しゃんけ荘の人々

乙原ゆう

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1.203号室 住人 橘鈴音

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「面接ってあれで終わりなの?」

 管理人さんのお話を聞いた後、美沙恵ちゃんの部屋にやってきた。
ブラウン系の落ち着いた色合いの部屋はとっても落ち着く。美沙恵ちゃんはニコニコしながらミカンを手渡してくれた。
 部屋の真ん中にコタツ。夏はテーブルになるし高さ調節も可能な優れものらしい。コタツにみかん、ほっこりする組み合わせだなぁ。

「え~?面接??何それ?」

 私の問いに美沙恵ちゃんはコロコロ笑う。

「え?だっておばさんが『面接あるよ』って言ってたって。母さんが言ってたよ?」

「うーん、面談かなにかの間違いじゃないかなぁ?」

 え?そうなの?ものすごく緊張してたんだけど。

「でも良かったね~、鈴ちゃんすぐにここに馴染めるよ」

「うーん」
 
 馴染めるのかなぁ?めちゃくちゃ勢いのあるお姉さんや、坂道で出会ったちょっと怖そうなお兄さんも住んでるんだよね、多分。

「何か問題あるの~?お部屋は広いし、家賃もお手頃。坂はちょとしんどいけど。いつきくんイケメンだしいいと思うけどなぁ」

 え?イケメンって関係あるの??

「目の保養にいいんだよ~?あ、もう一人超絶イケメンいるんだよ~。女嫌いなんだけどね、もったいないよねぇ?」

 美沙恵ちゃんはあっけらかんと笑ってるけど、正直よくわからない。テレビとか、遠目に見る分には確かにかっこいい人だなぁとか思うこともあるけど、実生活で付き合っていくとなると人の姿形の美醜など二の次だったりする。表面上笑っていても心の中で怒ってる人の側は怖いし、不機嫌な人の側は居心地が悪い。

「鈴ちゃんナイーヴだからなぁ。すぐに人の感情拾っちゃうから大変だよねぇ。でもここの子達はみんないい子だから大丈夫だよ」

 美沙恵ちゃんにかかったらみんないい子になっちゃうよね。しかも「いい子」って。美沙恵ちゃんより年下の人ばかりなのかなぁ?

「そういや管理人さんも若いよね?」

 なんとなくイメージとしてもう少し年配の人を想像してたので驚いた。

「いつきくん?確か私の1コ上だから27歳だよ」

 なんでも2年前までは彼のご両親が管理されていたらしい。ご主人の本業が建築士さんでお仕事の関係?で引っ越しすることになり、県外でお勤め人だった瀬川さんが後を引き継ぐことになったそうだ。もともと長期休暇にはこっちに帰ってきてたから皆と面識もあったらしい。
 ちなみに美沙恵ちゃんは大学時代、夏休みやら冬休みに帰ってくる同じく学生の瀬川さんを捕まえてレポートを手伝わせていたらしい。さすが美沙恵ちゃんだ。

「鈴ちゃん、大丈夫だったでしょう?いつきくんはいい子にはいい人だからね~」

 その法則に従うと、瀬川さんは悪い子には悪い人になるの??鏡みたいな人だなぁ。
  
「あ、そういえば。美沙恵ちゃんおめでとう。結婚式はどうするの?」

 そうそう。バタバタしてて言いそびれてた。

「ありがと~。式はね、時間がないからしないんだ。まぁもともとあんまり興味もなかったからねぇ。」

 うん?時間がない??

「時間ないって?なんで?」

「和くん、来月からドイツだから」

「え?」

「数年帰って来れないんだって。しょんぼりしながら一緒に来て~って言われたの」

 そういば以前1度だけ会った美沙恵ちゃんの彼氏さん、どこかの企業にお勤めだって言ってたような気がする。確か美沙恵ちゃんの2歳年上でとってもしっかりした人だったような記憶があるんだけど?え?あの人しょんぼりしたの??

「急だったからこっちの仕事の調整できなくてね~。ちょっと遅れていくんだけどね。家財道具も処分するつもりだったから。もし鈴ちゃんがいるものあるなら置いとくよ?」

 それはありがたい話だけど。でもちょっと待って。母さん一言もそんな話してなかったよね。まぁメインは私の下宿先の話だから。おまけに美沙恵ちゃんの結婚話がついてきて、そのおまけの転勤先の話までは意識が行かなかったのかもしれないけど。

「……えっと。ちなみにおばさんは?ドイツ行きのこと知ってるの?」

「来週実家に和くんと行くからその時話すよ~」
 
 ですよねぇ?母さんも聞いてたら絶対話題にしてるだろうし。
 いくら今までも離れて暮らしていたからといっても国内と国外じゃ話は違ってくる。伯父さん大丈夫かなぁ。なんか可哀想になってきた。 

「おばさん達に先に話しといた方が良くない?急に言われたらビックリするよ?」

 私だって美沙恵ちゃんに会えなくなるのは寂しいのに。親なら尚更だと思うんだけど。特に伯父さんの血圧が心配だ。

「大丈夫~。来週、和くん実家でSkypeの設定してふたりに使い方レクチャーしてくれるの。ついでに仕事しなくて時間に余裕ができる私といかにコンタクトがとれやすくなるかをプレゼンしてくれるんだって。前もって話して不安がらせるよりいいよね~」

 さすが美沙恵ちゃんの旦那さんになる人だと、感心しとけばいいのかなぁ。
でも美沙恵ちゃんが遠くに行っちゃうのは悲しい。今までだって年に数回会うか会わないかだったんだけど、それでも寂しい。困ったことがあったらいつも相談するのは美沙恵ちゃんだったからなぁ。

 今までと一緒だから大丈夫だと美沙恵ちゃんは言うけれど、会いに行こうと思ってすぐに会いにいけるのと行けないのとでは大きく違うんだよ、精神的に。あ、なんか今自分はめんどくさい人間になってる。

 美沙恵ちゃんがよしよしと頭を撫でてくれた。

「うん、やっぱり鈴ちゃんここにおいでよ。知らないところでひとりでいたら絶対寂しくなるからさ。伊織くんとはいい友達になれるよね?」

「うん」
 
「いつきくんも面倒見がいいから。困ったことあったら相談に乗ってくれるよ?」

「うん」

「鈴ちゃん、幸運なんだよ?全くのゼロから始まる生活じゃなくて、頼れる人が周囲にいるんだからさ。幸運をちゃんと幸運と認識して捕まえないとね」

「よくわかんない」

「うん、そうだね。鈴ちゃん栗好きだよね?」

 何で栗?

「うん、好き」

「山でイガ栗落ちてたら拾うよね?」

 もちろん拾うよ。イガイガが痛いから気をつけて拾うよ。

「なんで拾うの?」

「栗だから」

「そう、中に栗入ってるって知ってるから拾うんだよね?でも中味が栗だと知らない人は?拾えないよね?鈴ちゃんは中身が栗だと『知ってる』から拾えたんだよね」

 ああ、そういうことなんだと、美沙恵ちゃんの言いたいことがすとんと胸に落ちた。落ちたけど。

「……何が幸運なのかがわかんない」

「素敵なオトナは幸運を見極められる目を持ってるんだよ」

  美沙恵ちゃんはにっこりと笑うだけで幸運の見極め方は教えてくれなかった。

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