日雇い魔法使いは人形遣いに雇われる

暁丸

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人付き合いの苦手な冒険者 3

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レントが案内された組合の小部屋に入ると、中にはセイカーと組合の職員が待っていた。髪を綺麗に撫でつけた中年の男性職員には見覚えがあった。受付などの対冒険者対応を行う職員の統括だ。

「急にお呼びたてして申し訳ございません」
「ああ」

勧められて椅子に掛けたが、相変わらず冑とマフラーを付けたままだ。セイカーは忌々しい顔をしているが、統括はレントに慣れているので、咎めもしない。

「こちらのセイカーさんから、レントさんが小隊補充業務に非協力的だったとして、冒険者の資質に対する疑義が提起されました。そのために聞き取りにご協力をお願いします」

統括がそう言うと、隣でセイカーが頷いている。
だが、レントには二人に付き合う気は全く無かった。

「言う事は無い」
「はい?」

レントに取り付く島も無くそう言われ、冒険者対応に慣れたはずの統括も一瞬絶句してしまった。

「それはどういう…」
「そいつの主張通りでいい。俺に罰則がかかるならそれでも構わない」

それだけ言うと、レントは席を立とうとした。統括が慌てて引き留める。

「お待ちくださいレントさん、そういう訳にはいかないのです。セイカーさんは我々が推薦したレントさんの資質に問題があると提起しました。事はあなたを推薦した組合の信用問題になっているのです。お手数ですが、セイカーさんの疑問には答えていただけないでしょうか?」

(なるほど、茶番に付き合えという事か…)
レントはなぜわざわざ呼び出されたか理解した。この統括はレントがどうやって火熊を倒したか知っているはずなのだ。だから本来なら信義則違反でレントを告発したとしても『疑義は無い』でおしまいのはずだ。それなのにレントをわざわざ呼び出したという事は、『こいつが二度と組合に難癖付けて来ないように協力しろ』ということなのだろう。

「判った」

レントは席に座りなおした。
安堵した総括は話を続けた。

「現状、小隊補充依頼で補助魔法しか使わなかったレントさんが、<三級冒険者>三人がかりでも逃げるしか無かった火熊をどうやって倒したか…が争点となっています。もし、隠していた大技の魔法で倒したのなら、それはレントさんが小隊の任務で手抜きをしたという事だ…と」
「そ、そうだ。俺の小隊では補助魔法しか使わなかったお前が、どうやって火熊を倒したんだ」
「俺は魔法だけじゃなくて、剣も使える」
「お前が持っていた小剣や短弓が火熊に通じるかよ!」
「あんたの小隊でやった事と同じだよ。熊に遅滞と阻害をかけ、自分に付与と加速をかけ、魔力回復と体力回復を切らさずかけ続け、熊の攻撃を避けながら剣で攻撃し続けて倒した。特別な事は何もしてない」

そう答えたが、セイカーは納得していなかった。火熊はそんな生易しい相手ではないのだ。

「嘘をつくな。火熊は俺たちが四人揃って全力で攻撃したって、四半時(30分)以上は攻撃し続けなきゃ削り切れない、下手したら半燭時(約1時間)だ」

実際はそれで倒せるかすら怪しい。そもそも、半燭時も火熊に全力で対峙する事すら不可能だ。体力も魔力も気力も持たない。

「倒すのに二燭時(約4時間)かかった」
「……は?」

一瞬、セイカーはレントが何を言ったか理解できなかった。

「に……二燭時だと?!」
「一対一ならどうとでもなる。敵視は俺から動かないし魔法で魔力と体力は継続回復しつづけている、後は同じことを延々繰り返すだけだ」

レントは平然と言ったが、火熊はそこそこの強敵だ。一歩間違えればレントは死んでいた。今回は間違えなかったから生きて戻って来れた。レントの革鎧には、あちこちに爪の跡が残っているし、盾には巨大な歯型が付いたままだった。

「…そ、そんなバカな事が……。いや信じられん、本当だっていうならもう一度俺たちの小隊の前で…」
「なんでそんな事しなきゃならないんだ?」
「え?」
「あんたたちを納得させることに、なんの意味があるんだ?と聞いている」
「え…いや…だって…」

