1 / 43
1 嫌われ者の僕※
しおりを挟む
僕は下級貴族の子爵家に生まれた子どもだった。兄が3人いて、家督争いにいつも不穏な雰囲気が漂う家だった。
親族間の抗争が起こり、下剋上による家督争奪というドロドロした対立も発生しかねない不仲な家だった。跡式争論するほどの財も地位もない家のはずなのに、あるのは爵位に縋る見栄だけの家族・・だけど、僕には何も関係のないことだ。
家族は僕が見えていない。見ようとしない。ずっと居るのに居ないものとして扱われてきた。誰も僕に興味なんて抱かなかったし、特別な世話もされて来なかった。
小さいころの記憶はない。
ある日突然、意識が芽生えた。
僕は知らない家の見た事もない部屋で意識が浮上して、自分が誰なのかも分からないでいた。
それがどうやら13才の誕生日の朝だったようで、誰かに力ずくで寝台から引きずり下ろされた。
「え!?痛っ!」
「生意気にも声を出すとは!早く毒味をしろ!13になった日が特別だとでも?今日くらい逃れられると思ったか!?気持ち悪い奴め、この悪魔!その声すら憎々しい!」
そんな言葉を浴びせられ、とても傷付いたのを覚えている。
毒味、それは一日に三度、僕が行う仕事だった。
他には床磨きや窓拭きなどもしなければならず、毒の入ったスープを飲んでしまった時には、身体が痺れて仕事が出来ない事があった。ひどく嘔吐してしまったり、泡を吹いたりして意識を失った事もあった。
僕がこれまでに食らった毒は11回だ。どの時もしばらく起き上がる事が出来なくなって、いつまでも痺れが身体に残って本当に辛かった。だけど、不思議と死ぬ事はなくて、ちゃんと部屋のどこかで目覚めることが出来た。
何故毒で死なないのかは分からない。だけど実際には回復して、また毒味の仕事を繰り返す。
18才になったある日、父親に呼ばれ床に座らされた。父親と言ってもほとんど会った事もなければ、会話をした覚えもない。だから初見の他人のように感じてならなかった。
「お前を王宮の毒味役にする。もうここへ戻って来るな。まあ、いずれ毒を喰らえば死ぬんだ、せめて国の為に死ねばいい」
「はい・・」
「声を出すな!虫唾が走る!もういい、出て行け!」
いつも通りだ・・他者からの罵声も暴言もいつもと変わらない。僕がいれば誰もが忌み嫌うような目を向けてくる。声を出せば拒絶される。
虫唾が走る、憎々しい・・そんな風に言われるほどのいったい何を・・僕はしてしまったんだろう。
13歳よりも前の記憶がない。もしかしたら僕は、自分でも理解し難い程の、何かとんでもない事をしてしまったんだろうか。
これまで家の使用人も家族も、誰も僕と話そうとはしなかった。名前すら呼ばれない、だから自分の名前も分からない。まるで僕がいない世界のように扱われてきた。使用人たちの名前すら知らない、だって僕を見ると慌てて姿を消してしまうから。
いったい何をしたのか・・知りたいけれど、それを聞く機会すら僕には与えられなかった。
家を出ていく時も、誰も僕に構う人なんていなかった。持ち物は少ないし、特別に困る事なんてなかったけれど、王宮までの道のりがあまりにも遠くて、歩いて3日もかかるとは知らず、野営に苦労する事になった。
王宮でもさほど僕への扱いは変わらなかった。
誰も僕に声を掛ける人なんていなかったし、万が一にも声を出してしまえば、やっぱり喋るなと罵られ、時には酷く殴られる事があった。
ただ違うところがあるとすれば、僕に監視が付いた事くらいだ。
もしかしたら、この監視役の人や他にも僕に構ってくれる誰かが現れるのではないかだなんて期待したけれど、それはあまりにも夢見がちな願望だったようだ・・
嫌われ者の僕は、どこに行っても嫌われるのだと分かった。
だから僕は、とにかく人と関わらないように過ごした。些細な理由で痛みを与えられる事が怖かったからだ。
僕は毎日を静かに過ごし、存在しないものとして暮らす事にした。監視役の人は僕が傷を付けられても、罵られても顔色一つ変えず、もちろん助けてくれる事なんてしなかった。
今日の一日が何事もなく終わってくれたなら、それでいい。とにかく夕方まであと少し。仕事が終わるまで、誰とも顔を合わせず、話さず、静かに過ごすんだ。そんな思いで身を小さくしながら日々を過ごした。
伸びた髪で頬や目元を隠して、僕からも視界に何も入らないようにした。見えるのは最低限でいい。
身に付けてきた衣類は僕が逃亡しないようにと取り上げられ、代わりに粗末なものを与えられた。飾りの何も付いていない麻色のものだった。
頭からすっぽり被ると、少し丈の足りない裾が両膝の上で揺れる。風で捲れないように、座った時に下着が見えないように、僕はこの頼りない服がとても嫌だった。
ある日、地下で作業をしていた時に王宮に立ち入る男に襲われた。
王宮の地下には水を汲み取る水脈を引いていて、僕はいつもそこで使用人たちの衣類を洗う作業をしていた。その日も朝の毒味が終わって、地下に降りてきた所で男と遭遇した。
男は僕の髪を乱暴にかき上げてニヤリと笑うと、裾から服の中に手を入れてきた。
僕は抵抗して逃れようと背中を向けた時に、首元を掴まれて羽交い締めにされ、激しく平手打ちにされた。
男は僕の事を冷たい土床に突き飛ばし、乱暴に押し倒した。
男は準備がどうの、と言いながら僕を四つ這いにさせると「足を閉じてろ!」と言って太い性器を太ももの間に入れてきた。
何度も僕の太ももの間で性器を擦ってきて、最後は顔にめがけて大量の精液をかけられた。
僕は男から離れて顔を見ると、むやみに足を出して誘ってきた僕が悪いと言って、また何度も顔を殴られた。それから、僕を殴った時に精液で手が汚れたと言いながら怒り出して、蹴り飛ばされてしまった。
涙が溢れて止まらなかった。だけど、そんな様子を見て男は「泣いてもお前なんかに同情するものはいない」と言って立ち去った。
何をしても、しないでも、結局は僕が悪い。
だけど何がいけないのか分からない。
ただ、意識を持ってこの世界で目覚めた13才の頃から、僕は誰からも嫌われていた。
親族間の抗争が起こり、下剋上による家督争奪というドロドロした対立も発生しかねない不仲な家だった。跡式争論するほどの財も地位もない家のはずなのに、あるのは爵位に縋る見栄だけの家族・・だけど、僕には何も関係のないことだ。
家族は僕が見えていない。見ようとしない。ずっと居るのに居ないものとして扱われてきた。誰も僕に興味なんて抱かなかったし、特別な世話もされて来なかった。
小さいころの記憶はない。
ある日突然、意識が芽生えた。
僕は知らない家の見た事もない部屋で意識が浮上して、自分が誰なのかも分からないでいた。
それがどうやら13才の誕生日の朝だったようで、誰かに力ずくで寝台から引きずり下ろされた。
「え!?痛っ!」
「生意気にも声を出すとは!早く毒味をしろ!13になった日が特別だとでも?今日くらい逃れられると思ったか!?気持ち悪い奴め、この悪魔!その声すら憎々しい!」
そんな言葉を浴びせられ、とても傷付いたのを覚えている。
毒味、それは一日に三度、僕が行う仕事だった。
他には床磨きや窓拭きなどもしなければならず、毒の入ったスープを飲んでしまった時には、身体が痺れて仕事が出来ない事があった。ひどく嘔吐してしまったり、泡を吹いたりして意識を失った事もあった。
僕がこれまでに食らった毒は11回だ。どの時もしばらく起き上がる事が出来なくなって、いつまでも痺れが身体に残って本当に辛かった。だけど、不思議と死ぬ事はなくて、ちゃんと部屋のどこかで目覚めることが出来た。
何故毒で死なないのかは分からない。だけど実際には回復して、また毒味の仕事を繰り返す。
18才になったある日、父親に呼ばれ床に座らされた。父親と言ってもほとんど会った事もなければ、会話をした覚えもない。だから初見の他人のように感じてならなかった。
「お前を王宮の毒味役にする。もうここへ戻って来るな。まあ、いずれ毒を喰らえば死ぬんだ、せめて国の為に死ねばいい」
「はい・・」
「声を出すな!虫唾が走る!もういい、出て行け!」
いつも通りだ・・他者からの罵声も暴言もいつもと変わらない。僕がいれば誰もが忌み嫌うような目を向けてくる。声を出せば拒絶される。
虫唾が走る、憎々しい・・そんな風に言われるほどのいったい何を・・僕はしてしまったんだろう。
13歳よりも前の記憶がない。もしかしたら僕は、自分でも理解し難い程の、何かとんでもない事をしてしまったんだろうか。
これまで家の使用人も家族も、誰も僕と話そうとはしなかった。名前すら呼ばれない、だから自分の名前も分からない。まるで僕がいない世界のように扱われてきた。使用人たちの名前すら知らない、だって僕を見ると慌てて姿を消してしまうから。
いったい何をしたのか・・知りたいけれど、それを聞く機会すら僕には与えられなかった。
家を出ていく時も、誰も僕に構う人なんていなかった。持ち物は少ないし、特別に困る事なんてなかったけれど、王宮までの道のりがあまりにも遠くて、歩いて3日もかかるとは知らず、野営に苦労する事になった。
王宮でもさほど僕への扱いは変わらなかった。
誰も僕に声を掛ける人なんていなかったし、万が一にも声を出してしまえば、やっぱり喋るなと罵られ、時には酷く殴られる事があった。
ただ違うところがあるとすれば、僕に監視が付いた事くらいだ。
もしかしたら、この監視役の人や他にも僕に構ってくれる誰かが現れるのではないかだなんて期待したけれど、それはあまりにも夢見がちな願望だったようだ・・
嫌われ者の僕は、どこに行っても嫌われるのだと分かった。
だから僕は、とにかく人と関わらないように過ごした。些細な理由で痛みを与えられる事が怖かったからだ。
僕は毎日を静かに過ごし、存在しないものとして暮らす事にした。監視役の人は僕が傷を付けられても、罵られても顔色一つ変えず、もちろん助けてくれる事なんてしなかった。
今日の一日が何事もなく終わってくれたなら、それでいい。とにかく夕方まであと少し。仕事が終わるまで、誰とも顔を合わせず、話さず、静かに過ごすんだ。そんな思いで身を小さくしながら日々を過ごした。
伸びた髪で頬や目元を隠して、僕からも視界に何も入らないようにした。見えるのは最低限でいい。
身に付けてきた衣類は僕が逃亡しないようにと取り上げられ、代わりに粗末なものを与えられた。飾りの何も付いていない麻色のものだった。
頭からすっぽり被ると、少し丈の足りない裾が両膝の上で揺れる。風で捲れないように、座った時に下着が見えないように、僕はこの頼りない服がとても嫌だった。
ある日、地下で作業をしていた時に王宮に立ち入る男に襲われた。
王宮の地下には水を汲み取る水脈を引いていて、僕はいつもそこで使用人たちの衣類を洗う作業をしていた。その日も朝の毒味が終わって、地下に降りてきた所で男と遭遇した。
男は僕の髪を乱暴にかき上げてニヤリと笑うと、裾から服の中に手を入れてきた。
僕は抵抗して逃れようと背中を向けた時に、首元を掴まれて羽交い締めにされ、激しく平手打ちにされた。
男は僕の事を冷たい土床に突き飛ばし、乱暴に押し倒した。
男は準備がどうの、と言いながら僕を四つ這いにさせると「足を閉じてろ!」と言って太い性器を太ももの間に入れてきた。
何度も僕の太ももの間で性器を擦ってきて、最後は顔にめがけて大量の精液をかけられた。
僕は男から離れて顔を見ると、むやみに足を出して誘ってきた僕が悪いと言って、また何度も顔を殴られた。それから、僕を殴った時に精液で手が汚れたと言いながら怒り出して、蹴り飛ばされてしまった。
涙が溢れて止まらなかった。だけど、そんな様子を見て男は「泣いてもお前なんかに同情するものはいない」と言って立ち去った。
何をしても、しないでも、結局は僕が悪い。
だけど何がいけないのか分からない。
ただ、意識を持ってこの世界で目覚めた13才の頃から、僕は誰からも嫌われていた。
33
あなたにおすすめの小説
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜
小屋瀬
BL
「兄さんは僕に守られてればいい。ずっと、僕の側にいたらいい。」
魔法高等学校入学式。自覚ありのブラコン、レイ−クレシスは、今日入学してくる大好きな弟との再会に心を踊らせていた。“これからは毎日弟を愛でながら、大好きな魔法制作に明け暮れる日々を過ごせる”そう思っていたレイに待ち受けていたのは、波乱万丈な毎日で―――
義弟からの激しい束縛、王子からの謎の執着、親友からの重い愛⋯俺はただ、普通に過ごしたいだけなのにーーー!!!
冬は寒いから
青埜澄
BL
誰かの一番になれなくても、そばにいたいと思ってしまう。
片想いのまま時間だけが過ぎていく冬。
そんな僕の前に現れたのは、誰よりも強引で、優しい人だった。
「二番目でもいいから、好きになって」
忘れたふりをしていた気持ちが、少しずつ溶けていく。
冬のラブストーリー。
『主な登場人物』
橋平司
九条冬馬
浜本浩二
※すみません、最初アップしていたものをもう一度加筆修正しアップしなおしました。大まかなストーリー、登場人物は変更ありません。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
【完】君に届かない声
未希かずは(Miki)
BL
内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。
ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。
すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。
執着囲い込み☓健気。ハピエンです。
縁結びオメガと不遇のアルファ
くま
BL
お見合い相手に必ず運命の相手が現れ破談になる柊弥生、いつしか縁結びオメガと揶揄されるようになり、山のようなお見合いを押しつけられる弥生、そんな折、中学の同級生で今は有名会社のエリート、藤宮暁アルファが泣きついてきた。何でも、この度結婚することになったオメガ女性の元婚約者の女になって欲しいと。無神経な事を言ってきた暁を一昨日来やがれと追い返すも、なんと、次のお見合い相手はそのアルファ男性だった。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
王太子殿下に触れた夜、月影のように想いは沈む
木風
BL
王太子殿下と共に過ごした、学園の日々。
その笑顔が眩しくて、遠くて、手を伸ばせば届くようで届かなかった。
燃えるような恋ではない。ただ、触れずに見つめ続けた冬の夜。
眠りに沈む殿下の唇が、誰かの名を呼ぶ。
それが妹の名だと知っても、離れられなかった。
「殿下が幸せなら、それでいい」
そう言い聞かせながらも、胸の奥で何かが静かに壊れていく。
赦されぬ恋を抱いたまま、彼は月影のように想いを沈めた。
※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」にて同時掲載しております。
表紙イラストは、雪乃さんに描いていただきました。
※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。
©︎月影 / 木風 雪乃
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる