王子妃セスから冒険者レノになった話

氷室 裕

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第2章 自己変革編

②初陣

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「やれるか?剣で攻撃するなら頭を狙え。後の処理が楽になる。一角ウサギは衝撃に弱いから魔法を使ってもいい」

 ガサガサと、群れで一角ウサギがこちらを伺っている。可愛い見た目に反して、纏う雰囲気が恐ろしい。

「ひぇっ!はぁはぁ・・」

 こ、怖い!やだ!出来ない。

「レノ?」
「や、で、出来ない・・こんな、可愛いウサギを殺すなんて!」
「お前なぁ!ほら、襲ってくるぞ?行け!」
「やだー!来ないで!」

 俺は目を瞑って、襲いかかる一角ウサギに目掛けて、氷魔法を飛ばした。

 そっと目を開けると、辺り一面凍りついていて、周りの木々も草花も虫や鳥たち諸共、氷漬けになっていた。

 俺は手を前に突き出したまま、後ずさりその場に尻もちを付いた。

「はははっ!凄いな、レノ!まるで冬になったみたいだな」

 カイルは周りを見渡して、それから俺の腕を引っ張って立たせてくれた。

「ううぅぅっ・・」
「唸ってもウサギは勝手に肉にならないぞ?ほら、次は解体だ」
「やだやだ!俺、ウサギの皮を剥ぐの?」
「そりゃそうだろ?それが依頼内容なんだから。これくらいで泣きべそかいてたら、俺と魔法剣士出来ないな?」

 カイルはそう言って、次々とウサギにまとった氷を割って、肉と角を解体していく。

「あ、半分凍っていて剥ぎやすいな。血もあまり出ないし」なんて言いながら。

「え?俺も魔法剣士のお仕事、見に行っていいの?」
「行きたいんだろ?連れて行ってやるから、お前も早く解体に慣れろ!」

 俺はカイルの手先の器用さに感心しながら、ウサギを解体していく。

 一度に33匹のウサギが氷漬けになり、一瞬にして戦いは終わったが、解体作業がなかなか大変なものとなった。

「残骸は、土に埋めていく。魔物が血の匂いで集まって来るからな」
「どうやって穴を掘るの?」
「俺は攻撃魔法を地面に当てて掘る。まぁ、土埃やら砂が舞い上がって大変だけど、土魔法が使えないからな」

 土魔法?
 使った事ないけど、やってみようかな?
 俺は地面に集中して手をかざす。
 イメージするんだ、深い穴が現れるように。
 すると、地面がもこもこと動き出してあっという間に大きな穴が出来た。

「なっ!!お前には本当に驚かされるよ」

 そう言って、カイルは穴に一角ウサギの残骸を沈めた。俺はその上から土魔法で固く蓋をした。

 俺は、俺たちを洗浄魔法で包んで、血や埃を綺麗さっぱり落とす。
 カイルは驚きながらも、俺の頭を撫でてお礼を言ってくれた。

 ウサギの肉と角は33匹分ある。
 そのうち、3つの肉をその場で焼いて食べる事にした。

 カイルはマジックバックから道具を出して手際良く何でもこなし、枯れ木に火炎魔法で火を付けると肉を焼いていく。
 肉は塩がかかっていて、柔らかく美味しかった。

「ぅんーっ!!カイル!すごく美味しい!ありがとう!」

 もぐもぐしていると、カイルは横から皮袋に入った冷たい水を渡してくれた。
 しかし残りが少なそうだからと断る。

「お前、すぐ脱水になって倒れそうだから飲めよ」

 カイルは俺にそう言って、グイッと水を押し付けて来た。

「カイルは?」
「俺は少しくらい大丈夫だ」

 俺はしばらく考えてから、手のひらを上に向けて腕を伸ばした。

 カイルの目の前の空間に、先程の一角ウサギと同じくらいの水の塊を出すと、カイルは目を見開いて驚いていた。

「飲んで?」
「・・水・・だな」

 カイルは指先で、水の塊を突ついている。
 そんなに珍しいものでもないだろうに。

「水、だよ?こうやって、口を付けてみて?吸って?」

 俺は水に近づいて、チューっと吸って見せた。
 透明な水は、ユラユラと揺れる。
 カイルは、そんなレノの様子を身動きせずにじっと見つめていて、顔を少し赤らめた。

「カイル?」
「あ、あぁ!ありがとう。こうだな!」

 そう言ってゴクゴクと勢いよく水を飲んでむせた。

「ゴホッゴホッ!」
「もー!慌てないで、カイル。なくなってもまた出すから」

 俺はカイルの大きな背中をさすってあげると、落ち着いて息を吐いた。

「すまない・・なあ、お前はパーティは組む予定あるのか?ないなら俺と組まないか?」
「パーティ?」
「ああ、厄介な魔獣討伐や護衛依頼、あとは迷宮に行く時は複数で行ったほうが安全だ。いろんな属性持ちだったり職業だったり、それぞれの役割を果たしながら依頼をこなして行くんだ」
「なるほど・・俺、ずっと独りだと思ってたから」