改めて問われてセイカーは口ごもった。どうやって火熊を倒したのかという情報はたった今得られた。もう既に知りたい事がすり替わってしまっている事に気が付いていなかった。

「組合のお前への評価が上がるだろ…俺たちが証言を…」
「組合は全部知ってるよ。逆恨みされると面倒だから放っておいてくれと俺が頼んでいるだけだ」
「え?」

セイカーが統括を見ると、統括は冷たい笑顔で頷いた。
レントが補充要員として参加した小隊が、能力不足を理由に報酬を踏み倒しているのは一度や二度ではない。それでも、踏み倒した小隊も、能力不足と報告され続けているレントも、どちらも組合から罰せられた事は無い。そして相変わらず魔法使いの補充依頼が来るとレントが駆り出されている。つまりはそういう事なのだ。

「ま、待て、それなら依頼を出す」
「俺は依頼は一切受けてないよ」
「え、えぇっ?」
「いいか?」
「はい、ありがとうございました」

統括が立ち上げって礼をすると、レントはセイカーには一瞥もくれず出て行ってしまった。

残されたセイカーは、まだ衝撃から立ち直っていなかった。

「依頼を一切受けてないって、そんなバカな。冒険者は一定の依頼をこなしていなければ罰則が課せられるだろ、最悪は除名のはずだ。アイツは特別扱いなのか」

統括は首を振る。

「彼ほど特別扱いを嫌う冒険者はいませんよ」
「なら」
「ノルマは組合の斡旋する任務を受ければ代替えができる規定になっていますよ。事情で仕事のできなかった冒険者への救済措置ですが、代わりに評価は上がりません。レントさんが5級のままなのはそれが理由です」
「あ……」

言われてセイカーもそういう規定がある事を思い出した。

「疑念は全て解消されたと思ってよろしいでしょうか?」
「……組合は、一人で二燭時戦ったなんていう戯言を信じるのかよ」

それは、全てが自分の想像の埒外だったと知ったセイカーの最後のあがきだった。だが、統括は無常にもその言葉をあっさりと肯定した。

「えぇ、彼は依頼は受けませんが魔獣狩りはしています。以前にも火熊の素材を持ち込ん事がありますよ。彼の持ち込む毛皮は細かい傷がたくさん付いていますので、それが彼の戦法を証明していると言えるでしょう」

それもセイカーは初耳だった。あいつは小隊を組むこともできない日雇い魔法使いじゃなかったのか。

「そんな…何であいつは依頼を受けないんだ…」
「討伐依頼に無い、見過ごされた魔獣を狩ってくれているんです。ほかの冒険者が見もしない魔獣を」

これは統括の嘘だった。
レントが依頼を受けないのは、等級が上がる事で余計なしがらみを持ちたく無いからなのだと統括は知っている。だが、それをわざわざ言う必要も無いだろう。

「では、よろしいでしょうか」
「ま、待ってくれ」

セイカーは席を立とうとした統括を引き留めた。依頼がダメでも、組合の斡旋なら受けて貰えるだろうと思ったのだ。

「レントに今度はうちの小隊の5人目として参加してもらえないだろうか」

魔法使いの補充ではなく、魔法使いの居る小隊の5人目として実際に戦う所を見て、実力が本物なら正規のメンバーとして小隊に勧誘したいと考えていた。単独で火熊を倒せる腕があるなら、小隊を組めば楽に火熊を倒せる可能性が高い。
だが、統括は冷たい笑顔で首を振るだけだった。

「レントさんは、低評価で損をした報酬を組合が補填しますと言っても『特別扱いは組織の崩壊の元だ』と言って、受け取らないんですよ」
「あ?え?」

突然報酬の事を言われたセイカーは、意味が判らず曖昧な答えを返した。その様子に少し呆れたように、統括は付け足した。

「判りやすく言いましょうか?彼は正規の報酬より多くても少なくても許しません。と言っても告発したりする訳ではなく、不当な評価をした小隊は二度と相手にしないのです。組合もそういった小隊は斡旋しないという約束で補充をやってもらっています。諦めてください」
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