王子妃セスから冒険者レノになった話

氷室 裕

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第11章 神の暇つぶし編

⑮甘い口付け

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 溜まった書類を処理する為に執務をこなしていたら、少し遅くなってしまった。俺は、レノの事が心配で足早で家から外に出た。

「朝からだいぶ積もったな・・」

 雪が急ぐ足の邪魔をする・・まったく・・

 執務内容の対処に困りはしないが、王族としての役目もそろそろ何とかしたいものだ・・俺がこなさずとも他に任せればいい。なのに先日、陛下からの呼び出しで帰還した際には、冒険者をやめて国に帰ってくるように言われてしまった。

 冗談じゃない、兄上たちがいるじゃないか!いくら陛下の命だとしても、国に戻るのは時期尚早だ。
 俺は跡目争いをやめない限り、国に帰らない。おまけに縁談の話まで持ち掛けられるとは思っても見なかった。

「殿下!次はいつ執務室へ来られますか?こ、恋もよろしいですが、きちんとお仕事を・・」

 俺が急いでいるのを分かっていて、後ろから追いかけてきては声を掛ける奴がいる。

 この従者はルシオがいなくなってから付いた侯爵家の次男坊だ。人は良いが心配性で細かいのが余計だ。

 それに、こんな街中で殿下と呼ぶなと、あれほど言っているじゃないか・・

 そもそも、俺に従者なんていらないんだよ・・しかし、俺が使ってやらないとこいつは役目を果たせないと泣きつくんだから、本当に面倒だ・・

「カイルだ・・そろそろ分かれよ・・」
「申し訳ありません!」
「心配しなくても、お前を困らせたりはしないよ。連絡する。今日はついて来なくていいからそれまで自由に過ごせよ、ソラル」

 そう言って立ち去ろうとするが、また呼び止める。まったく・・

「カイル様!カイル様にこれを!外は寒いですから、暖かくして風邪など引かないようにして下さい!」
「・・俺は大丈夫だ・・はぁ・・分かった、使うよ」

 手袋?子供じゃあるまいし、俺には不要だ・・こんなモコモコした手袋をして、どうやって剣を振るうんだよ・・

 まぁ、仕方ないか・・相手は侯爵令息だし、大事に育てられたお坊っちゃまの感覚ならこうなっても納得だ。

「はいっ!良かったです!」

 嬉しそうな顔をするなよ・・こちらが申し訳なくなるじゃないか・・俺のような、はぐれ王子に当たったばっかりに・・なるべく早めに解放してやるから待ってろよ。

「ああ・・ソラル、ありがとう。お前も暖かくして過ごせよ」

 はぁ?何を赤くなってるんだよ・・乙女じゃあるまいし・・いや、こいつは・・まあ、どうでもいいか。

 俺は手袋を付けてソラルに見せると、また急ぎ足でレノの家に向かった。

 城下町からレノの家に続く街道へ出ると、雪の上に小さな足跡が付いていた。朝から積もった雪に付いたばかりの新しいものだ。

「レノか?まさか外に出たのか・・ひとりでどこに行ったんだ?」

 俺はもう一度城下町へ戻り、レノが行きそうな店を見て回った。家からはレノの足なら歩いて40分くらいか?これだけ寒ければ、暖を取りたくなるだろう・・

 俺はレノが行きそうな喫茶店に立ち寄るために、路地に入ると、店の窓からレノが座っているのが見えた。

「いたか・・」

 遠目でも可愛い・・店の外からしばらくレノを眺めていると、レノはコロコロと表情を変えて何やら考え事をしているように見える。

 また、難しく考え過ぎていなければいいが・・そう思っていたのに、案の定グズグズと泣き出す始末・・俺は慌てて店に入ると、レノに声を掛けた。

「レノ!?」

 レノはゴシゴシと目元を擦って、俺の顔を見る。驚いたような、嬉しそうな・・それに困った顔だ。

「ひゅう?どうしてここが分かったの?」
「お前が俺に教えてくれたんだよ。それよりどうしたんだ?危ないだろ?ひとりで街に来るなんて」

 何故レノをひとりにするんだ!?
 レオナルド様はどうした?エルフィードは夜までギルドの仕事で帰らないが、シュウやレヴィーも付いていながら、何をしてるんだよ!

「大丈夫だよ?レオはお仕事だし、ちょうどシュウとレクがお昼寝中だったから、散歩に来ただけ。ひゅうは?お仕事終わったの?」
「お昼寝って・・あいつら、レノを見てろってあれほど言っておいたのに、まったく」
「みんな心配し過ぎなの!それに、こうやってひゅうにも会えたし、俺はすごく嬉しいよ?」

 レノ、罪な子だ・・すぐに俺を惑わせて、我慢できなくなるじゃないか。俺は片手で顔を覆って、気持ちを抑える。

「水色の手袋?ひゅうの色だね、綺麗で可愛い」
「え?あぁ、これは従者が無理やり・・レノが使ってくれ」

 俺は手袋を外すと、レノに手渡した。レノは遠慮したが、俺には必要ないし・・こんな派手な色の手袋なんて、しかも自分の瞳の色のものなんて絶対に無理だ。ソラルの手前付けたは良いが、ずっとポケットに手を入れて隠していた。

「本当にいいの?うわぁ、ひゅうの色、嬉しい!モコモコで可愛い!」
「ああ、俺はお前が可愛い・・」
「えー?なんでそうなるんだよ、へんなの」

 俺は本気だよ、レノが可愛い。それで?どうしてひとりで泣いていたんだよ・・何をそんなに悩んでいるんだ?今、聞いてもいいだろうか・・それから連れ出して、俺の部屋へ閉じ込めたい。

「レノ、食べたいものは全部食べたか?俺はその・・お前の甘そうな唇を食べたい」
「何言って・・!俺は・・俺だって・・えっと」

 恥ずかしがるレノの手を取って、手袋を付けてやる。レノが身に付けると、迷惑だった水色のそれが不思議と可愛く見える。思わず笑ってしまう。

「え?何?」
「いーや?行くぞ、レノ」

 そう言って、レノの手を取って外に出る。
 俺はどうしても我慢が出来なくて、外に出るなりレノの甘い唇にキスをした。








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