2 / 44
1.203号室 住人 橘鈴音
2.
しおりを挟む
休憩をはさみつつ、のろのろと足を進めること約20分。レンガとアイアインの門に囲まれた2階建ての建物が目前に現れた。美沙恵ちゃから送られてきた写真と一致するその建物が「しゃんけ荘」。レンガの壁で一部囲まれた建物はおしゃれな洋館風で、どちらかといえば横文字の名前がついてそうな外観だった。
敷地は思ったより広い。アパートらしき2階建ての建物が1棟、数メートル離れたところに建っている同じ色調の離れのような2階建ての建物が1棟。前面の庭にはもう1棟くらい建てられそうな余裕がある。
アパートの端には桜の木が1本あり、お花見の時期にはとても華やかになりそうだ。離れの前には家庭菜園のような花壇があって、……あ、ローズマリーやミントがある。少し離れて白い軽四と軽トラックが停まっていた。
さて、どうするかと思っていた矢先に、アパートらしき建物の2階の玄関ドアが勢いよく開き、中から若い女性が出てきた。彼女は玄関の鍵を(おそらく)かけて、慌ただしく走りだし、ロングウエーヴの髪を振り乱して走り寄り、あっという間に門をくぐり抜けて目の前に姿を現した。
見た目「大人なお姉さん」と視線が合った瞬間、彼女が目を見開いて立ち止まり一言。
「ないわ-。その髪型ないわー。でも時間ないっ。アナタ何?お客さん??」
呆気にとられて無言でいると、なおもお姉さんは言葉を重ねる。
「誰かに用?」
「えっと、瀬川さん?に」
迫力に押されてそう答えると、お姉さんは後ろを振り向いて大声で叫んだ。
「いつきぃ-、お客さんっ!」
そしてくるりとこちらを振り返ると、アパートから数メートル離れたところに建っている同じ色調の建物を指さし「玄関あっち」と言い残して坂道を走ってくだっていった。
……今のは、何だったのだろうか。
お姉さんは、多分このアパートの住人。一応、案内?もしてくれた?のだろうか。大声で誰かを呼んでくれてたし。……聞こえてるかどうかはわからないけど。向かう先も教えてもらった。慌ただしかったけど、多分いい人だ。いい人だけど……。
髪型けなされたよね?
鈴音は腰まで伸びた髪をひとつまみ掴む。
友人の黒艶ロングヘアに憧れて真似して伸ばしてはみたものの、髪質の違いでまとまりがなく思ったような髪型にはならなかった。ただ、ひとまとめにすると手間がかからずお手軽だったのでそのまま伸ばし続けていた。受験勉強第一ででオシャレは後回しだという言い訳もオプションでつけていたかもしれない。
もともと美容院が苦手で、できるだけ行かなくて済む方法を求めた結果の髪型でもある。手抜きと言われればそのとおりで、返す言葉などない。返す言葉はないんだけど……なんかヘコむ。
「あのー」
「うわぁぁ!」
突然背後から声をかけられ、反射的に叫んだ。勢いよくぐるんと振り返るとそこには背の高いお兄さんがちょっとビックリしたような表情でこっちを見ていた。
「ご、ごめんなさい」
びっくりした、びっくりした!だけど声かけただけで叫ばれたらお兄さんもびっくりだよね。恥ずかしい……。なんだろう、今日はなんかついてないよ。さっきからヘコむことばっかりだ。
「あ、こちらこそ急に声をかけてしまって申し訳ありません。えっと、もしかして橘さんですか?」
「はい、そうです」
「美沙恵さんからお話は伺っています。ようこそおいでくださいました。管理人の瀬川いつきです」
お兄さんがとてもふんわり柔らかく微笑むので、つられて笑顔になった。
「初めまして。橘鈴音です」
敷地は思ったより広い。アパートらしき2階建ての建物が1棟、数メートル離れたところに建っている同じ色調の離れのような2階建ての建物が1棟。前面の庭にはもう1棟くらい建てられそうな余裕がある。
アパートの端には桜の木が1本あり、お花見の時期にはとても華やかになりそうだ。離れの前には家庭菜園のような花壇があって、……あ、ローズマリーやミントがある。少し離れて白い軽四と軽トラックが停まっていた。
さて、どうするかと思っていた矢先に、アパートらしき建物の2階の玄関ドアが勢いよく開き、中から若い女性が出てきた。彼女は玄関の鍵を(おそらく)かけて、慌ただしく走りだし、ロングウエーヴの髪を振り乱して走り寄り、あっという間に門をくぐり抜けて目の前に姿を現した。
見た目「大人なお姉さん」と視線が合った瞬間、彼女が目を見開いて立ち止まり一言。
「ないわ-。その髪型ないわー。でも時間ないっ。アナタ何?お客さん??」
呆気にとられて無言でいると、なおもお姉さんは言葉を重ねる。
「誰かに用?」
「えっと、瀬川さん?に」
迫力に押されてそう答えると、お姉さんは後ろを振り向いて大声で叫んだ。
「いつきぃ-、お客さんっ!」
そしてくるりとこちらを振り返ると、アパートから数メートル離れたところに建っている同じ色調の建物を指さし「玄関あっち」と言い残して坂道を走ってくだっていった。
……今のは、何だったのだろうか。
お姉さんは、多分このアパートの住人。一応、案内?もしてくれた?のだろうか。大声で誰かを呼んでくれてたし。……聞こえてるかどうかはわからないけど。向かう先も教えてもらった。慌ただしかったけど、多分いい人だ。いい人だけど……。
髪型けなされたよね?
鈴音は腰まで伸びた髪をひとつまみ掴む。
友人の黒艶ロングヘアに憧れて真似して伸ばしてはみたものの、髪質の違いでまとまりがなく思ったような髪型にはならなかった。ただ、ひとまとめにすると手間がかからずお手軽だったのでそのまま伸ばし続けていた。受験勉強第一ででオシャレは後回しだという言い訳もオプションでつけていたかもしれない。
もともと美容院が苦手で、できるだけ行かなくて済む方法を求めた結果の髪型でもある。手抜きと言われればそのとおりで、返す言葉などない。返す言葉はないんだけど……なんかヘコむ。
「あのー」
「うわぁぁ!」
突然背後から声をかけられ、反射的に叫んだ。勢いよくぐるんと振り返るとそこには背の高いお兄さんがちょっとビックリしたような表情でこっちを見ていた。
「ご、ごめんなさい」
びっくりした、びっくりした!だけど声かけただけで叫ばれたらお兄さんもびっくりだよね。恥ずかしい……。なんだろう、今日はなんかついてないよ。さっきからヘコむことばっかりだ。
「あ、こちらこそ急に声をかけてしまって申し訳ありません。えっと、もしかして橘さんですか?」
「はい、そうです」
「美沙恵さんからお話は伺っています。ようこそおいでくださいました。管理人の瀬川いつきです」
お兄さんがとてもふんわり柔らかく微笑むので、つられて笑顔になった。
「初めまして。橘鈴音です」
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる