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一章 そうだ。龍に会いに行こう。

二十二 ルーブ・ゴールドバーグ・マシン。

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 カリン達が、エリッサ女王に借りた大雪ウサギのクッキーちゃんのもふもふした毛の中に避難してしばし、クッキーちゃんの動きが止まった事に気付いたカリンは、毛の中からひょっこりと顔を出しました。

「どうやら着いた様でちよ」

 カリンの言葉にそれぞれが毛の中から顔を出すと、ソコは既に洞窟の中でした。

 その洞窟は大雪ウサギのクッキーちゃんの約二倍の高さがあり、龍化したミュウが難なく通れる程の幅がある大きな洞窟。天井からは氷柱が垂れ下がり、滴り落ちる雫が逆さ氷柱を作り出していました。

「キレイな所ですわね」

 水晶よりも透明度が高い氷柱の一本一本が淡い青色の光を放っていて、時折落ちる雫がその光を反射して銀の輝きを放ちます。その光景は見る者を圧倒する美しさでした。

「クッキーちゃんはここで待っててくれでち」

 大雪ウサギのクッキーちゃんはカリンに可愛く応えました。お利口なウサギさんです。

「よし、それじゃ行くでちよ」

 カリンの言葉に皆が頷きます。そして、白龍が棲むとされる洞窟の奥へと足を進めます。



「ひあっ!」

 淡い青色に包まれた洞窟内で、エリザ王女の悲鳴が木霊しました。先頭を歩いていたカリンが慌てて振り返ると、胸部を大きく前に突き出して海老反りになっているエリザ王女が居ました。

「どうちたんでちかエリザ。おっぱいアピールなんかちて」

 最近少し成長したエリザ王女の胸部に、カリンは少し羨ましく思っていました。カリンは『フェリング』という妖精に近い種族ですので、大人になってもツルペタのままなのです。

「おっぱ……ち、違いますわ! 冷たい何かが背中に……」

 その冷たい何かは、今もエリザ王女の背中に張り付き、ゆっくりとその肌を堪能しつつ下へ下へと移動をしていました。

「何でもありませんよ。氷柱から落ちたただの雫です」

 エリザ王女のお尻を眺めながら歩いていた黒龍は、手の平を差し出して落ちてきた雫を受け止めました。

「全くお前は毎度毎度騒がしいな」

 ミュウはやれやれといった風で呆れ返ります。

「毎度じゃありませんわ! ただちょっとビックリしただけで……」

 エリザ王女はそう言いますが、その頻度は結構なモノになります。

「そ、それに、突然冷たいのが首に落ちてきたら、ミュウさんだって驚くでしょう?」

「いや、私は別に驚かんぞ」

「ミュウ。あんたはもう少し驚いた方が良いでちよ」

 こうして立ち止まって話をしている間にも、ミュウの頭の上に、シタッ、シタッ。と、氷柱から滴り落ちた水滴が落ちていたのでした。



 カリン達一行が再び歩き出してからしばし、ただの洞窟だった洞窟は、デコボコした床や壁に代わって明らかに何者かの手が入っているのが、素人目にも分かりました。

「こいつぁ、氷のブロックか……?」

 氷山の頂上を削って作ったエリッサ女王の居城とはまた別の、一つ一つ加工した形跡がある匠な処理が施されていました。その氷のブロックが床と壁に並べられ、城下街の様な舗装が成されていたのです。

「まるでお姉様の街みたいですね」

「いいえ、これは石大工以上の仕事ですわ」

 城や建物の建築や修繕、馬車の行き来をスムーズにする為の街道の整備などを生業とする石大工。石を適度な大きさに削って、粘着性のあるセメントの様な土で接着させるのが主流ですが、ここに使われている氷のブロックにはそれが見当たりません。

