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遺されたもの
相続2
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「爺さん……すげぇな、さすが〈勇者〉」
オーサイム卿は絶望したように天を仰いだ。乾いた笑いしか出ない。
シリオンとウルスラは、『トールが20年前に死んだ孫娘の魂を保管していて、それを機械の身体に入れて復活させた』と要点のみしか説明していない。別人が混じっているとか、女神に送り出されたとか、ヤバそうな点は極力省いたのだが、それでも十分すぎるほどに衝撃を与える内容だったらしい。
「アンタも大概だよ、〈狂気の賢者〉。どーすんだこれ?」
「いや、それが聞きたいのよ。機械の身体で復活した、20年前に死んだトールの孫を、この屋敷の後継者にするなんかいい手無い?」
「え~~~?」
オーサイム卿が困り果てたように言葉を濁すと、それまで虚無の表情で黙ったままだったトリスキスが口を開いた。
「ここまで聞いて敵に回るっていうなら…」
「それは無いから睨むなって!。というか、もう王国を動かしちまったから今更俺の立ち位置は変えようが無いんだよ。そこにどうやってこの事実を組み込むか悩んでんの」
オーサイム卿は食い気味に反論した。最初に聞いた話では、森人の方は穏やかな性格で、岩人はかなりヤベェヤツと聞いていたのだが、逆では無いか。
「わたしたちが心配しているのは主に二つ。どこの誰とも判らない自称『孫』の機械人間への相続を王家が認めるのかどうか。それと、例え王家が認めても貴族が横やりを入れてくるんじゃないか、という点です」
「まぁ、そうだわなぁ…トールはどうする気だったんだ?」
「祖父は、王家が自分の主張を拒否するとは思っていなかったみたいです。邪魔する貴族は全部潰す(物理で)って言ってました」
「爺ぃ…そういうとこだぞ?」
オーサイム卿は、疲れ切ったように肩を落とすと冥府のトールを罵った。少しは後先考えやがれと言いたい。
「わたしの機嫌が悪いように見えるなら、これが原因の一つです。三人で対応を考えましたが、王国の事情に不案内な我々では妙案が浮かびませんでした。何か案はないでしょうか?……潰す以外で」
「うーん…その前にまず確認。本当に機械なの?」
「はい」
そう言ってウルスラは手袋を脱いで見せた。銀灰色の金属の筋肉が剥き出しになっていて、明らかに人間の手では無いと判る。
「すげぇな…人間にしか見えないのに…」
「顔だけは魔法でそれらしくしていますから。と言っても、人間のフリして誤魔化し続けるわけには行かないと思います。わたしが何者か問われたら、包み隠さず話すつもりです」
「まぁ、隠すのは悪手か…という事は、まずは機械の身体だけど中身は本物のウルスラ嬢だという事が証明できるかどうかという問題か」
「そこは、祖父が認めたという事実と、私の記憶を確認してもらうしか無いですね」
若干虫食いの記憶で不安はあるが、魂が本物かどうかなど他に証明しようが無い。
「あんた方二人はどう?ウルスラ嬢が領主か代官になったら、トールと同様に従う気はある?」
「いいよ…というか、俺達は一蓮托生なのよ。ウルスラに敵対するヤツは潰すのは、俺もトールと変わらんぞ?」
「私も」
「潰す以外でお願いします」
大事な事なので、ウルスラは2度言う事を忘れない。
オーサイム卿は渋面になった。この二人もトールと同様、王国の権威も武力も通じない連中だ。なんだか、一介の騎士には荷が重すぎる話になってきた気もするが、だからこそこの二人とブレーキ役のウルスラを結びつけて置かないと、何をしでかすか判らない。
「ウルスラ嬢は、誰か貴族に伝手は無い?」
「『嬢ちゃん』でいいですよ……。わたし、社交とか全然してないうちに死んだもので、そういう縁は無いです」
「実家は?」
「実家は従兄が継いでいるはずです、今更私が蘇ったなんて聞いたら嫌な顔されるような気がしますが…」
「そりゃそうか…」
ウルスラの実家ネハイムニ家は、当主夫妻と一人娘までもが命を捨てて王を護った事で子爵に昇り、王家からかなりの優遇を得ていた。当主のアンガル卿亡きあとに後を継いだのはウルスラの従兄だが、後ろ盾となった叔父(アンガル卿の弟)はそれが棚ボタの栄光だと理解しているから、決して驕らず王家の威光を笠に着るような態度は絶対に取らないように戒めていた。
「味方も伝手も無しか。爺さん、周りを敵に回すような要求だけ投げておいて、認められる前に自分が死んじまったらどうしょうも無いだろうよ…」
「まったくです」
愚痴るオーサイム卿に思わず同情してしまった。
…実を言えば、トールは自分の死後の手立てをちゃんと残していた。……それが最大の問題であるのだが。
「王様に…」
「うん?」
ウルスラは、『王との繋がり』を持ち出した。これが最後の札だ、ここまで開示してもオーサイム卿から対案が出ないようなら、最後の手を使うしかない。
「伝手と言えるか微妙ですが、わたしを蘇生させたって話が王様の耳に入ると、直接乗り出してくる可能性があります」
「え、なんで?」
「20年前、わたしが命を捨ててお守りしたからです。わたしは、かなり親しくお声をかけていただくようになり、最後に刺客を迎え撃つために広間を出ようとしたら、小さかった陛下は泣きながら私にしがみ付いて『いつまでも待っている、必ず帰ってこい』って……そうおっしゃっていました。それを覚えていらっしゃるなら…」
ウルスラは『既に起こった事』として『王の耳に入れば直接介入してくる』と知っているが、それを正直に告げる訳にもいかない。
根拠としては薄弱な気もするが、ウルスラの記憶から最後の別れの際の王の様子を言っててみたら、オーサイム卿は予想以上に食いついてきた。
「………ちょっと待て。それ、確かに最強の伝手だが、同時にすごくヤべぇかもしれんぞ」
「なぜです?」
「陛下、未だに未婚なのよ。…まさかそれが理由だったりしないよな?」
最後の方は、どうしても否定したいという思いから独り言のようになっていた。
ため息をついたシリオンは、呆れたように言った。
「ガチ勢じゃないか……」
ウルスラもため息をつきたい気分だった。『嫁によこせ』は側妃にだとばかり思っていたが、まさか王が未婚だとは思わなかった。イマジナリー令嬢を心の正妃にして20年も引きずるとは、王の執着は想像以上だ。
「すごく失礼な事聞くけど、嬢ちゃん子供作ったりは?」
「無理ですよ、身体は全部機械ですから内臓はありません。見ます?」
「……やめとく。それなら、妃にするのは諦めてもらう他無いけど……愛妾なりで手許に侍らせようとしたらどうするよ?」
「そんな針の筵、無理です」
トールが死去した事で、〈勇者〉VS王の全面対決は無くなった。従って、実は王が亡くなるまでウルスラが王宮で我慢するというのも、一つの選択肢ではある。だが、どう考えても王宮での風当たりは暴風クラスになると予想できるし、絶対火種になる。火災旋風待ったなしである。
そのうえ、ウルスラの中に居る本物のウルスラが、どうにか穏便に王の執着を絶ち切る事を希望しているし、シリオンとトリスキスは、ウルスラを人身御供に出して、自分達が安穏と暮らすような境遇に甘んじる気は無かった。特にシリオンからすれば貴重なサンプルであり証言者であるから、手放す気は全くない。
「やっぱそうだよなぁ…。でも、ここを相続するにはウルスラだと認めてもうらうしか無いし、そもそも爺さんが『孫のウルスラに継がせる』って言っちまってるんだよなぁ…」
しばらくブツブツ言いながらコツコツとテーブルを指で叩いていたオーサイム卿は、ようやく考えをまとめて切り出した。
「諸々総合すると、味方になってくれそうなのは陛下だけ。陛下に、機械の身体の嬢ちゃんをトールの孫ウルスラ嬢だと認めてもらいこの屋敷を相続するが、ただの一臣下として遇し、特別な感情を抱かないようになってもらう。ついでに文句言ってくる貴族は全部黙らせる…と、そういう事か」
「そういう事になりますかね」
「どうやって?」
「いやだから、それを相談しているんだろ」
「ダメだろこれ。思いつかねぇよそんなの。落としどころとかじゃなくて、こっちの要求を丸呑みさせるって事じゃないか!」
逆ギレするオーサイム卿だが、三人も「まさしくその通り」と思っているからむしろ同情したくなっている。三人で正攻法を考えてダメだったからこそ、王国の事情に詳しいオブザーバー的なオーサイム卿に相談してみたのだが、やっぱり結論は変わらないらしい。
……となれば……ウルスラは覚悟を決めるしか無いと結論付けた。
「オーサイム卿に相談してダメだったら…って事で、三人で相談した最後の手段があるんですが」
「……聞くの怖いけど、今更そういう訳に行かないよな。どういう手?」
「わたしたち三人で〈勇者〉トールの交渉を引継ぎます」
「…それってつまり?」
「腕づくでこっちの主張を押し通します」
恐る恐る聞いたオーサイム卿は、予想通りの回答にくらりと傾いた。
「……『潰さない方向で』ってのはどこいった?」
「だから別の手が無いかご相談したんです。無い以上は仕方ありません。まぁできる限り、潰すのではなく黙らせるつもりですが」
「それはつまり、それだけの力があるって事?そっちの二人だけじゃなく、嬢ちゃんも?」
美女と子供にしか見えないこの二人も、それぞれが桁外れに強いのは判っている。だが、ウルスラは勇者の孫とはいえ、只人だったはずだ。その証拠に、只人によって殺されているではないか。…あ、今は機械の身体だった。何か奥の手があるのだろうか?…そういった、単なる疑問を口にしただけだったが、この一言はウルスラの気にしていた部分にヒットしてしまったらしい。
「えぇ!。えぇ、えぇ、えぇ、その通りですよ!。爺ちゃんから形見分けでそれだけのものを貰いましたからね!。こんなもんどうしろって言うのさ!!。貰ったんだから有効利用してやりますけどねコンチクショー!!!」
「お、おう…」
なんだか判らないが、トールの形見分けで何かとんでもなくヤバいものを譲られたらしいという事だけは判った。身の安全のために、それ以上を聞かないようにすべきだろう。
オーサイム卿がドン引きしていると、激昂していたウルスラは、スンと虚無に戻った。
「そんな訳で、王様に近づく伝手があったら提供していただけないでしょうか?」
オーサイム卿は引き攣りそうになる表情をかろうじて隠した。丁寧な物言いだが、この娘は「王家と貴族を脅迫するから紹介しろ」と言っているのである。王都でやらかしたら、取次いだ自分にも責任が及びかねない。かといって今更三人を敵に回すわけにもいかない。どうにか穏便にやんわりと責任回避しないと、どっちに転んでも巻き添えになりかねない。
慎重に言葉を選び、妥協点を提案した。
「期待させて悪いけど、正直、下っ端男爵のそのまた下っ端騎士の俺には、大した事できんからな?。……ウチにもウルスラって娘の身元調査依頼は来ていたから、それの調査結果を出すよ。内容は「トールが死んだ孫を蘇生したらしいが詳細は不明」って事にしておく。そんで「詳細については本人が直接話すって言ってるから、誰か送ってくれ」って書くよ。それが握りつぶされず、陛下の耳に近い所まで届くようにやってみる。俺にできるのは、しかるべき筋に渡りをつける所までだ。それで勘弁してくれ」
露骨な責任回避だというのは三人にも明らかだが、非難する気は無かった。妥当な線…というか、地方領主の家臣がしてくれる協力としては、望外と言ってもいいだろう。なんでそんな伝手あるんだ、この人?。
「陛下か陛下の名代とお話しできる機会が得られるなら、後は自分で交渉してみます…そちらにご迷惑をかけないよう、できる限り穏便にやるつもりです。どうかお願いします」
