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やり直しのハッピーエンド
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「やっちまった…」
俺ーー実森心也は、自室のベッドの上で、呆然と頭を抱えながら呟いた。
朝、寝ぼけまなこで瞼を開くと、隣に人の気配を感じて、ぼやけた頭が一気に目覚めた。
相手の顔は向こうを向いていて見えないがーー
心臓はバクバクと忙しなく鼓動して、喉は灼け、胃はひっくり返りそうである。
朝からこれはかなりハードで、寿命が縮まりそうだ。
恐る恐る布団をめくる。やはりというか、予想通りというかーーどうやらお互い何も着ていないようだ。
「これはつまり…アレってことだよな…」
この状況で考えられることは一つしかない。
二日酔いのせいでズキズキする頭を押さえながら、必死に夕べの記憶を手繰り寄せる。
確か昨日は、最近中途採用で入社した三つ年下の後輩にせがまれて、二人きりで呑みに行ったはずだ。
仕事の話、趣味の話……思った以上に会話が弾んで、酒も進んでーーしかしその先の記憶が丸々抜け落ちている。
そこから何がどうなってこうなったのか。全く思い出せない。
自分は後輩と解散した後に女の子をお持ち帰りしたのだろうか。三十年間生きてきて、そんなこと一度もしたことないが。
(それにしても、この女の子…随分体格がいいな…)
背中しか見えないけれど、なんだか妙に体つきがガッチリしている気がする。
「ん…」
向こうを向いて寝ていた人物が、コテンとこちら側へ寝返りを打った。
ゆっくりと瞼を開いたその相手と目が合い、俺は目ん玉が飛び出そうなほど驚愕した。
「あ…先輩。おはようございます」
「まっ、まっ、真瀬~!??」
目の前にいたのは、昨夜一緒に呑んでいた後輩の真瀬慧だった。
体格がいいのは当たり前だ。真瀬は紛れもなく男なのだから。
「…なんでそんなに驚いてるんですか。まさか、何も覚えてないとか?」
真瀬から拗ねたように言われ、俺は一瞬言葉に詰まりながらも、正直に答えた。
「ごめん…昨日の記憶が全くないんだけど、俺達…何かあった?」
俺の質問が気に食わなかったのだろうか。真瀬はあからさまにムッとした顔をして、
「この状況で何かあった?はないんじゃないですか」
と少し怒ったような口調で言った。
そして大きくハァ、とため息をつきながら、するりとベッドから抜け出した真瀬は、スタスタとバスルームへと向かっていった。
「シャワー借りますね」
「あ、ああ…」
真瀬がシャワーを浴びる音を聞きながら、必死に記憶を呼び起こそうとするがーーやはり何も思い出せない。
「じゃ、俺は帰ります。失礼しました」
綺麗に身支度を整えた真瀬はそう淡々と話し、部屋を後にした。
さっきの真瀬の態度からして、やはりそういうことをしたのだろうか。
でも、ゲイでもない俺が、男である真瀬とそういう関係になるなんて、何がどうなってそうなったのか。
今日は土曜日で、会社は休みだ。
二日酔いの重たい頭とモヤモヤした気持ちを抱えて、俺は再びベッドに潜り込んだ。
月曜日の朝。いつもなら屈託のない笑顔で返してくれる真瀬が、なんだかよそよそしい。
仕事はちゃんとこなすし、業務上の会話はしているのだがーー心の距離というか壁があるような、そんな気がした。
「なあ、真瀬。昼メシ行かないか?」
気まずい雰囲気が続くのも嫌で、つとめていつも通りに明るく話しかけてみた。
しかし真瀬は、スンとした顔をして、
「あ、今日はコンビニで買ってきたので。結構です」
と言った。
あまりにもあっさりと断られてしまって、心の置き場がない。
ショックだったが、俺はめげずに翌日も、翌々日もしつこく真瀬を食事に誘った。しかしそれから何度誘ってみても真瀬の態度は変わらなくて、俺の心のモヤモヤは更に大きくなっていった。
き、気まずい……
二人きりのオフィスで、カタカタとキーボードを叩く音だけが響いている。
俺と真瀬が担当している案件は今が一番ピークに忙しい時期で、他の社員が次々と帰宅する中、俺達だけが取り残されてしまった。
こんな重苦しい空気の中で残業するのは正直キツイ。
