不死身のボッカ

暁丸

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とある爺さんの異世界転生

大空間の小さな家 1

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 長谷川さん(故人)は、何もない真っ白い空間をふよふよと漂って行く。

 「あんのクソ女神、やっぱり隠し事してやがったな!」

 漂いながら長谷川(故人)さんは無茶苦茶怒っていた。
 管理神の態度から察するに、「確かに転生先は人間の女性なのだが、身体は人間とは限らない」という事のようだ。ホムンクルスと聞いても何となく(クローン体みたいなもんか…)と思っていたのだが、話から察すると少なくとも生殖機能は無いらしい。あの様子じゃ人間とはかなり違うと考えた方がよさそうだ。こんなのはどう考えても真っ先に告げるべき最重要事項だろうに。

 「一旦死んで、目覚めたら自分は人間じゃなかった…ら、そら確かに非常識過ぎてパニくるだろうよ…。ったく肝心な事隠しやがって。くっそー、拒否権無い死人だと思って好き放題やりやがったな。勇者は気の毒なんで協力しようかと思ったが止めだ、早々にお星さま召喚してもらおう」

 ブチ切れた長谷川さん(故人)はかなり物騒なことを言い出していた。管理神は、長谷川さん(故人)には破壊や殺人の衝動は無い、怒りとは無縁の人間だと思っているが大間違いである。実行するかしないかと本人の怒りは別問題だ、衝動を理性で抑えるのが人間なのだ。もっと単純に言えば、面倒だし誰も得しないから破壊も殺人もしないだけなのだ。そして、人前で怒りを露わにすれば、それをきちんと納めなければ角が立つ。んな面倒なことするくらいなら、飲みこんで別なもので発散するのである。
 今の長谷川さん(故人)は既に故人であるから後腐れも面倒も何もない。そもそも、とっとと輪廻の輪に戻りたいのだ。何千万だか道連れになるだろうがどうせリセットの利く世界だ、クソ女神の言いなりになるくらいなら勇者にお願いして世界と無理心中も持さず。である。

 ブツブツ怒りながら漂っていた長谷川さん(故人)は、遠くに小さな点が見えるのに気が付いた。

 「んんっ?」

 真っ白な空間なので、止まっているんだ進んでいるんだか判らなかったのだが、どうやら進んでいたらしい。その証拠に、小さな点はだんだん大きな点になる。そうして、とうとう目の前に現れたのは、空間にぽつんと浮かぶ小さな家だった。藁ぶきで土壁の一間しか無いような小さな家で、すぐ脇に枝を張り出した大きな木が生えている。その家の周囲だけ、僅かばかりの地面があった。
 ふよふよと流れていた長谷川さん(故人)は、対象物が現れたことで、自力で回りを漂えることに気が付いた。

 「なんだこりゃ?」

 長谷川さん(故人)は小屋の周りをぐるぐると回った。なんの変哲もない小屋だ。真っ白な空間にひどく場違いだということを除けば。
 誰か居るのだろうかと中を覗こうとしたが、ガラス窓など無いので中は伺えない。

 「うーん…入ってみるか…?」

 小屋の戸をノックしようとして気が付いた。

 「はは、そういや俺手ぇ無いわ。不便だなこれ……うおっ!!」

 そう思ったら、いきなり右手が生えてきた。

 「なんだこれ?いきなり手が生えたぞ」

 空中に浮かぶ光の玉から、右手だけが生えていた。とりあえず、握ったり開いたり、グーチョキパーしてみるが、思った通りに動く。確かに自分の手らしい。

「いやしかし手だけって…」

 と呆れてみたが、ア〇クになったと思えば『まぁいいか』って気がしてくるから不思議だ。

 (そういや昔『手っ〇ゃん』ってシュールな漫画あったな、若いモンは知らんだろうけど)とか一人でツッコミ入れながらドアをノックしてみた。
 ノックに反応が無いので、扉の取手を掴んで引く…開かない。(あ、ドアが外開きなのは日本だけか)。思い直して押すと、ドアは軋みながら開いた。

