日雇い魔法使いは人形遣いに雇われる

暁丸

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人付き合いの苦手な冒険者 1

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「これで全部か?」
「の、ようだな」
「おつかれー」
「……」

魔力渦巻く森の奥地で、四人組の小隊--鎖帷子に板金の籠手や脛当てを付けた重戦士、板金を内側に縫い付けた綿襖甲(ブリガンダイン)を身に着けた剣士、野外用のローブを羽織った回復術の魔法使い、迷彩柄の革鎧を着け片刃の小剣を持つ斥候?--が戦闘を終わらせた。
彼らの足元には、何体もの魔妖精(トロル)が倒れている。魔妖精は土の魔力を過剰に取り込んだ妖精が変化したもので、でこぼこの肌で人より二回りくらい大きな巨人の姿をしている。魔妖精は元が妖精だから物理的な攻撃に強く、通常の武器での傷は瞬く間に再生してしまう。魔妖精を倒すには魔法…特に相克する力…木の魔力で削る必要がある。半ば崩れた土くれになった魔妖精の身体には、蔦のような魔力の残滓が巻き付いていた。

剣を収めると、小隊のリーダーである剣士セイカーは、冑を脱いで汗をぬぐうと、臨時で雇った魔法使いをじろりと睨みつけた。魔妖精は魔法でなければ倒せないが、彼らの小隊の魔法使いは体調を崩して寝込んでいた。やむなく彼らは組合の斡旋してくれた魔法使いを臨時に受け入れたのだ。だが、その働きは到底満足できるものではなかった。

「お前さ、ホントに魔法使いなのかよ」
「契約通りの仕事はしたはずだが?」

斥候のような装備の魔法使いレントが淡々と答えた。ガラガラにしゃがれた、まるで風邪で喉を傷めた直後のような声だ。
レントの恰好は、到底魔法使いとは思えないものだった。頭のてっぺんから足元まで全部茶色と黒のまだら模様で、頭には目元を覆うマスクの付いた冑、口元はマフラーで覆い、分厚い布の服の上に同じくまだらに塗った革の胸当てをつけ、革の籠手や脛当てに加えて左手には小さな盾まで付けていた。腰には小剣くらいの片刃の剣鉈、今は降ろしているが、背負っている背嚢には短弓ま付けている。魔法の補助具は杖にするのが一般的だが、レントは剣鉈に仕込んでいるらしく、戦闘中はずっと剣鉈を抜いたままだった。誰がどう見ても魔法使いではなく斥候の類だ。魔法使いという触れ込みで騙されたのではないかと思えて来る。

「俺は広範囲呪文も上級呪文も使えない。事前にそう説明したはずだ」
「それは確かにそうだが、魔法攻撃を一切しないとは思わなかったよ。そんなにガチガチに防御固めて、お前は後ろで何やってたんだよ」
「打撃が通るように、あんたとリーグに魔力付与と加速をかけた。そのあとは、魔妖精の動きを止める魔法に注力していた。付与も弱体もかけなおしが必要だ、俺が魔法で攻撃して魔力を消費するよりこの方が効率が良いし安定する」

セイカーは不満そうに舌うちした。

「普段の魔法使いなら、俺たちが牽制してる間に魔法で一掃できるんだがな」
「木の魔力は金物に相克される、鋼の剣には付与しずらい。できれば木の棍棒を使ってくれと言ったはずだ」
「そういう事を言ってるんじゃねぇよ。お前は後ろで付与だけして、俺たちが必至こいて敵をブン殴って、それで『魔法使い』の評価くれったって無理だろ。俺は<不可>だ」
「俺もだな…」

横で黙っていた重戦士の男…リーグも同調する。

「わたしは、<良>でいいと思うけどな、随分楽できたし」

話に加わらず魔妖精の魔核を拾い集めていた回復術師の女ニームが言った。
レントは簡単な回復魔法も使える。おかげでニームは今回の仕事では手持無沙汰を感じるほど楽をしていた。

「2対1だ、残念だが判定は<不可>依頼は未達成」

だが、セイカーはそう宣言すると、依頼報告書に評価を書き加えてレントに突き出した。これに同意すればレントの仕事は失敗扱いで、後金は払われない事になる。

レントの持つ魔法は、広く浅く。良く言えばオールマイティ、悪く言えば器用貧乏である。補助魔法や強化魔法主体で、そう長くない時間ちょっとした強化をかけたり、敵に弱体をかけるものである。それに加えて、簡単な回復魔法も使えるが、全部中級以下でしかない。強力な魔獣を倒すためには明らかに決定力が足りない。それ故に、小隊に勧誘されるのは基本的に人員が欠けたときの穴埋めでしかない。冒険者は皆レントを『日雇い魔法使い』と呼んでいる。

蔑まれていても、レントは補充として小隊に雇われれば契約内容はきっちりこなした。今回の標的は、魔法が無ければ倒せない相手だった。隠すまでもなくレントの使う攻撃魔法は打撃力としてはあまり期待できない。だから事前に説明したうえで、前衛の二人に魔力付与した武器で戦ってもらったのだ。もちろんそれだけでなく、弱体魔法をかけまくって敵の手数を抑え、味方側には強化と付与と継続回復をかけまくった。
だが、「魔法使い」としてレントを雇った小隊からすれば、それは期待外れの魔法だった。彼らにはレントが、安全な後方で、適当な魔法だけ使って、ちゃっかり報酬だけは頭割りで要求する、寄生冒険者に見えるのだ。
…いや、積極的にそう見ようとしていた。
セイカーはレントという魔法使いの事を、別の小隊の連中に聞いていたのだ。『上手くすりゃ半金で雇えるぞ』…と。

「…あぁ、判った」

レントはあっさりと同意した。時間の無駄だからだ。依頼報告書を一通り読むと了承のサインを入れた。
別に初めてではない。同じ理由で報酬の後払いをゴネられる事はよくある事だった。

「鹿も置いて行け。あ、あれは…小隊のものだ」

途中で口ごもったのは、セイカーにも少しは恥だと思う心があったのかもしれない。
途中の野営で、レントは木鹿を仕留めてきた。鹿が木の魔法力過剰で変異した魔獣で、角が輝く枝になっている。引きずって帰ると三人には笑顔で歓迎された。傷みやすい内臓はあきらめるしか無かったが、角と毛皮と魔核は戦利品となった。肉は高級食材だ。夕食に皆で食べ、食べきれない分はレントの持っていた大量の塩をまぶして一夜水分を抜いたあと、塩漬けのまま防水布にくるんである。依頼を片付けて街に帰るくらいは保つはずだ。

レントは小隊に入っているときは小隊の流儀に従う。この鹿はレントが個人で仕留めたものを善意で振る舞ったものだが、「小隊共有の財産だ」と言われればそれに従う。一人で食べ切れるものでもないし、断ると十中八九「小隊に非協力的だ」と難癖をつけてくる。
……任務が終わった後に戦利品の分け前を渡さないというのも、別に今回が初めてではない。

レントが黙って角と毛皮と肉の包みを降ろすと、三人は顔を見合わせた。
何も言わずに素直に差し出すとは思って居なかったのだ。
火力としては期待できないが、広く浅くなんでもそつなくできるレントは、小隊の支援としてはうってつけだ。もしレントがゴネれば、「小隊の一員なら分け前を出す」と言って、給金の安く済む雑用として小隊に取り込みたいと思っていたのだ。ニームが彼に<良>を出したのは、本音が半分打算が半分。飴と鞭の飴役だった。

「もう関わる事もないだろう、じゃあな」

背嚢を背負うと、そう言ってレントは後ろも見ずに歩きだした。日雇いでしか小隊を組めない魔法使いに勧誘を袖にされた三人は、しばらくは報酬に全く頓着しないレントを気味悪いものを見る目で見送っていたが、我に返るとそそくさと肉と毛皮を回収すると自分の荷物に積み込み始めた。



レントは深い森の中を一人黙々と街へ向かって歩く。
悔しいとか見返してやりたいとかレントは考えていない。そもそもこの仕事は、組合に在籍するためのノルマとしてやっている仕事だ、そしてレントは実は組合の在籍にさほど未練はない。
レントは組合にも他の冒険者にもほとんど期待をしていなかった。組合の依頼で同じように小隊の補充魔法使いとして加入したことは幾度もあるが、大概の小隊は『魔法使いの役目を果たしていない』と難癖を付けて後金をケチるやつらばかりだった。レントの能力を認め敬意を払う冒険者など数えるほどしか居ない。
それに実際のところ、敬意を払ってもらってもレントは何とも思わない。他人の評価など気にしていないのだ。彼が望むのは、街に住んで暮らしていけるだけの糧を得ることで、自分一人でそれを得るだけの技能は身に着けている。

レントは、魔獣を追っているとき以外はなるべく道を歩くようにしている。彼の装備は森に紛れるものだから、他の小隊からいきなり射掛けられかねない。道沿いは魔獣も少ないが、それでも用心して気配を探りつつ歩いていたレントは、背後からの人の気配に気づいて立ち止まった。やがてガシャガガシャという装備の音と共に、息せき切ったセイカーとリーグが駆けて来ると、こちらをちらりと見ただけで声もかけずに必死の形相で走り去って行った。やがて少し遅れたニームがやってくると、「ごめん」と呟いて二人を追いかけていく。
(何事だ?)と彼らが来た後方の森の奥に目を凝らしたレントが見たのは、こちらに向かって四つ足で駆けて来る巨大な熊だった。真っ赤な毛皮は火熊と呼ばれる魔獣で、魔妖精とは比べ物にならない強敵だ。通常の魔獣の三倍は強いと言われている。
唖然としているレントの前で、火熊は唸り声を上げて二本足で立ちあがった。どうやら手近に立ち止まっていたレントを今日の食事と決めたらしい。レントがもう一度振り向くと、三人は振り向く事もなく彼方を一目散に逃げていく所だった。

レントは無言で剣鉈を引き抜く。
どうやら、今日中に街まで帰るの無理そうだ…と思いながら。
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