「あ、あのさ真瀬。俺コーヒー買ってくるんだけど、お前も何か飲む……」
「結構です。飲みたくなったら自分で買いに行きますから」
言い終わる前に、ピシャリと跳ね除けられた。
その言葉になんだか胸がちくりと痛んで、思わず俺は真瀬の腕を掴んでしまった。
「せ、先輩…っ!?」
「あのさ真瀬。記憶なくしちまったことは本当に申し訳ないと思ってる。でも俺、お前とギクシャクしたまま仕事したくないんだよ。だからその…仲直りーーしてもらえないかな」
真剣な顔で言うと、真瀬が一瞬瞳を揺らして、それからシュンとした顔をした。
「もういいんです。俺も、先輩が酔ってるの分かってて利用したんですもん。怒ってたのは、ただの八つ当たりです」
「利用って…?」
「俺、初めて会った時から、ずっと先輩のことが好きだったんです。だからあの日、先輩が受け入れてくれたと思って、嬉しくて…」
そうして真瀬は、ゆっくりとあの日にあったことを語り出した。
あの日、楽しく酒も進んですっかり酔っ払った俺は、真瀬に絡みまくったらしい。
『ほんっと真瀬は可愛いなあ~』
好きな男から何度も可愛いを連発されて、真瀬も酒が入っていたこともあって、冗談っぽく、普段なら言えない本音を漏らしたのだという。
『可愛いって思ってるなら、俺のこと抱いて下さいよ』
そう言った真瀬に、なんと俺は二つ返事で『いいよ~』と返したのだそうだ。
『えっ!?』
『真瀬なら俺イケる気がする~もう終電も無いしさあ、今から俺んち行こうか』
「ーーこれが、先輩の記憶から抜け落ちた一部始終です」
穴があったら入りたいとはこのことだ。
真瀬から顛末を聞き、自分の馬鹿さ加減に頭を殴りつけたい気持ちになった。
「ごめん…完全に俺が悪いな」
本当に最低すぎる。詰られても仕方ない。
心から謝罪すると、真瀬は首を振った。
「俺も…ちょっと浮かれてたんです。好きな人に受け入れてもらえたって勘違いしちゃって…先輩はゲイじゃないのに。既成事実を先に作っちゃえばもしかしたら…なんて浅ましい考えを持った俺が悪いんです」
真瀬の言葉に、胸がズキンとした。真瀬は笑ってはいたけれど、ひどく傷ついたような顔をしていたからだ。
「先輩、安心して下さい。あの日、俺達最後まではしてませんから」
「最後までしてない…?」
「先輩、途中まではけっこうヤル気だったんですけど、俺の服を脱がしたあと、「これは無理だ」って呟いて、そのまま寝ちゃったんです。きっと、男の体に萎えたんでしょうね。…ごめんなさい。先輩が記憶ないのをいいことに、嘘つきました」
真瀬の言葉にショックを受ける。
嘘をつかれていたせいじゃない。
最低な言葉で真瀬を傷つけてしまった自分自身に対して、ショックを受けたのだ。
「職場ではちゃんとします。変な態度取っちゃってすみませんでした…」
今まで通り、よろしくお願いしますと真瀬に言われ、俺はもう何も言えなくなっていた。
職場ではちゃんとしますと言った宣言通り、いやそれ以上に、真瀬は仕事に没頭するようになった。
けれど、日に日に真瀬の表情から元気が抜け落ちていっているのが、普段鈍いとよく言われる俺でもわかった。
そんな真瀬が心配になって、二人きりになった時を見計らって、俺は声をかけた。
「なあ、お前最近、無理してないか?あんな無茶な働き方して…顔色がすごく悪いぞ。もし案件抱えて大変なら俺が半分持つからーー」
「……か」
「え?」
「仕方ないじゃないですか!俺だって失恋して辛いんですよ!でも社会人としてしっかりしなきゃって思って、だから仕事に没頭するしかなくてーー」
瞬間、真瀬の瞳からぽろりと涙が零れた。
「そんな優しくしないで……先輩のこと、もっと好きになって、余計辛くなるから……」
ずっと我慢していたのだろう。真瀬は嗚咽を漏らしながら、心のうちを話してくれた。
「俺、お前のこと傷つけてばっかりだな」
自分の馬鹿さ加減に心底呆れる。
しかし、いくら酔っていたからといって、途中までしておきながら「萎えたから無理」なんて傷つける言葉を、俺が言うだろうか。
自分のことを善人だと思ったことはないが、そこまで屑だとも思っていない。
つーか、そもそも俺、酔っ払うと勃たないから、今まで深酒した状態でヤッたことないんだよな…ん?
