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瑛美は傍らのベッドに腰を下ろしぼんやりと部屋を見渡していた。窓からは夕日が差し込んでいた。
エドワードの部屋。
それは瑛美にもわかっていた。彼と話している最中にひどく眠くなりそのまま眠ってしまったのだった。
目が覚めたとき誰も部屋にはいなかった。部屋から出るため扉に近づきあけようとしたが無駄だった。どうなっているのか中からは開けることができなかった。
瑛美は彼との約束もあるので早く帰りたかった。そこで窓から外へ出ようと思い、近づいてみたがそれも断念せざるをえなかった。エドワードの部屋は二階にあり瑛美にはとてもそこを降りることはできなかった。
エドワードはどこへ出かけたのか帰ってこない。瑛美は途方にくれていた。
(早く戻りたい)
彼に会えないことが不安でしかたがなかった。会ってからほとんどずっと一緒にいたために気づかなかったのだが、離れていることがこれほど苦痛だとは思いもしなかった。
(もしこのまま彼に会えなければ)
そんな考えが不意に浮かび、瑛美はひどく恐くなってうつむいた。
そんなはずはない。すぐに会える、と。
瑛美は自分自身を励ますが不安はますます大きくなるばかりだった。
瑛美の視界が涙でかすむ。
(どうしよう)
戻れなければ、彼に会えなければ……。
そんなことにはならないとわかってはいるが涙は止まらなかった。
そのときカツンと音がした。
瑛美は怯えて顔をあげる。
再びカツンと音がする。
それは扉の方から聞こえてきた。瑛美はそちらを凝視する。
「エドワード?」
おそるおそる瑛美は呼びかける。だが返事はなかった。
みたびカツンと音がして、扉がゆっくりと開いた。
瑛美の顔に笑みが浮かぶ。
「さあ、いこうか」
そういって彼はいつものように華やかに微笑み、小さな手を差し出した。
◇◆◇◆◇◆◇
彼の地下の住まいに戻るやいなや瑛美は弱々しく言った。
「もう戻らない」
瑛美は絨毯の上に座り込みソファーにつっぷした。
「二度とあなたの側を離れない」
彼はソファーに座り恵美をみた。
「会えなくなったらどうしっようって。……恐かったの」
彼は慰めるかのように瑛美の黒髪を小さな手で何度も撫でる。
「もう帰らないわ」
瑛美は再びそう言った。
「明後日は舞台だ」
「どうでもいい」
「それはいけない」
瑛美はゆっくりと体を起こして彼を見る。
「どうして?あなたの側がいいの」
彼はうなずく。
「でもおまえは歌うことが好きだ。そうだろう?」
「ここでだって歌えるわ」
「だめだ」
「なぜ?」
「おまえは歌姫にならなければならない。それも全世界に知れ渡る、超一流の」
「どうだっていい。そんなの。舞台に立てなくても歌えるもの」
彼は柔らかく笑う。
「おまえは気づいていないだけだ。そうでなければなぜノブコについている?おまえの心は私が一番知っている」
瑛美は戸惑い彼を見た。
「私はね、人の願いを叶えなければならないいんだよ」
彼は自嘲的に笑う。それは瑛美が初めて見た表情だった。
「人の願いを叶えなければ私の時は永遠なんだよ」
「永遠?」
「老いも死もない、地獄だよ」
瑛美には意味がわからなかったがひとつだけわかったことがある。
彼は助けを求めているのだ。
「つらいの?」
彼は小首を傾げ笑うだけだった。
瑛美にはそれがひどくいたたましく思え、涙ぐんだ。
「私が……私が舞台に立てばいいのね?そうすればあなたはその苦しみから解放されるのね?」
彼はただ笑うだけだった。
「私、舞台に立つ。だから……聴いててね」
彼は優しく頷いた。
「聴いているよ、いつまでも。いつまでもおまえの歌だけに耳を傾けよう」
エドワードの部屋。
それは瑛美にもわかっていた。彼と話している最中にひどく眠くなりそのまま眠ってしまったのだった。
目が覚めたとき誰も部屋にはいなかった。部屋から出るため扉に近づきあけようとしたが無駄だった。どうなっているのか中からは開けることができなかった。
瑛美は彼との約束もあるので早く帰りたかった。そこで窓から外へ出ようと思い、近づいてみたがそれも断念せざるをえなかった。エドワードの部屋は二階にあり瑛美にはとてもそこを降りることはできなかった。
エドワードはどこへ出かけたのか帰ってこない。瑛美は途方にくれていた。
(早く戻りたい)
彼に会えないことが不安でしかたがなかった。会ってからほとんどずっと一緒にいたために気づかなかったのだが、離れていることがこれほど苦痛だとは思いもしなかった。
(もしこのまま彼に会えなければ)
そんな考えが不意に浮かび、瑛美はひどく恐くなってうつむいた。
そんなはずはない。すぐに会える、と。
瑛美は自分自身を励ますが不安はますます大きくなるばかりだった。
瑛美の視界が涙でかすむ。
(どうしよう)
戻れなければ、彼に会えなければ……。
そんなことにはならないとわかってはいるが涙は止まらなかった。
そのときカツンと音がした。
瑛美は怯えて顔をあげる。
再びカツンと音がする。
それは扉の方から聞こえてきた。瑛美はそちらを凝視する。
「エドワード?」
おそるおそる瑛美は呼びかける。だが返事はなかった。
みたびカツンと音がして、扉がゆっくりと開いた。
瑛美の顔に笑みが浮かぶ。
「さあ、いこうか」
そういって彼はいつものように華やかに微笑み、小さな手を差し出した。
◇◆◇◆◇◆◇
彼の地下の住まいに戻るやいなや瑛美は弱々しく言った。
「もう戻らない」
瑛美は絨毯の上に座り込みソファーにつっぷした。
「二度とあなたの側を離れない」
彼はソファーに座り恵美をみた。
「会えなくなったらどうしっようって。……恐かったの」
彼は慰めるかのように瑛美の黒髪を小さな手で何度も撫でる。
「もう帰らないわ」
瑛美は再びそう言った。
「明後日は舞台だ」
「どうでもいい」
「それはいけない」
瑛美はゆっくりと体を起こして彼を見る。
「どうして?あなたの側がいいの」
彼はうなずく。
「でもおまえは歌うことが好きだ。そうだろう?」
「ここでだって歌えるわ」
「だめだ」
「なぜ?」
「おまえは歌姫にならなければならない。それも全世界に知れ渡る、超一流の」
「どうだっていい。そんなの。舞台に立てなくても歌えるもの」
彼は柔らかく笑う。
「おまえは気づいていないだけだ。そうでなければなぜノブコについている?おまえの心は私が一番知っている」
瑛美は戸惑い彼を見た。
「私はね、人の願いを叶えなければならないいんだよ」
彼は自嘲的に笑う。それは瑛美が初めて見た表情だった。
「人の願いを叶えなければ私の時は永遠なんだよ」
「永遠?」
「老いも死もない、地獄だよ」
瑛美には意味がわからなかったがひとつだけわかったことがある。
彼は助けを求めているのだ。
「つらいの?」
彼は小首を傾げ笑うだけだった。
瑛美にはそれがひどくいたたましく思え、涙ぐんだ。
「私が……私が舞台に立てばいいのね?そうすればあなたはその苦しみから解放されるのね?」
彼はただ笑うだけだった。
「私、舞台に立つ。だから……聴いててね」
彼は優しく頷いた。
「聴いているよ、いつまでも。いつまでもおまえの歌だけに耳を傾けよう」
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