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遠い国から来た人形遣い 3
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結局レントは、「俺は人が信用できない。頼られても無理だ」そう言って帰ってしまった。
シノにはそれ以上引き留める事はできない。そもそも、シノは『平気で無理強いする価値観』に振り回されたからこそ、そうでない人間を求めているのだ。自分が同じ愚をするわけには行かない。
それでもシノはめげていなかった。
(アレは好感度上げ最難関のキャラだよね。他人が信用できないって言ってるから、とりあえず私を見てもらう事が第一かなぁ…)
恐ろしい程のポジティブシンキングで立ち直ったシノは、遊郭に居候して広場で芸を披露して暮らし始めた。少なくとも、彼は自分を気にかけてくれて、芸も見に来てくれた。どうにかして会える機会を待つしかない。
レントは変わらず一人で森に魔獣を狩りに出ていた。朝早く出かけ日が傾かないと街に戻らないレントは、日中に広場で芸をしているシノを見ることは無い。それでも、街の噂を拾っていると、時々人形遣いの話を時々聞くようになった。
「死にそうになる発作、か……」
もう関わらない事だ…と思いながらも、シノの言葉が引っ掛かっていた。
シノは『遠い遠い国から無理やり誘拐されて来て、酷い目に遭って生きて来たせいで、安心できる人と一緒に居ないと死にそうになる発作を起こすようになった』と言っていた。
(それが本当なら…)
もう関わる事はない…そう思った娘の事を考えてしまったレントは、数日後にまた中郭の広場に足を向けていた。
今日のシノは、アルゴリズムなんとかと言いながら、人形と二人で奇妙だけれど息の合った躍りをしていた。
彼女は自分を利用しようとする輩だろうか?
……レントは考えてみたが、そうは思えなかった。彼女が望んだのは今のところ『時々会って話がしたい』それだけだ。彼女は冒険者ではないし、商人でもない。レントを利用して利を得るコネがあるようには思えない。
何より、少し……かなり変な娘ではあるが、彼女に悪意は感じなかった。むしろ善人と言ってもいい。
だが…
「俺が『安心できる人』とはな…」
だが、彼女が『寄生したい』と言ったのも、おそらくは本音なのだ。会って話す程度では絶体に済まない。
レントにはそれが判る……自分も同じだった。
この街の住民は、自分たちを悪だなどと思っていない。単に、そうしなければ生き残れないと思っているだけだ。孤高に生きようとしても、大概は蔓延する無自覚な悪意に曝され、やがて自分も悪意に染まり悪意の一部になってしまう。この街は、この世界は、そうでなければ生きることの難しい世界だった。
シノはそれを嫌っている…嫌悪しすぎて自死を選びかねないほどに。それを避けるためには『安心できる人』に精神的に深く依存しなければ癒される事はない。意図してか無自覚かは判らないが、シノはそれを『寄生』と言ったのだろう。
同じく悪意に染まる事を嫌い、頼るべき人も見つけることができなかったレントは、真逆の方法を取った。悪意から徹底して逃げる事で…世界を切り捨てることで堪えた。一人で生きる力を身に付け、他人との係りを避け、悪意と無縁の理想の冒険者を演じる事で、悪意に沈みそうになる自分を支え切ったのだ。
だからこそレントは、冒険者としての仕事以外はしたくなかった。ただただ善き冒険者を演じ続けることが、自分が真っ当な人として生きているよすがであったから。
「悪いが俺の仕事ではない…」
それがレントの結論だった。
「姐さんも予想通りだったし、詩人のおにーさんも下心が透けて見えちゃうんだよねぇ」
シノが独り言ちる。
