日向野あかりは、親友に送るはずの恋をグルチャに誤爆した。

なかすあき

文字の大きさ
1 / 2
1章 親友に送るはずの恋をグルチャに誤爆した。

1-1

しおりを挟む
 12月。期末テストが終わって、町は勝手に年末モードで浮かれている。駅前のイルミネーションはピカピカで、コンビニの入口には小さいサンタが立っている。どこからか、クリスマスの曲まで流れてくる。
 中学2年生ともなると、そんな浮ついた町に男女で繰り出していって、青春の1ページどころか2ページ3ページ埋めてもおかしくない。
 なのに、あたしは自分の部屋で、ベッドに転がっていた。

 スマホを握ったまま、天井を見上げる。白い天井って、見つめているとだんだん遠くなる。ゆくゆくは宇宙まで広がっていく。宇宙なら、今の気持ちもどこかに放り投げられるのに。

 ……いや、無理だ。だって、重くて持ち上げることすらできないんだもん。

 テストは終わった。赤点だろうが、平均点だろうが、終わったものは終わった。見直しプリントが返ってきたときに泣けばいい。

 でも。

 “あの人”の前で、普通にしゃべるのって、なんであんなに難しいの。

 普通に、だよ? 大気圏突破みたいな大技じゃなくて、「おはよう」って言うだけでいいのに。

 今日も、話しかけられなかった。

 正確に言うと、話しかけようとはした。何回も。朝に教室に入ってきたときとか、授業前にプリントを配ってるときとか、お昼休みに廊下ですれ違ったときとか。タイミングはいっぱいあった。

 でも、そのたびに喉がきゅってなる。

 声って、いつも口の中にあるはずなのに、あの人の前だとどこかに隠れちゃう。
 かくれんぼ上手すぎない?
 きっときゅってなった喉の奥にいるんだろうけど、ビビりなあたしは確かめることができないでいる。

 ベッドの上で、あたしは仰向けのまま、スマホを持ち上げた。画面の光が顔に当たる。こういうときだけ、スマホってやけに元気だ。

 誰かに言わないと、頭の中がぐるぐるして、勝手に大事件になっちゃう。このまま同じクラスの間に話すことができなくて、3年生で別のクラスになってからも話しかける機会をうかがって廊下をうろうろして不審者として通報されて学校退学になって悪いことに手を染めて大犯罪者として名をはせて――大事件って、だいたい「考えすぎ」でできてる。

 だから、柚木ゆずきもも。小学校からの友だちで、中学から私立に行った子。話すと、なんでも「まあいっか」になりそうな声をしてる。あたしの避難場所。

 トーク画面を開くと、ももとの会話が出てきた。最後のやりとりは、昨日の「テストどうだった?」と「死んだ」だ。二人して死んだ死んだって、ゾンビ同士で話してる。

 あたしは入力欄に指を置いた。

 文章を考える。重くしない。重くしない。ももは笑ってくれるから、あたしも笑って送る。

 ――よし。

 あたしは、勢いで打った。

「ねぇ~もぉ~もぉ~、今日も話しかけられなかったんだけど!」
「ホントにさ~、どうして声が出ないの、あたし」

 送信ボタンの手前で、ほんの一秒、指が止まった。

 これ、恥ずかしくない? いや、恥ずかしいけど、恥ずかしいからこそ送る。ももなら大丈夫。ももは「名前を呼んだのか不満の“もう”なのかどっち?」って返してくる。たぶん。

 その瞬間。

「――あかりー! ごはんできたよー!」

 ドアの向こうから、お母さんの大きな声が飛んできた。

「はーい!」

 あたしは反射で返事をする。お母さんゆずりの大きな声。
 どうしてあの人の前では出ないんだろう。こんなに威勢がいいのに。

 ベッドから起き上がって、ドアの方に体を向ける。

 あっ、先にチャット送っておくか。
 送っておいて、ごはん食べつつ、ももの返事を待つ。それが今日の回復ルート。

 画面に視線を戻したあたしは、入力欄が空になっているのを見た。
 あれ? 起き上がったときに、変なとこ押しちゃったかな。

 深く考えずに、ぱぱぱっと親指を動かしてさっきのチャットを打つ。

 送信。
 ポポン、と軽い音が鳴った。

 ……次の瞬間、あたしの体が固まった。

 画面の上の宛先が。
 ももじゃない。

 見慣れたアイコンが並んでいる。クラスのグループ。2年3組の、スマホ持ってる子たちのグルチャ。
 そこに、さっきの文章が、堂々と表示されていた。

「ねぇ~もぉ~もぉ~、今日も話しかけられなかったんだけど!」
「ホントにさ~、どうして声が出ないの、あたし」

 あたしの頭の中で、何かが「ぴきっ」と音を立てた。

 心臓が止まった、ってこういうこと?

 いや、止まってない。むしろ、今までで一番動いている。

 だって。

 今、あたしの恋の悩みが。

 クラスのグルチャに。

 送られた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

童話短編集

木野もくば
児童書・童話
一話完結の物語をまとめています。

傷ついている君へ

辻堂安古市
絵本
今、傷ついている君へ 僕は何ができるだろうか

まぼろしのミッドナイトスクール

木野もくば
児童書・童話
深夜0時ちょうどに突然あらわれる不思議な学校。そこには、不思議な先生と生徒たちがいました。飼い猫との最後に後悔がある青年……。深い森の中で道に迷う少女……。人間に恋をした水の神さま……。それぞれの道に迷い、そして誰かと誰かの想いがつながったとき、暗闇の空に光る星くずの方から学校のチャイムが鳴り響いてくるのでした。

わたしの婚約者は学園の王子さま!

久里いちご
児童書・童話
平凡な女子中学生、野崎莉子にはみんなに隠している秘密がある。実は、学園中の女子が憧れる王子、漣奏多の婚約者なのだ!こんなことを奏多の親衛隊に知られたら、平和な学校生活は望めない!周りを気にしてこの関係をひた隠しにする莉子VSそんな彼女の態度に不満そうな奏多によるドキドキ学園ラブコメ。

お月様とオオカミのぼく

いもり〜ぬ(いもいもぶーにゃん)
絵本
ある日の雲一つない澄みわたった夜空にぽっかり浮かぶ大きな満月。その下に広がる草原に一匹の…まだ子供の真っ黒なオオカミがちょこんと座っていた。 「今日は、すごい大きくて、すごい丸くて、立派なお月様…こんなお月様の夜は、人間になれるって森の図書室の本で読んだけど…ええっと…えーっと…どうするんやっけ…?」 と、うーんと考え込む子供のオオカミ。 「えーっと、まずは、立つんやったっけ?」 うーん…と言いながら、その場で立ち上がってみた。 「えーっと、次は、確か…えーっと…お月様を見上げる?…」 もしよろしければ、続きは本文へ…🌝🐺

くらげ のんびりだいぼうけん

山碕田鶴
絵本
波にゆられる くらげ が大冒険してしまうお話です。

ノースキャンプの見張り台

こいちろう
児童書・童話
 時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。 進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。  赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

処理中です...