処刑された悪の侯爵令嬢に代わり、彼女の心を歪めた相手を処分します。私を騙して逃げた彼を捕まえ、永遠に私の物にするために必要な儀式だから

manji

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第5話

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「イベントかしら?」

――オートムーブが解除され、私の意識が現実に引き戻される。

オートムーブとは神様から貰ったチート能力の一つで、これを使うと体が勝手に生活を送ってくれるという物だ。
意識の方はその間オフになっており、何か特別な事が起きる予兆を察知すると解除され、ダイジェスト情報がパッと頭に入って来る感じになっている。

アレーヌの願いを叶えるには、何年もかかってしまうからな。
その間、侯爵令嬢としての生活などやってられないので、どうでもよさそうな部分はこれで飛ばさせて貰っているという訳だ。

「今日は誕生日みたいね。止まったって事は、何かあるんだろうけど……」

現時点でのアレーヌにとって、誕生日など特に何の意味もない一日でしかない。

本来高位貴族の子女ならば、誕生会などが開かれる物だ。
だが両親から冷遇されていた彼女には、そういった催し所か、誕生日のプレゼントさえも用意される事はなかった。

「お嬢様。ケーキをお持ちしました」

扉がノックされたので返事を返すと、侍女達が大きなケーキを乗せたカートを押して部屋に入って来た。

「料理長がお嬢様の誕生日にと……」

どうやら、新たな料理長が気を利かして作ってくれた様だ。
確実に前の料理長が首になった影響だろうと思われる。
取り敢えず席にき、私は侍女が切り分けたケーキを口に運ぶ。

「あら……あらあらあら」

なにこれ!?
超美味しんですけど!?

私は甘い物が大好きだ。
前世では癒しと称して、スイーツを週末ごとによく楽しんだものである。
そして今食べたケーキの濃厚な味は、それらと比べてそん色ないどころか、それ以上の物だった。

異世界おそるべしね。
ひょっとして、この味を楽しませてくれる為に、オートスキップは止まったのかしら?
って、そんな訳ないわよね。
きっと他に何かある筈よ。
でも……

「うんんん……美味しいわぁ……」

幸福を噛み締めケーキを頂いていると、部屋の扉がノックされる。
侍女達はこの場にいるので、それ以外の来客という事になる訳なんだけど……思い当たる相手が全くいない。
いったい誰なのかしら?

「どなたかしら?」

「アレーヌお嬢様。バロック坊ちゃまがお会いしたいとの事で」

どうやらやって来たのは、弟のバロックの様だった。

……まさか誕生日祝い?

このタイミングだとそれ以外考えられないわよね。
まあ姉の誕生日を知らず、偶々訪れた可能性が無いとは言い切れないけど。
まだ幼い子供だし。

「入って構わないわ」

アレーヌの記憶にはないイベントだけど、特に断る理由もないのでオーケーを出す。
因みに、彼女の弟は報復対象に入ってはいない。

アレーヌは父親に愛されていたバロックの事をねたんでいたし、セリンという伯爵令嬢の事で揉めてもいる。
だが、最後の瞬間、彼女の呪いに弟への報復はなかった。

――まあ仲が悪かっただけで、明確に攻撃された訳じゃないからだろうけど。

因みに、皇帝となった皇太子に貸し密金庫のカギを見つけ出して渡したのは彼ではない。
犯人は父親の方である。
アレクセイ侯爵は、自分の人生における汚点の血が、新たな皇室の中心となるのが嫌だった様だ。

本当に碌でもない親父である。

因みに、侯爵は報復リストのトップを飾っていた。
彼女を歪ませた原因なのだから当然よね。

因みに、今の私の力なら両親は元より、アレーヌと約束を破って冷遇した皇太子を殺す事も容易かったりする。
なにせ、私には神様から貰ったチート能力があるから。

暗殺どころか、正面から乗り込んでも簡単に復讐できるんだけど……でもその手段じゃダメなのよねぇ。
最終的には物理的でもいいのだけれど、報復はある程度手順を踏む必要がとなる。
要は、精神的に一発お見舞いする必要があるって訳よ。

「お姉様!お誕生日おめでとうございます!これを!」

「ありがとう。綺麗なお花ね」

笑顔で入って来た弟が、私に花束を渡して来る。
その背後に控える侍女は、ラッピングされた大きめの箱を抱えていた。

「こちらはバロック様からのプレゼントでございます」

箱の方は、バロック付きの侍女からこっちの侍女に手渡された。
やはりアレーヌの誕生日を祝いにやって来た様だ。

……しかし解せないわ。

料理長がケーキを作ってくれたのは分かる。
私の最初の行動の結果だから。
けど、アレは弟には何の影響もなかったはず。

何がどう影響してこうなったのか、完全に意味不明ね。

「本当はお父様に行っちゃだめって言われてたんだけど、お母さまがこっそり時間を作って下さって……」

バロックの母親は父の妾で、名をエスメラという。
そういえば彼女は、10歳の時に用意された執事が来るまで、この屋敷で唯一アレーヌに真面に対応していた大人だったわね。
行ってみれば、唯一の常識人である。

まあ当の本人は、そんな相手を空気の様に見ていた訳だけど……

恐らくエスメラは前回の騒ぎが発端で、アレーヌの事を気にかけ出したのだろう。
何せ7人も処刑される大事になった訳だし。
弟を寄越したのは、アレーヌとバロックを仲良くさせる事が目的に違いない。

次期侯爵となるバロックと懇意にしておけば、アレーヌへ白い眼を向ける人間達への牽制になる。
実際もし弟がちょくちょく彼女の部屋を訪れていたなら、以前の様な事は起きなかったはず。
それに上手く行けば、バロックが侯爵との橋渡になる可能性もあるし。

まあ、アレーヌの記憶を見た限り、あの父親がそんな事で絆されるとは到底思えないけどね。

「そう。エスメラ様にはお礼を言わないとね。こんな可愛い天使を、私の誕生日に送って下さったんだもの」

我ながら完璧なポエム調の社交辞令だ。
言ってて恥ずかしくなる。

「そんな……お姉様」

バロックが頬を染めて俯く。
弟は緑色の髪と青い瞳を持つ美少年で、将来は超がつくイケメンへと進化する。
当然、モテモテ。
にもかかわらずセリン一筋なんだから、まるで乙女ゲームの男キャラみたいなポジションなのよね。
この子。

「ふふ。プレゼント、中を見てもいいかしら」

「はい!」

侍女がラッピングを外し、箱を空ける。
中から出て来たのは小振りなヴァイオリンだった。

貴族として必要最低限な教育しか受けていないアレーヌには、当然そんな物は弾けない。
なので渡されても困ると言うのが本音だ。
いやまあ、チート能力があるから、その気になれば弾けなくもないんだろうけど……別に弾きたいって願望はないし。

「実は僕!最近ヴァイオリンを習い始めたんです!」

「そうなの?」

「はい!出来たらお姉様と一緒に練習したいなって思って!」

バロックが目をキラキラと輝かせる。
きっと彼の頭の中では、仲良く姉と並んでヴァイオリンを弾く姿が浮かんでいるのだろう。

――けどまあ無理ね。

プレゼントを渡すのですら、バロックの母親であるエスメラが手を打つ必要がある程だ。
一緒に練習するなど、絶対に許される訳が無い。

まあそれを指摘する程、私も野暮ではないけど。
後で絶対がっかりするわよねぇ。
そう思うと、ちょっと可哀そうに思えて来る。

まあだからって、過度に干渉する気はないけど……

「ねえバロック。もしよかったら一緒にケーキを食べない?」

「いいんですか!?」

特にバロックと仲良くする必要は無かった。
けど、プレゼント渡したんだからもう帰れでは流石にかわいそうなので、侍女にバロックの椅子と紅茶を用意させる。

本当はケーキを独り占めしたかったんだけど……ま、しょうがないわよね

「うわぁ!このケーキ美味しいですね!」

その後30分程、私はバロックと共に歓談して過ごす。
子供の相手は嫌いじゃないからそこそこ楽しめはしたけど、ここでの弟との触れ合いが原因で、私は父親である侯爵の怒りを買ってしまう事に。

ほんと、器の小さい人だわ。
アレーヌの父親って。
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