王子妃セスから冒険者レノになった話

氷室 裕

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第15章 ラフテラ共和国編

⑩自由に生きていい

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 俺は朝日が昇る海を見ていた。

 すると俺を呼ぶ声が聞こえて振り返る。そこには心配そうに駆け寄るキアヌの姿があって、俺がここで夜を明かした事を心配している。

「マヒロ、やっぱり寝てないんでしょ?一度家に帰って休んで?母さんも心配してる。帰って来たらすぐに呼びに行くから」
「キアヌ・・心配かけてごめんね。分かった、帰るから」

 俺はキアヌにそう言うと、体を起こして家の方へ歩き出す。キアヌは途中まで付いてきたけれど、大丈夫だからと伝えて家に帰した。

 俺はジェイドの船が帰って来たらすぐに見つけられるように、丘の上に登って木の木陰に座った。船を待つ間、もしもジェイドが帰って来なかったらと思うと心配になった。

 海にはシーサーペントやクラーケンなど危険な魔物がたくさん潜んでいるし、最近では魔物出現の危険地帯が広がっていると聞く。遭遇してしまえば、命を落とす事になりかねない。

「ジェイド・・」

 俺は呟いて、また遠くの海を見る。
 どれほどここに居たのか分からない。ただずっとジェイドの帰りを待っていた。

 少し陽が傾いて来た頃、一艘の船が村の港に向かって来るのが見えて体を起こす。

「あ・・船・・?帰って来た!?」

 俺は立ち上がり目を凝らす。すると確かにジェイド達の船が港に戻って来るのが見えた。俺は丘を駆け下りて、港へ走っていく。到着した船から船長やジェイドが降りてくるのを見てほっとする。

「ジェイドぉ!遅かったじゃないの!心配したのよ!?」
「ただいま、ソフィア。心配かけて悪かったよ。ちょっと離れてろ。ビルフィッシュを下ろすから」

 ソフィアがジェイドから離れない。彼女は村長の娘でジェイドとは幼なじみだし、お似合いの2人だ。きっと彼女はジェイドの事が好きなんだろう。

 村人が次々と集まって来て、ジェイド達が帰って来た事をとても喜んでいる。ジェイドは巨大なビルフィッシュを船から下ろしながら、その大きさに驚く村人にあれこれと話をしている。

 これから積荷を下ろしたり、船長の最後の漁を労う宴が始まるだろうし、きっとジェイドはこの後も家には帰れないだろう。

 俺は、ジェイドが帰って来てくれた事に安堵して、そのまま家に帰った。

 パタンと扉を閉めると急に疲れと眠気が襲ってきて、そのままテーブルに突っ伏した。すると、すぐに扉が開いて声を掛けられる。顔をあげると、そこには息を切らしながら家に入ってくるジェイドがいた。

「マヒロ、ただいま!」
「ジェイド・・?ジェイド、おかえりなさい・・みんなを置いて来ちゃったの?」
「いいんだ。早くマヒロに会いたかったから」
「ジェイド、無事に帰って来て良かった・・」
「そんなに泣くほど心配したのか?マヒロが丘の上から走って来るのが見えた」
「し、心配するよ!だって、帰って来ないから・・俺、ジェイドが、魔物に、ぅうっ・・ぐすっ」

 ジェイドが俺を抱き締めながら、背中をさすって宥める。俺はジェイドに抱きついて、どれほど心配したのかをぽろぽろとこぼした。

 ジェイドは時々頷きながら小さく笑っていて、抱き締める手が優しく髪や背中を撫でた。

「マヒロ、風呂に入ろう。マヒロも一日中砂浜に座ってたんだろ?キアヌから聞いた。汚れを落として食事にしよう」
「うん、分かった。ジェイドは休んでて?」

 俺はジェイドから離れて目元をごしごしと擦ると、浴室に入って準備を始める。そんな様子をジェイドは真顔で見つめながら目で追っている。

「ジェイド、お母さん達には顔を見せたの?すごく心配してたんだ。お父さんもキアヌも、寝ないで待ってたんだよ?」
「大丈夫だよ。ちゃんと話してきたよ、マヒロの所に行くって」
「えっ!?違う、そうじゃなくて!なんか、間違ってるような・・」
「何も間違ってないよ。俺がそうしたかったんだから。マヒロは考え過ぎなんだ、ここでは自由に生きればいいんだ」
「自由に・・俺、この村が好きだよ。自然に囲まれて、海が綺麗で、俺、植物が好きなんだ・・ここは素敵な村だ」
「好きなだけいればいいよ、ここにいればいい」
「ん・・」

 何だろう・・自由に生きたかった。しがらみも不安も悲しみからも遠ざけて生きたかった。

 俺はどこから来たんだろう。何かから逃げて来たのだろうか。俺は何から逃げて?分からない・・俺は何か、悪い事でもしてしまったのだろうか。ジェイド達に、迷惑を掛けることにならないだろうか。









 
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