5 / 25
日雇い魔法使いの素顔
しおりを挟む
レントは、外郭の小さな借家で一人暮らしをしている。
一番外側の土塁の南の際で、ほとんど日が当たらない場所だが、その分賃料が安い。いくら日当たりがよくても、街の宿や長屋に泊まる気は無かった。宿のプライバシーや鍵などあって無いようなものだし、長屋も似たり寄ったりだ。借家も油断はできないが、木工組合の職人の仕事を見て覚え、壁もドアも屋根も自分で補強して鍵を取り換えている。多少はマシだろう。
外郭にはは貧困層や冒険者が多く住むが、それでも街に定住できるだけマシだった。街に定住できない連中は、多くが街の背後にある河の河川敷に簡単な小屋掛けをして野宿している。そういう連中が時々外郭の空地に勝手に掘っ建て小屋など建てて住み着く事があるが、警邏にたちまち追い出される。マイナは森の豊富な木材を利用した木造の家が殆んどだ。代官はスラム化や火災の危険を避けるために、建物の間隔を多めに取るようにしており、勝手な居住は厳禁なのだ。
おかげでレントの家の近辺はそう裕福では無い地域ではあるが、寄ってたかって略奪をうけることは…あまり無い。時々敷地の隅の菜園の野菜がなくなるが、出がけに水をやってるだけの畑なので、まぁ許容の範囲内だとレントは思っている。
土塁の南の際だが、真冬以外は朝日と夕日はどうにか当たる。夜明けの光で目を覚まして寝台から起きだしたレントは、水瓶から桶に水を汲むと顔を洗った。
亜麻色の髪に緑の瞳のレントはもう30歳は超えているが、見た目は10代でも通じる容姿をしていた。
この世界には、只人(ヒューマン)以外にも様々な種族が暮らしており、中には只人より長命な種族も居る。レントは間違いなく只人であるが、大陸では長い年月の間に混血が進み特に只人は純血が少なくなっている。レントの家系にも先祖を辿ると森人(エルフ)やら魔人の血が混じっているから、見た目の変化が少ないのはその血が強く出たせいだろう…と父親…だった男が言っていた。
レントは桶の水面に映る自分の顔を見た。
レントは血の影響か、かなり見目の良い容貌をしていた。小さな頃は美少年として持て囃されていた。そして、この歳になっても十分人目を惹く容姿をしていると、自分でも認識している。それこそが、いつも目元まで隠す冑を被っている理由なのだから。
容姿にしろ才能にしろ、生まれながらに持つ者を人は幸運だと羨むだろう。それを活かして成功を手に入れるのだと羨むのだろう。
だが、地位も後ろ盾も金も力も無いのに容姿だけ優れているのを、幸運と言って良いだろうか。少なくともレントにとっては、厄介のタネでしかなった。むしろ『呪い』とさえ言って良かった。
確かに持って生まれた容姿だったが、自分の物では無かったからだ。
厳然たる階級社会において、低位の者は真に自分の財産など持ちえない……レントは、自分の身体を自分の好きに使う事を許されなかった。
レントは以前(自分が女だったら容姿を武器に使えただろうか)と思う事があった。だが、すぐに(中身が変わらず自分である限り、結果は変わっていないだろう)と思い至った。武器とは、使う意思がなければ武器たりえない。自分には容姿を武器に使う意思も才覚も無かった。今やレントは冒険者になり、どうにか一人で戦う力を手に入れが、今でも容姿を武器に使う気は無い。個人の力など金や権力で簡単に潰されてしまうと知ったからだ。無用なトラブルを避けるためにも今後も顔は隠し続けるつもりだ。
その一方で、レントは厄介のタネである自分の顔を変えたり傷つけたりしようと考えた事は一度も無い。
この顔だけが、よってたかって剥ぎ取られた末に残った『自分の最後の欠片』なのだから。
レントは、いつものマスク付きの冑をかぶった。今日の仕事は組合からの依頼…冒険者小隊が相手の仕事だ。
(せめて言葉が通じる相手であってくれ…)そう願いながら、レントは家を出た。
一番外側の土塁の南の際で、ほとんど日が当たらない場所だが、その分賃料が安い。いくら日当たりがよくても、街の宿や長屋に泊まる気は無かった。宿のプライバシーや鍵などあって無いようなものだし、長屋も似たり寄ったりだ。借家も油断はできないが、木工組合の職人の仕事を見て覚え、壁もドアも屋根も自分で補強して鍵を取り換えている。多少はマシだろう。
外郭にはは貧困層や冒険者が多く住むが、それでも街に定住できるだけマシだった。街に定住できない連中は、多くが街の背後にある河の河川敷に簡単な小屋掛けをして野宿している。そういう連中が時々外郭の空地に勝手に掘っ建て小屋など建てて住み着く事があるが、警邏にたちまち追い出される。マイナは森の豊富な木材を利用した木造の家が殆んどだ。代官はスラム化や火災の危険を避けるために、建物の間隔を多めに取るようにしており、勝手な居住は厳禁なのだ。
おかげでレントの家の近辺はそう裕福では無い地域ではあるが、寄ってたかって略奪をうけることは…あまり無い。時々敷地の隅の菜園の野菜がなくなるが、出がけに水をやってるだけの畑なので、まぁ許容の範囲内だとレントは思っている。
土塁の南の際だが、真冬以外は朝日と夕日はどうにか当たる。夜明けの光で目を覚まして寝台から起きだしたレントは、水瓶から桶に水を汲むと顔を洗った。
亜麻色の髪に緑の瞳のレントはもう30歳は超えているが、見た目は10代でも通じる容姿をしていた。
この世界には、只人(ヒューマン)以外にも様々な種族が暮らしており、中には只人より長命な種族も居る。レントは間違いなく只人であるが、大陸では長い年月の間に混血が進み特に只人は純血が少なくなっている。レントの家系にも先祖を辿ると森人(エルフ)やら魔人の血が混じっているから、見た目の変化が少ないのはその血が強く出たせいだろう…と父親…だった男が言っていた。
レントは桶の水面に映る自分の顔を見た。
レントは血の影響か、かなり見目の良い容貌をしていた。小さな頃は美少年として持て囃されていた。そして、この歳になっても十分人目を惹く容姿をしていると、自分でも認識している。それこそが、いつも目元まで隠す冑を被っている理由なのだから。
容姿にしろ才能にしろ、生まれながらに持つ者を人は幸運だと羨むだろう。それを活かして成功を手に入れるのだと羨むのだろう。
だが、地位も後ろ盾も金も力も無いのに容姿だけ優れているのを、幸運と言って良いだろうか。少なくともレントにとっては、厄介のタネでしかなった。むしろ『呪い』とさえ言って良かった。
確かに持って生まれた容姿だったが、自分の物では無かったからだ。
厳然たる階級社会において、低位の者は真に自分の財産など持ちえない……レントは、自分の身体を自分の好きに使う事を許されなかった。
レントは以前(自分が女だったら容姿を武器に使えただろうか)と思う事があった。だが、すぐに(中身が変わらず自分である限り、結果は変わっていないだろう)と思い至った。武器とは、使う意思がなければ武器たりえない。自分には容姿を武器に使う意思も才覚も無かった。今やレントは冒険者になり、どうにか一人で戦う力を手に入れが、今でも容姿を武器に使う気は無い。個人の力など金や権力で簡単に潰されてしまうと知ったからだ。無用なトラブルを避けるためにも今後も顔は隠し続けるつもりだ。
その一方で、レントは厄介のタネである自分の顔を変えたり傷つけたりしようと考えた事は一度も無い。
この顔だけが、よってたかって剥ぎ取られた末に残った『自分の最後の欠片』なのだから。
レントは、いつものマスク付きの冑をかぶった。今日の仕事は組合からの依頼…冒険者小隊が相手の仕事だ。
(せめて言葉が通じる相手であってくれ…)そう願いながら、レントは家を出た。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
【アイテム分解】しかできないと追放された僕、実は物質の概念を書き換える最強スキルホルダーだった
黒崎隼人
ファンタジー
貴族の次男アッシュは、ゴミを素材に戻すだけのハズレスキル【アイテム分解】を授かり、家と国から追放される。しかし、そのスキルの本質は、物質や魔法、果ては世界の理すら書き換える神の力【概念再構築】だった!
辺境で出会った、心優しき元女騎士エルフや、好奇心旺盛な天才獣人少女。過去に傷を持つ彼女たちと共に、アッシュは忘れられた土地を理想の楽園へと創り変えていく。
一方、アッシュを追放した王国は謎の厄災に蝕まれ、滅亡の危機に瀕していた。彼を見捨てた幼馴染の聖女が助けを求めてきた時、アッシュが下す決断とは――。
追放から始まる、爽快な逆転建国ファンタジー、ここに開幕!
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる