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勇者の孫にTS転生した。今更やり直しを要求してももう遅い
勇者とは、気に入らない貴族相手に無双するもの
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俺の名はウルスラ。かの名高き<勇者>トールの孫だ。
この国の王様が俺に血眼。ところがこれが捕まらないんだなぁ~。
ま、自分で言うのもなんだが……
「お~い、大丈夫か?そろそろ戻ってこいよ」
シリオンが、ブツブツ言いながら現実逃避していたウルスラの頭をコンコン叩いた。
ハッと我に返ったウルスラは、きょろきょろと回りを見た。シリオンと目が合う。
「十三代目シリオン。古の技術者シリオンの末裔。魔法工学の達人。なんでも実験しちまう、怒らせなくてもヤバ~い男」
「……お前は何を言ってるんだ?」
「………なんでわたしには『義理堅く頼りになる相棒』がいないのか、世の無情を嘆いていた」
「おう、意味は判らんが今のは俺の悪口だな?。喧嘩なら買うぞコラ」
(いやもう、一人で抱え込むの無理だよ……)
残念ながらトリスキスは『女魔法使いか男剣士か、この俺にも判らない』不〇子ちゃん枠である。次〇なんか居なかった。
トールは、言いたい事だけ言って領主館を後にした。引き留めようとするツルク卿の質問も抗議も全部無視である。ただ一言「俺が言った通りの事を王城に伝えろ」それだけだった。
(可哀想に、これじゃお偉方の前でポル〇レフ状態だよ)と、男爵の境遇に同情したくなるウルスラだったが、自分の話だからあんまり他人に同情してばかりも居られない。余計な事を言わないように館ではずっと黙っていたが、さすがに野営地に戻る途中でトールに抗議した。
「爺ちゃん、何考えてんのさ!」
「俺が死んだ後のことだよ。あそこ召し上げられたら、三人とも行き場がなくなるだろ」
思っていたより『正気』な事を言われて、ウルスラは面食らった。確かに、ウルスラは既に死亡認定されている根無し草。シリオンとトリスキスは故郷では重犯罪者で、この国では要監視対象だ。首根っこを押さえている勇者が居なくなったら、二人の処遇がどうなるか判ったものではない。
とはいえ、やり方というものがあるだろう。
「だからって、なんの説明も無しに無茶苦茶じゃない!」
「貴族なんざ、誰だって自分の都合しか考えずに無茶苦茶やるよ。俺がその流儀に合わせてやっただけだ。あそこは俺が好きにしていいって貰った土地だから好きにする。もし、お前が貴族流の正当性が欲しいってなら、メンセン領を…」
「止めて!、コーラトは爺ちゃんには赤の他人でも、わたしの従兄なんだよ!」
ウルスラは一人っ子で男子の兄弟が居なかった。
二度の流産の末、以後の子供を望むのが難しいと判ると、ウルスラの父メンセン男爵アンガル卿は、領主を弟の子コーラトに継がせると宣言した。トールからすれば、婿殿の弟の子なんぞ他人に過ぎない。その上、叔父の一族はクーデター騒ぎの時も日和った貴族の一人だった。全く愛着など無かった。
実際の所、アンガル卿が甥を後継者にしたのは、娘のウルスラの性格を見て男爵夫人などにして領に縛り付けるのを避けたためであるし、夫婦揃って見捨てられた幼王に加勢したのも、万が一の場合も弟一家が居れば家は安泰という思いがあったのからなのだが(娘が同じ想いで参戦して戦死してしまうのはさすがに想定外だったが)、そんなのトールには知ったこっちゃ無かった。
そしてウルスラの記憶にあるコーラトは、年長の男子なのに後継ぎになれないコンプレックスを抱えて、自分にちょっかいかける子供だった。それが伯父に嫡子指名されたことで、最初は自尊心を肥大させてデカイ態度を取って無視され、それからウルスラが後継ぎを外された事を本気で喜んでいるのを知ると、その後は次期領主の度量とばかりに妙に紳士的な態度になった。まぁ典型的な貴族の男子と言っていい。ぶっちゃければいけ好かない従兄だが、ただそれだけだ。勇者パワーで排除するような巨悪でもなんでもない。しかもこれは20年も前の記憶だ。
もっともトールも、もし望まれれば力づくで現領主を退かすのも辞さないつもりだが、ウルスラがそんな事を望んでいないのは百も承知だったが。
「んじゃ、俺の領地を継ぐしかねぇだろよ」
「そうじゃなくて!。もしそれしか無いとしても、なんでわざわざ喧嘩を売るような真似をすんの!」
「売るようなも何も、喧嘩売ってるんだよ」
「えー?!」
さも当たり前の事のように言われて、ウルスラも二の句が継げない。
「手順と儀礼を踏んで、貴族連中に頭下げて相続を認めて貰ったって、俺が死んだ後にお前に難癖付けてくるヤツは必ずいるんだよ。だから、俺が売った喧嘩を王家と貴族連中がどうするか見極める。そして難癖付けそうなヤツは、今のうちに潰しておく(物理)つもりだ。だから安心して後継いでいいぞ」
「やーめーてー」
もちろんトールは断固やるつもりだ。勇者は全然『正気』じゃなかった。孫愛が激しい事は承知していたが、勇者がここまで脳筋だとは、さすがに予想できなかった。
ウルスラは歩きながら、どうにか穏便に済ます方法を考えるが、トールのいう事にも一理あるので、打つ手が無いのが実情だった。
そもそも、自分は役目が済んだらとっとと死ぬつもりだったのだ。その前提でシリオンとトリスキスの行く末をどうにかしなければならない。だが、今トールの前でそれを言う事などできるはずがない。だから『今は』トールの言う通り、トール亡き後の居場所として勇者領を引き継ぐのは、筋が通った話だった。
しかし、トールが勇者パワーで回りを強引に黙らせて、『機械の身体の孫』を無理矢理後継ぎにしたら、今は勇者が怖くて黙っていても、死後に自分へのヘイトがマシマシになるのは避けられない。トールはそういう連中を片っ端から更地にしちまうつもりのようだが、いくら何でも脳筋すぎる。そんな事したら味方だった貴族すら全部敵にしてしまいかねない。
それに、ウルスラのもう一つの役目、『王の執着の回避』がある。ウルスラが素性を隠そうとしていた理由は、そのためなのだ。
実を言えば、現時点でその目的は半ば達成している。機械の身体のウルスラは、一般の人間からしたら人外の存在だ。あえて言おう。バケモノである、と。最終的にはこの事実をバラして、王の嫁になんぞしようがないと納得させるつもりだ。それでも「魂がウルスラならそれでもいい」と執着した場合は、『実は魂も違います』と、王の探しているウルスラはもういないと暴露するつもりだ。
だが、それができるのはトールの死後に限られる。トールの存命のうちは絶対に秘密にしなければボカンである。だからウルスラはなるべく素性を隠したかった。ウルスラの蘇生が王城に伝わらなければ、王と勇者がガチンコする可能性は大幅に下がるはずだったはずだった。
それをトールは自分で王城に連絡させて台無しにしてくれた。しかも、トールの死後であろうと、『ウルスラとは別人です』と暴露すると、勇者領の相続の根拠が無くなってしまううえ、身分詐称で断罪される理由になるおまけつきである。
見事に八方ふさがりだった。
(もう俺一人じゃ一杯だ。せめてシリオンとトリスキスを味方にできないもんかなぁ…)
いくら王国では厄介者でも、この世界の常識を知っている二人だ、相談相手にはなるだろう……そう思っていたのだが、野営地に戻ったトールが意気揚々と領主館でのやり取りを話すと、シリオンは「また厄介毎かよ」と眉をしかめただけだった。トリスキスに至っては「さすがはトール。そこにシビれる、あこがれるゥ」な事しか言わない。トリスキスはトールを肯定しかしないので、ウルスラの悩み解決には全く役に立ちそうも無かった。
(ダメだ、このエルフは思ったよりポンコツだ…)
がっかりするウルスラだが、かといってシリオンを信用できるかというと、コイツはコイツで価値観が常人と違いすぎる。全面的に信用していいか確信が持てない。
なんかもう途方に暮れて現実逃避していたら、シリオンに小突かれたのがイマココである。
「まぁ確かに騒ぎになるのは予想してたし実際に騒ぎになるだろうが、トールが貴族を歯牙にもかけないのは今に始まったこっちゃねーだろ。そんなに重大事か?」
シリオンが呑気に言った。事情を聴いてもあまり緊迫感は感じていないらしい。