「石大工以上だって?!」

 人気スイーツ店。お店のマスターも石大工に頼んで、生地を焼き上げる為の窯を作って貰ったので、それ以上の。と、聞いて驚いていました。

「どうやら側面に凹凸を付けて、はめ込んでいる様ですわね」

 考えられない技術だと、エリザ王女も感心していました。

「相変わらず。と、いった所ですね」

「え……? 誰が作ったのか知っているのか黒龍さんよ」

「ええ。接着剤を使わずにへこみ同士を繋ぎ合わせる技法は、青龍の得意とする所です。ちなみに、古龍帝様の庭園を作ったのも青龍ですよ」

 青龍。カリン達はその青龍に会いに行こうとしていましたが、何やかんやで黒龍と出会い、彼の持つ龍の眼ドラゴンズ・アイが危険に晒されていると知ったカリン達は、彼の棲み家に移動してしまった為に結局会えずじまいでした。ちなみに、青龍の棲み家は海底に在る龍の城。その建築物は全て自身で作ったという、ソレをウリにしている芸能人も土下座して教えを乞いたがる程のDIYマスター……いえ、ここまでくればマエストロといっても過言ではありません。

「すげぇ」

「ええ、是非ともわたくしもやって頂きたいものですわ」

「そうですね。赤龍が呼びに行った筈ですから、もし会えたならご紹介しますよ」

 紹介されても教わる余裕は無いと思われます。何しろ、世界崩壊の危機が迫っているのですから。

「さぁさ、技術の話は後にちて、白龍の元に急ぐでちよ」

 一同はカリンの言葉に頷き、そしてカリンが一歩を踏み出した時でした。コクン。という音と共に、カリンの足の下にあるブロックが僅かばかり沈んだのです。

『あ』

 カリン含め一同の声が揃いました。

「ゴメン、やっちゃったでち」

「あれ……? でも、何も起きませんわね」

 エリザ王女がそう言い終わるのと同時に、カコンッ。と、何処かで音がしました。

「ねぇ、カリン。アレ何?」

 シルビアが指差す方向に一同は視線を向けます。氷を加工して作ったほぼ透明な壁の向こう側に、白い大理石の様な材質に、黒曜石の様な黒い材質を楕円形にして中央に配置した、ソフトボール大の球が転がり始めました。どうやら先程の音はコレが移動して出た音の様です。

 といを転がる球が行き止まると、別な装置が動き出して道が出来、再び球が転がり始めます。その様子はさながら、ルーブ・ゴールドバーグ・マシン(巨大ピタゴラ装置)の様です。その転がる球を一同は、呆然としながら目で追っていました。

「アレ……もしかして、龍の眼ドラゴンズ・アイでは……?」

『なにー!?』

 黒龍の言葉にカリン達の声が揃います。そうです、黒龍が言った通り、壁の向こう側でひたすらピタゴラしているのは、魔王崇拝者が欲し、カリン達が古龍帝に回収を頼まれた、白龍の龍の眼ドラゴンズ・アイだったのです。

「ミュウ! 壁を壊して龍の眼ドラゴンズ・アイを取り出すでちよ!」

了解しましたイエスご主人様マスター!」

 ミュウが力を込める為にその拳を振りかぶったその時、白龍の龍の眼ドラゴンズ・アイは壁向こうの穴に吸い込まれてゆきました。と、同時に、カリン達が居る床が傾き、一人の例外もなくポッカリと開いている穴に、トゥルリンッ。と、滑り落ちたのでした。



「ひぁぁぁっ!」

 薄暗い坂道にエリザ王女の叫びが響き渡ります。現在カリン達は、ピタゴラ効果によって先の見えない坂道を結構な速度で滑り落ちていました。所々にほぼ透明なブロックがはめ込まれていて、その向こう側では龍の眼ドラゴンズ・アイが転がっているのが見えました。

「不味いぞ! こんな速度で壁にでもぶち当たったら、一巻の終わりだゼ!」

「ミュウ! どうにかならないでちか!?」

「無理ですよっ! こんなに狭くてはどうにも出来ませんっ!」

 ミュウがどうにかする為には、一同の一番前に出る必要があります。しかしながら、狭い筒の中を滑落している最中にミュウが一番前に出る為には、前方のシルビアとその前に居るエリザ王女。そして、お店のマスターとカリンを、その豊満な身体ダイナマイトバディで蹂躙してゆく必要があります。特に、お店のマスターの腰にそびえ立つであろう、彼の猛り狂う脈打つ山が一番の難所かと思われます。

「あれは……光でち!」

 カリン達一同が滑落する通路の先が明るくなっていました。

「グルァ!」

 ミュウがひと吠えすると、カリン達の身体に緑色の物質が纏わり付きました。これは漆黒の穴アスホ・オールで、ミュウが撃ち落とされた際にカリン達に掛けた風の加護です。

「風の加護です! これ位の速度なら衝撃は吸収されます!」

「ありがてぇ!」

「ミュウ! グッジョブでちよ!」

 カリンの褒め言葉に、ミュウはサムズアップして応えます。

「えーっと? 私には……?」

「自分で張れ!」

 黒龍には厳しいミュウでした。

 一同はズポンッ。と、筒の中から飛び出します。しかし、一難去ってまた一難とはこの事で、宙に放り出されたカリン達は、少しの間滞空し今度は落下をし始めます。

「あ? あっ!」

 突然の出来事にエリザ王女は一瞬戸惑い、そして自身が置かれた状況を、理解したくはないのに理解してしまいました。

「あっ、あっ、あぁぁぁぁ」

 白目を剥いて落下するエリザ王女。王女の両足の間から溢れ出る雫は外気温で即座に凍り付き、氷の塊となって光に照らされキラキラと輝いていたのでした。



 ペチペチ。

「ぁ……ふ」

 小さな手の平がエリザ王女の頬を叩くと、王女は身じろぎをして悩ましげな声を上げました。

 ペチペチ。

「んっ」

 小さな手の平がもう一度叩くと、今度は横たえた身体がぴくんっ。と、震えました。その際、九十一の双丘がぶるるるんっと揺れ動き、黒龍がなんて立派なモノなんだ。と、ニヤついてガン見しているその後ろで、お店のマスターが若干前屈み気味になっていました。

「やっと目が覚めまちたか。大丈夫でちか?」

「あ、カリンさん。わたくし一体……」

 エリザ王女が身を起こすのと同時に、側で祈りながら心配そうに見ていたシルビアが王女に抱き付きます。

「良かったですお姉様……もし、お姉様が死んじゃったら、シルビアはシルビアは……」

 エリザ王女の胸の中で泣きじゃくるシルビア。それを男性陣は羨ましそうに見つめていました。

「大袈裟です、シルビアさん。もし、わたくしが居なくなっても、あなたは立派にやっていけますわ」

「いいえ! お姉様が居ない日常なんか考えられませんっ! だって、お姉様の事を想うだけで、シルビアのココが熱くなるんですからっ」

「シルビア。普通は胸の奥が熱くなるモンでちよ」

「えっ!?」

 シルビアが手で抑えたその場所は、彼女の想い欲望が誰にでも分かる様な場所だったのでした。

「あっ、そういえば、龍の眼ドラゴンズ・アイはどちらですか?!」

「白龍の龍の眼ドラゴンズ・アイならば、ホラあそこです」

 黒龍が指差す方向にエリザ王女は視線を向けます。白龍の龍の眼ドラゴンズ・アイは現在、あいも変わらずほぼ透明な壁の向こうでピタゴラしていました。そして、その球の動きが止まると、ミュウの背後の暗闇から何かが姿を現します。

「ミュウさんっ、後ろ! 後ろっ!」

 エリザ王女の叫びと共に、その何かはミュウにぶち当たり、ゴガリッ。と、砕け散りました。ミュウの背後から現れたのは、棘が生えた鉄球でした。

「ん? 何か言ったか?」

「あ、いえ。何でもありませんわ」

 ケロリ。として何事も無かったように振る舞うミュウ。エリザ王女が辺りをよくよく見れば、色々な破片が転がっているのが見えました。どうやら、常人なら一発であの世行な死のトラップデス・ピタゴラは、今回だけではないようです。ちなみにミュウはエンシェントドラゴンですので、凍ったバナナで殴ってもバナナの方が破壊される程頑丈に出来ているのです。



