王子妃セスから冒険者レノになった話

氷室 裕

文字の大きさ
218 / 317
第15章 ラフテラ共和国編

⑮偶然の再会

しおりを挟む
「なん、で・・」

 あれは、レノだよね・・なぜレノがラフテラ共和国にいるんだ?だってあの日、レオナルド殿下の元に行ったんじゃなかったの?

「えっと・・いや、街を出ていくって・・」

 そうか・・レノは二人のどちらも選ばなかったのか・・どちらかを傷つける事になるから・・私たちの誰にも告げずに、たった一人で?本当に、君という人は。


 私は、ギルドの討伐依頼でクラーケンを仕留めに来た。ここ首都ベルリナは、目的地までの中継地点だ。

 夕方ラフテラ共和国に到着してギルドに立ち寄った後、食事処を探していたら、レノに似た青年が男性と歩いている所を見かけた。
 
 まさかと思いながら、二人が私の目の前を通り過ぎて行く後を追いかけた。

 ジェイドとか言う若い男はレノをマヒロと呼び、親しげに歩いていた。腰を引き寄せて、まるで差添えするかのように寄り添う。気がある事が丸見えで、外野を警戒しながら牽制している。

「レノ・・だよね・・」

 レノは薄いペラペラした袖のないシャツに、短い丈のズボンを穿いている。あの男、レノに何て無防備な格好をさせてるんだ!あれじゃあ肌が透けて下着と何ら変わらないじゃないか!いくら南国だと言っても、肌を晒しすぎだ!

 二人が食堂に入るのを確認して、私は衣装屋に出向き、レノにあった服を入手した。

 食堂には二人からほど近い席が空いていて、レノの視界に入らないように座った。空になった皿が並んだテーブルに頬づえを付きながら、レノは酒を飲んでいる。

「ジェイド、明日は海岸の方にも行ってみたいな。俺、海には馴染みがないみたい・・でも好き」
「いいよ、行こう。一緒に泳いでみるか?」
「え?俺、泳げるのかな・・」
「大丈夫だよ、俺が離さないから」

 泳がせる?まさかレノを裸で?それに、ラフテラ共和国の海域に魔物が出ていると警告を聞いていないのか!?

「マヒロ、そろそろ宿に行こう?ここの料理が気に入ったなら、明日買い物の前に朝食を食べに来ようか?」
「本当に?嬉しい!だけど、結構な出費になるね、大丈夫なの?」
「今日の売上げ、見てたよね?大丈夫だから」
「ん!お金持ちだね!ならまた明日も楽しみにしてる!」

 二人は楽しげにそんな会話をしながら、店を出て行った。ジェイドという男は、まわりの客や行き交う人を警戒していて、まるでレノを奪われないようにしているように見える。もちろん、私の視線にも気が付いていそうなものだ。

 二人が泊まる宿を確認して、食事処に戻る。
 明日は開店からここで待ち伏せよう。私は苦い酒を注文してぐびぐびと飲み込んだ。

 レノ、あれはレノだった。私が間違えるはずがない。マヒロってなんだ?また偽名だろうか・・私がレノの視界に入っていてもおかしくないのに、目もくれず驚きもしなかった。

 たまたま討伐依頼で訪れたラフテラ共和国で、レノに会うなんて。

 この国に居つくつもりなんだろうか。カイルもレオナルド殿下も、それぞれが自分じゃない方と結ばれて過ごしていると思っている。それがそうじゃないと分かった時、二人はどうするだろう。

「綺麗だね、君、俺に少し時間をくれないか?」
「・・・」
「何か言ってよ、一目惚れなんだ」
「はぁ・・」

 またか・・ひとりで行動すると、すぐこれだ・・
 レノに失恋したとの情報が、どうやって周知されるのかは知りたくないが、また私に声を掛ける者が増えた。それは男女問わずで、ギルドのパーティにも私との色恋目的の者がいて困っている。

 ある日パーティを組んだ男に、酒に薬を盛られて危うく襲われそうになったところを、不覚にもカイルに助けられるという失態を犯した。
 カイルは呆れて私を見ていたが、揶揄う事はせずに「ソロが無理なものは、俺かシュウを誘え」と言われる始末・・