〈勇者〉死後の後始末&ウルスラの受注ミッションは、第二ラウンドに進もうとしていた。
オーサイム卿は絶望したように天を仰いだ。乾いた笑いしか出ない。
シリオンとウルスラは、『トールが20年前に死んだ孫娘の魂を保管していて、それを機械の身体に入れて復活させた』と要点のみしか説明していない。別人が混じっているとか、女神に送り出されたとか、ヤバそうな点は極力省いたのだが、それでも十分すぎるほどに衝撃を与える内容だったらしい。
「アンタも大概だよ、〈狂気の賢者〉。どーすんだこれ?」
「いや、それが聞きたいのよ。機械の身体で復活した、20年前に死んだトールの孫を、この屋敷の後継者にするなんかいい手無い?」
「え~~~?」
オーサイム卿が困り果てたように言葉を濁すと、それまで虚無の表情で黙ったままだったトリスキスが口を開いた。
「ここまで聞いて敵に回るっていうなら…」
「それは無いから睨むなって!。というか、もう王国を動かしちまったから今更俺の立ち位置は変えようが無いんだよ。そこにどうやってこの事実を組み込むか悩んでんの」
オーサイム卿は食い気味に反論した。最初に聞いた話では、森人の方は穏やかな性格で、岩人はかなりヤベェヤツと聞いていたのだが、逆では無いか。
「わたしたちが心配しているのは主に二つ。どこの誰とも判らない自称『孫』の機械人間への相続を王家が認めるのかどうか。それと、例え王家が認めても貴族が横やりを入れてくるんじゃないか、という点です」
「まぁ、そうだわなぁ…トールはどうする気だったんだ?」
「祖父は、王家が自分の主張を拒否するとは思っていなかったみたいです。邪魔する貴族は全部潰す(物理で)って言ってました」
「爺ぃ…そういうとこだぞ?」
オーサイム卿は、疲れ切ったように肩を落とすと冥府のトールを罵った。少しは後先考えやがれと言いたい。
「わたしの機嫌が悪いように見えるなら、これが原因の一つです。三人で対応を考えましたが、王国の事情に不案内な我々では妙案が浮かびませんでした。何か案はないでしょうか?……潰す以外で」
「うーん…その前にまず確認。本当に機械なの?」
「はい」
そう言ってウルスラは手袋を脱いで見せた。銀灰色の金属の筋肉が剥き出しになっていて、明らかに人間の手では無いと判る。
「すげぇな…人間にしか見えないのに…」
「顔だけは魔法でそれらしくしていますから。と言っても、人間のフリして誤魔化し続けるわけには行かないと思います。わたしが何者か問われたら、包み隠さず話すつもりです」
「まぁ、隠すのは悪手か…という事は、まずは機械の身体だけど中身は本物のウルスラ嬢だという事が証明できるかどうかという問題か」
「そこは、祖父が認めたという事実と、私の記憶を確認してもらうしか無いですね」
若干虫食いの記憶で不安はあるが、魂が本物かどうかなど他に証明しようが無い。
「あんた方二人はどう?ウルスラ嬢が領主か代官になったら、トールと同様に従う気はある?」
「いいよ…というか、俺達は一蓮托生なのよ。ウルスラに敵対するヤツは潰すのは、俺もトールと変わらんぞ?」
「私も」
「潰す以外でお願いします」
大事な事なので、ウルスラは2度言う事を忘れない。
オーサイム卿は渋面になった。この二人もトールと同様、王国の権威も武力も通じない連中だ。なんだか、一介の騎士には荷が重すぎる話になってきた気もするが、だからこそこの二人とブレーキ役のウルスラを結びつけて置かないと、何をしでかすか判らない。
「ウルスラ嬢は、誰か貴族に伝手は無い?」
「『嬢ちゃん』でいいですよ……。わたし、社交とか全然してないうちに死んだもので、そういう縁は無いです」
「実家は?」
「実家は従兄が継いでいるはずです、今更私が蘇ったなんて聞いたら嫌な顔されるような気がしますが…」
「そりゃそうか…」
