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激闘! 新たなる敵!

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 どうにかこうにか百合子の誤解を解く。
「へぇ……近所の子ねぇ」
 撤回、解けてはいない。
「彼女は?」
 バル子が僕の服の袖をひく。
「彼女は僕の同級生だよ。百合子っていうんだ」
「こんにちは、百合子さん。私はバル子といいます。決して怪しいものではありません」
「バル子ちゃんていうんだ。はじめまして。信彦くんの友達の百合子よ」
 なぜか百合子は目の前の少女を舐めるように観察している。
「で、なんで信彦くんたちはこんなところにいるのよ? 家からけっこう離れてるでしょ」
 どう説明するべきか。
「私が無理をいって頼んだんです。欲しいおもちゃがあるっていって」
「へぇ、やさしいのね。まあ、このおもちゃ屋さんは半年前に潰れちゃったんだけどね」
 バル子の目が鋭くなる。
「どんなおもちゃを探してたの?」
「魔法のステッキだ」

 
 僕たちは、遅めの昼飯をとるためにファーストフード店に入った。
 当然のように百合子も同席している。
「そんなに魔法のステッキが欲しんだ? 大きなおもちゃ屋さんでも扱ってるんじゃないの?」
「そのステッキは生産終了されているので、もう出回っていないのだよ」
 百合子はハンバーガーを美味しそうに頬張る。
「ふぉんとー、あのおもちゃ屋さん、けっこう古いものも棚にあったからなあ」
 店内は小さな子供をつれた母親たちばかりだった。
「私が探しているのは、2000年代初期に作られたステッキだ。やつらは、それを改造している」
 バル子は、小さな口でハンバーガーを咥える。
「うまい! なんだこれは!」
 叫ぶと、一気に残りのハンバーガーを口の中に。数秒でバル子の手からハンバーガーは消えていた。
「バル子ちゃん、ハンバーガーはじめて?」
 呆気にとられる僕と百合子。ここはどこにでもあるファーストフード店だ。
「うむ、はじめてだ。話には聞いていたが、まさかここまで旨いとはな」
 指についたソースを舐めながら、魔法少女は満足げな顔になっていた。
 母親同士が話に熱中し、飽きた子供たちが店内を駆けまわっている。
「うまーーい!」
 可愛い声で誰かが叫んでる。
「ほう、他にもいるのだな。この味がわかるものが」
 声の主は、中学生ぐらいの少女だった。嬉しそうにハンバーガーを食べている。
「へえ、褐色の肌だ。外国の人かな」
 髪も碧みかかっている。
 バル子が突然立ち上がり、その少女の席に駆けよる。
「キサマ、反乱軍のものだな」
 褐色の少女がバル子をみて驚愕している。
「ふぁ、ふぁんでここにいるッスか!?」
 食べかけのポテトが辺りに舞う。褐色の影がその隙に席を蹴る。
 だがバル子は逃がさない。いつのまにか取り出したステッキで少女の背中を打ちすえる。
「がは!」
 衝撃で床に叩きつけられた褐色の少女は嗚咽を吐く。
「逃がさん。まさかこんなところで反乱軍のメンバーに遭遇するとはな」
 床に倒れた少女にバル子はステッキを向ける。
「バル子ちゃん! 何してるの! やめなさい!」
 バル子の腕を百合子が引き留める。それが一瞬の隙になる。
「離せ! こいつらは」
 褐色の少女はステッキから光を放つ。
 店内に閃光が走る。
「しまった!」
 床に誰もいない。バル子は店内を見回す。自動ドアが動いている。
「逃がさん!」
 だが少女は店の外で待っていた。
「王国の狗が! ここで倒すッス!」
 褐色の少女はステッキを振るい舞う。あの時のバル子のように。
閃光があたりを埋め尽くす。
そして僕たちの前に巨大ロボットが現れる。

僕は学校の惨劇が頭に過る。店内では子供たちが嬉々とした目でロボットを見ている。
母親たちはそんな我が子を抱き抱え逃げる。
「くそ! こんな町中で出現しやがって!」
 民家が密集したここで、ロボット同士なんかすれば、学校の比ではない被害がでる。
 バル子が舞い終わる。
 閃光とともに、バル子のロボットが出現した。
 巨大な影が僕を覆う。
「バル子! たのむ、ここで戦闘はやめてくれ!」
 ピンクのロボットに向かって叫ぶ。
「そうッスね。ここではやりたくないッスね」
 だが意外なことに返事は、褐色の少女のロボットからだった。
 巨体が空を飛ぶ。
 それは浮くに近いかもしれない。飛翔したロボットが空中で静止する。
「かかってくるッスよ!」
 褐色の少女のロボットは、バル子の乗るロボットとまったく形が違っていた。トリコロールカラーの装甲を纏ったあのロボットに比べれば、バル子のロボットは無骨としかいいようがない。
 バル子のロボットも飛翔する。一瞬でトリコロールのロボットの高度まで達すると、拳を繰り出す。
 それを容易く避けられてしまう。
 バル子のロボットの腹にカウンターの膝蹴りが極まる。
 空中から、金属がぶつかり合う音が響く。
「信彦くん……あれってバル子ちゃんが乗ってるの?」
 百合子が空を指さす。ピンクの影とトリコロールの影がぶつかり合っていた。
「ああ……」
 地上から見ても、バル子がおされているのがわかる。機体の性能が違い過ぎる。
 トリコロールのロボットの攻撃が、肩に腹に、頭に決まる。
「出力が上がらん! くぅ!」
 強烈な衝撃がコクピットを揺らす。それに耐えながらも起死回生の一撃を狙う。
「頑丈ッスね! だけどぉ!」
 トルクが軋む音をたて、褐色の少女は、機体を回転さえ蹴りを繰り出す。勝利を確信した。
 ピンクの機体が裂ける。
 左腕が吹き飛び、頭部が欠損する。
 右の手刀がトリコロールのロボットの喉を裂く。 
 褐色の魔法少女は反射的に機体を逸らす。金属が裂ける音がコクピットまで届く。
 
 渾身の一撃は不発に終わる。
 もはや正常に機能しなくなったロボットは高度を一気に下げていく。もうバル子にはどうすることもできない。
「バル子!」
 ピンクの機体がどんどん大きくなっていく。このままでは民家に落下する。どうすればいい。
 ピンクのロボが発光し、消える。その後には、バル子が残っていた。
 そして、地面に衝突する。 
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