王子妃セスから冒険者レノになった話

氷室 裕

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第1章 王宮編

⑪従者オットーの心配事

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 滞ってしまった執務を放置出来ず、私は仕方なく執務室に戻ると、オットーが書類の整理をしていた。

「夜が明けるぞ、少し休め」

 話しかけるとオットーは小さく息を吐いて、私に向き直った。
 そして書類を片手に立ち上がる。

「セス様のご様子はいかがですか?殿下こそ、ちっともお休みになられていません。少し眠って下さい」

 机の上には山積みの書類が置かれているが、きちんと整理されていて、私がセスに付きっきりの間にも処理された形跡がある。本当に頼もしい側近だ。

「オットーがセスを見つけてくれたんだな?礼を言うよ、助かった。セスはまだ目を覚まさない・・あれから1日半経つと言うのに。城外に出たようだが、私が付けた護衛を巻いてまで何をしていたんだか・・」

 セスはあまり活発な子ではない。
 物静かで、1人でどこにでも行くような事はなかった。
 ここ最近は、早朝から図書室に通ったり、剣術にも興味を示している。
 いったい何をしようとしている?

 ましてや護衛を巻くなんて、私に知られたくない事でもあるのか?
 セスが街に出れば、私はその行動の一部始終を知る事になる・・それをセスも理解しているだろうから。

「それは・・心配です。しかし殿下までお倒れになればセス様が悲しみます。どうかお休みになって下さい」

 オットーが本心で言っているのが分かる。
 確かに西国タリアネシアから戻った後から休んでいない・・少しだけ、仮眠を取ったほうが良いかもしれないな。

「分かった。私室のソファーで休む。お前も休んでくれ」

 そう言うとオットーはホッとしたような表情を見せた。

「オットー、それはなんだ?急ぎの案件か?」

 私は、オットーの手にある書類を指して尋ねる。

「はい、こちらはザルハ辺境伯の領地からの救済依頼です。魔物討伐に関するもので、大森林から襲いかかる魔物のせいで一部壊滅状態に。急ぎの案件が他にもありますが心配無用です。こちらで対処します」

 ザルハ辺境伯領か。東方領域全域を補償していて、国境にも近い。
 仮にここで混乱が起きるということは、多少なりとも国にも影響を及ぼす程のダメージがある。

「話せ」

 魔物か・・ある程度のものであれば辺境伯領の騎士団が対処できなはずはない。
 救済依頼・・?ならば、空を飛ぶ魔獣が飛来したか・・

「グリフォンです・・いくら辺境伯領の騎士団でも難航するでしょう・・しかし騎士団長に任せれば問題ないかと」

 すぐにでも現地に向かう必要があるな。
 ザルハ辺境伯領か・・少なくとも王都から4日はかかる。
 往復と討伐・・10日がいいとこだろう。

 セスを置いて行きたくはないが仕方がない。
 私が行かなければ、難儀するだろう。

「明日朝、第1騎士団と私の私兵で出発する。編成は任せるから準備をしてくれ。他の急ぎの案件も目を通すから私室へ書類を持っていく」

 躊躇わずそう伝えると、オットーの表情がくもる。

「いえ、殿下はセス様のお傍に。殿下が行かずとも他の者がおります。第1騎士団団長がいればまずは心配ありませんから」

 そう押し通すような口調で言ってはいるが、相手がグリフォンとなるとそうはいかない。
 群れで飛来した場合は団員にも多くの被害が出るだろう。
 私ならすぐに片付けられる。

「とにかく、もう決めた事だ。オットー、留守を頼む。お前はセスを守れ」
「・・かしこまりました。ではこれを。明日の準備はお任せ下さい」

 オットーは、そう言うと数枚の書類を手渡してきた。

 夜明けまであと4時間か・・
 私は私室に戻ると、手早く書類に目を通す。
 急ぎのものが中にはあるが、ザルハ辺境伯領の件が済んだら帰還前に立ち寄れば事足りるか・・

「少し、休もう・・セスの側で・・」

 セスの顔色を見る。
 苦しげな表情はしていないし、呼吸も穏やかだ。
 眠る前に果実水を飲ませ、何度も唇を食み、ゆっくりと長いキスをした。

 セスを瞳に映せない事が名残惜しいが、セスが眠る寝台の傍に長椅子を持ち込み横になった。




 本来なら主人を守るための側近、何時でも離れずどこにでも付いて行き護衛するべきだ。

 しかし私はレオナルド殿下にとって必要がない。
 卑屈で言っているのではない、あのお方は誰よりも強いから。

 守ることすら出来ないのかと悩んだのはとうの昔の事だ。

 ならば私は私の出来る事をするだけだ。

 軍事作戦の形式上のトップとして従事することに打って付けのレオナルド殿下に任せれば、なんの問題もない事くらいわかるのだが、それでも今の殿下には10日の遠征は酷な事だ。

 目がいつ覚めるか分からないセス様を置いて行くのだから。









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