ここで、ひとつの仮説が立った。
もしかして、「これは無理だ」の本当の意味は、男相手に勃たないということではなく、酒が回ってさすがに腰が振れない、という意味だったのではないか…?
そして、力尽きて、そのまま寝てしまった。
その方が、自分の行動として納得できる。
なんだかモヤモヤしていた気持ちがスッキリした。
晴れやかな気持ちで再び真瀬に向き合った俺は、涙に濡れたその顔を見て、思わず愛しさが込み上げてきた。
ポロポロと涙をこぼす真瀬の唇に吸い込まれるようにして、俺はそっとキスを落とした。
「せ…先輩…っ!?」
思いも寄らない突然のキスに動揺する真瀬が可愛くて、何度も何度も口付けた。
これが「好き」じゃなくてなんなんだ。
「もっかい!」
「え?」
「もう一回、やり直しさせてくれないか!?」
「ちょっと意味が…」
「俺は、どんなに酔ってても、好きでもない相手を部屋に連れ込んだりしたことは今まで一回もないんだ。一回もだ。そしてあの日、途中までだったとしても俺はお前に手を出したんだよな?」
真瀬がこくりと頷く。
それなら答えは明白だ。
「確かに俺はゲイじゃない。でもお前は別だ。可愛いと思ってる気持ちに嘘はない。今度は、酒が入ってない状態で、リベンジさせて欲しい」
もちろん、そこで「やっぱり男は駄目だった」となる可能性もなくはなかった。
しかし、真瀬は俺のことを信じてくれて、その提案を受け入れてくれた。
で、その後二人はどうなったかって?
もちろん、誰もが想像するような、ありきたりで平凡だけど、満ち足りたハッピーエンドさ。
俺ーー実森心也は、自室のベッドの上で、呆然と頭を抱えながら呟いた。
朝、寝ぼけまなこで瞼を開くと、隣に人の気配を感じて、ぼやけた頭が一気に目覚めた。
相手の顔は向こうを向いていて見えないがーー
心臓はバクバクと忙しなく鼓動して、喉は灼け、胃はひっくり返りそうである。
朝からこれはかなりハードで、寿命が縮まりそうだ。
恐る恐る布団をめくる。やはりというか、予想通りというかーーどうやらお互い何も着ていないようだ。
「これはつまり…アレってことだよな…」
この状況で考えられることは一つしかない。
二日酔いのせいでズキズキする頭を押さえながら、必死に夕べの記憶を手繰り寄せる。
確か昨日は、最近中途採用で入社した三つ年下の後輩にせがまれて、二人きりで呑みに行ったはずだ。
仕事の話、趣味の話……思った以上に会話が弾んで、酒も進んでーーしかしその先の記憶が丸々抜け落ちている。
そこから何がどうなってこうなったのか。全く思い出せない。
自分は後輩と解散した後に女の子をお持ち帰りしたのだろうか。三十年間生きてきて、そんなこと一度もしたことないが。
(それにしても、この女の子…随分体格がいいな…)
背中しか見えないけれど、なんだか妙に体つきがガッチリしている気がする。
「ん…」
向こうを向いて寝ていた人物が、コテンとこちら側へ寝返りを打った。
ゆっくりと瞼を開いたその相手と目が合い、俺は目ん玉が飛び出そうなほど驚愕した。
「あ…先輩。おはようございます」
「まっ、まっ、真瀬~!??」
目の前にいたのは、昨夜一緒に呑んでいた後輩の真瀬慧だった。
体格がいいのは当たり前だ。真瀬は紛れもなく男なのだから。
「…なんでそんなに驚いてるんですか。まさか、何も覚えてないとか?」
真瀬から拗ねたように言われ、俺は一瞬言葉に詰まりながらも、正直に答えた。
「ごめん…昨日の記憶が全くないんだけど、俺達…何かあった?」
俺の質問が気に食わなかったのだろうか。真瀬はあからさまにムッとした顔をして、
「この状況で何かあった?はないんじゃないですか」
と少し怒ったような口調で言った。
そして大きくハァ、とため息をつきながら、するりとベッドから抜け出した真瀬は、スタスタとバスルームへと向かっていった。
