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7章 家族みんなで冒険譚2 聖域に潜む危機
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「……っ」
自分たちが守るべき……守っていたつもりだった聖域が壊滅寸前まで侵食されていると気付いた守人たちは、自分たちの実力不足に拳を握り、体を小さく震わせている。
討伐しておいてなんだけど、ヴェノムクイーンに気づくのは流石に無理だから、気にしなくていいと思うんだけどなぁ。
しかし……。まさかここまで侵食されているなんてね。
聖域の樹海のことをスペルド王国では『侵食の森』なんて呼んでいるけど、今にして思うととんでもなく皮肉なネーミングだったな……。
「はいはい落ち込むのはあとあと。まずはレリックアイテムの話をしようか」
パンパンと手を叩いて注目を集め、意識して軽い口調で話し出す。
みんなが落ち込むのも無理ないけど、落ち込んでたって事態は好転してくれないんだよ?
「結論から言うと、このレリックアイテムは聖域から動かせないと思ってるんだ。だから管理と防衛を守人のみんなに任せたいと思ってる」
「……ここまでの醜態を晒したワシらに、またレリックアイテムの管理を任せてくださると言うのですか……?」
ルドルさんは自信無さげに俺に問いかけてくる。
そんなルドルさん、そして他の守人たちにも力強く頷いてみせる。
「今のみんなにはレリックアイテムを護り抜く力は充分にあると思ってるよ。俺と出会った頃とは別人だと思ってる。だから今こそ守人の使命を果たしてくれないかな?」
「くぅ……! そ、それは勿論、身命を賭しても果たしたい所ですが……!」
使命感が強い守人のルドルさんに使命を果たして欲しいと告げたのに、それでも快諾してくれないほどに自信を喪失してしまっているようだ。
流石にいつも俺と一緒に居るヴァルゴは既に立ち直ってくれたようだけど、豪快なカランさんですら目に力が戻っていないように感じられた。
「……それじゃこの話は一旦置いておくよ。でも前向きに考えて欲しいな」
このままの状態で話をしても意味が無さそうだ。
ここは一旦話題を変えるとしよう。
「管理の話は別として、せっかく聖域の核を取り戻したんだ。早速このレリックアイテムを聖域に返そうじゃないか」
地面に置かれたままだった3つのレリックアイテムを拾う。
レリックアイテムが作動するところをみたら守人のみんなの気も変わるかもしれないし、先にレリックアイテムの方を解決してしまおう。
まずは均衡の祭壇を地面に立てて、開かれたその両手に逆位置の魔錠をセットする。ピッタリとハマったな。
ここで一旦動きを止めて周囲の様子を見ても、みんな固唾を飲んで見守るだけで、俺を制止しようとする動きは無さそうだ。
俺の行動に異論を挟む者は居ないようなので、逆位置の魔錠に付いている穴に正位置の魔鍵を深々と差し入れた。
「……挿し込んでみたけど、なにも起こらないな?」
首を捻りながら挿しこんだ魔鍵を捻ると、カチリと小さく音がして、魔鍵が魔錠に固定されたようだ。
しかしそれでも特に何も起こらない。もしかして壊れてる?
「見た目には何の変化も無いけど……。デモンズパニッシャーで壊れちゃったかな?」
「……いえ、大丈夫。ちゃんと機能し始めたみたいよ」
黒い瞳を蒼く変化させたティムルが、均衡の祭壇の様子を見ながら呟いた。
俺の五感では感じ取れないけれど、ティムルは熱視で明確な変化に気付いたようだ。
「どうやら3つのレリックアイテムは、組み合わせたことで1つになったみたいよ。アイテム鑑定してみて」
わざわざアイテム鑑定と言ったのは、キュールさんやチャールたちに分析官のことを知られないためかな?
そんなティムルの配慮を感じつつ、言われた通りに鑑定をしてみる。
整合の魔器
『整合の魔器』か。
正位置の魔鍵、逆位置の魔錠、均衡の祭壇が組み合わさったことで、整合の魔器と呼ばれる1つのレリックアイテムとして判定されるようになったようだ。
「今まで通り大気中の魔力を吸いながらも、魔力を放出しなくなってるわ。どうやら均衡の祭壇で魔力を調整中らしいわね」
「ふむふむ。ってことはとりあえずこれで一件落着?」
「えっとそれは……。ん~……これはちょっと下がった方がいいかもぉ?」
おっと? 流石に現実は甘くないってか?
ティムルがちょっと不穏な事を言い始めたので、整合の魔器から2歩ほど距離を取りながら問いかける。
「下がった方がって……。危険そうなの?」
「異界の魔力じゃあるまいし、滅多な事は起きないと思うんだけどね……。ただ、魔力の吸収に対して放出が一切行なわれていないみたいだから、ちょっとだけ不安なの」
「だそうだよ。みんな聞いてたね? このまま10歩ずつ下がって様子を見るとしようか」
なんて声をかけながら振り返ると、俺の声を待たずに既にみんなは後方に下がった後だった。
ティムルへの信頼度が高すぎる我が家の家族はまだしも、究明の道標の3人や守人たちまでティムルの言葉を信用しすぎてませんかねぇ?
だけど思い返してみたら、ティムルは守人たちにレインメイカーを齎した存在なんだった。
既に俺とは別ベクトルで崇拝されてたんだっけ。
我が家の家族はそもそも、俺とニーナがティムルへの依存度が高いんだよね。
最も辛い時期に俺達を助けてくれたティムルには、なんだか真っ先に甘えてしまう癖がついてしまっている気がするよ。
そして俺達2人に加えて、リーチェのティムルへの依存度がクッソ高いんだよ。
リーチェとティムルって仲が悪かったことって1度も無いし、下手すりゃ俺よりも仲がいいんじゃないかと感じるくらいに仲良しだ。
更にはエロ教官として、ムーリにはトライラム様と同じくらいに信仰されている節があるし、家族の半数がこれだけ甘えていたら、他のみんなも信用しちゃうだろうなぁ。
みんなに遅れて後方に下がり、なんだか愛おしくなったティムルの腰を抱き寄せて、ティムルと一緒に整合の魔器の様子を眺める。
すると1分も抱き合わないうちに魔器の周囲に変化が現れ始める。
「あ、ごめんねみんな。危険は無さそうよ」
「そうなの? でも危険が無いのはいいことなんだから謝らなくていいんだよ」
碧眼のティムルのほっぺにキスをして、ティムルと寄り添ったままで少し近づく。
んー? レリックアイテムの周りの地面がちょっと蠢いているような……?
「整合の魔器から地面に魔力が流れててね。その、魔力が今姿を現そうとしてるの。あっほらみんな! あそこ見てみてっ!」
「あっ! レリックアイテムの周りに芽が出てきたの……って、なんだかいっぱい生えてきたのーっ!?」
ニーナの素っ頓狂な声が響く。
ティムルに促されて整合の魔器を見たら、次々に芽を出し始める植物達。
植物の観察記録を早送りで見せられているような気分になるなぁ。
「どうやらレリックアイテムは正常に作動してるみたいねぇ……。魔力を植物に変換しているみたい」
「こんな……指2本で摘めるような小さな芽が、最終的にあの巨木になるんだなぁ……」
目の前で地面から芽吹いた植物達。
これがあんな大木になるまでには、いったいどのくらいの年月が必要になるんだろう。
ヴェノムクイーンを倒す為には仕方ない事だったと思うけど、失われた年月を思うと少し憂鬱な気分にはなるなぁ。
「……うん。魔力の流れも安定したみたい。もう安心よ」
「おっと、これ以上一気に大きくなるってわけじゃないんだ?」
芽が出る前は超高速で芽吹いてきたのに、今は成長を止めて楽しげに風に揺られている。
この世に生を受けたことが嬉しくて、喜びのあまりダンスを踊ってしまっているみたいに見えるな。
「魔器から地面に流れ出た魔力が、植物となって地表に芽を現したみたいねぇ。これからゆっくりと成長していくのかしらぁ?」
「これが本来の聖域の樹海の機能なんだね。なんだか感動するなぁ」
「……これが、聖域の本来の姿……? アレほど脅威に満ちて雄大であった聖域が、これではまるで赤子のようではないですか……!」
感動的な光景に目を見開く守人たち。
単純に感動している我が家の家族と違って、先ほどまで自信なさげにオドオドしていたのが信じられないような強い決意を感じさせた。
「こんなに愛おしくなるほどにか弱い聖域を……我等守人の手で守ってもいいのでしょうか……!?」
「揺れる新芽を見ていると、我らを歓迎してくれているように感じてしまうな……! この新しい生命の息吹を守れること、誇りに思いますぞっ」
小さい子供を眺める老人のような眼差しで、魔器とその周辺の新芽を見詰める守人たち。
彼らはお互いの顔を見詰めて力強く頷き合い、そして最終的にルドルさんが代表者として口を開いた。
「ダン様。聖域の管理と保護。是非とも我ら守人にお任せくださいませ」
「俺としては始めからそのつもりだったっての。宜しく頼むよ」
自分たちが守らなければ直ぐに消えてなくなりそうなほどにか弱く見える聖域の姿に、守人たちの庇護欲と使命感が燃え上がったようだ。
改めて宜しくと告げ、守人たちに聖域の守護をお願いする。
「でも大丈夫? 集落も壊滅しちゃったし、これから大変じゃないの?」
「いえ、むしろ好都合です。魔器を守るために、この近くに新たな拠点を構えたいと思っておりますので」
俺の問いかけに、使命感の灯を宿した瞳で即答するルドルさん。
いくら新たな使命に目覚めたとは言っても、自分たちの集落が壊滅した事実を好都合だと言い放ってしまうとは豪胆だなぁ……。
「それに、今や我らも移動魔法が使えますからね。アウター内の何処に集落を構えてもあまり差は無いでしょう」
「いやいや、出てくる魔物も変わるし、結構な差だと思うんだよ? 俺に出来る事があったら遠慮なく言ってね?」
「ああ、それでしたらダン様。転職魔法陣の敷設をお願いできますかのう?」
倒木によって失われてしまった転職魔法陣を、改めて敷設して欲しいと頭を下げてくるルドルさん。
それはお願いされなくても用意するってば。必要な施設なんだから。
守人たちが希望したのは戦士・商人・旅人の基本の3職と、魔法使いや行商人などの重要度が高い転職魔法陣だった。
それと万が一の可能性を考慮して、冒険者と探索者の転職魔法陣を敷設してあげる予定になった。
「仮にスペルド王国との縁が切れても何とかやっていけるように、各種職人ルートもお願いできたらありがたいです。どうでしょう?」
「王国と縁が切れるような事は避けて欲しいけどねぇ。まぁそのくらいなら融通してくれるかな?」
手持ちのサークルストラクチャーの在庫数だと、3つの集落にそれぞれ転職魔法陣を設置するには数が足りないっぽいな。
グルトヴェーダへの中継都市にもいくつか使っちゃう予定だしね。
ゴブトゴさんに追加発注してもいいんだけど、今忙しそうだからなぁ……。
自分で作れれば手っ取り早いんだけど、流石に教えてくれないか。
「そうだ。この機会に3部族が一緒になって暮らすって選択肢は無いの? そうすれば転職魔法陣の設置は1ヶ所で済むと思うんだけど」
「……ダン様にはご迷惑をおかけして申し訳ないが、出来れば3部族はそれぞれ別の場所に集落を築かせてもらいたいですな」
「迷惑とか気にしなくていいけど、理由は教えてくれる? 別に仲が悪いようにも見えないけど」
仲が悪いどころか、むしろ綿密に連携を取りあっているイメージがある。
聖域の樹海の異変をスペルドに伝えに行ったバロールの民を信用しきっていたし、職業の加護を得たばかりでまだ浸透も進んでいないはずなのに、俺のことを他の集落に伝えたりしてたのにな。
「1つは守護・防衛の観点からの話ですな。整合の魔器を守るために、3つの集落はそれぞれ別の方角を守護できればと」
「それって1つの集落になったとしても出来ることじゃないの? わざわざ部族ごとに分かれて生活する意味あるのかな?」
「我々は間違いなく同胞ではあるのですが、それと同時に槍の技術を高め合うライバル同士でもあるのですよ。なので常に一定の距離を保っておきたいと思っているのです」
槍を極める為に、同胞とは別居して研鑽を積み上げた方が良いらしい。
対抗心や競争心が刺激されることで、槍の技術を渇望する若い守人にもいい影響を与えるのだそうだ。
う~ん、分かるような分からないような……。
「もしかしたら種族代表者会議で、また違った結論が出るかもしれませんけどね。ですがそこは臨機応変に対応していくつもりですよ。我ら守人は対応力の高さに自信がありますので」
「対応力の高さかぁ……。確かにアウターに長年住み続けてたり、加護無しで魔物を殺したりしてたっけ……」
聖域の樹海だけじゃない。
ノーリッテに同時多発テロを起こされたときは、王国中に援軍として散らばってくれたし、既に終焉の箱庭やスポットにも進出してるんだっけ。
人によって性能が大きく異なる魔技といい、魔人族は対応力というか環境適応能力みたいなモノが優れている感じだ。
ここは下手に口を出さずに、長年聖域で暮らしてきた守人たちに判断を委ねるとするか。
「了解したよ。転職魔方陣については何とかするから、拠点作りと魔器の管理はしっかりね」
「ええ。必ずやダン様の信頼に応えてみせますよ!」
任せたよルドルさん。
今度はノーリッテが襲ってきても防衛できるように備えて欲しい。
これから守人の魔人族のみなさんは、魔器のあるこの場所を中心に、同じくらい距離を空けてそれぞれ集落を作りなおすことになった。
魔器の能力によって、今後この場所は森が深くなるかもしれない。
なのであまり魔器に近い場所に拠点を作るのは難しいかもと、徒歩では少し遠く感じる程度の間隔を空けて拠点を築くのだ。
元々あった集落がほぼ壊滅状態なので、拠点が出来るまでは食料の差し入れなどをすべきだろうか?
そんな風に気を使う俺に、カランさんの笑顔が向けられた。
「案ずるなダン殿! 我等はもう既に移動魔法を習得しているだろう? 物資や食料の調達で困ることはないはずだっ」
「……そうだったねぇ。確かに順応するのが早すぎるわぁ」
どうやら守人たちの今後の生活にも不安は無さそうだ。
アルフェッカで寝泊りや買い物をするのも抵抗は無いそうなので、ここは信じて任せるとしよう。
辺りはすっかり暗くなり、開けた空には星が瞬いていた。
ムーリ先生の特別授業も受けなきゃいけないし、今日のところはこれでお終いかなぁ?
じゃあまた明日と移動魔法を発動した俺達に向かって、守人のみんなは地面に膝をついて、まるで祈りを捧げるように頭を下げて俺達にひれ伏したのだった。
自分たちが守るべき……守っていたつもりだった聖域が壊滅寸前まで侵食されていると気付いた守人たちは、自分たちの実力不足に拳を握り、体を小さく震わせている。
討伐しておいてなんだけど、ヴェノムクイーンに気づくのは流石に無理だから、気にしなくていいと思うんだけどなぁ。
しかし……。まさかここまで侵食されているなんてね。
聖域の樹海のことをスペルド王国では『侵食の森』なんて呼んでいるけど、今にして思うととんでもなく皮肉なネーミングだったな……。
「はいはい落ち込むのはあとあと。まずはレリックアイテムの話をしようか」
パンパンと手を叩いて注目を集め、意識して軽い口調で話し出す。
みんなが落ち込むのも無理ないけど、落ち込んでたって事態は好転してくれないんだよ?
「結論から言うと、このレリックアイテムは聖域から動かせないと思ってるんだ。だから管理と防衛を守人のみんなに任せたいと思ってる」
「……ここまでの醜態を晒したワシらに、またレリックアイテムの管理を任せてくださると言うのですか……?」
ルドルさんは自信無さげに俺に問いかけてくる。
そんなルドルさん、そして他の守人たちにも力強く頷いてみせる。
「今のみんなにはレリックアイテムを護り抜く力は充分にあると思ってるよ。俺と出会った頃とは別人だと思ってる。だから今こそ守人の使命を果たしてくれないかな?」
「くぅ……! そ、それは勿論、身命を賭しても果たしたい所ですが……!」
使命感が強い守人のルドルさんに使命を果たして欲しいと告げたのに、それでも快諾してくれないほどに自信を喪失してしまっているようだ。
流石にいつも俺と一緒に居るヴァルゴは既に立ち直ってくれたようだけど、豪快なカランさんですら目に力が戻っていないように感じられた。
「……それじゃこの話は一旦置いておくよ。でも前向きに考えて欲しいな」
このままの状態で話をしても意味が無さそうだ。
ここは一旦話題を変えるとしよう。
「管理の話は別として、せっかく聖域の核を取り戻したんだ。早速このレリックアイテムを聖域に返そうじゃないか」
地面に置かれたままだった3つのレリックアイテムを拾う。
レリックアイテムが作動するところをみたら守人のみんなの気も変わるかもしれないし、先にレリックアイテムの方を解決してしまおう。
まずは均衡の祭壇を地面に立てて、開かれたその両手に逆位置の魔錠をセットする。ピッタリとハマったな。
ここで一旦動きを止めて周囲の様子を見ても、みんな固唾を飲んで見守るだけで、俺を制止しようとする動きは無さそうだ。
俺の行動に異論を挟む者は居ないようなので、逆位置の魔錠に付いている穴に正位置の魔鍵を深々と差し入れた。
「……挿し込んでみたけど、なにも起こらないな?」
首を捻りながら挿しこんだ魔鍵を捻ると、カチリと小さく音がして、魔鍵が魔錠に固定されたようだ。
しかしそれでも特に何も起こらない。もしかして壊れてる?