ウルスラの実家ネハイムニ家は、当主夫妻と一人娘までもが命を捨てて王を護った事で子爵に昇り、王家からかなりの優遇を得ていた。当主のアンガル卿亡きあとに後を継いだのはウルスラの従兄だが、後ろ盾となった叔父(アンガル卿の弟)はそれが棚ボタの栄光だと理解しているから、決して驕らず王家の威光を笠に着るような態度は絶対に取らないように戒めていた。
「味方も伝手も無しか。爺さん、周りを敵に回すような要求だけ投げておいて、認められる前に自分が死んじまったらどうしょうも無いだろうよ…」
「まったくです」
愚痴るオーサイム卿に思わず同情してしまった。
…実を言えば、トールは自分の死後の手立てをちゃんと残していた。……それが最大の問題であるのだが。
「王様に…」
「うん?」
ウルスラは、『王との繋がり』を持ち出した。これが最後の札だ、ここまで開示してもオーサイム卿から対案が出ないようなら、最後の手を使うしかない。
「伝手と言えるか微妙ですが、わたしを蘇生させたって話が王様の耳に入ると、直接乗り出してくる可能性があります」
「え、なんで?」
「20年前、わたしが命を捨ててお守りしたからです。わたしは、かなり親しくお声をかけていただくようになり、最後に刺客を迎え撃つために広間を出ようとしたら、小さかった陛下は泣きながら私にしがみ付いて『いつまでも待っている、必ず帰ってこい』って……そうおっしゃっていました。それを覚えていらっしゃるなら…」
ウルスラは『既に起こった事』として『王の耳に入れば直接介入してくる』と知っているが、それを正直に告げる訳にもいかない。
根拠としては薄弱な気もするが、ウルスラの記憶から最後の別れの際の王の様子を言っててみたら、オーサイム卿は予想以上に食いついてきた。
「………ちょっと待て。それ、確かに最強の伝手だが、同時にすごくヤべぇかもしれんぞ」
「なぜです?」
「陛下、未だに未婚なのよ。…まさかそれが理由だったりしないよな?」
最後の方は、どうしても否定したいという思いから独り言のようになっていた。
ため息をついたシリオンは、呆れたように言った。
「ガチ勢じゃないか……」
ウルスラもため息をつきたい気分だった。『嫁によこせ』は側妃にだとばかり思っていたが、まさか王が未婚だとは思わなかった。イマジナリー令嬢を心の正妃にして20年も引きずるとは、王の執着は想像以上だ。
「すごく失礼な事聞くけど、嬢ちゃん子供作ったりは?」
「無理ですよ、身体は全部機械ですから内臓はありません。見ます?」
「……やめとく。それなら、妃にするのは諦めてもらう他無いけど……愛妾なりで手許に侍らせようとしたらどうするよ?」
「そんな針の筵、無理です」
トールが死去した事で、〈勇者〉VS王の全面対決は無くなった。従って、実は王が亡くなるまでウルスラが王宮で我慢するというのも、一つの選択肢ではある。だが、どう考えても王宮での風当たりは暴風クラスになると予想できるし、絶対火種になる。火災旋風待ったなしである。
そのうえ、ウルスラの中に居る本物のウルスラが、どうにか穏便に王の執着を絶ち切る事を希望しているし、シリオンとトリスキスは、ウルスラを人身御供に出して、自分達が安穏と暮らすような境遇に甘んじる気は無かった。特にシリオンからすれば貴重なサンプルであり証言者であるから、手放す気は全くない。
「やっぱそうだよなぁ…。でも、ここを相続するにはウルスラだと認めてもうらうしか無いし、そもそも爺さんが『孫のウルスラに継がせる』って言っちまってるんだよなぁ…」
しばらくブツブツ言いながらコツコツとテーブルを指で叩いていたオーサイム卿は、ようやく考えをまとめて切り出した。
「諸々総合すると、味方になってくれそうなのは陛下だけ。陛下に、機械の身体の嬢ちゃんをトールの孫ウルスラ嬢だと認めてもらいこの屋敷を相続するが、ただの一臣下として遇し、特別な感情を抱かないようになってもらう。ついでに文句言ってくる貴族は全部黙らせる…と、そういう事か」
「そういう事になりますかね」
「どうやって?」
「いやだから、それを相談しているんだろ」
「ダメだろこれ。思いつかねぇよそんなの。落としどころとかじゃなくて、こっちの要求を丸呑みさせるって事じゃないか!」
逆ギレするオーサイム卿だが、三人も「まさしくその通り」と思っているからむしろ同情したくなっている。三人で正攻法を考えてダメだったからこそ、王国の事情に詳しいオブザーバー的なオーサイム卿に相談してみたのだが、やっぱり結論は変わらないらしい。
……となれば……ウルスラは覚悟を決めるしか無いと結論付けた。
「オーサイム卿に相談してダメだったら…って事で、三人で相談した最後の手段があるんですが」
「……聞くの怖いけど、今更そういう訳に行かないよな。どういう手?」
「わたしたち三人で〈勇者〉トールの交渉を引継ぎます」
「…それってつまり?」
「腕づくでこっちの主張を押し通します」
恐る恐る聞いたオーサイム卿は、予想通りの回答にくらりと傾いた。
「……『潰さない方向で』ってのはどこいった?」
「だから別の手が無いかご相談したんです。無い以上は仕方ありません。まぁできる限り、潰すのではなく黙らせるつもりですが」
「それはつまり、それだけの力があるって事?そっちの二人だけじゃなく、嬢ちゃんも?」
美女と子供にしか見えないこの二人も、それぞれが桁外れに強いのは判っている。だが、ウルスラは勇者の孫とはいえ、只人だったはずだ。その証拠に、只人によって殺されているではないか。…あ、今は機械の身体だった。何か奥の手があるのだろうか?…そういった、単なる疑問を口にしただけだったが、この一言はウルスラの気にしていた部分にヒットしてしまったらしい。
「えぇ!。えぇ、えぇ、えぇ、その通りですよ!。爺ちゃんから形見分けでそれだけのものを貰いましたからね!。こんなもんどうしろって言うのさ!!。貰ったんだから有効利用してやりますけどねコンチクショー!!!」
「お、おう…」
なんだか判らないが、トールの形見分けで何かとんでもなくヤバいものを譲られたらしいという事だけは判った。身の安全のために、それ以上を聞かないようにすべきだろう。
オーサイム卿がドン引きしていると、激昂していたウルスラは、スンと虚無に戻った。
「そんな訳で、王様に近づく伝手があったら提供していただけないでしょうか?」
オーサイム卿は引き攣りそうになる表情をかろうじて隠した。丁寧な物言いだが、この娘は「王家と貴族を脅迫するから紹介しろ」と言っているのである。王都でやらかしたら、取次いだ自分にも責任が及びかねない。かといって今更三人を敵に回すわけにもいかない。どうにか穏便にやんわりと責任回避しないと、どっちに転んでも巻き添えになりかねない。
慎重に言葉を選び、妥協点を提案した。
「期待させて悪いけど、正直、下っ端男爵のそのまた下っ端騎士の俺には、大した事できんからな?。……ウチにもウルスラって娘の身元調査依頼は来ていたから、それの調査結果を出すよ。内容は「トールが死んだ孫を蘇生したらしいが詳細は不明」って事にしておく。そんで「詳細については本人が直接話すって言ってるから、誰か送ってくれ」って書くよ。それが握りつぶされず、陛下の耳に近い所まで届くようにやってみる。俺にできるのは、しかるべき筋に渡りをつける所までだ。それで勘弁してくれ」
露骨な責任回避だというのは三人にも明らかだが、非難する気は無かった。妥当な線…というか、地方領主の家臣がしてくれる協力としては、望外と言ってもいいだろう。なんでそんな伝手あるんだ、この人?。
「陛下か陛下の名代とお話しできる機会が得られるなら、後は自分で交渉してみます…そちらにご迷惑をかけないよう、できる限り穏便にやるつもりです。どうかお願いします」
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