王子妃セスから冒険者レノになった話

氷室 裕

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第2章 自己変革編

⑤モヤモヤ

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「・・水・・だな」

 俺は指先で、水の塊を突ついてみる。
 待てよ?最初は氷属性、次は土属性だった。
 無属性の洗浄魔法、最後は水属性?
 こいつはいくつ魔法を保持しているんだ?

 適性だけでなく、魔法効率が悪ければ大した魔法は使えない。効率が良ければ少ない魔力で大きな結果を出せる。
 こいつの保有魔力はどうなっている?

「水、だよ?こうやって、口を付けて見て?吸って?」

 レノは俺の事を見ながら唇を尖らせると、キスするみたいに近づいて、チューっと吸って見せた。
 透明な水は、レノの桃色の唇を写した。
 とても綺麗で、しばらく身動き出来ずにじっと見つめていた。

「カイル?」
「あ、あぁ!ありがとう。こうだな!」

 そう言ってゴクゴクと水を飲んでむせた。

「ゴホッゴホッ!」
「もー!慌てないで、カイル。無くなってもまた出すから」

 レノの手が俺の背中を摩ってくる。その小さな手の感触が、俺を落ち着かなくさせた。

「すまない・・なあ、お前はパーティは組む予定あるのか?ないなら俺と組まないか?」
「パーティ?」
「ああ、厄介な魔獣討伐や護衛依頼、あとは迷宮に行く時は複数で行ったほうが安全だ。いろんな属性持ちだったり職業だったり、それぞれの役割を果たしながら依頼をこなして行くんだ」
「なるほど・・ずっと独りだと思ってたから」

 レノは少し考え込んでいる。
 もし断られても、また誘ってみればいい。

「レノは冒険者としてまだまだだし、俺が色々教えてやるよ。だから俺とパートナーにならないか?」

 俺がそう言って笑うと、レノはその場で「分かった」と返事をした。

「嬉しい!足でまといにならないように頑張るね!よろしく、カイル!!」

 こんなに簡単に・・?
 これはまずい・・俺がいなければ、きっとレノはすぐに・・誰かに食われるぞ・・

 俺たちは、マジックバックに詰め込んだ一角ウサギを冒険者ギルドに持ち帰り、依頼完了報告をしてギルドの食堂「雨宿り」で食事する事にした。

 今日の依頼は一角ウサギの肉30匹分と角を全て売却して、1万リルだった。
 まだまだランクが低いから、いい稼ぎにはならない。だか、今日の報酬を俺との食事代にしたいと言ってきた。

 元々レノの付き添いのつもりだったし、俺は金には困っていない。
 そんな事、望んでいなかったんだか。

「よかったのか?せっかく稼いだのに」
「もちろんだよ!カイルがいなかったら俺、逃げてたかも知れないし。それにカイルとの初めてが嬉しかったから」

 レノは甘そうなぶどうジュースを美味しそうに飲みながらそう言った。
 初めてが嬉しい・・・この子はわざと言ってるのか?分からない。

「初めて・・ねぇ?確かに、やだやだ!来ないでー!って騒いでたもんな?」

 楽しそうにレノを揶揄ってみる。

「もー!揶揄わないでよ!だって、本当に怖かったんだ・・それにあんな可愛いウサギを殺すとか無理だし・・」

 だんだんと小さくなっていく声に、これ以上揶揄うのは可哀想になり「良くやったな」と頭を撫でると嬉しそうな笑顔を見せた。

 俺はエールがいつもより美味く感じ、羊肉を頬張った。
 レノを見ていると不思議な感じがしてくる。
 容姿はまるで少女のようだ・・綺麗、いや、どちらかと言えば可愛い。
 体格は華奢で、到底冒険者には見えない。
 仕草や口調は男らしいところがあって、ナヨナヨはしていない。

 ただ、時々見せる照れや、雰囲気がとても扇情的で色気がある。
 男、なんだよな?胸もないし。

 レノは俺のエールが無くなりそうになると、勝手に注文をする。

 フォークで野菜をつついては、綺麗な形の小さなトマトをコロコロと弄んで、刺して口に入れている。

「明日、簡単な依頼を受けて見るか?ウサギよりももう少しランクを上げて、2人で剣を振るってみるのもいいんじゃないか?お前の剣の腕前、見せてみろよ」

 そう言いながら、野菜ばかり食べているレノの皿に羊の肉の塊を置いた。

「肉も食べろ」
「行きたい!でもカイルは本当に俺でいいの?お金、稼げないんじゃない?」
「大丈夫だ。早くお前を育てて、高レベルな迷宮に入れれば、あっという間にお釣りがくるよ。早くレベルが上がるといいな?」

 俺はまた考え込むレノを観察した。
 自分の手のひらを見つめながら、何をそんなに考えているんだ?