やりたい事やって満足したらしいトールは、前祝だとばかりにトリスキスと二人で収納から出した酒を空けると、とっとと横になっている。この先貴族がどうしようと、自分の腕力で押し通せる事に微塵も疑いを持っていないようだった。
トリスキスもうつらうつらしているように見えるが、コイツは聞き耳を立てている可能性もある。その前提で二人に聞かせるつもりで言葉を選んだ。
「死んだ孫の魂を保管してて、機械の身体に入れて復活させました…って、倫理的にどう?貴族や神殿関係的に」
「前例が無いからなんとも言えんが、まぁ良い顔はされないだろうな。何言われようが、トールは押し通すだろうけどな」
「で、勇者のごり押しで本当にわたしが土地と屋敷を相続したとして、その時に<勇者>はもう居ないよ?これ幸いと過去に遡って責任追及してくるんじゃないの?」
「あぁ、まぁあり得る話だな」
「それをどうすんの?って心配してるんだよ。重大事でしょうが」
「そうなったら、誰に喧嘩売ったか教育してやるよ。トールもそうなんだろ?」
笑って言うシリオンにウルスラはがっくりと肩を落とす。
「その通りだよコンチクショー。だから問題なんだって」
(こいつらも勇者の同類かよ……。なんで暴力で解決する事しか考えないんだコイツら…)
この世界では、人の命が相当軽い。勇者も二人も、行く手を邪魔する者は、実力で排除するのを当たり前だと思っている。元現代日本人としては、この世界の『常識』にはなかなか馴染めそうに無い。
だがそれでもウルスラと約束した。いつ爆発するか判らない地雷(勇者)を放置する訳に行かないのだ。『地雷原でタップダンス』とはよく言われる(?)慣用句だが、今回の場合は地雷本人がタップダンスを踊っているのだから、爆発の危険性は比較にならない。
(コイツらにしたら、爆発しても大したことないのが問題なんだよなぁ…もういっそ泣き落としするか…)
ウルスラは情報開示のリスクとリターンを天秤に乗せようとしてブン投げた。どちらにしろ一人ではもう限界だ。こちらの事情を可能な限り明かして二人の価値観を損なわない範囲でどうにか協力してもらうしかない。
(……結界張れる?爺ちゃんだけ外して)
(……あぁ)
小声で言うと、何か察したシリオンが印を切って声が漏れないように結界を張った。
「どうせトリスキスも聞いてるんでしょ?、これからわたしの知ってる事、わたしのしたい…しなければならない事を話す。それを聞いてわたしに協力できるかどうか判断して」
シリオンは無言で頷いた。トリスキスは動かない。
「わたしが死ぬことになった原因って、この国の王様を刺客から守ったためなんだけど、そのせいでまだ小さかった王様にかなり強烈な好印象を残しちゃったらしくてね…」
「ふうぅん……ん?。……お前、なんでそんな事を知って…」
当のウルスラはその場で死んで、魂の状態でインベントリに収納されていた。自分の死後の事情など知っているはずが無い。
だが、ウルスラはシリオンの疑問を無視して話続ける。
「わたしが蘇生したという話が伝わった結果、王様が嫁に寄越せと言ってきて譲らず、爺ちゃんがブチ切れて王国軍と戦争になる。で、巻き添えでわたしが死んで、爺ちゃんが全てを無に帰すまでが1セット」
「……まて、なんだその無茶苦茶な話は。……それは『予測』か?それとも『予言』か?」
「どちらでもないよ、『既に起きた事』だから」
「なっ!」
「まぁ、わたしが機械の身体になった事で、未来はたぶん変わったはず。この身体じゃ王の妻なんかになりようが無いし、爺ちゃんの攻撃が直撃でもしなきゃ多分死ぬことも無い。だけど爺ちゃんと王国軍との衝突が避けられるかまでは判らない。爺ちゃんは、気に障る事があれば即座にキレるからね。もしそうなれば…わたしが死ななくても大勢人が死ぬ。爺ちゃんは…魔王のように恐れられるだろう」
「なんだよ。なんなんだそれは…まるで何度もやり直したみたいな…なんでお前はそれを知ってる?」
シリオンがわなわなと震えていた。シリオンはウルスラが言った意味を理解している。だからこそそれが理外の事だと判った。
「私の中の『もう一人』が教えてくれたんだよ。『もう一人』はそれを防ぐために、わたしの中に送り込まれたって」
