魔の森の鬼人の非日常

暁丸

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とある鬼人の前世(?) オマケ 鬼人は騎士と相部屋になった

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 変わらぬステレの声とそれに応えるオーウェンに、礼拝堂の中からは緊張の色が薄れて行った。
 グリフがゆっくりと進み出ると、ステレは目を伏せその場に跪いた。もはや別人となってしまったステレは、不安を招かぬように改めてグリフに臣下の礼を取ろうとしたのだ。だが、グリフはステレに声をかけることはなく、無言のままステレの背に自らのマントをかけた。
 驚いたステレは、思わず顔を上げてグリフを見た。ステレの全身は、身体を作り替えた際の老廃物や体液まみれで、床には血だまりができ周囲には異臭が漂っている。

 「穢れます」

 礼儀も忘れてそう言おうとしたステレをグリフが遮った。

 「鬼人殿、申し訳がないが、急の事で天幕が用意できない。この男は信用できるのでしばし相部屋で我慢してくれ、身の潔白は私の名で保証する」

 それは、かつてオーウェンと共にグリフの屋敷で対面したとき、グリフが言った言葉だ。グリフは、<鬼人ステレ>を、<只人ステレ>と同じ言葉で迎え入れたのだ。
 驚いたままのステレに、グリフは小声で付け加える。

 「もう、以前の服は着られぬであろう?、着替えはとりあえずオーウェンのを融通してもらえ」
 「あ」

 今更、本当に今更、ステレはかけられたマントの前を両手で引き袷た。



 ステレは、礼拝堂に残った水鉢に溜まった水で体を拭い、そのままマントと毛布で姿を隠し、郎党に紛れて野営地に戻ると、グリフの言う通りオーウェンの天幕に身を隠した。見違える美女になったステレ(全裸)と、しばらく天幕で二人きりで過ごすことになったオーウェンではあったが…

 「武具や靴は分捕ったのを融通して貰えるそうだから、上衣とトラウザーズを借りていい?」
 「あぁ…」
 「あ、あと、下穿きの替え…」
 「さすがにそれはやめてくれ!」
 「私は気にしないわよ?」
 「俺が気にする」


 「……また頼っちゃってごめんね」
 「いや、気にするな。…その……可愛い…妹の頼みだ…」
 「っ!…おう、頼りにしてるぜ、兄貴っ!」
 「………」
 「どうかした?」
 「いや、なんでもない…」

 ステレは察しの鈍さに更に磨きがかかり、オーウェンの押しの弱さは全く変わらず、結局二人の関係はそのままだった。

 二人の仲が進展するのは、意識を失ったステレがオーウェンの屋敷に担ぎ込まれ、ステレとオーウェンが久しぶりの再会するまで待たなければならない。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

なんか蛇足に思えたので本編からはカットしたのですが、もったいないのでちょっと付け足してオマケにしました。
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