『ワシの眠りを妨げる存在モノは誰じゃあ』

「何っ!?」

「声?!」

「ひぃぃっ!」

 ピタゴラも半ばを過ぎた頃、カリン達の頭の中に何者かの声が響き、カリンとドラゴンコンビ以外の者達が恐れ慄きました。ドラゴンは声に魔力を乗せる事が出来ますので、混乱や恐慌等のバッドステータスを付与する事が出来るのです。それを防ぐためには、自身の魔力を高めておく必要がありますが、不意打ちでやられては対策のしようがありません。

「久し振りだな、白龍よ」

 ミュウは暗闇に向かって声を張りました。

『ん? んん? どなたですかのぅ』

「私だ私! 黄龍だっ!」

『おうりゅー? ………………あっ』

 長いの後にようやく気付いた様です。

『黄龍。そうじゃそうじゃ黄龍か。久し振りじゃのう。元気にしとったか?』

「実は白龍は少しアレ・・でして……」

 ミュウの後ろで黒龍はカリン達に耳打ちします。

『なんじゃ! わしゃまだボケてはおらんぞ! これはあれじゃ、ついうっかり。じゃ』

 何がついうっかりか。とミュウは思っていました。老人がいう所のついうっかり。は、ボケ始めの常套句です。

『まあ、立ち話もなんじゃ。茶でも淹れよう』

 壁向こうでピタゴラしていた龍の眼ドラゴンズ・アイがピタリ。と止まると、床の一部が沈み込み、代わってちゃぶ台が迫り上がってきました。それを見て、こんなモノまでセッティングしていたのか。と、カリン達一同は驚くと共に半ば呆れ返ります。

『よっこらせ』

「うおっ!」

「ひぃっ!」

 突然現れた真っ白なトカゲヅラにお店のマスターは驚き、シルビアが悲鳴を上げました。壁かと思っていた場所から、大っきなトカゲの顔がヌォッ。と、突き出されれば、誰しも驚く事でしょう。

 そして、ぼっふーん。と、白い煙がトカゲヅラを覆い、煙が晴れるとそこには一人の老人が立っていました。その老人は足元を確かめる様にゆっくりと歩いて、ちゃぶ台の側まで来ると腰を下ろしました。

「まぁま、座りんしゃい」

 老人に促されてカリン達は、ちゃぶ台の周りに腰を下ろしました。皆が腰を下ろすのを見計らい、老人は鋭い眼光を放ちます。

「娘ならやらんぞ」

「要らないでちよ」

 父親が、手塩にかけて育てた愛娘を奪いに来た、どこぞの馬の骨に吐く様な台詞をカリン達に向けて吐き、カリンが即座に突っ込みました。

「冗談じゃ。それでどうした? 黄龍だけでなく黒龍までも。しかも人間なんぞを連れてきおって」

 どうやって淹れたのかは分かりませんが、ちゃぶ台上に置かれた湯呑みを手に持ち、熱々のお茶を白龍は啜ります。

「古龍帝様から帰還命令が出た」

「帰還命令……? 一体何があったと言うんじゃ」

 白龍の問いにミュウは掻い摘んで話をしました。

「全く、最近の若いモンは、大事な物すら守れんとはな」

 ギロリ。と、ミュウと黒龍を睨み付ける白龍ですが、その大事な物をピタゴラの道具にしている白龍も白龍です。

「あい分かった。ワシもヌシらと共に戻ろう。じゃがもう少し待ってくれ、目玉焼きとトーストが出来るでの」

 ふぉっふぉっ。と年寄り染みて笑う白龍。どうやら彼の朝食は、トースト派のようでした。



 白龍の朝食が終えるのを待って、カリン達は彼の案内で通路を進みます。そして、通路の行き止まりに突き出た棒を操作すると、行き止まりの壁が横へとスライドしてゆきました。

「隠し扉でちか」

「そうじゃ、知る者は使い、知らぬ者は使わぬ扉じゃ」

 そうカリンに応えた白龍ですが、当たり前の事を口にしただけです。そしてその様子を、大雪ウサギのクッキーちゃんはポカンと眺めていました。

「おうお、めんこいウサギじゃのう。これで一ヶ月は肉に困らんわい」

 一瞬見せた狩人の眼に、大雪ウサギのクッキーちゃんは二足立ちして壁に張り付きました。られる! と、直感で感じ取った様です。

「白龍さん、この子は食べ物じゃないでちよ。エリッサ女王からお借りした乗り物でち」

「ほっほ。分かっておるよ。冗談じゃわい」

「その割には本気な眼をしてましたがね」

 ぐりゅん。と、首を回し睨む白龍に、黒龍は明後日の方向を見つめていたのでした。

「よし、それじゃ急ぐとしようかの。久々に歩いたもんで思わぬ時間を食ってしまったわい」

 時間を食ったのはあんたの食事が遅かったからだろ。と、見ていたカリン達は思っていました。白龍はお年寄りですので、しっかり噛まないと喉に詰まってしまうのです。その所為で、大雪ウサギのクッキーちゃんに乗って低温地帯を抜ける頃には、夕方になってしまっていたのでした。



 うまい具合に風が当たらない場所を見つけたカリン達は、そこで一泊する事にしました。黒龍が『何処からともなく』から出したバーベーキューグリルの薪がバチリ。と爆ぜ、大量の火の粉を舞い上がらせながらカラコロ。と、崩れます。

「美味い。これは美味いのう」

 深々と降り積もる雪の中で、白龍の声がひときわ大きく聞こえました。

「ウチの店自慢のスイーツさ」

 お店のマスターが得意げな顔で言います。

「マスターのワッフルは世界一ですわ」

 エリザ王女はそう言いますが、その王女とて世界中のワッフルを食した訳ではありませんので、その発言には頭を傾けざるを得ません。

「これは世界一なんぞでは無いわい」

 白龍の言葉にエリザ王女は、えっ!? と顔を上げました。

「宇宙一じゃ」

 ニヤリ。と口角を吊り上げて見せたその笑みに、エリザ王女は微笑みで応えたのでした。

「それにちても、よくこんなに持っていたでちね」

 旅に出た時に持ち出したにしてはやたらと量が多いですし、日数も経ってしまっているので悪くなってしまっている筈です。

「ん? ああ、ウルス族のボウズにご馳走した時に余分に作っておいたのさ」

 どうやら、運命の島ディステニー・ランド滞在時に作り置きしておいた様でした。



 翌朝。大雪ウサギのクッキーちゃんに乗って再び移動を始めたカリン達。降り積もる雪の音が聞こえるかと思えるくらいの静寂の中、その異常さに気が付いたのはお店のマスターでした。

「なあカリンちゃん。なんか焦げ臭くねぇか?」

 お店のマスターは鼻を突きだしてスンスン。と、嗅ぎ出します。

「お前もか、私も先程からきな臭いと思っていた所だ」

 ミュウがお店のマスターに応えますが、気付いていたなら教えろよ。と、カリンは内心で思っていました。周囲に家もなく、極寒地帯での自然発火はあり得ませんので、何かしらの原因がある筈なのです。

「でも、何もありませんわね」

 エリザ王女は周りを見渡しますが、どこまでも続く雪原が広がっているだけでした。大雪ウサギのクッキーちゃんは背が高いので遠くまで見渡す事が出来るのです。

「今はとにかく、エリッサ女王の居城に戻るのを優先するでち。彼女なら何か知っているかもしれないでちよ」

 途中休憩を挟みながら、カリン達は順調に女王の居城へと近付いていました。そして、ぶ厚い雲を抜けた一行は、その場に立ち竦んでいたのです。

「な、なんだ? コレは……」

 氷を削って出来たお城。朝昼夕と陽の光によって三つの風貌を見せる、荘厳で美しいエリッサ女王のお城が、無残な姿を晒していたのです。

「どうやら、何者かと戦闘になった様じゃな」

 白龍の言う通り、雪は焦げてクレーターが出来、お城の扉や壁も一部が破壊されています。

「何者か……? まさか! 魔王崇拝者が!?」

 一度は敗退した魔王崇拝者達が、再び攻め入って来た可能性は否定できません。しかし、その者達の死体が転がっていないのをカリンは疑問に思っていました。

「みんな、ふんどしを締め直すでちよ」

 カリンの奮起に一同は頷いて応えます。が、『私、ふんどしなんか履いてないよ』と、内心で突っ込むシルビアがいたのでした。
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