「見た目には何の変化も無いけど……。デモンズパニッシャーで壊れちゃったかな?」
「……いえ、大丈夫。ちゃんと機能し始めたみたいよ」
黒い瞳を蒼く変化させたティムルが、均衡の祭壇の様子を見ながら呟いた。
俺の五感では感じ取れないけれど、ティムルは熱視で明確な変化に気付いたようだ。
「どうやら3つのレリックアイテムは、組み合わせたことで1つになったみたいよ。アイテム鑑定してみて」
わざわざアイテム鑑定と言ったのは、キュールさんやチャールたちに分析官のことを知られないためかな?
そんなティムルの配慮を感じつつ、言われた通りに鑑定をしてみる。
整合の魔器
『整合の魔器』か。
正位置の魔鍵、逆位置の魔錠、均衡の祭壇が組み合わさったことで、整合の魔器と呼ばれる1つのレリックアイテムとして判定されるようになったようだ。
「今まで通り大気中の魔力を吸いながらも、魔力を放出しなくなってるわ。どうやら均衡の祭壇で魔力を調整中らしいわね」
「ふむふむ。ってことはとりあえずこれで一件落着?」
「えっとそれは……。ん~……これはちょっと下がった方がいいかもぉ?」
おっと? 流石に現実は甘くないってか?
ティムルがちょっと不穏な事を言い始めたので、整合の魔器から2歩ほど距離を取りながら問いかける。
「下がった方がって……。危険そうなの?」
「異界の魔力じゃあるまいし、滅多な事は起きないと思うんだけどね……。ただ、魔力の吸収に対して放出が一切行なわれていないみたいだから、ちょっとだけ不安なの」
「だそうだよ。みんな聞いてたね? このまま10歩ずつ下がって様子を見るとしようか」
なんて声をかけながら振り返ると、俺の声を待たずに既にみんなは後方に下がった後だった。
ティムルへの信頼度が高すぎる我が家の家族はまだしも、究明の道標の3人や守人たちまでティムルの言葉を信用しすぎてませんかねぇ?
だけど思い返してみたら、ティムルは守人たちにレインメイカーを齎した存在なんだった。
既に俺とは別ベクトルで崇拝されてたんだっけ。
我が家の家族はそもそも、俺とニーナがティムルへの依存度が高いんだよね。
最も辛い時期に俺達を助けてくれたティムルには、なんだか真っ先に甘えてしまう癖がついてしまっている気がするよ。
そして俺達2人に加えて、リーチェのティムルへの依存度がクッソ高いんだよ。
リーチェとティムルって仲が悪かったことって1度も無いし、下手すりゃ俺よりも仲がいいんじゃないかと感じるくらいに仲良しだ。
更にはエロ教官として、ムーリにはトライラム様と同じくらいに信仰されている節があるし、家族の半数がこれだけ甘えていたら、他のみんなも信用しちゃうだろうなぁ。
みんなに遅れて後方に下がり、なんだか愛おしくなったティムルの腰を抱き寄せて、ティムルと一緒に整合の魔器の様子を眺める。
すると1分も抱き合わないうちに魔器の周囲に変化が現れ始める。
「あ、ごめんねみんな。危険は無さそうよ」
「そうなの? でも危険が無いのはいいことなんだから謝らなくていいんだよ」
碧眼のティムルのほっぺにキスをして、ティムルと寄り添ったままで少し近づく。
んー? レリックアイテムの周りの地面がちょっと蠢いているような……?
「整合の魔器から地面に魔力が流れててね。その、魔力が今姿を現そうとしてるの。あっほらみんな! あそこ見てみてっ!」
「あっ! レリックアイテムの周りに芽が出てきたの……って、なんだかいっぱい生えてきたのーっ!?」
ニーナの素っ頓狂な声が響く。
ティムルに促されて整合の魔器を見たら、次々に芽を出し始める植物達。
植物の観察記録を早送りで見せられているような気分になるなぁ。
「どうやらレリックアイテムは正常に作動してるみたいねぇ……。魔力を植物に変換しているみたい」
「こんな……指2本で摘めるような小さな芽が、最終的にあの巨木になるんだなぁ……」
目の前で地面から芽吹いた植物達。
これがあんな大木になるまでには、いったいどのくらいの年月が必要になるんだろう。
ヴェノムクイーンを倒す為には仕方ない事だったと思うけど、失われた年月を思うと少し憂鬱な気分にはなるなぁ。
「……うん。魔力の流れも安定したみたい。もう安心よ」
「おっと、これ以上一気に大きくなるってわけじゃないんだ?」
芽が出る前は超高速で芽吹いてきたのに、今は成長を止めて楽しげに風に揺られている。
この世に生を受けたことが嬉しくて、喜びのあまりダンスを踊ってしまっているみたいに見えるな。
「魔器から地面に流れ出た魔力が、植物となって地表に芽を現したみたいねぇ。これからゆっくりと成長していくのかしらぁ?」
「これが本来の聖域の樹海の機能なんだね。なんだか感動するなぁ」
「……これが、聖域の本来の姿……? アレほど脅威に満ちて雄大であった聖域が、これではまるで赤子のようではないですか……!」
感動的な光景に目を見開く守人たち。
単純に感動している我が家の家族と違って、先ほどまで自信なさげにオドオドしていたのが信じられないような強い決意を感じさせた。
「こんなに愛おしくなるほどにか弱い聖域を……我等守人の手で守ってもいいのでしょうか……!?」
「揺れる新芽を見ていると、我らを歓迎してくれているように感じてしまうな……! この新しい生命の息吹を守れること、誇りに思いますぞっ」
小さい子供を眺める老人のような眼差しで、魔器とその周辺の新芽を見詰める守人たち。
彼らはお互いの顔を見詰めて力強く頷き合い、そして最終的にルドルさんが代表者として口を開いた。
「ダン様。聖域の管理と保護。是非とも我ら守人にお任せくださいませ」
「俺としては始めからそのつもりだったっての。宜しく頼むよ」
自分たちが守らなければ直ぐに消えてなくなりそうなほどにか弱く見える聖域の姿に、守人たちの庇護欲と使命感が燃え上がったようだ。
改めて宜しくと告げ、守人たちに聖域の守護をお願いする。
「でも大丈夫? 集落も壊滅しちゃったし、これから大変じゃないの?」
「いえ、むしろ好都合です。魔器を守るために、この近くに新たな拠点を構えたいと思っておりますので」
俺の問いかけに、使命感の灯を宿した瞳で即答するルドルさん。
いくら新たな使命に目覚めたとは言っても、自分たちの集落が壊滅した事実を好都合だと言い放ってしまうとは豪胆だなぁ……。
「それに、今や我らも移動魔法が使えますからね。アウター内の何処に集落を構えてもあまり差は無いでしょう」
「いやいや、出てくる魔物も変わるし、結構な差だと思うんだよ? 俺に出来る事があったら遠慮なく言ってね?」
「ああ、それでしたらダン様。転職魔法陣の敷設をお願いできますかのう?」
倒木によって失われてしまった転職魔法陣を、改めて敷設して欲しいと頭を下げてくるルドルさん。
それはお願いされなくても用意するってば。必要な施設なんだから。
守人たちが希望したのは戦士・商人・旅人の基本の3職と、魔法使いや行商人などの重要度が高い転職魔法陣だった。
それと万が一の可能性を考慮して、冒険者と探索者の転職魔法陣を敷設してあげる予定になった。
「仮にスペルド王国との縁が切れても何とかやっていけるように、各種職人ルートもお願いできたらありがたいです。どうでしょう?」
「王国と縁が切れるような事は避けて欲しいけどねぇ。まぁそのくらいなら融通してくれるかな?」
手持ちのサークルストラクチャーの在庫数だと、3つの集落にそれぞれ転職魔法陣を設置するには数が足りないっぽいな。
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ゴブトゴさんに追加発注してもいいんだけど、今忙しそうだからなぁ……。
自分で作れれば手っ取り早いんだけど、流石に教えてくれないか。
「そうだ。この機会に3部族が一緒になって暮らすって選択肢は無いの? そうすれば転職魔法陣の設置は1ヶ所で済むと思うんだけど」
「……ダン様にはご迷惑をおかけして申し訳ないが、出来れば3部族はそれぞれ別の場所に集落を築かせてもらいたいですな」
「迷惑とか気にしなくていいけど、理由は教えてくれる? 別に仲が悪いようにも見えないけど」
仲が悪いどころか、むしろ綿密に連携を取りあっているイメージがある。
聖域の樹海の異変をスペルドに伝えに行ったバロールの民を信用しきっていたし、職業の加護を得たばかりでまだ浸透も進んでいないはずなのに、俺のことを他の集落に伝えたりしてたのにな。
「1つは守護・防衛の観点からの話ですな。整合の魔器を守るために、3つの集落はそれぞれ別の方角を守護できればと」
「それって1つの集落になったとしても出来ることじゃないの? わざわざ部族ごとに分かれて生活する意味あるのかな?」
「我々は間違いなく同胞ではあるのですが、それと同時に槍の技術を高め合うライバル同士でもあるのですよ。なので常に一定の距離を保っておきたいと思っているのです」
槍を極める為に、同胞とは別居して研鑽を積み上げた方が良いらしい。
対抗心や競争心が刺激されることで、槍の技術を渇望する若い守人にもいい影響を与えるのだそうだ。
う~ん、分かるような分からないような……。
「もしかしたら種族代表者会議で、また違った結論が出るかもしれませんけどね。ですがそこは臨機応変に対応していくつもりですよ。我ら守人は対応力の高さに自信がありますので」
「対応力の高さかぁ……。確かにアウターに長年住み続けてたり、加護無しで魔物を殺したりしてたっけ……」
聖域の樹海だけじゃない。
ノーリッテに同時多発テロを起こされたときは、王国中に援軍として散らばってくれたし、既に終焉の箱庭やスポットにも進出してるんだっけ。
人によって性能が大きく異なる魔技といい、魔人族は対応力というか環境適応能力みたいなモノが優れている感じだ。
ここは下手に口を出さずに、長年聖域で暮らしてきた守人たちに判断を委ねるとするか。
「了解したよ。転職魔方陣については何とかするから、拠点作りと魔器の管理はしっかりね」
「ええ。必ずやダン様の信頼に応えてみせますよ!」
任せたよルドルさん。
今度はノーリッテが襲ってきても防衛できるように備えて欲しい。
これから守人の魔人族のみなさんは、魔器のあるこの場所を中心に、同じくらい距離を空けてそれぞれ集落を作りなおすことになった。
魔器の能力によって、今後この場所は森が深くなるかもしれない。
なのであまり魔器に近い場所に拠点を作るのは難しいかもと、徒歩では少し遠く感じる程度の間隔を空けて拠点を築くのだ。
元々あった集落がほぼ壊滅状態なので、拠点が出来るまでは食料の差し入れなどをすべきだろうか?
そんな風に気を使う俺に、カランさんの笑顔が向けられた。
「案ずるなダン殿! 我等はもう既に移動魔法を習得しているだろう? 物資や食料の調達で困ることはないはずだっ」
「……そうだったねぇ。確かに順応するのが早すぎるわぁ」
どうやら守人たちの今後の生活にも不安は無さそうだ。
アルフェッカで寝泊りや買い物をするのも抵抗は無いそうなので、ここは信じて任せるとしよう。
辺りはすっかり暗くなり、開けた空には星が瞬いていた。
ムーリ先生の特別授業も受けなきゃいけないし、今日のところはこれでお終いかなぁ?
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神の悪戯により死んでしまった主人公は、別の神の手により3つの便利なスキルを貰い異世界に転生する事になった。転生し、普通の人生を歩む筈が、又しても神の悪戯によってトラブルが起こり目が覚めると異世界で10歳の〝家無し名無し〟の状態になっていた。転生を勧めてくれた神からの手紙に代償として、希少な力を受け取った。
神によって人生を狂わされた主人公は、異世界で便利なスキルを使って生きて行くそんな物語。
書籍8巻11月24日発売します。
漫画版2巻まで発売中。
俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
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