王子妃セスから冒険者レノになった話

氷室 裕

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第6章 恋の話編

③クリスのブラウニー

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 家に着くと、クリスさんが扉の前に寄りかかって待っているのが見えた。

 今日もクリスさんはキラキラしていて本当にかっこ良い・・俺より年上の大人の男性だ。

 もしかすると、レオと同じくらいの年齢だろうか。今度、年齢を聞いてみようかな。

「クリスさん!こんにちは。今日はどうしたんですか?」
「やあ、レノ!約束もせず、勝手に来てしまって悪いね。今日は、渡したい物があって届けに来たんだ」
「俺に?そうなんですか?とにかく中にどうぞ?」

 俺はそう言って、クリスさんを家に招いた。

「いつもキレイにしているね。不自由はない?ひとりで寂しくない?」
「ふふっ。寂しくありませんよ。俺の家、本当は誰にも教えるつもりがなかったんです。でも、いろいろあって、いつの間にか沢山の人が来るようになって、今では毎日のように誰かが家にいますよ。今日は、クリスさんですね」

 本当に、ギルドの仲間達やシュウ、黒も・・いつだって誰かがここに来る。
 来て欲しくても来ないのは、レオだけ。

 早く忘れようと思いながら、あれからどれくらい経ったんだっけ・・

 真冬に城を出てきた。
 レオと話さなくなって、もう半年経ったのか・・

「レノ?大丈夫?ぼーっしてるね。考え事かな?」
「あ、すみません!今お茶を入れますね」

 俺は気が利かない自分が恥ずかしくなって、ガタガタと慌ててしまい、カップを落としてしまった。

 ガチャンッ!

「あっ!」

 ああ、割ってしまった・・また新しいものを買わないと。そう思って、割れたガラスを拾おうと手を伸ばした。

「レノ!危ないから!」

 クリスさんは、俺にそう言って止めようとしたけれど、その前にサクッと指先を切ってしまった。

「いっ!!」
「レノ!大丈夫!?」

 クリスさんは慌てて俺の手を掴む。
 それから、俺の指をぱくんと口に咥えてしまった。

「えっ!?いや、あの!クリ・・あ、あっ・・」

 クリスさんが、口の中で俺の指に舌で絡めて丁寧に舐めた。
 それは何だか性的で、とてもいやらしく感じた。

 クリスさんは俺の顔をじっと見つめながら、舌で指を愛撫してくる。

「んんっ・・あぁ、ク、クリスさん!駄目です!もう大丈夫ですからっ!」

 俺はもう・・指先への刺激だけで足腰が立たなくなって床に座り込んでしまった。

「大丈夫?レノ?傷は浅いから、もう血は止まってるよ?」
「は・・はぃ・・」

 もう顔が熱くて、クリスさんの顔が見られない。

 クリスさんに手を引かれて立ち上がると、よろめいてクリスさんの胸に抱きついてしまった。

「す、すみません!俺、本当に何してるんだ!」

 クリスさんから離れようとして後ずさろうと身を引いたら、肩を掴まれて抱き締められてしまった。

「ごめん、レノ!実は今日、少し悲しい事があって・・それで1人でいるのが辛かったんだ!だから、レノに会いに来てしまったんだ」
「クリスさ・・ん、辛かったんですね?それは1人でいたくないですよね。俺で良ければ一緒にいますよ?」
「本当に?ならもう少しだけ、抱き締めていてもいいかな・・」
「い、いいですよ?」

 クリスさんが悲しい出来事があって、辛い思いをしているなんて。

 クリスさんの背中に腕を回して、背中を優しく撫でてみた。

 小さくほっと息をついたクリスさんは、俺の耳元で「ありがとう」と囁くように低い声で言った。

 そんな事をされたら、俺はくすぐったくて、思わず「ひゃっ!」と声を出してしまった。

 は、恥ずかしい!

「ふふっ。ごめんね?くすぐったかった?でももう少しだけ」

 そう言って、クリスさんはなかなか俺から離れようとしなかった。


 しばらくして、やっと俺を離してくれたクリスさんは、バックから箱を取り出して手渡してくれた。

「わぁ!美味しそう!」

 中には胡桃の入ったブラウニーがたくさん詰まっていた。
 俺はナディアに、街で買ったブラウニーをあげてしまったから少し心残りだったのだ!

「渡したい物ってブラウニーの事ですか?」
「そうなんだ!レノにどうしても食べて欲しくて、朝のうちに私が作ったんだよ?」
「クリスさんが!?ありがとうございます!」

 俺は、紅茶と一緒に美味しく頂く事にした。

「美味しいっ!!こんな美味しいブラウニー、初めてですよ!」

 本当に、何だか懐かしい味がして、レオがいつも作ってくれていたものによく似ていて嬉しくなった。

 もうすぐ昼下がり。
 陽気が良くて眠くなる。

 俺はクリスさんと居間のソファーに座って話をしていたはずなんだけど、うとうとして気持ち良くなってしまった。

「レノ?君は今、幸せ?」
「幸せ・・?幸せ・・はい。だって、こんな俺に、みんな親切にしてくれるんです。大切な仲間も、友達も、黒もメリアスもいるし・・いないのは・・あの・・あ、クリスさんもいてくれます」
「そうなんだね・・レノは、誰か大切な人がいるのかな・・」
「・・えっと、忘れたい人はいます。忘れようと努力しているところです。俺はもう、諦めたので。だから前に進もうと思って」

 なぜかクリスさんには、何でも話してしまう。この人もきっといつか誰かと恋をして、幸せになるんだろうな。

 カイルやエル、シュウもみんな。いつか誰かと。じゃあ、俺は?

 俺は、ずっとひとりなんだろうか・・
 レオを忘れて、もし忘れられなくても、また誰かと恋をするんだろうか。

「前に進む、か・・その人の事を、もう愛して・・いないの?」
「あ・・愛し・・あの、本当に俺!もう思い出したくないんです!思い出すと、辛くなるから・・」
「そう・・それはまだ愛していると言う事・・だね?」

 俺は、自分が泣いていることに気が付かず反論した。

「いえ!愛してません!もう、俺とは関係のない人だから!」
「レノ、ごめんね?君を泣かせてしまったね。もう聞かないよ。だから、今はここにおいで」

 そう言って、泣き止まない俺をぎゅっと抱き締めた。何だか懐かしい感じがして、気持ちが良くて。
 俺は泣きながら、クリスさんの腕の中で眠ってしまった。








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