「クソったれッ!。そんな馬鹿げたことのために…!」
シリオンが地面を殴りつけた。森羅万象を把握してそれを記録に残したいと思っているシリオンにとって、この世界の理の外からの干渉など認める事ができなかった。一度起きた事をやり直して未来を、運命を変えるとなど反則もいい所ではないか。世界の外から盤面を蹴り倒すなど、神であっても許せるはずがない。
無言のままだったトリスキスも、顔を上げて目を見開いている。やはり聞き耳を立てていたらしい。
「シリオンは爺ちゃんが何人殺しても気にしない?。トリスキスは構わないのかもしれないけど、わたしは爺ちゃんには、皆に慕われた勇者のまま人生を終えて欲しい。それがわたしの願い、そしてしなければならない事。どう?力を貸してくれる?」
しばらく地面に怒りをぶつけていたシリオンが顔を上げた。今まで見た事も無い壮絶な顔をしている。
「トールが何人殺そうが知ったこっちゃないが、協力してやる!。だがお前がまだ隠している事を全部話せ、それが条件だ!」
ウルスラの狙いとは違う方向でシリオンに着火してしまったようだが、とりあえず協力はしてくれるらしい。元々トールの死後には全てを話すつもりだった。条件としては問題無い。
「判った。事が終わったら全て話すよ」
ウルスラはトリスキスを見た。トールを肯定しかしない彼にとっても損では無い提案をしたつもりだが…
「……私の望みは、トールが何にも縛られず自由に生きる事。トールの邪魔をするヤツが何人死のうが当然の報いだと思ってるよ。だけど…トールが自由に生きて、その上で皆に惜しまれながら死ぬなら…確かにその方が良いかもね」
いつもの微笑からは心中を読み取ることはできない。それでも、トリスキスの口調には幾分優しさが含まれているように思えた。
ウルスラは心の中で息を吐きだし、握りっぱなしだった手を開く。
どうにか相談できる相手ができた…と思っていいだろうか。二人とも人の命を塵芥としか思って無いからあんまりアテにはできないが。それでも一人で悩むよりは、随分マシに思えた。
この国の王様が俺に血眼。ところがこれが捕まらないんだなぁ~。
ま、自分で言うのもなんだが……
「お~い、大丈夫か?そろそろ戻ってこいよ」
シリオンが、ブツブツ言いながら現実逃避していたウルスラの頭をコンコン叩いた。
ハッと我に返ったウルスラは、きょろきょろと回りを見た。シリオンと目が合う。
「十三代目シリオン。古の技術者シリオンの末裔。魔法工学の達人。なんでも実験しちまう、怒らせなくてもヤバ~い男」
「……お前は何を言ってるんだ?」
「………なんでわたしには『義理堅く頼りになる相棒』がいないのか、世の無情を嘆いていた」
「おう、意味は判らんが今のは俺の悪口だな?。喧嘩なら買うぞコラ」
(いやもう、一人で抱え込むの無理だよ……)
残念ながらトリスキスは『女魔法使いか男剣士か、この俺にも判らない』不〇子ちゃん枠である。次〇なんか居なかった。
トールは、言いたい事だけ言って領主館を後にした。引き留めようとするツルク卿の質問も抗議も全部無視である。ただ一言「俺が言った通りの事を王城に伝えろ」それだけだった。
(可哀想に、これじゃお偉方の前でポル〇レフ状態だよ)と、男爵の境遇に同情したくなるウルスラだったが、自分の話だからあんまり他人に同情してばかりも居られない。余計な事を言わないように館ではずっと黙っていたが、さすがに野営地に戻る途中でトールに抗議した。
「爺ちゃん、何考えてんのさ!」
「俺が死んだ後のことだよ。あそこ召し上げられたら、三人とも行き場がなくなるだろ」
思っていたより『正気』な事を言われて、ウルスラは面食らった。確かに、ウルスラは既に死亡認定されている根無し草。シリオンとトリスキスは故郷では重犯罪者で、この国では要監視対象だ。首根っこを押さえている勇者が居なくなったら、二人の処遇がどうなるか判ったものではない。
とはいえ、やり方というものがあるだろう。
「だからって、なんの説明も無しに無茶苦茶じゃない!」
