日雇い魔法使いは人形遣いに雇われる

暁丸

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日雇い魔法使いと人形遣いの新人講習 3

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「まぁ、詳しくと言っても、これからの話は私がこっちに連れて来られる前の話ですんで、伝聞になるんですが」

そう言ってシノは話し始めた。

「この国から、ずっとずっと東に行くと、おっきな帝国があるんですけど知ってます?」
「プロウム帝国…」
「ですです。私を誘拐したのはその帝国です」
「なに?」

この辺りでは『東の帝国』で通じるほどの大国が、ただ一人の少女を誘拐する…。予想外の話に違和感を感じたレントだが、それはこれから説明されるのだろう…と考え直すと、黙って話の続きを促した。

「帝国を名乗るくらいですんで、周辺の国々を征服して国土を拡張した訳ですが、その原動力が『遺物武器』って、魔法の武器なんです。そんな武具をたくさん持ってて、それで連戦連勝だったんだそうです」

そういう武具があるというのはレントも聞いた事がある。大昔に強力な魔法で作られた伝説の武具だという。もっともレントにしてみたら、いくら強力な武器だろうと素材を木端微塵にしてしまうようでは使い勝手が悪いな…程度の認識ではあったが。

「ところが、その武具ってのが使い手を選ぶらしくて、後釜が見つからないままとうとう使い手がだーれもいなくなっちゃったらしいんですね。まぁ、帝国は領土拡張も一段落して叛乱もほとんど鎮圧、平和的な統治に切り替えて行こうってんで、さして問題にもなってなかったそうなんですが…」
「愚か者が皇帝になったか、強大な敵が出現したか」

レントが言葉を継いだ。急に軍備強化に走るとしたら、戦争大好きがトップになったか戦争大好きが隣に出来たかのどちらかだろう。

「はい。帝国の東の荒れ地に、魔獣やら魔族やらが集結し始めて、どうやら何百年かぶりに『魔王』が出るんじゃないかって話になったそうです」
「魔王か……」
「こっちにはまだ伝わってませんか?」
「帝国が盟主となって周辺国と連合を組もうとしている…という噂だけなら」
「それも対抗策の一環ですね。平行して帝国は手を尽くして遺物武器の使い手を探したんですが、どうにも見つからず…他所の国の騎士とかに使い手になられても困りますしね…。帝国はとうとう別な世界から魔法で無理やり使い手を引っ張って来る事にしたんですよ。何百人分だかの奴隷を生贄にして、世界を隔てる壁に穴をあけて、どうにか遺物武器に適合する人間を3人転移させる事に成功しました。…そのうちの一人が私って訳です」

そこまで聞いたレントは、しばらく無言でシノの語った話を反芻していた。
(嘘を付く…意味は無いか…)
あまりに突拍子も無い話でにわかに信じがたいが、この場でレントを騙してもなんの意味も無いはずだ。

「それがシノの言った、『イセカイショーカン』か?」
「そうです。世界の理を捻じ曲げて、違う世界から人をさらってくる、どうしようも無い酷い魔法です。私の故郷には魔法はありません。だから私は、原因も判らずいきなり消えてしまって行方不明扱いでしょうね。…あっちには両親も友達もいたのに…」

シノの語る内容は悲惨極まるのに、口調は過去を語るレント同様に、感情も無く淡々としていた。だが、「過去にあった出来事」と割り切っているレントとは違う。シノが誘拐されてまだ数年しか経っていない。「過去にあった出来事」だと思い込まないと耐え切れないのだ。

「シノはこことは別の世界から来たと?」
「はい」
「こことはだいぶ違うのか?」
「そうですね。魔法はありませんが、機械技術を極限まで突き詰めて、なんでも機械にやらせてました。あちこちで紛争は起きてましたが、私の故郷は概ね平和で治安も安定してますし豊かでした。飢えや疫病で死ぬことも滅多にありません。ここは私の世界から見ると、500年から1000年くらいは前の世界って感じです」
「500年か1000年…言うなればシノは遠い未来から来た訳か」
「まぁ人間は1000年くらいじゃ大して変わんないんですけどね。それでも、法を守り他人も同じ人間として尊重する……尊重できたらいいね…くらいかな…にはなってました」

そう言うシノだが、レントにはシノが律儀に約束を守ろうとした理由が理解できた。彼女の故郷はこの世界とは異なり、約束を守るのが当たり前の世界だったのだろう。

「遺物武器の使い手として召喚されたと言っていたが、シノも使い手なのか」
「実はそうなんです」
「なぜ使わない?」
「使ってますよ。レントさんは見てるじゃないですか」

そう言われたが、レントはシノが武器を使う姿を見ていない……いや…

「…まさか」
「ある〇かん!」

シノが叫ぶと、シノのトランクが一人でに開き、中から成人と変わらない背丈の人形がぬるりと表れた。芸の時とは異なり服は身に着けていない。両手に小剣を持っていた。

「これが私が使い手として適合した遺物武器の魔導人形です。帝国にはこれに近い戦闘用人形の部隊もありますよ。…戻れ」

シノが命じると、人形はするりとトランクの中に戻った。どう考えても人形のサイズとトランクの容積が合致しないように見える。

「なんであの人形があの大きさのトランクに入る…」
「そこが伝説の武具の伝説たるところでしょうか…あのトランク込みで遺物武器なんですよ」
「それでいつもトランクを持ち歩いているのか…」

シノの話に半信半疑だったレントだが、現物を見せられれば納得するしか無い。

「つまり…シノは帝国の国家戦力のような存在なのか。それがなんでこんなところで大道芸をやっている?」
「ご存じかと思いますが、魔導人形って人形遣いが直接操るんじゃなくて、人形にも意思のような物があるんですけど」
「ああ、知っている」

魔導人形は、操り人形のように人形遣いが動かすものではない。どちらかと言えば動物使いに近かった。人形遣いが指示を出すが、そこから先は人形が自分で判断して動くのだ。だから、人形が人形遣いの意図した通りに動かどうかは、人形の頭脳の出来や事前の調教次第という事になる。

「私が人形を戦わせようとしても、人形は踊る事しかできなったんですよ。何をやってもダメでした。おまけに使い手になったはずの私も相変わらず非力なままで、とても魔王に立ち向かえるような力は無い…って、お偉いさんもあきらめて『そいつと一緒に踊ってろ』って踊りを仕込まれました。私は、これで怖い戦場に行かなくても良くなるかな?戦場行ってもせいぜいチアリーダーだよね……とか呑気に思ってたんですよねぇ」
「…娼婦にされた訳か」

シノが苦々しい顔で頷いた。

「この世界の踊り子って、大概娼婦を兼ねてるみたいなんですよねぇ…故郷ではそんな事無いので全然知りませんでしたよ。私は兵士の慰問だって駐屯地に送られて、そこでご褒美として一番手柄の兵隊さんに一夜のご奉仕を命じられました。『数百人の奴隷の命と引き換えに召喚したんだから、役立たずでも遊ばせておく訳にはいかん』とか勝手な事言ってましたよ。誘拐しといて何ヌかししやがるこの××××と思いましたが、抵抗もできず…恐怖と嫌悪と混乱で意識が飛んで…気が付いたら人形がその兵隊さんを殺してました。それで私が…殺してやりたいという感情を持つと、人形は戦うみたいだって気が付いたんです。それがバレたらずっと人殺しさせられそうだって怖くなって駐屯地からトンズラして、逃げて逃げて逃げまくってここまで来た訳です」
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