「何をそんなに真剣に考えてるんだ?また手のひらから水でも出すのか?」

 俺は、エールをぐびぐび飲み干す。
 追加のエールはレノに任せる。

「俺、小さいから力付けないと。体力も筋力も足りない。ねぇ、ねぇカイル、お願い!俺に色々教えて?」
「・・お前のその言い方は良くない・・」

 本当に無自覚だ。
 最初は意識的にそうしているのかとも思っていた。しかし、レノはそんな事が出来る程器用でもなく、駆け引きなんて出来なさそうだ

 俺は、はぁーっと大きなため息を付いた。

「あの、教えて下さい。お願いします!」
「いや、そうじゃなくて・・」

 今まで、こいつはどうやって生きてきたんだ!?よく無事だったな・・・いや、まさかもう誰かの餌食に?

 いやいや!もしかしたら、ものすごくやり手なのでは!?
 あ・・俺は今、騙されそうになってるとか?

 俺がまとまらない思考を巡らせていると、後ろから銀髪の長い髪をした男が声をかけてきた。

「やあ!何の話?無自覚で無防備な子を相手に何してるの?カイル?」

 本当に面倒な野郎だ・・
 ついでにこのエルフもいつもふわふわしながら無自覚で、俺を困らせるんだ。

 レノがエルフィードの瞳に捕まって、じっと見つめている。レノは急に恥ずかしそうな顔になって、俯いてしまったんだが!

「エルフィード!あんまりレノに近づくなよ。その無駄に良い面を退けろ!」
「へー?なるほどー?あのカイルが?ねぇ、レノ。私を覚えてるかな?一度会ったよね?」
「はい、覚えてます。エルフィードさん?」

 エルフィードは、図々しくもレノの隣に腰掛けた。

「うん、エルって呼んでね?レノ」
「エ、エル?」
「うんうん!いい子だね」

 エルフィード!距離が近いんだよ!!レノが困ってるじゃないか!

「レノが困ってる。早くどこかに行けよ、邪魔するなエルフィード!」

 エルフィードはニコリと笑ったかと思うと、レノの頬にキスをして「分かったよ。またねレノ」と言って去って行った。

「あの!馬鹿!もう来るなよ!エルフィード!!」

 レノは呆然として固まったまま、動かなくなった。真っ赤になって、ぼーっとしている・・ 嘘だろ!?

「レノ?大丈夫か?あいつ、今度会ったらただじゃおかない!お、おい?あいつに惚れるなよ?」

 俺はそう言って、濡れたタオルでレノの汚れた頬を丁寧に拭いた。
 しかし拭いても拭いても、なかなか俺の気が済まない。

「ほ!惚れる!?お、俺、男だよ!?やめてよ、そんな・・」

 そんな・・・?
 それから?何を言おうとしている?

「同性でも、いいのか・・」
「おいおい!あいつはやめておけよ!訳ありだし!何人も女を泣かせて来たやつだぞ!絶対に駄目だ!」

 俺は焦って、ガタッと音をたてて、立ち上がった。

「あ・・俺の事じゃなくてね?恋愛は自由でいいんじゃない?俺はそういうの、もういいからさ。さっきはちょっと驚いただけ」

 そう言って、また甘そうなジュースを飲んでニコっと笑って見せる。

 ん?そういうの、もういいからさ?
 どういう意味だ?
 こんなにも恋愛偏差値が低そうなやつが、もういいと言う程の何があったんだ?

「そうか・・ならいい」

 俺は静かに椅子に座り、レノを見ていた。

「お前、今までその外見で苦労しなかったか?なんて言うかその・・いろんなへんな奴らがいるから気を付けろ。何かあったらすぐに俺に言え、分かったな?」

 レノは俺がそう言うと、俺の顔にほんの少しだけ顔を寄せてきて、俺の顔をじっと見て言った。

「うん?んー、分かった。別に苦労した事なんてないけど。カイル、ありがとう」

 絶対にこいつ、分かってないな・・

 俺はどっと疲れて、ため息をついた。
 しかし、本当に嫌だった。
 エルフィードの奴、気安くレノに触って、キスまで!くそっ!なんかむしゃくしゃする。

 なんだ?なんでだ?俺、酔ってるのか?

 あー!!もやもやする。








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