日雇い魔法使いは人形遣いに雇われる

暁丸

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人付き合いの苦手な冒険者 2

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補充任務失敗を告げられた挙句に熊の魔獣を押し付けられた翌日、日が傾いた頃になってレントはようやく辺境の小都市マイナに戻ってきた。

この街は領主の代官が治めている。街は河を望む崖を背にし、地続きの三方には空堀を掘って土塁を巡らせていた。この近辺は森から現れる魔獣対策で、小さな集落でも最低限の濠と土塁を巡らせた環濠集落になっている。
この街も、最初は代官屋敷と家臣達の家を取り囲む一重の堀があるだけだった。だが、魔獣に脅えた近隣の住民が代官に掛け合い、自分たちで空堀を掘る事を条件に街を外側に拡張して移住して来たのだ。万が一の場合には、代官の兵士が戦ってくれる…かもしれない。そんな一縷の望みを頼りにするほど魔獣は恐れられている。冒険者の主な仕事はこの魔獣狩りである。マイナの街は魔獣の森を活動範囲にする冒険者が拠点とする街になり、住民が増えた事で更に外側に堀と土塁を作って街が拡張された。今ではちょっとした城塞都市のようになり、元からの街の部分が内郭、移住してきた住民が多く住む最初の拡張分が中郭、貧困層や冒険者が多く住む一番外側が外郭と呼ばれている。
マイナは辺境ではそれなりの賑わいを見せる街になる一方、人の流入で最近では治安が怪しくなりつつあった。

レントは街に入ってすぐの冒険者組合の建物に向かった。草木さえ強靭な魔獣の森が近くにあるおかげで、マイナは木材には不自由していない。組合の1階は太い梁を贅沢に使って柱を減らした、かなり広いホールになっている。その広いホールが、探索帰りの冒険者でごった返ししていた。レントは既にかなりの待ちになっている素材買取査定列に並んだ。
冒険者の収入の多くを占めるのはこの買取金であり、依頼料自体は相当高ランクの仕事以外は大した額にならない。レントは最下級の<5級冒険者>なので、そういった高額依頼とは無縁だ。

「お、日雇い。ここんところ見かけなかったが、相変わらず一人か」

隣の行列の中年男が声をかけて来たが、目線を向けたレントは「あぁ」と一言だけ返した。揶揄するような言い方だが、レントからしたら実は彼はかなり好ましい部類の同業者だ。彼に悪意が無いのは判っている。単に同業者の安否確認を口にしているだけなのだ。しかも彼は他人の安否を気にする善性をもちつつ、距離感をきちんと把握している。その証拠に、男はレントの不愛想な返事にちょっとだけ肩をすくめるだけで、特に気を悪くしたふうもなかった。

やがて、順番が廻って来ると、レントは仕切られた小部屋に入り背嚢を下ろして戦利品の包みを取り出した。高額素材をむき出しで持ち込む冒険者はいない。包みを開けると買取係の表情が一瞬厳しくなる。レントが持ち込んだのは、魔核と呼ばれる魔獣から取れる結石。それと巻いて括った大きな赤い毛皮、そして小箱から出されたのは先端が糸で縛られた黒褐色の臓器…胆嚢だった。
(火熊のものだ)と買取係は初見で判断した。狩るには手練れの小隊が必要な魔獣だから、かなりの高額査定になる。だが、買取係は態度にはあらわさない。担当毎にブースは衝立とカーテンで区分けされており、どんなものを持ち込んだのかは見えないようになっているが、係員が態度に出したりしたら台無しだ。高額買取品が納品されたなどと知れたら、持ち込んだ冒険者は帰り道で間違いなく強盗に遭うだろう。
買取係は念入りに鑑定し魔力の残滓も確認したが、モノは間違いなく火熊のものだった。毛皮には小さな傷が多く痛みはあるが仕方ない。生命力の塊である火熊を一撃で綺麗に即死させるような高位の冒険者は、この街には存在しないのだから。係員はしばらく考えた後、手元の石板に石墨で品名と査定額を書き込んだ。レントがうなずくと算盤を弾いて合計額を記載する。レントが再度うなずくと、手形に金額を書き込みレントに手渡した。



買取室を出ると見知った顔がいた。セイカーが待ち構えていたのだ。熊を押し付けた事を多少は気にしていたセイカーは、買取室に入るレントを見かけて待ち構えていたのだ。

「どうやってアレから逃げたんだよ」

やはり後ろめたいらしく小声で話しかけて来た。
だが、レントにとってはもうどうでもいい話だ。

「あんたには関係無いだろ」

相手をせず通り過ぎようとしたが、セイカーに引き留められた。

「森の浅いところまで火熊を引っ張ってきたら大惨事だ、組合に報告する必要があるだろうよ」
「そう思うなら、あの時逃げたりせず四人で倒すべきだったな」
「依頼も受けていないのにあんなヤバいのとやり合えるか。それでどのあたりで撒いたんだ?組合に注意情報を出してもらおう」

レントはもう返事をするのも馬鹿馬鹿しくなってきた。要するにこいつは『お前はなんであそこで死ななかったのだ』と言ってるのだから。

「倒したよ。あんたの言う通り火熊を森の縁まで引っ張ってくる訳にはいかないからな」

何事もなく言ったレントにセイカーは理解が追い付かず、しばらくぽかんと口を開けていた。

「う、嘘つくな、下手したら大惨事だぞ」
「あの熊は素材として売り払ったから組合の記録に残っている。仮に森の際に火熊が出たとしても俺の責任にはならん」

ぎょっとしたセイカーは、彼が出て来た買取カウンターを見て、それからまたレントを見た。

「な…補助魔法しか使えないお前がどうやって火熊を倒したんだ!」
「説明する必要は無いと思うが?」
「ぐ…」

同じ小隊で戦っていたのに、お前は何を見ていたんだと言いたい。今度こそ通り過ぎようかと思ったら腕を掴まれた。

「あ、あるぞ。理由はある。単独で火熊を倒せるほどの魔法があるのなら、お前は俺の小隊の仕事で手抜きしてたって事だろうが」

レントは内心でため息をついた。どうしてもレントの仕事には瑕疵があった事にしたいらしい。とにかく自分を上位に位置付けておかないと安心ができないのだろう。後ろめたい思いがある人間は、こういう行動をとりがちだ。

「どの道俺の評価は<不可>だ。結果は変わらんだろう」
「お前の派遣は組合の斡旋だ。手抜きするような魔法使いは組合に告発する」
「好きにしろ」
「え?」
「あんたは俺が何を言っても信じないだろうし、俺はあんたに信じてもらう必要を感じていない。好きにしたらいい」

呆然としているセイカーを放っておいて、レントは両替のカウンターに座ると、手形と認識票を出して手形の換金と自分の口座の入金を依頼した。そして、当座の生活費として銀貨をいくらか引き出しておくと、そのまま帰ってしまった。

もうこれで絡まれる事もないだろうと思っていたレントは、翌日組合に呼び出されて「やれやれ」とため息をつくことになったのだった。
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