王子妃セスから冒険者レノになった話

氷室 裕

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第13章 恋の終わり編

⑨ひゅうとの別れ

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 俺は、レインとシュウがロキ神の神殿に行った後、ロキ神と契約を交わした。それはみんなに話した事だから、当然ひゅうも知っている。

 俺のこの人生が終わりを告げた時、俺の魂がロキ神の下僕になるだなんてと、みんなはとても怒っていたけれど、俺にとってはレインとツカサさんがふたりで幸せになれるなら何も躊躇なんてしなかった。

「セス・・何とかならないのか?魂を捕えられて、お前がロキ神にどんな仕打ちをされるか分からないなんて・・」
「大丈夫だよ。もう決めたことなんだ。でも生まれ変わりって・・本当にあるのかな。今の自分を忘れてまた輪廻するなんて、そんな思想が本当にあるのなら、俺はもう生まれて来なくていい・・」
「セス・・そんな悲しい事言うなよ・・」
「あ、ごめん・・それからね・・」
「セス、何故もう生まれて来なくていいなんて言うのか教えてくれないか?」
「・・ん、これまでに悲しい事がありすぎたんだ。俺には耐えがたかった・・それに俺は昔から誰かに迷惑ばかり掛けている気がする。レオが魔女ウィリアに襲われそうになったのだって、そもそもロキ神が俺を狙っての事だった。エルが死にかけたのも俺のせい。ひゅうやシュウだって、俺のせいで大怪我して・・俺のせいで誰かが傷付くのをもう見たくないんだ」
「そうか・・だがどれひとつとってもお前のせいなんかじゃない。お前のためなら盾になりたいとそう思っているし、俺たちが死にかけたり怪我をしたのも、ただ己が弱かっただけのことだ。お前は本当に誰からも愛される・・神でさえ虜にするんだから。俺は・・輪廻転生があるならば、またお前を愛したいよ」

 ロキ神は、嘘のように俺に掛けられた呪術を解除して、出産が可能な身体に変えてしまった。本来の男性の姿にも、自分の意思で変えることが出来るんだ・・俺はますます厄介な身体になってしまったんだ。

 そんな事をひゅうに話せば、驚きながらも静かに俺が話すのを聞いてくれた。まだ誰にも言えていないこの話を聞いて、ひゅうは神妙な面持ちで考えている。こんな奇妙な身体の俺をどうするべきか、そりゃあ複雑な表情だってするよね。

「ひゅう、俺は本当にひどい男だよね・・同時にふたりを愛するなんて・・ひゅう?ひゅうみたいな素晴らしい人が俺みたいな訳ありに構ってちゃだめなんだ。ちゃんと、素敵な女性を捕まえて幸せになって」
「昨夜、俺たちが聖湖アオバで再会出来たのは、俺の力じゃない・・女神アーテーが俺をお前のもとへと導いたんだ。こんな奇跡を運命じゃないというのなら、本当に神の存在とはなんなのだろうな・・俺はお前を愛してるよ。レオナルド様からお前を奪ってしまいたい・・いや奪ってみせるよ!」
「ひゅう・・俺、レオと離婚しているものだとばかり・・ひゅうに惹かれて・・こんな裏切りみたいな事になるなんて、傷つけるつもりなんてなかった・・こんな迂闊な俺を許して欲しい・・ごめんなさい」

 ひゅうの顔を見てみれば、すでに色んな事を悟っているというような表情を見せる。ひゅう、本当にごめんなさい・・

「嫌だ・・セス、全部忘れさせる!だから、俺とリティニア王国に帰ってくれ!俺の子を産んで欲しい!幸せになろう、ふたりで!」

 ひゅうが俺を強く抱き締める。こんな風に苦しいくらいに抱きしめてくれなければ、きっと身体が震えて涙が零れてしまう。

「王宮を出てからひゅうに出会わなければ、俺はとっくに死んでた。どんな時だって側にいて、俺の事を守ってくれた。感謝してるんだ・・こんな厄介な俺の事を好きになってくれて、本当にありがとう」

 ひゅうが苦しげな表情で俺を見る。首を横に振って、拒否する。
  
「何も聞かなかった事にする、忘れる・・知らない、そんな事!」
「そんなっ、子供見たいな事・・言わ・・んん」

 深いキス、これじゃいつまで経っても離れられないじゃないか・・

「ひゅう!んん・・あぅ・・」
「俺のものになれよ、セス」

 力強く抱き締めていた力が弱くなっていく・・そんな、顔、させたくなかった・・

「ごめん、なさい・・ひゅう・・」
「・・分かったよ、困らせて悪かった・・セスの言う通りにする。本当は分かってたんだ・・レオナルド様には敵わない事を。だからせめて、この旅が終わるまでは、俺の、俺だけの恋人でいてくれ」
「ん・・分かった」

 ひゅうが泣きそうな顔をする・・本当に俺はどうしようもない馬鹿野郎だ、こんないい人を傷つけるなんて・・

「セス・・最後に、聞かせてくれ・・俺はセスに愛されていたのか・・?」
「ひゅう・・俺、ひゅうの事を心から愛してたよ・・うぅ・・うわぁーん!好きだったよ、ひゅう!愛してたんだ!」
「まいったな・・はははっ。セス、必ず幸せにしてもらえよ?」

 俺たちは、一度も恋人同士だった事はない。
 だけど、サヨナラの時までは、俺たちは恋人になる。大好きなひゅうと、出来たら本当の恋人に・・なりたかったな。







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