、恋愛を諦める前なら結婚したいと思った』

「ほらね?」


 何か最後が不自然じゃね?


「もう一回再生してみて。」

「自分のプロポーズした音声を何度も聞きたがるなんて珍しい人だね?」


 違ぇよ。


『もしかして……私って恋梨君の好みじゃなかったりする?』
『いえ、恋愛を諦める前なら結婚したいと思った』


 やっぱりおかしい。

 最後の“た”の部分が不自然に短い。まるで無理矢理音声を切り取ったような……。


「ミイちゃん、正直に答えてくれ。音声を編集した?」

「ギクぅっ!」


 そこには体をビクンと跳ねさせ、明らかに動揺した姿を見せるギャルJKが居た。


「ギクぅ?」

「いえ、何でもないですわ。」

「ですわ?」


 ツッコミを入れると途端にスンとすまし顔でお嬢様言葉になるミイちゃん。

 怪し過ぎる……。

 オホホホと優雅に笑っているギャルに対して最早違和感しか感じない。というか、お嬢様言葉のギャルなんて違和感の塊でしかない。


「誤魔化してもバレバレなんだけどな。」

「いえ、そのような事は決して。」


 彼女の顔は一見冷静なのだが冷や汗が凄く、眼もきょろきょろと動き回って怪しさがより際立っている。


「編集したよね?」

「し、してない。」

「したよね?」


 泳いだ眼をジーっと覗き込むと、気まずそうにぷいと顔を逸らしてぽつりと……


「ちょ……ちょっとだけ。」


 と指で何かを摘まむような“少し”を表す仕草をしてみせるミイちゃん。


「やっぱりな。そんな事なんじゃないかと思ってたんだよ。」

「……あはは。」

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