王子妃セスから冒険者レノになった話

氷室 裕

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第19章 リティニア王国編

③ルシオを想ふ

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 俺はリティニア王国に戻ってから数日経ったある日、ようやくルシオの眠る場所に足を向けることができた。

 モネの花・・八重に咲く水色の花を手向けて、墓石にそっと額を擦り付ける。

 ルシオに会いたくて会いたくてたまらない。
 どんなに時間が経っても、俺が必要としているのはルシオなんだと思い知る。俺の心はあの日からずっと光を失ったままだ。

 会いたい・・会いたい・・会いたい・・
 ルシオに会いたいんだ。

「ルシオ・・ルシオ」

 ルシオの赤紫色バーガンディ髪・・ルシオの少し翠がかった藍晶石シアナイトの瞳・・ルシオの、強くて優しいまなざし・・

 ルシオを失ってから、俺はイヴの姿を見るのが辛くてたまらなかった。
 同じ髪の色、瞳の色も。顔立ちだって本当によく似た兄妹だから、どうしてもルシオの姿と重なって、悲しみが込み上げて・・苦しくて耐えられなかったんだ。

 俺はルシオに結婚の報告をして屋敷に戻ると、サロンの片隅にあるソファーに腰掛けた。

「ヒュー?ねぇ、お前どうしたの?大丈夫なの?」
「・・」
「何かあったの・・?ひゅう・・」

 俺は中庭に咲くモネの花を見つめる。ルシオが好きだと言っていた花・・水色の・・八重の花・・
 ルシオは俺の瞳の色と同じだから好きなんだと、笑いながら俺を揶揄っていた。

 中庭に咲くモネの花をルシオの墓石に手向けた・・俺はその花をルシオが好きだと言ったから、城の至る所に咲かせたんだ。

 だけど悲しい・・お前の墓石に手向ける花を育てるのは苦しいよ。

「ああ・・ごめん、何でもない、大丈夫だ」

 サロンにはレオナルドやセス、エルフィードにシュウ・・それにオットーにソラル・・
 俺はこんなにも多くの友人たちに囲まれているというのに、心が淋しくて淋しくて堪らない・・

 ルシオ・・一番側にいて欲しいお前が、どうしてここにいないんだよ・・

 俺は心臓が痛くなって、胸をギュッと掴むようにして服を強く握り締める。苦しくて、息が詰まりそうになった。息をするのが辛い、こんな・・友人たちの前なのに・・上手く、息が、できない。

「ひゅう!ひゅう・・泣かないで・・」
「・・」

 俺、泣いて・・
 涙がぱたぱたと落ちて頬を伝う。それに気が付いて涙を止めようとするのに、どうしてもそれができなかった。

 エルフィードとセスが俺を挟んでソファーに座ると、ふたりが俺を優しく抱き締めて頭を撫でてくる。
 サロンにいる友人たちは立ち上がって、心配そうにしながら俺たちの周りに座り直して見守っている。

 こんな子供扱い・・嫌なのに・・本当に嫌なのに・・ルシオがいつもこんな風に俺を宥めながら甘やかしていたのを思い出して苦しい・・

「おいおい、ヒューベルト・・お前どうしたんだ?マリッジブルーかよ」
「シュウ!揶揄わないで!!」
「あー、セス悪い・・冗談だって・・ヒューベルト、ごめんな?」
「ひゅう?ね・・良かったら、俺たちに話してみない?お願いだから、ひとりで悲しまないで・・?」
「そうだよ、ヒュー・・私たちはみんな、お前の親友なんだから」

 親友か・・親友・・俺の親友、ルシオ・・

 俺はまだ夢の中にいて、目が覚めたらルシオが側にいて・・いつもみたいに俺を甘やかして笑ってくれたらいいのに。でもこれが現実・・ルシオのいない世界が、俺の世界だ。

 嫌だ・・嫌だ・・何で・・

 何度思い返してみても分からない・・
 あの時、俺たちに何が起きたのか、本当に分からないんだ・・だって、俺もルシオもちゃんと戦えていた。

 分からないままだから、俺はいつまで経っても、ルシオを送ってやれない。
 俺の苦しみは、いつまでも終わらないんだ。













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