不死身のボッカ

暁丸

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遺されたもの

葬儀2

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 「どうにか無事に終わりました」
 「いや、俺達だけでは無理だったわ、オッサンには感謝しかない」
 「オッサンって…アンタの方が年上だろ、たぶん」
 「……なら〈小僧〉でいいか?」
 「それもなんかムカつくな……オッサンでいいわ」
 「あの、話進めていいですか?」
 「あ、スマン…」✕2

 葬儀が終われば、次の問題はおそらくは行われるであろう王国葬と、続々来訪するであろう弔問客への対応である。勇者屋敷では住民+1での対策会議が行われていた。こちらはそれこそ貴族や国の重鎮が絡んで来るので、三人ではどうしようも無い。オーサイム卿は最初から頭数に組み入れられていた。

 「で、前も言ったが、ここまで来るのは無理だろ」

 シリオンがそう言うと、一同が頷いた。
 勇者領は、ほぼ全面岩だらけの砂漠まがいの荒地である。唯一緑があるのが屋敷の建つテーブルマウンテンだ、周囲には水場も少ない。

 「ま、そりゃそうだな。その上、墓所に居るのが凶悪犯罪者と〈勇者〉指名の謎の跡継ぎと来た。王国は絶対に他国人を入れさせたく無いはずだ」
 「それで納得するかね?」

 オーサイム卿は首を振った。

 「墓のある勇者領でやる訳にはいかない、かといって王都で盛大にやったって空の棺じゃシラケるだけさ、誰も納得せんだろ。…だから皆を納得させる何か強烈な象徴が無きゃいけない」
 「象徴?」
 「あの変わった墓石、あれもう一個作れるかな?」

 トールの墓の墓石は思い切り日本様式だ。どこから見つけて来たのか、トールが黒御影石の角柱を自分で用意していたのだ。それを見つけたウルスラの指示でこうなった。ただ、表側は大陸語で『勇者トールここに眠る』という文言と、彼の業績が刻まれた石碑となっていた。裏面に回ると『川口亨の墓』と日本語で書かれている。最後の二日間でトールから聞いた現世での名前だ。まだ細かい作業の難しい身体でウルスラが必死に揮毫して、出来の良い文字だけ切り貼りしたのを、シリオンが魔法で刻んだ。簡単な漢字ばかりで良かった…とウルスラは心底安堵している。『徹』とかだったらアウトだった。
 ……漢字を忘れかけていて、『墓』が『碁』になったりしかけたのは、黙っているから気づかれないだろう。

 「あれか?、石ならまだあるからどうにでもなるが。あんなもんで象徴になるか?」
 「これは単なる目印さ。あれをうちの連絡所のあたりに設置して礼拝所を作ろう。王国葬はそこで行う。そこからなら彼方にこの埋葬地の山が見える。勇者領が墓地、この山が巨大な勇者の墓標って訳だ」
 「なるほど、ここ自体が象徴か」
 「そういうこと。そうなると、迎賓館として近辺に収容力の大きな屋敷が必要になるが…爺さんから、この屋敷はアンタが魔法で建てたって聞いたんだが、手伝ってもらえるか?」
 「魔法で建てるったって、手間を魔力で代替するだけだぞ、設計図と材料は一揃い必要だ。それさえ揃ってれば、建てるのは俺一人でなんとかするよ」
 「材料は丸太でもいいのか?製材とかほぞ穴加工は?」
 「丸太で構わん、石も丸のままで大丈夫だ。ただし設計をそのまま再現しかできないから、ちゃんと図面作れよ」
 「再現しかって、それこそすごいよ……。よし、その線でちょっくら領都の殿様と談判してくるわ。ちゃんと手間賃が出るように言っておくよ」
 「いや大丈夫かそれ?外国の貴族や下手したら首脳級だろ?専門の人員も大量に要るし、下手したら街道整備とかまで必要になるんじゃ?」

 僻地の男爵領のどっ外れで、周辺は荒地で街も無い。そんな所に賓客を招いたりしたら、屋敷一棟建てるだけで済むわけがない。警備や身の回りの世話に専門の人員が大量に動員され、そういった人員の宿泊所も必要になるはずだ。大量の食材も運ばなければならないから、流通網の整備も必要になる。

