エルフの恋の話~王子妃セスから冒険者レノになった話 シリーズ第3弾~

氷室 裕

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⑧少年の頃から

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 キース兄上は昔からエルフィードを気に入っているようだったが、少年だった頃の俺は幼なじみのルシオと過ごす時間に夢中だったし、エルフィンド王国からの来賓が来てもあまり興味が湧かなかった。

 エルフの王族は、俺たち家族の色に良く似ていた。交流もそこから始まったみたいなものらしいが、ひとりだけ違う色を纏った美しく儚げなエルフがいたのを覚えている。

 銀色の髪が誰よりも煌めいていて目を引いたし、アメジストのような瞳はまるで宝石の如く、長いまつ毛がそれを隠してしまいそうで勿体ないとさえ思った。

 その華奢なエルフを、俺は少女だと思って声を掛けたことがあった。エルフは自然が好きだと聞いていたから。

「ねぇ君、城の裏手に湖があるんだ。花が美しく咲いているから行ってみるといいよ」
「本当ですか?ありがとうございます、ヒューベルト王子殿下」

 少女はエルフィードと名乗り、花よりも美しく微笑んで礼を言った。
 俺は思わず見とれながらも、俺の後ろで顔を赤らめるキース兄上が「本当に綺麗な王子だな・・」と呟いた事に驚いた。まさか、あの美少女が王子だとは思わなかったから。

 あれから何度も国同士の交流が続いたが、俺たちは特に親交を深める事もなく、距離が縮まらないまま大人になり、アンティジェリア王国で再会した。

 美少女だったエルフィードは相変わらず美しかったが、男女問わず次々に誘惑してもてあそぶ好色な男になっていた事に驚き呆れもした。
 後になってそれは誤解だと分かったが、勝手に恋されて勝手に騒がれる・・『アメジストの君』の苦労っぷりには見ていて気の毒になるほどだった。

 エルフィードは、それをさほど気にしている様子は見せなかったし、そのうちいつでも上手くあしらうようになった。

 エルフィードはセスに恋した時から楽しげに笑うようになって、本気になれる自分にも驚いているようにさえ見えた。

 エルフィードには、心から愛されていると実感できるような恋が必要だ。それがキース兄上だというなら言う事はない。
 エルフィードは兄上の色が嫌い、か・・それを知っているキース兄上はこれからどうするのだろうか。

 キース兄上の私室を訪ねると、珍しく落ち込む兄上が俺を見て苦笑いをしている。楽しそうにも見えるし、困っているようにも見えて、思わず俺は渋い顔になる。

「俺はエルフィードに嫌われているようだ。愛してると伝えたら逃げられた」
「兄上、告白するにはまだ早過ぎます・・あいつは恋愛経験がないと伝えたはずですが?」

 それにしても急展開だな。
 もう愛してると伝えたのか?

 エルフィードは冒険者だと思い込んでいた男に、強気で楯突いていた。それが実はキース兄上だと気が付いて驚いていたと聞けば、そんな様子くらい容易く目に浮かぶ・・

 俺が見た湖での2人のやり取りは、まるでエルフィードの一方的な喧嘩のようだったし、さらに言えばやたらと冒険者の男に当たり散らしているようにも見えた。
 エルフィードが俺以外の者にそんな態度を表すなんて、本当に珍しい。

「そうなんだが、気持ちが押さえられなかったんだ。エルフィードは俺の色が嫌いだそうだ、こればかりはどうにもならないな」

 キース兄上は、エルフィードのなりたかった色そのものだ。
 自分だけ違う事に劣等感を抱き、愛に飢えている。愛されたいのに愛されない。エルフィードはキース兄上を見る度に、苦しい思いをしていたのだろうか。ならばエルフィードにとってキース兄上は・・お互いに愛する相手になどなれそうなない。

「もっと上手く出来なかったんですか?手強いですよ、エルフィードは。なんせ、自己不信の塊のような男ですから」
「まるで警戒心の強い猫みたいだな?自己評価の低さに落ち込みやすい性質、思い込みも激しい。かといって純粋で素直・・可愛い子だよ、まったく」
「エルは今、本当に心が危うい状態です・・あまり目を離したくない。なるべくシュウやセスと一緒にいさせてはいますが、ひとりになりたがって、気が付けばいなくなっている。ずっと部屋に引きこもっていたと思っていたのに、あれからほとんど屋敷にいようとしません」
「ああ、知ってるよ・・また森や丘で過ごしている。俺のせいかもな」

 寂しがり屋の癖に、どうせひとりで森や丘で泣いているんだろ?心配になるじゃないか。

「少し様子を見てきます。心配なので」
「分かった、悪いな、ヒュー」
「兄上・・キース兄上はあんな厄介なエルを、本当に心から愛せますか?大切に出来ますか?もし、引き返すなら今です・・迷うならもう引いて下さい」

 俺は兄上に真剣に伝えると、少し難しい顔をしたキース兄上を残して森へ向かった。

 俺が部屋を出て行った後、「俺の、エルへの片思いがどれくらい長いのかお前は知らないだろ?」なんて呟いたとは知る由もなかった。

 











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