異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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序章 始まりの日々1 呪われた少女

005 魂の端末 (改)

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「それでは皆さん、ステータスプレートを提示してください」


 ラスティさんと今後の方針を話し合ったところで、支援者の代表のような人が全体に声をかけてくる。

 ラスティさんへの相談もひと段落したところなので、言われた通りにステータスプレートを見せると、なにやら大きめのスタンプのようなものをステータスプレートに押してきた。


「ご提示ありがとうございました。それでは皆さん、自分のステータスプレートを確認してください。『スペルド王国 9,2000リーフ』という表示が確認できてますかーっ?」


 説明に従って自分のステータスプレートに目を落す。



 ダン 男 25歳 村人
 スペルド王国 9,2000リーフ


 
 おお、言われた通りの表記が追加されているな?

 リーフはこの国の通貨単位だったはずだから、9,2000リーフ振り込んでもらったってこと……か?


 戸惑っているのはどうやら俺だけで他の人は特に疑問を持った様子もなく、その場は解散となった。


 だけど俺はワケが分からない。

 ラスティさんが帰っちゃう前に聞いておかないとっ……!


「ああっ! 済みません、確かにダンさんには説明の必要がありましたっ。う~ん、記憶障害って不便ですねぇ?」


 面倒ですが仕方ありませんね、と説明を始めてくれるラスティさん。

 ラスティさん。オブラートっ! もっとオブラート多めに包んで!


「これは今回9,2000リーフの助成金が、王国から皆さんに支払われたという事ですね。各種ギルドでステータスプレートを提示すれば、任意の金額を受け取ることが出来るんです」

「ええっと、つまりステータスプレートには、お金を登録して自由に出し入れする機能があるんですか?」


 例えるなら銀行預金みたいな?

 でもファンタジー世界にそんなのあるのかね? ゲームっぽいし何でもありかぁ?


「あはは。残念ながらステータスプレートにそんな便利な機能はありませんよーっ」


 無いらしい。

 でもこれって助成金を支払われたってことなんでしょ? ならいったいどういうことなんだ?


「これは厳密に言えば借金の表示なんです。『スペルド王国はダンさんに9,2000リーフの借金してます』っていう意味なんですよー」

「しゃ、借金ですか……?」


 予想外のワードにちょっとびっくりしてしまう。

 しかも国が俺に対して借金をしているって……?


「はい。ステータスプレートは魂に結びついた端末と言われてます。その性質上、ステータスプレートを介して幾つかの契約や誓約を行なうことが可能なんです」

「魂に結びついた……」

「例えばパーティ契約、婚姻、奴隷契約などなど。借金の誓約も出来るんですよ」


 ラスティさんは、ステータスプレートを介して借金の誓約が成立したと説明してくれるけど、正直よく分からない。


 パーティとか奴隷とか、気になるワードが目白押しだけど……。

 避難民に対する国からの助成金が、なんで借金扱いになってしまうんだ?


「えっと……。済みません、よく分からないです……。自由にお金の出し入れは出来ないけれど、借金のやり取りは可能っていったい……?」

「分かりやすく言いますと、ステータスプレートに表示されているのは国がダンさんに借金しているという事実だけであって、ステータスプレートにお金が実際に入ってるわけじゃないんです」


 ああ、電子マネーのイメージでステータスプレートにお金をチャージしているのかと思ってたけど、チャージされたわけじゃないのか。

 そう言えばさっき、お金の受け取りは各種ギルドでって言ってたっけ。


「ダンさんの言う様にお金を出し入れできたら便利なので、ステータスプレートの研究は続けられているんですけどねぇ。今のところ実現出来てないんです」


 ステータスプレートの研究?

 つまりこの表示は研究の末に実現された新たな機能って事?


「んと……。王国が俺に92000リーフを借金した事にして、俺は助成金としてそのお金をギルドで受け取れる様になった。ステータスプレートにお金が振り込まれたのではなくて、お金の受け取りが可能な証明書をもらった感じなんですかねぇ?」

「ダンさんの仰る、ステータスプレートに振り込まれるっていう部分は良く分からないですけど、その認識で大体合っていると思いますよ。要はその金額を各ギルドで受け取れるって話ですから」


 振込みって概念が伝わっていないので、いまいち噛み合わないな。


 でもラスティさんがまとめてくれた様に、大事なのはこのお金を受け取ることが可能であるってことだけだ。

 小切手みたいなものだと思えばいいのかな?


「ああっと、これも言っておいたほうがいいですよね。ダンさん、あまり現金を持ち歩かないほうが良いと思いますよー?」


 口調はちょっと砕けてきたけど、ラスティさんの表情は真剣だ。


 少しデリカシーに欠ける印象は受けるけど、この人が親身になってくれているのは疑いようがない。

 つまりラスティさんの忠告は、肝に銘じておくべき注意点だと認識すべきだ。


「ステイルークは比較的治安の良い場所ではありますが、それでも不届き者というのはどこにでもいます。もしも助成金を奪われてしまっても再度お支払いする事はできませんからね?」

「う、奪われてしまうことも想定しなきゃいけないんですね……」

「特にダンさんが村人である事が知れたら、良いカモだと思われることは間違いないです。本当に気をつけてくださいね?」

「な、なるほど……」


 今回の被災者たちに支援金が送られたのは誰でも想像できるけど、俺が村人であることはまだ知られていないんだ。

 更に付け加えるなら部屋着のような格好でも避難民なら不自然じゃないから、俺に戦闘能力があるかどうかはまだ確認出来ていないわけだ。


 だけどこの年齢で村人なら、まず間違いなく戦えないと判断されるだろう。

 そのうえ記憶喪失で、他の避難民にも頼る事の出来ない奴が大金を持っているなんて知れたら、直ぐにゴロツキどもに奪われてしまうってことかぁ……。


「明日には装備を揃えにお店を回るつもりだったんですけど……。現金化するのは危険ですか?」

「ステータスプレートに登録されたお金はそのまま使えるんです。お金を譲渡したい相手のステータスプレートと自分のステータスプレートを接触させれば任意の金額を譲渡できるので、是非活用してみてくださいねー?」


 おっと、電子マネーとは違うなんて思っていたら、プレート同士でお金のやり取りは可能なのか。

 ま、最終的に国が支払うお金は固定だから可能なんだろう。


「う~ん。借金の契約をそれだけ応用できるのなら、頑張ればステータスプレートにお金を登録することもできそうだけどなぁ」

「いやいや、それが出来ないんですよねぇ」


 残念です、と少し大袈裟に首を振って見せるラスティさん。

 その仕草に少し和んでしまったところで、雑談の延長のような口調で更に言葉が続けられる。


「ダンさん、ステータスプレートは魂の端末。他者と繋がるための端末なんです」

「ステータスプレートは、魂で誰かと繋がるためにあるもの、ですか……?」

「ステータスプレートに表示されているのはあくまで誓約や契約、言わば他者との繋がりなんですよ。物質である硬貨を登録することは出来ません。硬貨と人は繋がれませんから」


 ステータスプレートは己の身分を証明するものと言うよりは、他者との繋がりを証明するものなのか。

 身分証明証的な側面もあるけど、メインは他者との繋がりってわけか。


 つまり電子マネー的な使い方は、ステータスプレートの本来の用途ではないってことなのかな?


「ちなみにご覧になった通り、今回皆さんへの入金には専用のマジックアイテムを使用しました。あれは国庫からステータスプレートへのスムーズな入金を可能として、しかもお金が出て行くたびに勝手に記録と確認をして悪用を防いでいるんです。とっても便利なんですよーっ」


 えっへんと胸を張るラスティさん。可愛い。

 引き止めたお詫びと丁寧な解説のお礼を伝えると、失礼しますとラスティさんも帰っていった。


 説明会? が終わったら後は寝るだけのようだ。

 いそいそと寝支度を始める周囲の人たちに合わせて、俺も支給された毛布に包まる。


 この世界には電気も無ければそれに変わる照明も無いらしく、日が落ちたら月明かりくらいしか頼れるものがない。

 窓から見える夜空には月も星もあるようだけど。


「これから俺……どうなっちゃうのかな……」


 この世界に来て不安なことばかりで、薄い毛布に包まったまま色々なことを考えた。


 異世界に来てしまったこと……。もう2度と帰ることが出来ないかもしれないという現実は、なぜか自分でも驚くほど冷静に受け止められている。

 もしかしたら単純にまだ受け入れてないだけかもしれないけど、始めに見たのが大量殺戮現場だったせいで耐性ができたとか?


 開拓村と言っていた。村の名前は1度も聞いてない。

 ラスティさんも、想定以上に生存者が少なかったって言ってた。


 地面を流れる誰かの血。

 千切れてそこら中に散らばっていた人の肉片。

 人の焼ける音と臭い。

 耳を劈く沢山の悲鳴と、村が崩れて失われていく絶望の音……。


 俺の乏しい想像力じゃ、あれ以上の地獄絵図なんて想像も出来ない。

 今思い起こしても吐き気を催すような惨状なんだけれど、それ以上の恐怖を思い出して、吐き気になんか構っていられなくなる。


 あと数秒。

 もしかしたら瞬くくらいの、本当に紙一重の違いで、俺は間違いなく殺されてた……。


 突発的にあんな悲劇が起こるらしい世界で、生きていく自信なんてあるわけがない。


「『フレイムロード』……。とか言ったっけ……」


 流石にあのクラスの化け物は、国の最強クラスの人たちが相手取るわけだし、かなりのレアケースだよな……?

 そこまで考えて、ある可能性にも思い至る。 


「殆ど起こらない大災害が、偶然俺の来訪に重なった……?」


 ……震えが止まらない。


 開拓村の壊滅がレアケースだとしたら、あの場に俺が立っていたのは果たして偶然だったのか?

 俺が転移して来たせいで起こった、オープニングムービー的なイベントだったわけじゃ、ないよね……?


「…………っ」


 村での光景がまたフラッシュバックする。 

 全てが赤く、絶望に包まれたあの惨劇の原因が、もしかしたら俺にあるんじゃないのだろうか?



 確かめる方法なんてない。

 気にしたって仕方がない。


 死者が蘇る事など、ないのだから。


 でも俺自身がそうやって割り切って、簡単に忘れていい話なのかな……?

 だってこの世界にやってきたのは、勘違いだったとはいえ、俺自身の選択だったのだから。


 この日は全然眠る事が出来なくて、ひと晩中震えて過ごした。





「……大分明るくなってきたなぁ」


 それでもいつも通り朝は来る。


 外が明るくなってきたし、そろそろ起きても不自然じゃないかな。

 このまま横になってても眠れそうもないし、散歩と気晴らしを兼ねて外に出よう。


「早朝のはずだけど……。この世界の人たちは早起きだなぁ」


 外に出ると、まだ夜が明けたばかりのはずなのに思ったより人が活動していると感じた。


 少し肌寒く感じる早朝の空気の中、昨日は馬車の中だったので確認できなかったステイルークの街並みを改めて観察する。

 建物は殆ど木造、土台とかには石材が使われるのかな?


「う~ん……。建物の材質とか住人の情報なんかは分からないのか」


 歩きながら建物に鑑定を使用しても、表示される情報は無かった。

 鑑定は何にでも適用されるってわけじゃないのか?


「さて、それじゃせっかくだから、昨日ラスティさんに教えてもらった各種施設の場所でも確認してみるか」


 まだ裸足のままなので、変な物を踏まないように気をつけないとな。


 ステイルークは結構大きい街のようで、街の出入り口がどの方向にあるのか分からない。

 迷わない様に、宿から近い施設を中心に、各種施設の位置を覚えていく。


 特に今後お世話になる予定の施設、冒険者ギルドと武器、防具屋の位置を確認して宿に戻った。


「おはようございます。食べながらで構いませんので、少しだけお耳を拝借します」


 宿に戻って朝食を取っていると、難民担当の役人さん? が現れた。


 どうやらラスティさんは居ないようだ。

 個別に相談があるなら、今後はこっちから尋ねないといけないのかな?


「本日から皆さんは、ステイルークで自由に行動してもらって大丈夫です」


 自由行動ね。


 これはつまりこれ以上のサポートは期待するな、各々で仕事を探せと言っているんだろう。

 ラスティさんは難民に優先して仕事を回すような措置がとられているとも言っていたしな。


 ま、村人の俺が普通の仕事を紹介してもらうのは厳しいらしいけどさ。


「皆さん大きな怪我も無く、身動きが取れない者もいないということで、この場所、宿と食事の提供は30日後までと決まりました。なるべく早く自力で収入を得て、ここを引き払っていただきたいと思います」


 くっ……! そりゃずっと支援を受けられるわけじゃないだろうけど、30日か……!

 俺が思っていたよりもずっと余裕が無いかもしれない。


「30日を待たずにここを引き払われる場合は報告をお願いします。浮いた日数分の宿泊費をお渡しできますから。仕事の斡旋や相談については、各種ギルドか斡旋所をご利用ください」


 お金も貰ったし当面の宿の心配もないしで、かなり手厚い支援なんだとは思う。

 だって誰も不満げじゃない。お礼を言ってる人までいるようだ。


 早めにここを引き払っても、その分のお金も貰えるのは良心的だと俺でも思うもんな。

 難民なんてどんな扱いでも泣き寝入りするしかないのにね。


「話は以上です。早朝から失礼いたしました」


 ステイルークは皆様を歓迎致しますと言い残し、役人さんは帰っていった。


 さて、ぶっちゃけ難民の中で1番先行き不安なのは俺なんだよ。

 役人さんも帰ったし、グズグズしないでさっさと動くとしますかね。


 ……仮に開拓村壊滅の原因の一端が俺にあるとしても、だからと言って責任の取り方なんて分からない。

 ましてや責任を感じて死んでやるつもりだってない。


 むしろ無責任に死ぬことこそが許されないと思う。

 泥を啜ってでも、石に齧り付いてでも生き延びなきゃダメだ。


 靴は防具屋で販売していると聞いたので、まずは真っ先に防具屋に向かった。

 これから魔物を狩らなきゃいけない俺は、街の外を長時間歩き続けることになる。

 いつまでも裸足のままではいられないと思ったのだ。


「ココだココだ。あんまり高くないといいんだけど……」


 店の場所は散歩の時に確認済みなので、迷うことなく到着した。

 改めて外観を見ると結構広くて、木造ではなく石材で建てられている。


 早速中に入り、カウンターの奥に座っている無愛想な初老の店員に相談した。


「1番安い皮の靴で18000リーフ。その次となると5万リーフを超えてくるけど、アンタ買えるのかい?」

「……払えません」


 だろうねぇと興味無さそうに息を吐くお婆さん。

 1番安い靴でもそんなにするのかぁ……。


 でも街の外を歩き回るのに裸足って訳にもいかない。

 悔しいが仕方ないんだ。


「じゃあ済みませんが、その1番安い皮の靴を下さい。あと他に安い防具って何かありますか? 予算がそんなに無いんですけど」

「靴の次に安いって言ったら、まぁ木の盾かねぇ?」


 沢山の盾が立て掛けられている壁を指差しながら、質問にはしっかり答えてくれるお婆さん。


 皮の靴を購入して残金74000リーフ。

 武器を買う前にお金を使いすぎるのは危険だけど、他に買える物が無いか聞くだけ聞いておく。


「木の盾は26000リーフだね。皮の軽鎧なんかは最安値でも12万リーフだし、買えないだろ?」

「……まったく手が出ませんね」

「くくっ、駆け出しが全身の装備を揃えるのが1番難しいのさ。1度揃っちまえば意外とスムーズなんだけどね。ま、精々生き延びて常連になっておくれよ」


 閉口する俺の様子がおかしかったのか、かっかっかと笑いながら励ましてくれる防具屋さん。


 収入の目処が立ってないから出費が怖い。

 でも靴だけって訳にもいかないので、思い切って木の盾も購入する。


「支払いはステータスプレートかい。ああ、アンタってもしかして開拓村の?」

「ええ。当分この街で暮らすことになると思います。あ、ステータスプレート払いって初めてなんで、不手際があったら済みません」


 なんて一応予防線を張ったけれど、プレート同士を接触させたら頭の中で金額の操作が感覚的に出来た。

 モタつかずに済んで良かったぁ。


 靴と盾を購入して、44000リーフのお支払い。

 ……いきなり残金が半分くらいになってしまった件。


「まいど。次の来店まで死なないように祈ってやるよ」


 支払いが済むと、笑えない冗談と共に木製の盾と皮の靴を渡される。


 ……って、あれ? サイズ確認とか無いの?

 靴下も履いてないし、靴擦れとか怖いんだけど……。


 とりあえず履いてみて、合わなかったら交換を申し出よう。


「――――えっ……!?」

「ん? どうかしたかい?」

「……あ。いえ、なんでもないです」


 内心の動揺を押し隠して、怪訝な顔をする老婆をなんとか誤魔化す。


 本気で驚いた。

 靴に足を入れた途端、足に吸い付くように靴のサイズが変わったのだ。サイズピッタリだ。


 なにも説明されなかったってことは、この世界では常識的なことなんだろうな。

 記憶喪失だって説明すれば不審には思われなかったかもしれないけど、ボロを出さずに済んで良かった……。


 さて、脱ぐ時はどうすれば、と思った瞬間に靴が足から離れる。すげぇ便利ぃ。

 えっと、装着するとサイズが変わるって、まさかレア防具じゃないよな?



 皮の靴


 木の盾
 
 

 鑑定してもこれしか表示されないので、サイズ変更は一般的な機能なのか。あーびっくりした。

 あ、もしかして装備品はサイズが自動で変わるのかな?


 改めて店内を見渡してみると、サイズ違いの防具は置いてないことに気付く。

 少なくとも装備品に関してはサイズの心配は無さそうだ。


 購入した防具、皮の靴を履いて、木の盾を持った状態で自分を鑑定する。



 ダン
 男 25歳 人間族 村人LV1
 装備 木の盾 皮の靴



「……よし。ちゃんと表示された」


 武器が無いのが不安だけど、とりあえず装備品の購入には成功した模様。


 さて、お次は武器の調達をしないと。

 靴ですら18000リーフからとか、残金48000リーフで武器が買えるか不安だわぁ。


 魔物狩りには武器が必須と言われたのに、防具から揃えるビビリな自分が恨めしいよぉ……。
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