 俺はいずれ魔女ウィリアと対峙する。
 その為に冒険者になったんだから。
 仲間を見つけて情報を探って行く方が、見つかりやすいかな。

「レノは冒険者としてまだまだだし、俺が色々教えてやるよ!だから俺とパートナーにならないか?」

 カイルの言葉に嬉しくなって、俺はその場で返事をした。

「嬉しい!足でまといにならないように頑張るね!よろしく、カイル!!」

 俺たちは、マジックバックに詰め込んだ一角ウサギを冒険者ギルドに持ち帰り、依頼完了報告をしてギルドの食堂「雨宿り」で食事する事にした。

 今日の報酬は一角ウサギの肉30匹分と角を売却して、1万リルだった。

 ランクが低いからなかなか稼ぐのは大変だけど、今日は初陣祝いとカイルへのお礼を込めて、この1万リルを使い果たす事にした。

「よかったのか?せっかく稼いだのに」
「もちろんだよ!カイルがいなかったら俺、逃げてたかも知れないし。それに初めてが嬉しかったから」

 俺はジュースを飲みながらそう言った。

「初めて・・ねぇ?確かに、やだやだ!来ないでー!って騒いでたもんな?」

 楽しそうに俺を揶揄からかう。

「もー!揶揄からかわないでよー!だって、本当に怖かったんだ・・それにあんな可愛いウサギを殺すとか無理だし・・」

 だんだんと小さくなっていく声に、カイルはそれ以上は言わず「良くやったな」と俺の頭を撫でてくれた。

 カイルはエールを美味しそうに飲んで、羊肉を頬張った。
 俺はカイルの為にまたエールを注文すると、綺麗な形の、小さなトマトをフォークで刺して口に入れた。

「明日、簡単な依頼を受けてみるか?ウサギよりももう少しランクを上げて、2人で剣を振るってみるのもいいんじゃないか?お前の剣の腕前、見せて見ろよ」

 そう言って、俺の皿に羊の肉の塊を置いた。
 俺が野菜ばかり食べるから、「肉も食べろ」と勧めてくる。

「行きたい!でもカイルは本当に俺でいいの?お金、稼げないんじゃない?」
「大丈夫だ。早くお前を育てて、高レベルな迷宮に入れれば、あっという間にお釣りがくるよ。早くレベルが上がるといいな!」

 なんか、余裕そうだな・・
 自信もありそうだし。
 俺も早く強くなりたい。
 俺は自分の手のひらを見つめる。
 こんなに小さい・・

 女の子だから仕方がないけど、体力付けない不利過ぎる。
 いずれ、この体でも筋肉が付くのだろうか・・
 魔物と対峙した時に、俺は力で負けるんじゃないか?力を付けないと。

「何をそんなに真剣に考えてるんだ?手のひらを眺めて、また水でも出すのか?」

 カイルは、エールをぐびぐび飲み干す。
 また俺はエールを注文する。

「俺、小さいから力付けないと。体力も筋力も足りない。ねぇ、ねぇカイル、お願い!俺に色々教えて?」
「・・お前の、その言い方は良くない・・」

 カイルは、はぁーっと大きなため息を付いた。

 確かに・・お願いする態度じゃなかった、本当に良くなかった。

「あの、教えて下さい。お願いします!」
「いや、そうじゃなくて・・」

 そんな会話をしていると、俺の後から銀髪の長い髪をした綺麗なエルフの男性が声をかけてきた。

「何の話?無自覚で無防備な子を相手に、何してるの?カイル?」

 無自覚?無防備?なんの話?
 それにしても、なんて綺麗な人だろう・・
 アメジストの瞳に、俺が写っている。
 キラキラしてるなぁ・・
 俺は急に恥ずかしくなって俯く。

「エルフィード!あんまりレノに近づくなよ。その無駄に良い面を退けろ!」
「へー?なるほどー?あのカイルが?ねぇ、レノ、私を覚えてるかな?一度会ったよね?」

 確かに覚えている。
 あの時も、綺麗な人だなぁと思って見ていた。

「はい、覚えてます。エルフィードさん?」

 エルフィードさんは嬉しそうに笑って、俺の隣に腰掛けた。

「うん、エルって呼んでね!レノ」
「エ、エル?」
「うんうん!いい子だねー」

 俺は、恥ずかしくなって、どうしたらいいか分からず、カイルをちらりと見た。

「レノが困ってる。早くどこかに行けよ、邪魔するなエルフィード!」

 エルはニコリと笑ったかと思うと、俺のほっぺたにチュッとキスをした。

「分かったよ。またね、レノ」

 そう言って去って行った。

「あの!馬鹿!もう来るなよ!エルフィード!!」

 俺は呆然として固まったまま、きっとすごく赤くなってるに違いないと思うほど、顔が熱くなった。

「レノ?大丈夫か?あいつ・・今度会ったらただじゃ済まさない!お、おい?あいつに惚れるなよ?」

 カイルはそう言って、濡れたタオルで俺の頬を丁寧に拭いてきた。

「ほ!惚れる?!お、俺、男だよ?!やめてよ、そんな・・」

 いや、レオも俺も男だ。
 この国は同性婚に好意的だし、何の問題もないのだ。誰だって自由でいいじゃないか!

「同性でも、いいのか・・」
「おいおい!あいつはやめておけよ!何人も女を泣かせて来たやつだぞ!絶対に駄目だ!」

 カイルは焦った顔をして、ガタッと音をたてて立ち上がった。

「あ・・俺の事じゃなくてね?恋愛は自由でいいんじゃない?俺はそういうの、もういいからさ。さっきはちょっと驚いただけ」

 そう言ってジュースを飲んでニコっと笑って見せた。
 大丈夫、言わなきゃ分からない事だ・・俺が同性婚していたなんて。

「そうか・・ならいい」

 カイルは静かに椅子に座り、俺を見た。

「お前、今までその外見で苦労しなかったか?なんて言うか、その・・いろんなへんな奴らがいるから気を付けろ!何かあったらすぐに俺に言え!分かったな?」

 いろんなへんな奴ら・・?それについてはレインにも言われたし、あの時はカイルがへんな奴呼ばわりされていたような・・カイルを変とは思わないけど。

「うん?んー、分かった。別に苦労した事なんてないけど。カイル、ありがとう」

 カイルは俺を見て「こいつ、分かってないな」みたいな顔をして、また大きなため息を付いた。







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