芸を披露している広場で同業者に挨拶廻りをした時に、吟遊詩人の青年が親しげに声をかけてきた。
シノは芸の時の伴奏も効果音も全部声で表現している。それを手伝おうかと言ってきた。だが、それをするには、二人で通しで稽古をしなければならない。詩人は自分達二人以外に誰か呼ぶような事は一言も言わなかったから、そういう事なんだろう…。差し障りの無い言葉で断った。
遊郭の女将に頼まれて、宴席での踊り子の手伝いもしたが、客とは寝ないと事前に釘を刺しておいたのにやっぱり寝床に誘われた。こんな凸凹の少ない身体のどこが気に入ったんだか判らないが、女将のアイサも『上客だよ』と勧めて来る有様だった。アイサに悪気が無いのは判っているし世話になっているのに心苦しいが、好きで就いた仕事では無いのだ。時々なら給金無しで手伝いをするからと言って勘弁してもらった。
女将も、吟遊詩人も、決して悪人という訳ではない。シノの故郷にも普通に居た倫理観の人間だ。シノもそこまで潔癖な性格では無かった。それでも、無理やりこの世界に連れてこられ、この世界の流儀と価値観に翻弄され続けて来たシノには、二人とも『安心できない人』だった。
シノにとって、レントは長い旅をしてようやく見つけた『安心できる人』だった。
価値観の違いするぎるこの世界は、シノにとっては地獄の1歩手前と同じだった。そんな世界で正気を保つために、同じ価値観を持つ人間と話をしたかった。
元々、シノが探しているのは同郷の人間だった。もちろん同郷人でも価値観が同じとは限らないが、少なくとも、理性がブレーキになる可能性が高い。最初はレントがそうだと思っていた。見た目がアレっぽかったから、同郷人かと思ってそれとなく話を振ってみたが、残念ながらそうではなかった。
だが、話をするほどにレントは決して人を裏切らない、そう確信できた。彼の言う通りそれが演技であってもいい、会って話をしてくれるだけでもいい。近くに『安心できる人』が居れば、故郷を遠く離れたこの地でもシノは正気を保っていられる。
……一人では、もう耐えられない。
幸い、この街では今の所は『嫌な目』に逢わずに済んでいた。これならしばらく余裕がある。自分が限界になる前にレントに認めて貰って、せめて会話をできる関係になろう…
…などと思ったのがフラグだったのだろう。シノは悪意に絡まれることになった。
シノにはそれ以上引き留める事はできない。そもそも、シノは『平気で無理強いする価値観』に振り回されたからこそ、そうでない人間を求めているのだ。自分が同じ愚をするわけには行かない。
それでもシノはめげていなかった。
(アレは好感度上げ最難関のキャラだよね。他人が信用できないって言ってるから、とりあえず私を見てもらう事が第一かなぁ…)
恐ろしい程のポジティブシンキングで立ち直ったシノは、遊郭に居候して広場で芸を披露して暮らし始めた。少なくとも、彼は自分を気にかけてくれて、芸も見に来てくれた。どうにかして会える機会を待つしかない。
レントは変わらず一人で森に魔獣を狩りに出ていた。朝早く出かけ日が傾かないと街に戻らないレントは、日中に広場で芸をしているシノを見ることは無い。それでも、街の噂を拾っていると、時々人形遣いの話を時々聞くようになった。
「死にそうになる発作、か……」
もう関わらない事だ…と思いながらも、シノの言葉が引っ掛かっていた。
シノは『遠い遠い国から無理やり誘拐されて来て、酷い目に遭って生きて来たせいで、安心できる人と一緒に居ないと死にそうになる発作を起こすようになった』と言っていた。
(それが本当なら…)
もう関わる事はない…そう思った娘の事を考えてしまったレントは、数日後にまた中郭の広場に足を向けていた。
今日のシノは、アルゴリズムなんとかと言いながら、人形と二人で奇妙だけれど息の合った躍りをしていた。
彼女は自分を利用しようとする輩だろうか?
……レントは考えてみたが、そうは思えなかった。彼女が望んだのは今のところ『時々会って話がしたい』それだけだ。彼女は冒険者ではないし、商人でもない。レントを利用して利を得るコネがあるようには思えない。
何より、少し……かなり変な娘ではあるが、彼女に悪意は感じなかった。むしろ善人と言ってもいい。
だが…
「俺が『安心できる人』とはな…」
だが、彼女が『寄生したい』と言ったのも、おそらくは本音なのだ。会って話す程度では絶体に済まない。
レントにはそれが判る……自分も同じだった。
この街の住民は、自分たちを悪だなどと思っていない。単に、そうしなければ生き残れないと思っているだけだ。孤高に生きようとしても、大概は蔓延する無自覚な悪意に曝され、やがて自分も悪意に染まり悪意の一部になってしまう。この街は、この世界は、そうでなければ生きることの難しい世界だった。
シノはそれを嫌っている…嫌悪しすぎて自死を選びかねないほどに。それを避けるためには『安心できる人』に精神的に深く依存しなければ癒される事はない。意図してか無自覚かは判らないが、シノはそれを『寄生』と言ったのだろう。
同じく悪意に染まる事を嫌い、頼るべき人も見つけることができなかったレントは、真逆の方法を取った。悪意から徹底して逃げる事で…世界を切り捨てることで堪えた。一人で生きる力を身に付け、他人との係りを避け、悪意と無縁の理想の冒険者を演じる事で、悪意に沈みそうになる自分を支え切ったのだ。
だからこそレントは、冒険者としての仕事以外はしたくなかった。ただただ善き冒険者を演じ続けることが、自分が真っ当な人として生きているよすがであったから。
「悪いが俺の仕事ではない…」
それがレントの結論だった。
「姐さんも予想通りだったし、詩人のおにーさんも下心が透けて見えちゃうんだよねぇ」
シノが独り言ちる。
芸を披露している広場で同業者に挨拶廻りをした時に、吟遊詩人の青年が親しげに声をかけてきた。
シノは芸の時の伴奏も効果音も全部声で表現している。それを手伝おうかと言ってきた。だが、それをするには、二人で通しで稽古をしなければならない。詩人は自分達二人以外に誰か呼ぶような事は一言も言わなかったから、そういう事なんだろう…。差し障りの無い言葉で断った。
遊郭の女将に頼まれて、宴席での踊り子の手伝いもしたが、客とは寝ないと事前に釘を刺しておいたのにやっぱり寝床に誘われた。こんな凸凹の少ない身体のどこが気に入ったんだか判らないが、女将のアイサも『上客だよ』と勧めて来る有様だった。アイサに悪気が無いのは判っているし世話になっているのに心苦しいが、好きで就いた仕事では無いのだ。時々なら給金無しで手伝いをするからと言って勘弁してもらった。
女将も、吟遊詩人も、決して悪人という訳ではない。シノの故郷にも普通に居た倫理観の人間だ。シノもそこまで潔癖な性格では無かった。それでも、無理やりこの世界に連れてこられ、この世界の流儀と価値観に翻弄され続けて来たシノには、二人とも『安心できない人』だった。
シノにとって、レントは長い旅をしてようやく見つけた『安心できる人』だった。
価値観の違いするぎるこの世界は、シノにとっては地獄の1歩手前と同じだった。そんな世界で正気を保つために、同じ価値観を持つ人間と話をしたかった。
元々、シノが探しているのは同郷の人間だった。もちろん同郷人でも価値観が同じとは限らないが、少なくとも、理性がブレーキになる可能性が高い。最初はレントがそうだと思っていた。見た目がアレっぽかったから、同郷人かと思ってそれとなく話を振ってみたが、残念ながらそうではなかった。
だが、話をするほどにレントは決して人を裏切らない、そう確信できた。彼の言う通りそれが演技であってもいい、会って話をしてくれるだけでもいい。近くに『安心できる人』が居れば、故郷を遠く離れたこの地でもシノは正気を保っていられる。
……一人では、もう耐えられない。
幸い、この街では今の所は『嫌な目』に逢わずに済んでいた。これならしばらく余裕がある。自分が限界になる前にレントに認めて貰って、せめて会話をできる関係になろう…
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