 「そこはまぁ、王都がなんとかするだろ。勇者の葬儀を主催すれば王国も大いに面目を施せるし、外交の場としても重要だからな」
 「なんか、急に生臭い話になったな…」
 「〈勇者〉の葬儀なら避けられない話なんだから、国でもなんでも利用できるものは利用しとけ」
 「王国騎士がそんな態度でいいのかよ…」
 「呑兵衛はな、酒と呑み友が国より大事なんだよ」

 本気なんだか冗談なんだか判断しかねる事を言ってオーサイム卿は引き上げて行った。
 ……なお、トリスキスはずっと無言のままオーサイム卿を睨んでいたので、オーサイム卿はとても居心地が悪い思いをしていたと付け加えておく。



 その言葉通り、オーサイム卿はさっそく領都に赴いてツルク男爵の説得にかかった。目の下の隈も酷いツルク男爵は、監視所の下級騎士の提言に卒倒しかけた。何しろ、勇者の訃報の続報が来ないと気を揉んでいたら、自分の知らないうちにオーサイム卿が事態を勝手に動かしていたからだ。厳しく叱責しようとしたが、オーサイム卿は悪びれもせず「我が領の負担を減らす事を第一に考えると、時間との勝負でしたので」と言ってのけ、勇者屋敷で話し合ったプランを提示した。
 愕然としたツルク男爵は重臣達にも諮ったが、最終的にはオーサイム卿の提言を受け入れる事にした。というか受け入れるしか無かった。何しろ、スタート地点『勇者は埋葬済み』、中間地点『勇者領での葬儀は不可能』、ゴール地点『王国葬を行う』というルートの概要が既に決まってしまっているのだ、他に取り得るルートは幾通りも無い。そして、オーサイム卿の提言以上に領の利益となる手を思いつかなかった。
 男爵は、『勇者の死去に係る調査報告』に意見を追加する形で文書をまとめ、王都に送る事にした。


 「殿様はどうにも小心過ぎるんだよなあ…。できない事や意味の無い仕事はとっとと手放さないと」

 一仕事終え、懐から取り出したスキットルの封を切って一口呷るとオーサイム卿はぼやいた。
 ツルク男爵は、王都の貴族に無理難題を吹っ掛けられ続けたせいで、次は何をやらされるか戦々恐々としていた。だが、こんなもん最初から一領主がやる仕事ではないのだ。とっとと相応しい相手に押し付けるに限る。

 黙っていたら、取り次ぎ役であることをタテに何をやらさられるか判ったものじゃない。オーサイム卿は、距離の差で王都が情報を把握しきれていないことを、最大限利用した。
 王都が動けないうちに先手を取り、トールの遺言に従ったというタテマエで埋葬は済ませてしまった。これで王都に葬列を送るような面倒事は回避した。そんなものを命じられたら、金も人もどれだけあっても足りない。ついでに、小心な男爵を動かすために逃げ道を無くして置いた。
 その上で、勇者領での葬儀は不可能であること、葬儀は埋葬地が遠望できるカムラン領が最適であるが、それを主催するのは王国でなければならないことを、根拠と共に意見具申する。これが採用されれば、王国葬に関わる周辺整備を行える上に、費用と面倒事は王都に丸投げである。
 シンボルである埋葬地が見える場所はそうそう無い。採用される可能性は高いとオーサイム卿は踏んでいる。地元領主である男爵に賦役を命じて来る懸念はあるが、そこは勇者屋敷の岩人にこっそり働いて貰えれば、負担を減らす事もできるだろう。うまく誘導すれば、王国の金で勇者礼拝所と小さな村レベルの拠点が作られ、大勢の人間が動く事になる。住民が居ついて集落になれば、酒に不自由しなくなるかもしれない。

 オーサイム卿は、ここまで勝手をした以上は男爵から睨まれる事も覚悟している。どの道トールが亡くなった以上はあの連絡所も廃止か縮小だ。王国葬が終わったら、騎士を退職してトールの墓守でもしようかと思っていた。

 「爺さんの墓に捧げる酒を切らす訳にはいかねぇからな。どうにか酒場は確保しないとな…」

 オーサイム卿は、スキットルを宙に掲げて計画の遂行を祈念した。
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