王子妃セスから冒険者レノになった話

氷室 裕

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第5章 生還編

③卵と小妖精

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「レノ、あとはバジリスクの卵があるか見て帰ろう!」
「あの巣の中だね・・持ち帰るの?」
「俺は卵の殻を道具の素材にしたいんだ。食べてみるか?肉が美味いなら卵もいけるだろ?」

 俺たちは、バジリスクの巣に向かってよじ登っていく。
 簡単に登ることが出来て、岩の平らな部分にある巣を覗いてみた。

 卵が3つ。
 人の頭ほどある大きなものだった。

「あ、重い。ぎっしりだ。またしっかり育って肉になって貰わないとだから、1個は残して行くか?」
「いいの?こんな危険な魔物、放置して」
「育った頃に、また肉を頂きに来ればいいんじゃないの?それに、素材も必要だしね。その時はまたレノが頭を切れよ」

 シュウは怖いものなしだ。職人というより冒険者っぽい。

「ははっ!分かった!あれ?シュウ、これって・・もしかして」

 卵を取り出してマジックバックに入れて行くと、隙間から人型の石化したものが転がっていた。

小妖精ピクシー?」

 俺は、手のひらにそっと乗せると、シュウと2人でそれを見つめた。

 背中に蝶々やトンボのような羽が付いている。人間と似たような体つきで、女の子みたいに見える。

「わぁ・・可愛い!バジリスクに石化されてしまったのかな、可哀想に」

 俺はシュウに小妖精ピクシーを預けると、先程採取したバジリスクの血をバックから取り出して1滴、小妖精ピクシーにかけた。

 すると、みるみると石化が溶けて、羽をパタパタ羽ばたかせる小妖精ピクシーが俺の周りを飛び回った。
 まるでお礼を言っているみたいに、くるくると回りながら。

「良かった!元気そう!」
「うん、本当に」

 俺たちは、しばらく小妖精ピクシーを見守った。

 しかし、小妖精ピクシーは巣の中におしりを付いて座り込んでしまう。
 羽がしゅんと垂れて俯いてしまった。

「この子、どうしたんだろう・・」
「腹押さえてる。空腹なのかもな」
「君、お腹が空いたの?」

 俺はマジックバックから、おやつに持ってきたクッキーを1枚取り出して、割った欠片を小妖精ピクシーに渡してみる。

 小妖精ピクシーは、両手でその欠片を受け取ったがなかなか食べない。

 俺は残ったクッキーを自分の口に入れて食べて見せる。すると、小妖精ピクシーは、小さな口でクッキーを食べ始めた。

 驚いた顔をして、それから嬉しそうな顔になって、夢中で食べている。

 俺は巣の中に落ちていた木の葉の上に、指から水を数滴を垂らして置くと、小妖精ピクシーはこくこくと美味しそうに飲んだ。

「もう心配なさそうだね!」

 小妖精ピクシーは、今度は勢いよくすごい速さでピュンピュン飛んで、お礼を言っているみたいに見えた。

「じゃあ、そろそろ帰るか、レノ」
「そうだね。じゃあね!小妖精ピクシーさん、元気でね!」

 俺たちは、岩場を降りて帰り支度を始める。

 馬はまだどこか緊張している様子だが、シュウが首元を撫でてやると幾分か落ち着いた様子を見せ、シュウに寄り添っている。

 来た道をゆっくり進んでいく。日暮れには森を抜けたいが、間に合うだろうか。

「レノ、少し急ぐよ?何か嫌な予感がする」
「うん。何だかザワついていて落ち着かない感じがするね・・」

 森がザワザワする。
 来た時よりも少し急いで、できるだけ距離を進む。

 このざわめきは嫌な感じだ。
 走らせる馬もそれを感じ取っているみたいで、荒く嘶く。

 すると、俺たちの周りを光りが飛んできたかと思うと、キラキラと光の粒を振りまいた。
 荒々しかった馬が急に落ち着いて走るようになり、ほっとする。

小妖精ピクシーさん?」

 ピクシーは動物を操ることにも長けている。森に住む野生動物を手なずけるなんて、彼らにとっては朝飯前だ。
 さっきのお礼をしてくれたんだろうか。

「ありがとう!こんなところまで付いて来るなんて、随分早く飛べるんだね!」
「レノ、舌を噛むぞ!」
「うん」

 俺たちが馬を走らせ、まもなく森を出ようと言う時に、それは起こった。

 俺たちの目の前に、数本の黒い羽根矢が飛んだのだ。







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