「シャワー借りますね」
「あ、ああ…」
真瀬がシャワーを浴びる音を聞きながら、必死に記憶を呼び起こそうとするがーーやはり何も思い出せない。
「じゃ、俺は帰ります。失礼しました」
綺麗に身支度を整えた真瀬はそう淡々と話し、部屋を後にした。
さっきの真瀬の態度からして、やはりそういうことをしたのだろうか。
でも、ゲイでもない俺が、男である真瀬とそういう関係になるなんて、何がどうなってそうなったのか。
今日は土曜日で、会社は休みだ。
二日酔いの重たい頭とモヤモヤした気持ちを抱えて、俺は再びベッドに潜り込んだ。
月曜日の朝。いつもなら屈託のない笑顔で返してくれる真瀬が、なんだかよそよそしい。
仕事はちゃんとこなすし、業務上の会話はしているのだがーー心の距離というか壁があるような、そんな気がした。
「なあ、真瀬。昼メシ行かないか?」
気まずい雰囲気が続くのも嫌で、つとめていつも通りに明るく話しかけてみた。
しかし真瀬は、スンとした顔をして、
「あ、今日はコンビニで買ってきたので。結構です」
と言った。
あまりにもあっさりと断られてしまって、心の置き場がない。
ショックだったが、俺はめげずに翌日も、翌々日もしつこく真瀬を食事に誘った。しかしそれから何度誘ってみても真瀬の態度は変わらなくて、俺の心のモヤモヤは更に大きくなっていった。
き、気まずい……
二人きりのオフィスで、カタカタとキーボードを叩く音だけが響いている。
俺と真瀬が担当している案件は今が一番ピークに忙しい時期で、他の社員が次々と帰宅する中、俺達だけが取り残されてしまった。
こんな重苦しい空気の中で残業するのは正直キツイ。
「あ、あのさ真瀬。俺コーヒー買ってくるんだけど、お前も何か飲む……」
「結構です。飲みたくなったら自分で買いに行きますから」
言い終わる前に、ピシャリと跳ね除けられた。
その言葉になんだか胸がちくりと痛んで、思わず俺は真瀬の腕を掴んでしまった。
「せ、先輩…っ!?」
「あのさ真瀬。記憶なくしちまったことは本当に申し訳ないと思ってる。でも俺、お前とギクシャクしたまま仕事したくないんだよ。だからその…仲直りーーしてもらえないかな」
真剣な顔で言うと、真瀬が一瞬瞳を揺らして、それからシュンとした顔をした。
「もういいんです。俺も、先輩が酔ってるの分かってて利用したんですもん。怒ってたのは、ただの八つ当たりです」
「利用って…?」
「俺、初めて会った時から、ずっと先輩のことが好きだったんです。だからあの日、先輩が受け入れてくれたと思って、嬉しくて…」
そうして真瀬は、ゆっくりとあの日にあったことを語り出した。
あの日、楽しく酒も進んですっかり酔っ払った俺は、真瀬に絡みまくったらしい。
『ほんっと真瀬は可愛いなあ~』
好きな男から何度も可愛いを連発されて、真瀬も酒が入っていたこともあって、冗談っぽく、普段なら言えない本音を漏らしたのだという。
『可愛いって思ってるなら、俺のこと抱いて下さいよ』
そう言った真瀬に、なんと俺は二つ返事で『いいよ~』と返したのだそうだ。
『えっ!?』
『真瀬なら俺イケる気がする~もう終電も無いしさあ、今から俺んち行こうか』
「ーーこれが、先輩の記憶から抜け落ちた一部始終です」
穴があったら入りたいとはこのことだ。
真瀬から顛末を聞き、自分の馬鹿さ加減に頭を殴りつけたい気持ちになった。
「ごめん…完全に俺が悪いな」
本当に最低すぎる。詰られても仕方ない。
心から謝罪すると、真瀬は首を振った。
「俺も…ちょっと浮かれてたんです。好きな人に受け入れてもらえたって勘違いしちゃって…先輩はゲイじゃないのに。既成事実を先に作っちゃえばもしかしたら…なんて浅ましい考えを持った俺が悪いんです」
真瀬の言葉に、胸がズキンとした。真瀬は笑ってはいたけれど、ひどく傷ついたような顔をしていたからだ。
「先輩、安心して下さい。あの日、俺達最後まではしてませんから」
「最後までしてない…?」
「先輩、途中まではけっこうヤル気だったんですけど、俺の服を脱がしたあと、「これは無理だ」って呟いて、そのまま寝ちゃったんです。きっと、男の体に萎えたんでしょうね。…ごめんなさい。先輩が記憶ないのをいいことに、嘘つきました」
真瀬の言葉にショックを受ける。
嘘をつかれていたせいじゃない。
最低な言葉で真瀬を傷つけてしまった自分自身に対して、ショックを受けたのだ。
「職場ではちゃんとします。変な態度取っちゃってすみませんでした…」
今まで通り、よろしくお願いしますと真瀬に言われ、俺はもう何も言えなくなっていた。
職場ではちゃんとしますと言った宣言通り、いやそれ以上に、真瀬は仕事に没頭するようになった。
けれど、日に日に真瀬の表情から元気が抜け落ちていっているのが、普段鈍いとよく言われる俺でもわかった。
そんな真瀬が心配になって、二人きりになった時を見計らって、俺は声をかけた。
「なあ、お前最近、無理してないか?あんな無茶な働き方して…顔色がすごく悪いぞ。もし案件抱えて大変なら俺が半分持つからーー」
「……か」
「え?」
「仕方ないじゃないですか!俺だって失恋して辛いんですよ!でも社会人としてしっかりしなきゃって思って、だから仕事に没頭するしかなくてーー」
瞬間、真瀬の瞳からぽろりと涙が零れた。
「そんな優しくしないで……先輩のこと、もっと好きになって、余計辛くなるから……」
ずっと我慢していたのだろう。真瀬は嗚咽を漏らしながら、心のうちを話してくれた。
「俺、お前のこと傷つけてばっかりだな」
自分の馬鹿さ加減に心底呆れる。
しかし、いくら酔っていたからといって、途中までしておきながら「萎えたから無理」なんて傷つける言葉を、俺が言うだろうか。
自分のことを善人だと思ったことはないが、そこまで屑だとも思っていない。
つーか、そもそも俺、酔っ払うと勃たないから、今まで深酒した状態でヤッたことないんだよな…ん?
ここで、ひとつの仮説が立った。
もしかして、「これは無理だ」の本当の意味は、男相手に勃たないということではなく、酒が回ってさすがに腰が振れない、という意味だったのではないか…?
そして、力尽きて、そのまま寝てしまった。
その方が、自分の行動として納得できる。
なんだかモヤモヤしていた気持ちがスッキリした。
晴れやかな気持ちで再び真瀬に向き合った俺は、涙に濡れたその顔を見て、思わず愛しさが込み上げてきた。
ポロポロと涙をこぼす真瀬の唇に吸い込まれるようにして、俺はそっとキスを落とした。
「せ…先輩…っ!?」
思いも寄らない突然のキスに動揺する真瀬が可愛くて、何度も何度も口付けた。
これが「好き」じゃなくてなんなんだ。
「もっかい!」
「え?」
「もう一回、やり直しさせてくれないか!?」
「ちょっと意味が…」
「俺は、どんなに酔ってても、好きでもない相手を部屋に連れ込んだりしたことは今まで一回もないんだ。一回もだ。そしてあの日、途中までだったとしても俺はお前に手を出したんだよな?」
真瀬がこくりと頷く。
それなら答えは明白だ。
「確かに俺はゲイじゃない。でもお前は別だ。可愛いと思ってる気持ちに嘘はない。今度は、酒が入ってない状態で、リベンジさせて欲しい」
もちろん、そこで「やっぱり男は駄目だった」となる可能性もなくはなかった。
しかし、真瀬は俺のことを信じてくれて、その提案を受け入れてくれた。
で、その後二人はどうなったかって?
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