王子妃セスから冒険者レノになった話

氷室 裕

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第5章 生還編

①シュウは楽器を作りたい

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「黒、また来たの?可愛いね、おいで?」

 黒いわんちゃんは俺に近づいて来てぴたりと体を寄せると、しっぽを俺の体に巻き付ける。

 冬も終わりに近づいて、雪がほとんど溶けてなくなった。
 河川敷の植物も、芽を出し始めている。
 俺は河川敷の縁台に座って、森を眺めていた。

「まだまだ寒いね、お前は暖かそうだ。ふふっ」

 俺は黒の首に腕を回して抱きついてみる。

「あー・・気持ちいい・・暖かい。俺を暖めて?」

 嫌がるかなと思ったけど、身動きもせずただじっとしたまま俺のほっぺたをぺろりと舐めた。

「あははっ!くすぐったい!」

 ふわふわの耳をフニフニと揉んで楽しんでいると、さすがに嫌だったのかブルブルと体を振った。

「お前を家に入れてあげたいけど、そんな事をしたらきっと情が移ってしまうからなぁ・・」

 飼い犬にはしてあげられない。
 俺は冒険者だし、帰って来れない事だってあるんだから。

「レノ!?」

 呼ばれて振り返る。

「シュウ?いらっしゃい!どうしたの?」

 突然の訪問に俺は立ち上がって、シュウの側に近づく。
 黒がシュウと俺の間に入り、小さく唸る。

「あ!黒!ダメだよ、唸っちゃ!シュウは、俺の友達なんだよ」

 黒が静かになって座る。
 本当にお利口な子だ。
 まるで、俺の言葉が分かっているみたい。

「寒いから家に入ろう。黒は来ちゃダメだよ、またね」

 黒の頭を撫でて、シュウと一緒に家へ向かった。



 家の中は暖かい。
 俺はシュウに暖かい紅茶を入れて差し出す。

「ありがとう。あのさ、レノ!あの黒い奴さ・・まも・・」
「可愛いよね!毎日のように家に来るんだ!寒いから家に入れて上げたいんだけど、そんな事しちゃうと野良犬じゃなくなるし・・」
「野良犬・・?あれさ、犬なのか?」
「え?犬でしょ?あ、今日ね!街に行った時に、ローニ親方にお願いしてたフライパンを受け取って来たんだ!」

 俺は、今朝シュウに会いに工房に行った。
 シュウが休みだと聞いて、代わりにローニ親方が渡してくれたんだ。
 卵焼き専用のフライパン!

 レインはいつも、ツカサさんから卵焼きを作ってもらって喜んでいた。
 だから、レインにも作ってあげたいんだ。
 シュウを見ると浮かない顔をしている。

「シュウ?大丈夫?」
「あ、ああ・・俺は大丈夫だけどさ。あの黒い奴、危険じゃないのか?」

 また黒の話?

「んー・・最初は驚いた。出会った時、縁台で寝てたらしっぽを布団代わりに温めてくれてたんだ。本当に優しい子だよ?あれから大分経つけど、触っても平気だし」
「そうか・・気を付けろよ?」

 大丈夫だよ?見た目は鋭さがあるし、大きいから最初は少し怖かったけど、よく見れば本当に綺麗な瞳で可愛いし、ふわふわモコモコな毛並みはいい香りがするんだ。

「分かった」

 そんなに心配しなくても、黒は大丈夫なのに。シュウは唸られちゃったから、怖いと思うよね。

「そう言えば、今日は魔物狩りの誘いに来たんだ」
「そうなの?シュウが?めずらしいね。目的を聞いていい?」

 俺は、シュウが時々ギルドで依頼を受けているのを知っている。お使い依頼や薬草なんかも採取に行っているようだ。
 だから、魔物と聞いた時めずらしいと思ったし、なるほど!俺の力が必要なんだなと嬉しくなった。

「楽器の素材集めだよ。どうしても強い材料が必要なんだ。後は金属。出来たら銅とか錫で合金を作りたい、ギター線。エレキみたいな音が出るように魔道具つけて近いもの作りたいんだ」
「行こう!!今から?何を狩る?」

 そんな楽しそうな話を聞けば、行くしかないじゃないか!大丈夫!シュウは俺が守るから!

「ははっ!良かった。なら行こう!バジリスク狩り!」
「え!バジリスク!?」

 美味しいあいつは、冠のようなトサカの雄鶏の胴体と蛇の尾を持つとされる体躯が巨大な魔獣だ。
 バジリスクに睨まれると石化してしまうという、強力な能力を持つ。

「ああ!レノ、行くよ!」

 俺たちは、ギルドでバジリスク狩りの報酬を受けられるように言伝をして出発した。

 城下から馬で数時間進むと、砂地の乾燥地帯がある。その岩場の上に、バジリスクの巣があるという。

 俺は案の定、馬に乗れないのでシュウの前に鎮座する・・早く馬に乗れるようにならないとなぁ。

 いつも、カイルやエルから『俺が乗せてやるから心配するな』『私の前に乗ればいいよ』と甘やかされている。

「シュウは魔物に慣れてないよね?怖くないの?いきなりバジリスクだなんて」

 俺は、シュウはあくまでも職人であり、冒険者ではないことを心配した。
 俺だって、まだ怖い魔物がいるんだから。

「とくに怖くはない。材料集めは趣味みたいなものだし、しょっちゅう狩りに行ってる。バジリスクは猛毒を持っているし、視線で石化する能力があるだろ?だからレノを誘った」

 なるほど。万が一の時は、俺の状態異常魔法が便利という訳だな。そうか、狩りに行ってるんだね。

「じゃあ、俺が真っ先に毒や石化魔法を受けないようにしないとだね」
「そういう事だ」




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