「貴族なんざ、誰だって自分の都合しか考えずに無茶苦茶やるよ。俺がその流儀に合わせてやっただけだ。あそこは俺が好きにしていいって貰った土地だから好きにする。もし、お前が貴族流の正当性が欲しいってなら、メンセン領を…」
「止めて!、コーラトは爺ちゃんには赤の他人でも、わたしの従兄なんだよ!」
ウルスラは一人っ子で男子の兄弟が居なかった。
二度の流産の末、以後の子供を望むのが難しいと判ると、ウルスラの父メンセン男爵アンガル卿は、領主を弟の子コーラトに継がせると宣言した。トールからすれば、婿殿の弟の子なんぞ他人に過ぎない。その上、叔父の一族はクーデター騒ぎの時も日和った貴族の一人だった。全く愛着など無かった。
実際の所、アンガル卿が甥を後継者にしたのは、娘のウルスラの性格を見て男爵夫人などにして領に縛り付けるのを避けたためであるし、夫婦揃って見捨てられた幼王に加勢したのも、万が一の場合も弟一家が居れば家は安泰という思いがあったのからなのだが(娘が同じ想いで参戦して戦死してしまうのはさすがに想定外だったが)、そんなのトールには知ったこっちゃ無かった。
そしてウルスラの記憶にあるコーラトは、年長の男子なのに後継ぎになれないコンプレックスを抱えて、自分にちょっかいかける子供だった。それが伯父に嫡子指名されたことで、最初は自尊心を肥大させてデカイ態度を取って無視され、それからウルスラが後継ぎを外された事を本気で喜んでいるのを知ると、その後は次期領主の度量とばかりに妙に紳士的な態度になった。まぁ典型的な貴族の男子と言っていい。ぶっちゃければいけ好かない従兄だが、ただそれだけだ。勇者パワーで排除するような巨悪でもなんでもない。しかもこれは20年も前の記憶だ。
もっともトールも、もし望まれれば力づくで現領主を退かすのも辞さないつもりだが、ウルスラがそんな事を望んでいないのは百も承知だったが。
「んじゃ、俺の領地を継ぐしかねぇだろよ」
「そうじゃなくて!。もしそれしか無いとしても、なんでわざわざ喧嘩を売るような真似をすんの!」
「売るようなも何も、喧嘩売ってるんだよ」
「えー?!」
さも当たり前の事のように言われて、ウルスラも二の句が継げない。
「手順と儀礼を踏んで、貴族連中に頭下げて相続を認めて貰ったって、俺が死んだ後にお前に難癖付けてくるヤツは必ずいるんだよ。だから、俺が売った喧嘩を王家と貴族連中がどうするか見極める。そして難癖付けそうなヤツは、今のうちに潰しておく(物理)つもりだ。だから安心して後継いでいいぞ」
「やーめーてー」
もちろんトールは断固やるつもりだ。勇者は全然『正気』じゃなかった。孫愛が激しい事は承知していたが、勇者がここまで脳筋だとは、さすがに予想できなかった。
ウルスラは歩きながら、どうにか穏便に済ます方法を考えるが、トールのいう事にも一理あるので、打つ手が無いのが実情だった。
そもそも、自分は役目が済んだらとっとと死ぬつもりだったのだ。その前提でシリオンとトリスキスの行く末をどうにかしなければならない。だが、今トールの前でそれを言う事などできるはずがない。だから『今は』トールの言う通り、トール亡き後の居場所として勇者領を引き継ぐのは、筋が通った話だった。
しかし、トールが勇者パワーで回りを強引に黙らせて、『機械の身体の孫』を無理矢理後継ぎにしたら、今は勇者が怖くて黙っていても、死後に自分へのヘイトがマシマシになるのは避けられない。トールはそういう連中を片っ端から更地にしちまうつもりのようだが、いくら何でも脳筋すぎる。そんな事したら味方だった貴族すら全部敵にしてしまいかねない。
それに、ウルスラのもう一つの役目、『王の執着の回避』がある。ウルスラが素性を隠そうとしていた理由は、そのためなのだ。
実を言えば、現時点でその目的は半ば達成している。機械の身体のウルスラは、一般の人間からしたら人外の存在だ。あえて言おう。バケモノである、と。最終的にはこの事実をバラして、王の嫁になんぞしようがないと納得させるつもりだ。それでも「魂がウルスラならそれでもいい」と執着した場合は、『実は魂も違います』と、王の探しているウルスラはもういないと暴露するつもりだ。
だが、それができるのはトールの死後に限られる。トールの存命のうちは絶対に秘密にしなければボカンである。だからウルスラはなるべく素性を隠したかった。ウルスラの蘇生が王城に伝わらなければ、王と勇者がガチンコする可能性は大幅に下がるはずだったはずだった。
それをトールは自分で王城に連絡させて台無しにしてくれた。しかも、トールの死後であろうと、『ウルスラとは別人です』と暴露すると、勇者領の相続の根拠が無くなってしまううえ、身分詐称で断罪される理由になるおまけつきである。
見事に八方ふさがりだった。
(もう俺一人じゃ一杯だ。せめてシリオンとトリスキスを味方にできないもんかなぁ…)
いくら王国では厄介者でも、この世界の常識を知っている二人だ、相談相手にはなるだろう……そう思っていたのだが、野営地に戻ったトールが意気揚々と領主館でのやり取りを話すと、シリオンは「また厄介毎かよ」と眉をしかめただけだった。トリスキスに至っては「さすがはトール。そこにシビれる、あこがれるゥ」な事しか言わない。トリスキスはトールを肯定しかしないので、ウルスラの悩み解決には全く役に立ちそうも無かった。
(ダメだ、このエルフは思ったよりポンコツだ…)
がっかりするウルスラだが、かといってシリオンを信用できるかというと、コイツはコイツで価値観が常人と違いすぎる。全面的に信用していいか確信が持てない。
なんかもう途方に暮れて現実逃避していたら、シリオンに小突かれたのがイマココである。
「まぁ確かに騒ぎになるのは予想してたし実際に騒ぎになるだろうが、トールが貴族を歯牙にもかけないのは今に始まったこっちゃねーだろ。そんなに重大事か?」
シリオンが呑気に言った。事情を聴いてもあまり緊迫感は感じていないらしい。
やりたい事やって満足したらしいトールは、前祝だとばかりにトリスキスと二人で収納から出した酒を空けると、とっとと横になっている。この先貴族がどうしようと、自分の腕力で押し通せる事に微塵も疑いを持っていないようだった。
トリスキスもうつらうつらしているように見えるが、コイツは聞き耳を立てている可能性もある。その前提で二人に聞かせるつもりで言葉を選んだ。
「死んだ孫の魂を保管してて、機械の身体に入れて復活させました…って、倫理的にどう?貴族や神殿関係的に」
「前例が無いからなんとも言えんが、まぁ良い顔はされないだろうな。何言われようが、トールは押し通すだろうけどな」
「で、勇者のごり押しで本当にわたしが土地と屋敷を相続したとして、その時に<勇者>はもう居ないよ?これ幸いと過去に遡って責任追及してくるんじゃないの?」
「あぁ、まぁあり得る話だな」
「それをどうすんの?って心配してるんだよ。重大事でしょうが」
「そうなったら、誰に喧嘩売ったか教育してやるよ。トールもそうなんだろ?」
笑って言うシリオンにウルスラはがっくりと肩を落とす。
「その通りだよコンチクショー。だから問題なんだって」
(こいつらも勇者の同類かよ……。なんで暴力で解決する事しか考えないんだコイツら…)
この世界では、人の命が相当軽い。勇者も二人も、行く手を邪魔する者は、実力で排除するのを当たり前だと思っている。元現代日本人としては、この世界の『常識』にはなかなか馴染めそうに無い。
だがそれでもウルスラと約束した。いつ爆発するか判らない地雷(勇者)を放置する訳に行かないのだ。『地雷原でタップダンス』とはよく言われる(?)慣用句だが、今回の場合は地雷本人がタップダンスを踊っているのだから、爆発の危険性は比較にならない。
(コイツらにしたら、爆発しても大したことないのが問題なんだよなぁ…もういっそ泣き落としするか…)
ウルスラは情報開示のリスクとリターンを天秤に乗せようとしてブン投げた。どちらにしろ一人ではもう限界だ。こちらの事情を可能な限り明かして二人の価値観を損なわない範囲でどうにか協力してもらうしかない。
(……結界張れる?爺ちゃんだけ外して)
(……あぁ)
小声で言うと、何か察したシリオンが印を切って声が漏れないように結界を張った。
「どうせトリスキスも聞いてるんでしょ?、これからわたしの知ってる事、わたしのしたい…しなければならない事を話す。それを聞いてわたしに協力できるかどうか判断して」
