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第16話 初めてのオフ会
しおりを挟むそろそろ約束の時間になる。俺がまだシステムに不慣れである為、向こうが招待してくれるそうだ。
【彼女お貸ししますから招待を受けました。承諾しますか?】
「承諾。」
すると一瞬で視界が移り変わりる。目の前には雪原の中にぽつんと建った小さな一軒家があり、家の周りにはシロクマ達が寝そべっていた。
緊張しながらも、玄関の扉をノックする。
「こんにちはー。」
「はーい!」
扉の向こうから明るく返事が返ってくる。
ガチャリと扉が開き、彼女と対面。
彼女は一瞬驚いた表情を見せたが、笑顔で挨拶を交わす。
「初めまして。“ああああ”です。」
「いらっしゃい。“彼女お貸しします”です。寒いので、どうぞ中にお入りください。」
家の中に招き入れられ、リビングに通された。
キッチンから飲み物とお菓子を運んできた彼女は、お好きなものをどうぞと目の前のテーブルに置いて、対面する形でお互い椅子に腰かける。
彼女は身長こそ低いものの、大抵の衝撃を吸収してしまいそうな程の胸部装甲を持ち、その雪のように白い肌と明るく可愛らしい笑顔で、俺を歓迎してくれている。
こりゃモテるだろうな。
でも、どこかで見た事があるような…?
「先程はいきなりシロクマ達を連れ去ってしまい、申し訳ありません。」
先程のシロクマ誘拐に対して俺は頭を下げる。
「いえいえ。謝らなくても大丈夫ですよ。対戦中ですし、殺さないでくれたじゃないですか!」
彼女は気にしないで欲しいと、わたわたと顔の前で両手を振っている。
「まさかこのゲームでシロクマ好きの人に出会えると思ってなかったので、つい嬉しくてお誘いしましたけど、ご迷惑じゃなかったですか?私テンション上がり過ぎちゃって…。」
と彼女は恥ずかしそうにしている。
ふと、玄関先で驚いた顔を見せた事が気になり質問した。
「さっき玄関先で驚いた表情をしていましたが、どうかしましたか?」
「ええと…。実は、“ああああ”さんが知っている方に似ていたものですから。こうしてお話してみると、益々他人のような気がしなくて。」
「ああ。それは俺も思ってました。どこかでお会いしてましたかね?」
「見たところ、同世代くらいですか?ちなみに私は23です。」
「同級生じゃないですか!俺も23ですよ。それなら敬語は無しにしませんか?」
「良いですね!」
思わぬ共通点を見いだし会話が弾んでいく。
「じゃあ早速失礼して。ところで、俺に似た人を知ってるって言ってたけど、どんな人?」
「ちょっと恥ずかしいんだけどね。中学の頃付き合ってた人なんだ。」
振られちゃったけどね。と少し悲し気に彼女は話す。
なに?!
じゃあ、彼女の好みとして俺はアリって事になるのでは?
これは是非とも話し合わなければ!
「へ、へぇ~。そうなのか。でもこんなに素敵な人と別れちゃうなんて勿体ない事するんだね。」
「そう言われると恥ずかしいなぁ。でも当時の私は結構変な子だったから仕方ない部分があるんだ…。実は今でも好きだったりして。」
と照れながら口にする。
ちくしょう!
でも、まだチャンスはあるはず!
「残念。良いなって思ってたところだったのに。」
「あ、ありがとうございます。」
顔を赤くし俯く彼女。
「しかし全然想像つかないな…。変って、例えばどんな?」
んー、と少し考えるような仕草を見せ、笑顔で答える。
「シロクマが好き過ぎて、毎回ぬいぐるみ持参でデートしたり…。」
ん?
「彼との会話中、語尾にクマを付けたり…。」
え?
「シロクマのパンツ履いてくれなきゃ嫌って言ったり…。」
ま、まさか…。
「私とシロクマとどっちが可愛い?って聞いて困らせたり…。」
いつの間にか、彼女の視線が俺にロックオンされている。
「いつも困らせてたな…。」
フフフと笑いながら俺を見続けている彼女。
このじっとりとした独特な視線には覚えがある。
「そんな私に一年も付き合ってくれた、優しい人なんだよね…。」
「そ、そうなんだ…。」
うん。ちょっと焦ってしまったが、確かに面影がある。見れば見るほど、何故今まで気が付かなかったんだと思ってしまう。
間違いない。当時付き合っていた、久満子ちゃんだ。
うん。大丈夫だ。まだバレてない。
いきなりだと不自然だから、ここはもう少し雑談して様子を見て帰ろう。
よし。それが良い!
「あ、そう言えば。大五郎君の好きなカレーもあるから食べて行って!」
「ありがとう!わざわざ悪いね。」
彼女はおもむろに立ち上がり、キッチンでカレーをよそう。
「ちゃんと、甘口にしておいたから安心してね。大五郎君。」
彼女はにっこり笑顔で、どうぞどうぞと勧めてくる。
学校帰りSoCo八で一緒に食べたカレーは毎回甘口だったな…。懐かしい気持ちが込み上げてくる。
まぁ、それでも名乗らず帰るがな。
いただきますと手を合わせ、カレーを頬張る俺を幸せそうに見ている久満子ちゃん。
ん?
「俺のなま…」
「ところでさ、大五郎君どうして気付かないの?もしかして知らないフリしてる?」
えは…、と続けて発言しようとした俺にかぶせてくる久満子ちゃん。
あ…。マズイ。
いや、大丈夫。まだ焦る時間じゃない。全日本クール大会選手権男子の部に出場すれば10位以内は確実と呼ばれたこの俺だ。
華麗にリカバリーしてみせ…
「私、白井久満子なんだけど。気付いてて誤魔化してるよね?」
動揺してスプーンを落としてしまった。
静寂な室内にカーンと音が響き渡り…そして。
涙目で俺を見つめる彼女。
バレとるやないかい!
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