ゲームの世界に閉じ込められて魔王になりました。99万9999人のプレイヤーを倒すまで現実世界に帰れません。

でるたー

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〜戦力強化編〜

51話 契約魔

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「グㇽァァアア‼」

「ひえっ」

 カイザの契約魔ネロはぎらつく牙を剥き出しにし、主の期待に応えるため疾走する。
 腰の抜けた獲物に迫るその様は、獰猛な野獣というほかない。だが意思なき獣ではない。獰猛一色ではなく、どこか雄々しさを感じさせる。

水精の加護アクアベール!」

 ネロの牙がミレアの首筋に触れる寸前、余裕の無い青年の声が聞こえたと思えば、ミレアを内側から広がる水の膜が覆う。

 結果、ネロの牙はミレアの首に浅い噛み跡を残しただけに収まる。

「グㇽㇽㇽㇽㇽ……」

 ネロが青年、スグルを恨めしそうに睨みながら呻る。主に課せられた役割の完遂を阻止された、その思いはネロにとってスグルを討伐対象と認識するのに十分すぎる理由だ。

「ミレア、下がって」

「う、うん」

 スグルが2人に挟まるように陣取り、真剣な顔つきでミレアに退避を命じる。

 ミレアは役に立てないという罪悪感に顔を歪めながらも体を持ち上げ退避する。腰が抜けた、と言っても所詮ゲーム。一時的に『腰が抜けた感覚』に襲われるだけだ。動こうと思えばいくらでも動ける。

「グㇽァァアア‼」

 相手のコミュニケーションなど意に介さず、ネロがスグルに向かって地を踏み出す。

「シャープレイン!」

 相手は魔物。敵の都合に合わせないことなど百も承知のスグルは、動揺の一つもせず魔術を発動する。

 ネロの視界一面に線状の水が広がり迫ってくる。
 AGIが飛びぬけて高い敵に対する範囲魔術。これ以上ない最適解だろう。

 だが、なんと皮肉な事だろうか。スグルの相手は獣の俊敏さと、魔王に与えられた知性があるのだ。
 それに加えここは森。地面には潤った大地、つまり掘ることのできる土が地を形成している。

「……‼ 嘘だろ!? そんなんありかよ!」

 スグルがネロの行動に目を大きく見開き驚愕する。相手に文句を吐くほどに。

 ネロはスグルの放った魔術が範囲魔術であると悟った瞬間、スグルに背を向け後ろ足で地面を掘り、勢いよく飛ばす。
 えぐり取られた地面は前方に向かい飛散し、シャープレインからネロの身を守る瞬間的な盾となる。
 勿論すべてのシャープレインを防いだわけではない。ネロに当たる範囲のシャープレインの中でも、防いだのは多く見積もって5割ほど。せいぜいそれぐらいが関の山だ。
 だが、後退以外避け用のない魔術に対し、MNDが絶望的なまでに低いネロとしてはその利益は大きい。
 スグルのINTとネロのMNDの差はLv差も相まって600を超える。範囲魔術のため一発で受けるダメージが少量とはいえ、当たる範囲のシャープレインを全て被弾すれば瀕死まで持っていかれる。
 そのダメージが約半減されるのだ。こう聞いてみると、如何にネロの行動が大きいのかが分かるだろう。

「グㇽㇽアアアア‼」

 シャープレインをその身に受けながらもスグルへと駆ける。
 後退を狙いシャープレインを放ったスグル。距離を詰められてしまっては、もうどうすることも出来なかった。



「ブラッドレイ」

 ヴラドの放つ深紅の光線が次々とニーアを襲う。

「見た感じあなたは魔術師のようだけど、それしか使えないのかしら?」

 それをニーアは持ち前の『予測』で華麗に躱す。ヴラドに質問を投げるほどの余裕を持ちながら。

「そうなんです。私はあまり多芸な方ではなくてですね。これと、もう一つの魔術しか使えないのですよ。そちらは少々使い勝手がよろしくなくて、この状況では全く役に立ちません」

 ヴラドはニーアに段々と歩み寄りながら自嘲気味に質問に答える。しかし、その瞳に羞恥心は一切見受けられない。

「……‼」

 それをニーアは悟り、何とも言えない悪寒が体を襲う。

「クリスタルアロウ!」

 何とも言えない不安を抱いたニーアはその凛々しい表情から余裕を消し、視線の先にいる吸血鬼に矢を放つ。

吸血の細剣ブラッドレイピア

 ニーアの放った氷塊の矢は、突如ヴラドの右手に現れた細剣によって弾かれる。

 氷が砕け、爽快感のある音が森に響く。気付けば、ニーアの視界にヴラドはいない。

「使い勝手の悪いもう一つの魔術。発動さえすれば、その効果はとても強力な物ですよ」

 ニーアの耳元でヴラドが囁く。何か意味ありげな言葉。それは一種の宣告のように聞こえる。

 ヴラドに背後をとられたことに動揺を示しながらも、ニーアは咄嗟に後退し距離をとる。

「なるほど、実は前衛職だったってわけね」

「半分正解半分間違い、ですかね。私はカイザ様と同じ、魔剣士です」

 ニーアに不気味な笑みを向け、ゆっくりと歩み寄っていく。

「……‼ 体が動かない!?」

 ヴラドから一定の距離を保つために後退しようと思うも、ニーアの体は石像のように微動だにしない。

「はい。あなたには私の血を10滴、付着させていただきました」

 ヴラドが自分の右肩を指しながら言う。

 ニーアが自分の右肩に唯一動く目を動かしてみれば、そこには深紅の鮮血が付着している。

「言ったでしょう?発動さえすれば、もう一つの魔術は強力なんです。どうです?私のブラッドドミネートは」

「……ふふっ、最悪よ」
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