シリオンは無言で頷いた。トリスキスは動かない。
「わたしが死ぬことになった原因って、この国の王様を刺客から守ったためなんだけど、そのせいでまだ小さかった王様にかなり強烈な好印象を残しちゃったらしくてね…」
「ふうぅん……ん?。……お前、なんでそんな事を知って…」
当のウルスラはその場で死んで、魂の状態でインベントリに収納されていた。自分の死後の事情など知っているはずが無い。
だが、ウルスラはシリオンの疑問を無視して話続ける。
「わたしが蘇生したという話が伝わった結果、王様が嫁に寄越せと言ってきて譲らず、爺ちゃんがブチ切れて王国軍と戦争になる。で、巻き添えでわたしが死んで、爺ちゃんが全てを無に帰すまでが1セット」
「……まて、なんだその無茶苦茶な話は。……それは『予測』か?それとも『予言』か?」
「どちらでもないよ、『既に起きた事』だから」
「なっ!」
「まぁ、わたしが機械の身体になった事で、未来はたぶん変わったはず。この身体じゃ王の妻なんかになりようが無いし、爺ちゃんの攻撃が直撃でもしなきゃ多分死ぬことも無い。だけど爺ちゃんと王国軍との衝突が避けられるかまでは判らない。爺ちゃんは、気に障る事があれば即座にキレるからね。もしそうなれば…わたしが死ななくても大勢人が死ぬ。爺ちゃんは…魔王のように恐れられるだろう」
「なんだよ。なんなんだそれは…まるで何度もやり直したみたいな…なんでお前はそれを知ってる?」
シリオンがわなわなと震えていた。シリオンはウルスラが言った意味を理解している。だからこそそれが理外の事だと判った。
「私の中の『もう一人』が教えてくれたんだよ。『もう一人』はそれを防ぐために、わたしの中に送り込まれたって」
「クソったれッ!。そんな馬鹿げたことのために…!」
シリオンが地面を殴りつけた。森羅万象を把握してそれを記録に残したいと思っているシリオンにとって、この世界の理の外からの干渉など認める事ができなかった。一度起きた事をやり直して未来を、運命を変えるとなど反則もいい所ではないか。世界の外から盤面を蹴り倒すなど、神であっても許せるはずがない。
無言のままだったトリスキスも、顔を上げて目を見開いている。やはり聞き耳を立てていたらしい。
「シリオンは爺ちゃんが何人殺しても気にしない?。トリスキスは構わないのかもしれないけど、わたしは爺ちゃんには、皆に慕われた勇者のまま人生を終えて欲しい。それがわたしの願い、そしてしなければならない事。どう?力を貸してくれる?」
しばらく地面に怒りをぶつけていたシリオンが顔を上げた。今まで見た事も無い壮絶な顔をしている。
「トールが何人殺そうが知ったこっちゃないが、協力してやる!。だがお前がまだ隠している事を全部話せ、それが条件だ!」
ウルスラの狙いとは違う方向でシリオンに着火してしまったようだが、とりあえず協力はしてくれるらしい。元々トールの死後には全てを話すつもりだった。条件としては問題無い。
「判った。事が終わったら全て話すよ」
ウルスラはトリスキスを見た。トールを肯定しかしない彼にとっても損では無い提案をしたつもりだが…
「……私の望みは、トールが何にも縛られず自由に生きる事。トールの邪魔をするヤツが何人死のうが当然の報いだと思ってるよ。だけど…トールが自由に生きて、その上で皆に惜しまれながら死ぬなら…確かにその方が良いかもね」
いつもの微笑からは心中を読み取ることはできない。それでも、トリスキスの口調には幾分優しさが含まれているように思えた。
ウルスラは心の中で息を吐きだし、握りっぱなしだった手を開く。
どうにか相談できる相手ができた…と思っていいだろうか。二人とも人の命を塵芥としか思って無いからあんまりアテにはできないが。それでも一人で悩むよりは、随分マシに思えた。
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異世界で魔王を倒した俺が、今度は地球で恋と戦いとボールを転がす!最高にアツいハーレムバトル、開幕!
異世界帰りのハーレム王
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