 それで、討伐パーティを組むのが得意じゃない私は、シュウやカイルと行動することが増えた。

 男が私の肩に触れてくる。にこやかに囁いて、誘ってくるが嫌悪感が半端ない。

「はぁ・・」

 私は男の手を払って立ち上がるが、追いかけられて腰を引き寄せられる。

「ここにいたか・・何やってるんだよ、エルフィード!?」
「何でもない・・」
「お前、急にいなくなるなよな。で?またか?」

 シュウが、目ざとく私を探し当てる。
 そして慣れた感じで男に言い放つ。

「おい!そいつは俺のモノだ!手を離せ!」

 そう言って私を抱き寄せる。

「は?釣り合わないだろ!嘘言うな!どう見ても愛し合っているようには見えないぞ!」
「お前に関係ない!俺たちは、愛・・」

 シュウがそう言っている間に、私はシュウに抱きついてキスをした。

「抱きたい・・」
「お、おう・・!おい、お前!邪魔だ!消えろ!早く!」

 男は悔しそうな顔をしながら、渋々店から出て行った。

 またつまらない毎日を過ごしている。
 レノに出会う前は、私は何を考えて過ごしていたんだったかな・・やっぱりつまらなくて、張合いもなくて、仲間意識なんて微塵も持っていなかった・・

「エルフィード!やりすぎだ・・なにもキスまでしなくてもいいだろ!?」
「レノのキスがいい・・」
「聞いてるのかよ・・!本当に、お前もレノと変わらないじゃないか・・」
「え・・?」
「え?じゃない!目を離せば、襲われるんだから、俺もヒューベルトに頼まれなければ放っておくけど!?」

 カイルに頼まれた?私はカイルに何だと思われているんだ!?まあ、悔しいけど・・助けられた手前、文句は言えないか・・

「それに!『抱きたい』じゃないだろ!?せめて『抱いて』にしろよ!美人は抱かれてろ!」
「・・どっちでもいいよ・・じゃあ抱いて」
「は!?しっかりしろよ、エルフィード!自暴自棄になるなよ!お前の失恋モード、長すぎ!」
「・・シュウ、部屋に来てくれ・・」
「なっ!本気か!?嫌だ!」
「大事な話がある・・」
「嫌だね!ほら、帰るぞ!」

 レノの話をしようと思ったのに、とんだ誤解をさせてしまったまま別れてしまった。

 はぁ・・シュウの誤解も解かないと・・


 




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います

緑虫
BL
第三王子の十歳の生誕パーティーで、王子に気に入られないようお城の花園に避難した、貧乏男爵令息のルカ・グリューベル。 知り合った宮廷庭師から、『ネムリバナ』という水に浮かべるとよく寝られる香りを放つ花びらをもらう。 花園からの帰り道、噴水で泣いている少年に遭遇。目の下に酷いクマのある少年を慰めたルカは、もらったばかりの花びらを男の子に渡して立ち去った。 十二歳になり、ルカは寄宿学校に入学する。 寮の同室になった子は、まさかのその時の男の子、アルフレート(アリ)・ユーネル侯爵令息だった。 見目麗しく文武両道のアリ。だが二年前と変わらず睡眠障害を抱えていて、目の下のクマは健在。 宮廷庭師と親交を続けていたルカには、『ネムリバナ』を第三王子の為に学校の温室で育てる役割を与えられていた。アリは花びらを王子の元まで運ぶ役目を負っている。育てる見返りに少量の花びらを入手できるようになったルカは、早速アリに使ってみることに。 やがて問題なく眠れるようになったアリはめきめきと頭角を表し、しがない男爵令息にすぎない平凡なルカには手の届かない存在になっていく。 次第にアリに対する恋心に気づくルカ。だが、男の自分はアリとは不釣り合いだと、卒業を機に離れることを決意する。 アリを見ない為に地方に移ったルカ。実はここは、アリの叔父が経営する領地。そこでたった半年の間に朗らかで輝いていたアリの変わり果てた姿を見てしまい――。 ハイスペ不眠攻めxお人好し平凡受けのファンタジーBLです。ハピエン。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】

晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。 発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。 そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。 第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

処理中です...