24 / 44
3 101号室 住人 小早川秀章
24.
しおりを挟む
「小早川さん、すごいですね!流石ですぅ」
ばっちりとメイクをしてうっとりと自分に見とれるているのは確か、取引先の会社の受付嬢だったか?意味のわからん賛辞は聞いててイライラする。それがとってつけたようなものなら尚更。
居酒屋で女共にやいやいと騒ぎ立てられているんだが。就業時間はとっくに終了してるんだ、そろそろプライベートモードに戻ってもいいだろうか。戻りたいのに戻れない。これが全く会社と関係のない女相手ならキッパリ言えるのに。
内心イライラしながら平静を装い飯を食べる。焼き鳥もビールもうまいけど、BGMは最悪だ。
午前中、2歳年上の会社の先輩である佐谷さんにばったり出会ったのがまずかった。もっとも出会ってなくても連絡が来て結果は同じだったんだろうけど。
「おう、小早川!丁度いいところに!」
ニカっと笑いながら佐谷さんが近寄ってくる。この笑い方をしてるときの彼とは正直あまり付き合いたくはないんだが。逃れられないことも経験上、熟知している。実に面倒だ。
「今日、古川を励ます会するぞ。場所はいつものとこ」
○○を励ます会と称して時々佐谷さんは飲み会を開催する。○○は女に振られたか彼女と分かれたかしたヤツの名前が入る飲み会で、内情はいわゆる合コンだ。「○○を励まして(新しい出会いを提供する)会」らしい。ついでにそのおこぼれに預かろうという輩が集まってくるので参加希望者多数の飲み会である。
古川は会社の後輩で「可愛い顔した癒やし系男子」らしい。
2年近く同じ会社の美咲ちゃんとやらに片思いしていてグチグチとどうにもならない悩み事相談を佐谷さんは受けていた。何故自分がそんなコトを知っているのかと言えば、時々巻き添えを食らって一緒に連行されていたからである。
突撃したら玉砕確定で実行することもなかったために不完全燃焼だったわけだが。先日見事に美咲ちゃんとその思い人がひっついてしまったらしい。
「……なんで断定するんですか。オレの予定聞いてくださいよ」
「おまえ、何も予定ねぇじゃん。あってもどうせジム行くくらいだろうが」
「立派な予定ですよ。1週間分のストレス発散の時間ですからね」
「古川すっごい落ち込んでるからさぁ。ちょっとぱーっと騒いだら元気になる」
「片思い期間が長すぎてそうそう簡単に復活なんかできませんよ」
「いんや?『励ます会しようか?』って言ったら是非ともって言ってたぞ」
古川、切り替え早すぎないか?そんなこちらの心の声を読んだかのごとく、佐谷さんは続ける。
「まぁ、予感あったから覚悟決めてたんだろう。な?可愛い後輩のためじゃないか。お前が参加したら女子の参加率が全然違うんだからさ」
いわゆる「イケメン」らしいオレをいつもの如く客寄せならぬ女寄せパンダに仕立てる彼に腹が立つ。自分を目当てに来る女を寄せ集めても嬉しくないだろうと以前言ったことがるのだが
「そんなもん切っ掛けだけの問題だからいいんだよ。店に入らなきゃ商品買って貰えないだろうが。お前はいわばスーパーの広告の品だ。それを目当てに主婦は店に殺到するんだよ。広告の品が手に入らなくても何らかの商品を買って帰るだろうが?」
とキッパリ言われたのだが……何かが違う。
だがしかし、入社当時に世話になった先輩の頼みを無碍にするわけにもいかず、しかも自分が面倒を見ている後輩関係ときた。本当にいつも断りにくい誘いを絶妙に持ちかけてくる人だ。そして自分が断れないのを知っていて……おそらく既に自分は参加者に含まれていて他に誘いをかけ終えてるのだ。仕事もできる人だが本当にタチが悪い。
「参加費そっちで持ってくださいよ」
「おお、もちろん」
「あといつものように適当に抜けさせてもらいますからね」
「おお、いいぞいいぞ。むしろ歓迎だ」
そんなやりとりがあって現在に至るわけだが。
男女総勢20数名も集まれば、店内ではもう何がなんだかわからない状態だ。問題の古川は……え?大丈夫なのか?なんかあきらかに肉食系女に引っかかってるんだけど。まぁ本人まんざらでもないみたいだし……いいのか。
「それでぇ、今度一緒に行っていただけませんか?」
受付嬢にさりげなくボディータッチされて我に返る。勝手に触れるな、男が触れたら痴漢呼ばわりされるのに何で女なら許されるんだ?全く解せぬ。食べるものも食べ終えたしそろそろ本気で帰りたい。
するとこれまた絶妙なタイミングでスマホが鳴った。音量は抑えてあるけど微かに両隣に聞こえる程度の呼び出し音。佐谷さんからだった。うるさく話しかけてきていた女に礼儀として断りを入れて電話に出る。
『よお。おつかれさん』
「お疲れ様です」
『お前の左側の彼女可愛いじゃん。お前の連絡先聞いてきたら教えてもいいか?』
「……いいえ。そちらの件につきましては難しいかと」
『もったいないなぁ。まぁいいけど。そろそろひきあげてもいいぞ』
「ありがとうございます。ではよろしくお願いします」
「申し訳ありませんが火急の案件ができましたので失礼します」
佐谷さんのすごいところは、無理矢理引っ張り出してはうるけれどこっちがマジギレする直前にタイミングを見計らって引き上げさせてくれるところだ。まったく何なんだ、あの人は。
「そうなんですかぁ?お仕事大変ですねぇ。私、お料理得意なんですよ。小早川さん、お仕事忙しそうだから……」
オレがニッコリと今夜初めての営業スマイルを浮かべると、目の前の彼女は真っ赤になって言葉をなくした。そうそう、大人しく口をつぐんでもらわなきゃ困るんだよ。あきらかに面倒な言葉は聞きたくない。
「急いでますので失礼しますね」
オレだってサラリーマンである。嫌な顧客に笑顔で対応だってできるんだよ。ただし仕事に限る!だけどな。
ばっちりとメイクをしてうっとりと自分に見とれるているのは確か、取引先の会社の受付嬢だったか?意味のわからん賛辞は聞いててイライラする。それがとってつけたようなものなら尚更。
居酒屋で女共にやいやいと騒ぎ立てられているんだが。就業時間はとっくに終了してるんだ、そろそろプライベートモードに戻ってもいいだろうか。戻りたいのに戻れない。これが全く会社と関係のない女相手ならキッパリ言えるのに。
内心イライラしながら平静を装い飯を食べる。焼き鳥もビールもうまいけど、BGMは最悪だ。
午前中、2歳年上の会社の先輩である佐谷さんにばったり出会ったのがまずかった。もっとも出会ってなくても連絡が来て結果は同じだったんだろうけど。
「おう、小早川!丁度いいところに!」
ニカっと笑いながら佐谷さんが近寄ってくる。この笑い方をしてるときの彼とは正直あまり付き合いたくはないんだが。逃れられないことも経験上、熟知している。実に面倒だ。
「今日、古川を励ます会するぞ。場所はいつものとこ」
○○を励ます会と称して時々佐谷さんは飲み会を開催する。○○は女に振られたか彼女と分かれたかしたヤツの名前が入る飲み会で、内情はいわゆる合コンだ。「○○を励まして(新しい出会いを提供する)会」らしい。ついでにそのおこぼれに預かろうという輩が集まってくるので参加希望者多数の飲み会である。
古川は会社の後輩で「可愛い顔した癒やし系男子」らしい。
2年近く同じ会社の美咲ちゃんとやらに片思いしていてグチグチとどうにもならない悩み事相談を佐谷さんは受けていた。何故自分がそんなコトを知っているのかと言えば、時々巻き添えを食らって一緒に連行されていたからである。
突撃したら玉砕確定で実行することもなかったために不完全燃焼だったわけだが。先日見事に美咲ちゃんとその思い人がひっついてしまったらしい。
「……なんで断定するんですか。オレの予定聞いてくださいよ」
「おまえ、何も予定ねぇじゃん。あってもどうせジム行くくらいだろうが」
「立派な予定ですよ。1週間分のストレス発散の時間ですからね」
「古川すっごい落ち込んでるからさぁ。ちょっとぱーっと騒いだら元気になる」
「片思い期間が長すぎてそうそう簡単に復活なんかできませんよ」
「いんや?『励ます会しようか?』って言ったら是非ともって言ってたぞ」
古川、切り替え早すぎないか?そんなこちらの心の声を読んだかのごとく、佐谷さんは続ける。
「まぁ、予感あったから覚悟決めてたんだろう。な?可愛い後輩のためじゃないか。お前が参加したら女子の参加率が全然違うんだからさ」
いわゆる「イケメン」らしいオレをいつもの如く客寄せならぬ女寄せパンダに仕立てる彼に腹が立つ。自分を目当てに来る女を寄せ集めても嬉しくないだろうと以前言ったことがるのだが
「そんなもん切っ掛けだけの問題だからいいんだよ。店に入らなきゃ商品買って貰えないだろうが。お前はいわばスーパーの広告の品だ。それを目当てに主婦は店に殺到するんだよ。広告の品が手に入らなくても何らかの商品を買って帰るだろうが?」
とキッパリ言われたのだが……何かが違う。
だがしかし、入社当時に世話になった先輩の頼みを無碍にするわけにもいかず、しかも自分が面倒を見ている後輩関係ときた。本当にいつも断りにくい誘いを絶妙に持ちかけてくる人だ。そして自分が断れないのを知っていて……おそらく既に自分は参加者に含まれていて他に誘いをかけ終えてるのだ。仕事もできる人だが本当にタチが悪い。
「参加費そっちで持ってくださいよ」
「おお、もちろん」
「あといつものように適当に抜けさせてもらいますからね」
「おお、いいぞいいぞ。むしろ歓迎だ」
そんなやりとりがあって現在に至るわけだが。
男女総勢20数名も集まれば、店内ではもう何がなんだかわからない状態だ。問題の古川は……え?大丈夫なのか?なんかあきらかに肉食系女に引っかかってるんだけど。まぁ本人まんざらでもないみたいだし……いいのか。
「それでぇ、今度一緒に行っていただけませんか?」
受付嬢にさりげなくボディータッチされて我に返る。勝手に触れるな、男が触れたら痴漢呼ばわりされるのに何で女なら許されるんだ?全く解せぬ。食べるものも食べ終えたしそろそろ本気で帰りたい。
するとこれまた絶妙なタイミングでスマホが鳴った。音量は抑えてあるけど微かに両隣に聞こえる程度の呼び出し音。佐谷さんからだった。うるさく話しかけてきていた女に礼儀として断りを入れて電話に出る。
『よお。おつかれさん』
「お疲れ様です」
『お前の左側の彼女可愛いじゃん。お前の連絡先聞いてきたら教えてもいいか?』
「……いいえ。そちらの件につきましては難しいかと」
『もったいないなぁ。まぁいいけど。そろそろひきあげてもいいぞ』
「ありがとうございます。ではよろしくお願いします」
「申し訳ありませんが火急の案件ができましたので失礼します」
佐谷さんのすごいところは、無理矢理引っ張り出してはうるけれどこっちがマジギレする直前にタイミングを見計らって引き上げさせてくれるところだ。まったく何なんだ、あの人は。
「そうなんですかぁ?お仕事大変ですねぇ。私、お料理得意なんですよ。小早川さん、お仕事忙しそうだから……」
オレがニッコリと今夜初めての営業スマイルを浮かべると、目の前の彼女は真っ赤になって言葉をなくした。そうそう、大人しく口をつぐんでもらわなきゃ困るんだよ。あきらかに面倒な言葉は聞きたくない。
「急いでますので失礼しますね」
オレだってサラリーマンである。嫌な顧客に笑顔で対応だってできるんだよ。ただし仕事に限る!だけどな。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる