王子妃セスから冒険者レノになった話

氷室 裕

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第1章 王宮編

⑩セスの看病※

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 呪術を掛けられたあの日から、2度目の週末が来た。

 先週のセスは、しきりに私を追いかけて話がしたいと懇願した。
 可愛いが・・殺したくなる。

 私は感情を抑え、ことごとくセスを拒絶し言葉を交わす事をしなかった。

 今日はどうかと言うと・・セスは私の元へ来ることはなく、静かな週末の朝を迎えた。
 何故ならセスは、今週に入ってから私を追うのをピタリとやめたからだ。

 私はセスと過ごせないから、魔女ウィリアの居場所を探す。
 セスは今日もひとりで何をして過ごすのだろうか・・可哀想に思うが仕方がない。
 そう思いながら出かける準備を始める。

 まずは西国タリアネシアへ向かう。
 早馬を走らせれば半日もかからないだろう。
 途中、転移魔法で飛べば、その分魔女ウィリアを探す時間に当てられる。

 しかし、あれから夕刻になろうと言うのに、大した手がかりもなく国に戻るしかなかった。
 かなり時間を使ったが、今から帰るとなると城に着くのは20時頃か・・
 そう思っていた時、セスが眠りについたのを感じとった。
「まだ16時を過ぎたところだが、セスは眠ってしまったのか?」
 私は馬を走らせ、急ぎ城へと向かった。

 途中、転移魔法でアンティジェリア王国へ飛ぶと城の門番が慌てて駆け寄って来た。

「レオナルド殿下!お帰りをお待ちしていました!セス様がお倒れになったとの事です!お急ぎ下さい!」

 門番から話を聞いて、すぐに私室に向かった。

 夕刻、セスが眠ったのを感じた・・
 それが倒れた時刻と言うことか!?

 途中、転移魔法で飛んで来たが、すでに2時間半も前の事だ。
 私はセスがこんな事になっているのに、何をしているんだ!!

「セス!」

 私はセスの眠る部屋に駆け寄ると、侍女は静かに状況を伝えてきた。

 朝からセスが城の外に行っていたのは知っている。だから私はセスに護衛を付けた。
 しかし、途中で私が付けた護衛に気が付き、それを巻いたという。
 その後は捜索したが、見つからないまま夕刻になり、王宮内で倒れているセスを、私の側近であるオットーが見つけたとの事だった。

 外傷もなく衣服の乱れもなかったようで、ただ眠るように横たわっていたと。

 寝台に近づいてセスの顔に触れると、頬から熱が伝わってきた。

「熱があるのか!?」

 侍女は、準備したタオルでセスの額を冷やし、様子を伺っている。

「殿下、セス様に定期的に果実水を飲ませて差し上げて下さい。かなり高い熱が出て、汗もかいていらっしゃいますから。着替えなど必要なものはこちらにご用意致しましたが、何かあればお呼び下さい。殿下のお食事もすぐにご準備してお持ちします」

 そう言うと侍女は部屋を出て行った。

「セス・・ごめん。こんな時に1人で心細かったよね・・」

 寝台の傍に置いた椅子に座ると、セスを見つめる。

 しばらくすると、侍女が食事を持って戻ってきた。
 私は風呂に入る間侍女にセスを任せ、ザッと汗を流した。1日中馬で掛けて来たから土埃が酷い。

「助かった、もう出ていい」

 礼を言うと、侍女は頭を下げて部屋から出て行った。

 私は、指先でセスの唇にそっと触れてみる。
 ふっくらとしていて、小さくて可愛らしい。
 愛しさが込み上げてくる。

 毎晩、セスが眠ってから私室に行くのが私の日課だった。
 1日中、負の感情との戦いで苦しいが、この時間だけは至福の時であり、セスの唇を奪う事が出来るのだから。
 エメラルドの瞳を見ることは叶わず、会話も出来ないが、目の前にいる唯一の存在が私の救いだった。

「セス、愛しているよ」

 そう囁くと唇に口付けた。

 しばらくすると、セスは熱で魘され出した。
 どんどん熱が上がり心配になる。
 果実水を何度も口移しで飲ませ、水分補給をした。

「うぅ・・やだ・・はぁはぁ・・」

 セスは苦しそうに魘されると、涙が頬を伝う。

「や・・行かな・・で・・」

 何に魘されているんだろうか・・
 私は流れた涙をすくって頬に口付けを落とす。

「セス、こんなに泣いて・・私はどうしたら・・」

 寝込むセスの側から離れず見守った。
 時々口移しに果実水を飲ませると、コクンと喉を鳴らす。
 セスは高い熱を出して、何度も魘された。

 時間が経ち少し落ち着くと、額に張り付いて乱れた髪を掻き分け横に流した。
 魘される事はなくなったが、赤みを帯びた顔が顕になると、まだ回復には時間が掛かりそうだと分かる。

 酷く汗をかいている。
 少し躊躇われたが、体を冷やすといけないから着替えをさせる事にした。

 汗で濡れた寝間着を、ゆっくりと脱がせる。
 女性であるセスの裸を、まだちゃんと見た事がない。
 くびれた細い腰、華奢で細い手足は美しく、胸は豊かで魅惑的で・・堪らない気持ちになる。やはり本当に女性の身体に・・

 当然男性の象徴はなく、薄い陰毛が秘部を隠している。
 ・・少しだけ秘部を広げて舐めてみる・・舌を忍ばせてみる・・
 あぁ・・やめられなくなりそう・・くちゅりと舌を這わせて差し込んでみる・・

「はぁ、堪らない・・本当に美しいな・・」

 興奮を抑えて堪える・・早く服を着せないと・・
 レオナルドは手早く丁寧に体を拭くと、清潔な寝間着に取り替えた。 

 朝日がカーテンの隙間から入り込む頃、私はセスにもう一度果実水を飲ませ、長めのキスをした。

 離れがたくて堪らない。
 急に目覚めたらどうしようかとヒヤヒヤしながら、それでも止められない。

 セスの唇を舐めてみる。
 力をなくした唇を割って、舌を捕らえて舐める。甘くて柔らかい。

「はぁ・・セス。愛しているよ、心から」

 そう言うと小さな体を優しく抱きしめた。

 また深夜になった。
 それでもセスは目を覚まさない。
 私は侍女にセスを頼み、私室を離れようと立ち上がった。

「ん?なんだ?」

 ふと居室のソファーテーブルの上にキラリと光る何かが見えてそこに向かった。
 それは私がセスに贈ったネックレスだった。

「いつから外して・・?そう言えば着替えの時に着けてなかったな」

 昨日、城を出る時にはすでに外していたのか。
 ネックレスを外させないように出来ないものだろうか。
 とはいえ、ネックレスをしていたとしても病気からは守ることは出来ないが。

「セスを頼む」

 そういうと私室から執務室へ向かった。



 夜風が少し冷たい。
 このところ、季節の情緒を感じる暇もなかった。
 これまでは、セスがいるだけで自然の美しさがより輝いて見えたし、セスとともに春の芽吹きを楽しみ、夏の暑さえ心地よいものに思えた。
 セスが見せる表情一つ一つが私の心を癒した。
 秋が訪れ、今は夜の静けさも月の輝きも、私には虚しく感じてならない。

 セスがいなければ意味がないんだ、私の生きる意味が。

 早くあのエメラルドの瞳が見たい。
 私を恥ずかしそうに見つめる、あの表情が見たい。
 抱きしめると幸せそうに微笑み、胸に擦り寄ってくるセスを感じたいんだ。

 このままセスとすれ違ったまま、万が一にもセスの心を失ってしまったら、そうなったら私は生きて行けない・・いや、絶対に逃がさない!やっと手に入れたんだ!
 早く・・早くどうにかしなければ。









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