 「ごめんください…」

 返事は無い。
 窓の板戸も降りているのに、不思議な事に部屋の中は明るかった。どこにも影が無く、四方八方が明るい。
そんな明るい小屋の中に、これまた酷く場違いなものを見た。

 「……嬢ちゃん、どうした?一人なのか?」

 長谷川さん(故人)は、慌てないように、焦らないように、努めて優しい声になるよう気を付けて声をかけた。
部屋の隅に、全身傷だらけの小さな女の子が全裸で蹲っていたのだ。



 (こりゃ困ったね)

 長谷川さん(故人)は困っていた。
 娘は見た所、3歳~4歳くらい、黒い髪を短くしているので最初は男のかと思ったが、全裸なので女の子と判った。全身に切り傷擦り傷があり、酷い状態だ。何度か声をかけてはみたが、何かに怯えていえうようで身体を丸めて部屋の隅から動こうとしない。怯える娘をどうにかして傷を手当してやりたいが、この小屋には何もないし自分も右手しかない。そして何より…

 (むしろこの子は俺の姿に怯えているのでは無いだろうか?)

 と思うくらいに自分の姿が怪しさ爆発なのは自覚していた。
 自分で言った「シュールなマンガ」を自分がそのままやることになろうとは……

 (うーん…とりあえず、この酷い傷をどうにかしてやりたいが、薬もなんも無いぞ)

 ノックしようとしたら右手が生えたんだし、気合でなんとかなるか?と思って、うんうん唸っていたら、手から漏れ出た光だか汁だかが、オロ〇イン軟膏になってゴロンと転がった。

 「おぉ、ほんとに出た。やって見るもんだ」

 長谷川さん(故人)はオロ〇イン軟膏の便を手に取ってみる。ちゃんと重さと質感もある。
 調子に乗った長谷川さん(故人)は、汁を絞り出すと、色鮮やかなコア〇ダルを三枚作ってみた。

 「嬢ちゃん、綺麗なのあげるからこっちむいてくれないかな。…俺のメダルだ」

 そう言って娘の前に積んでみたが、目も開けてくれない。

 「だめか。うーん…こりゃ困ったね……」(2回目)

 長谷川さんは腕を組んで考える。片方しか無いが。

 「あ、まずはこれか」

 右腕の生えた光の玉は、空中で(んっ、よっ、はっ)と謎の掛け声を出しながらぐるぐる回っていたが。努力の結果、どうにかこうにか左手までは生やすことができた。
 これでようやく腕を組んで考えられる。ついでに、両手が揃ったのでオロナ〇ン軟膏の蓋を開けて中を見てみた。ちゃんとオ〇ナインの匂いがする…

 (うーん……よく判らんが、エクトプラズムを物質化するような能力か?)

 魔界都市になんかそんな能力持ってたヤツいたな…と思い返す。この手のテンプレから言うと、イメージが大事ってことになるのだろう…と当たりを付けた。
 長谷川さん(故人)は、薬箱をイメージする。緑十字の描かれた木目の箱だ。中には包帯やらピンセット、脱脂綿、ガーゼ、マキュ〇ンが入っている。
 うーん、うーん、唸りながら絞り出す勢いで力を込めていたら、両手から染み出した何かが実体化し、想像していた救急箱がゴロンと出現した。蓋を開けると、中身もちゃんとそろっている。

 「おぉ、無茶かと思ったが結構なんでも作れるな。原理はようわからんが、そもそも俺は誰ぞの魂を修復するリペアキットとして呼ばれたんだから、自分の魂から救急薬が作れてもおかしくは……」

 そこまで考えて長谷川さん(故人)は、気が付いた。

 「……そうか…この娘が壊れかけの魂か…」

 とても扉を死守して討ち死にしたようには見えないから気付かなかったが、管理神は魂の損傷が心にも影響を与えたと言っていた。幼児になってしまったのは、その傷のせいという事だろうか。

 (つまりは…)
 ここで長谷川さん(故人)と傷だらけの娘が出会ったのは偶然ではない。この娘の傷を手当して立ち直らせ、やがて一体化する。そういう事なのだろう。長谷川さん(故人)と勇者の孫の魂を結び付けるために仕組まれた場なのだ。

 ……だが、自分のことなどこの際どうでも良い。女神の思惑も後回しだ。こんな傷だらけの娘を放っておけるか。

 娘の正体に気づいた長谷川さん(故人)は、更に変な汁を絞り出した。やるのは、自分の身体の構築だ。イメージ、イメージ…呟きながら、変な汁を絞り出した結果、どうにか生前に近い身体を作り上げた。多少盛って、いかにもな好々爺にしてある。享年70の長谷川さん(故人)は、まだ腰も曲がっていない。現役でコスプレしてたくらいなので、結構シュッとしたジジイだった(黙ってさえいれば)。
 人間と相対すならやはり人間らしくしなければならない。おそらくは見た目通りの精神に退行してしまっているこの娘には、優しくできる保護者が必要だ。

 ……まぁ見た目は良く作れたが、着ているのはユ〇クロで買ったような半袖シャツにハーフパンツで、サンダル履きという、どうしょうもないファッションセンスなのはそっとしてあげて欲しい。この男の持っていた一番金のかかった服は、ウレタンで作ったコス用甲冑で、普段着なんぞ年中こんなザマが普通だったから仕方ない。

 「よっと、できたか?鏡…もねぇのか?」

 とまた変な汁を絞ろうとしたら、床からぬるんと姿見が生えて来た。

 「おぉっ、なんだっ!?」

 思わず飛びのいた長谷川さん(故人)は、それがどうやら姿見だと判ると恐る恐るぺたぺたと姿見を触るが、普通にガラスの鏡だった。自分の姿を映してみるが、鏡も自分もちゃんとできたらしい。
 ただ、長谷川さん(故人)は、今回は何も絞り出さなかったはずだ。

 (……ひょっとして、この家もどうにかできるのか?)

 長谷川さん(故人)が目を向けると、閉じていた突き上げの板戸がパタりと開いてつっかい棒がかかった。

 「ふーん…」

 長谷川さん(故人)は更に窓を見つめ、そこにあるべき姿を思い浮かべる…と、ぐにゃりと歪んだ突き上げの板戸は引き戸のガラス窓に変わった。

 「やっぱり、どうとでもなるっぽいな……」

 長谷川さん(故人)は、『ぬんっ!』と意識を凝らす。娘のうずくまっていた部屋の隅の寝台のような何かが、一畳の畳に変わって、ずどんと持ち上がって上がりの座敷になる。田舎で生まれた長谷川さん(故人)からしたって、ここはちょっと人が住むには辛すぎる。

 「ひゃっ」

 突然下から突き上げられた娘が始めて声を出した。恐る恐る目を開いて、周りを見る。

 「驚かせてごめんな、じぃちゃんは嬢ちゃんの傷を見るように呼ばれたもんだ。隣、座ってもいいかな?。声出さなくていいから、嫌だったら首を横に振ってくれ」

 長谷川さん(故人)はちょっと距離を取ったまま、土間に膝をついてなるべく優しくそう言ってみたが、娘は固まったまま動かない。

 「まぁ、いきなりじゃびっくりするわな。じゃな、じぃちゃんはあっち向いてるからこれだけ穿いてくんねぇかな」

 そう言って、手を伸ばして子供用のパンツを差し出した。
 固まっていた娘は、カラフルなすみっ〇ぐらし柄のパンツを恐る恐る受け取って、ひっくり返してたりしながら、柄をまじまじと見ている。

 「こっちが前な。こことここに足入れたらいいから」

 指さしてそれだけ言うと、娘に背を向けてテーブルで手から汁を絞り出す。取りあえずは麦茶、カ〇ピス、ヤク〇ト等々を作ってみた。

 (どうにか警戒しないようになってくれたらいいんだが……まぁ、孫の面倒見た時のようにやるしか無いが…自分家の子じゃないしなぁ、どうしたもんだかな)

 「他所の子」の面倒を見る事の難しさを思い返しながら、長谷川さん(故人)は思いつくまま片っ端から飲み物を作って行った。
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