【完結】国の借金返済のためにアイドルグループ作ります!なぜかメンバーに口説かれていますが、恋愛禁止ですよ?

櫻野くるみ

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アイドルは恋愛禁止!

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私が廊下を歩いていると、王宮の侍女たちがなにやら団子になって、ある部屋を覗いていた。
興奮したようにはしゃいだ声を上げているが、よく躾けられている彼女らのそんな姿は珍しく、興味をそそられてしまう。
一体何事かと、私も近付いて後ろから覗き込んでみると――

なるほど、ルカリオたちがデビュー曲の練習をしているのですね。
って、国歌なのだけれど。
確かにこの部屋ならピアノもあるし、歌うには持ってこいです。

お抱え作曲家の男性が伴奏を弾き、三人で自主練に励んでいたようだ。
陰で努力を怠らないところが彼ららしい。

私に気を遣った侍女が場所を開けてくれ、その動きでキースがこちらに気付いた。

「アイリスじゃねーか。なんだバレちまったな。じゃあここまでにするか」
「そうだね。あまり根を詰めすぎて喉を痛めてもいけないし」

「ありがとうございました」とレンが伴奏者にお礼を言い、侍女たちも去っていくと、あっという間に四人だけが残される。

「まさか隠れて歌の練習をしているとは知りませんでした」
「アイリスが母上たちに掛け合ったり、働きづめなのを知っているからね」
「近々、大きな茶会を開催するとも聞きました」
「お前ばっかりを働かせるのもな。って言っても、俺らには練習しかすることねーし」

頭を掻きながら困ったように笑うキースの言葉に、ルカリオとレンも頷く。

その気持ちが嬉しいのですよ!
さすが私の推したち、尊い!!

アイドルになることを望んだわけでもないのに、一度決めたらやり切る前向きさが彼らにはあるのだ。

「やっぱりルカリオとキースとレンは私の自慢の幼馴染です!……あ、この前のルカリオとキースの悪ふざけはこれに免じて許してあげましょう」
「アイリス、二人の悪ふざけって?」
「聞いてくださいよ、レン。二人ってば私をいつまでも子供扱いして揶揄うのですよ!」

レンと二人でルカリオとキースを見やれば、彼らは溜め息を吐きながらこめかみを押さえたり、頭を振ったりしている。
なんですか、その態度は。

「二人とも、アイリスに何をしたのです?」

レンが目を細めながら少し冷たい声で問うと、ルカリオとキースは肩をすくめて言った。

「僕は揶揄ってなんていないよ」
「俺だって。なんつーか……そう! 愛情表現ってやつだ」
「「は?」」
「そうなんだよ! キース、奇遇だな。僕も愛情を表現しただけさ」

二人揃って何を言っているのでしょうか。
いい年をして膝に座らせたり、抱えて振り回すなんて、いつまでも私を幼いと思っている証拠です。
あ、もしかして子供のように可愛い妹分への愛情表現ってことだとか?

「へえ、二人は僕の居ないところで抜け駆けしていたのですね。ふーん」

レンが落ち着きながらも、瞳が怒りに燃えている……ような気がする。
親しくなければ知らないことだが、レンは怒らせると怖いのだ。
しかし、レンが何に腹を立てているのかは謎である。

レン、私が揶揄われたのを一緒に怒ってくれるのかと思いきや、なんだかちょっと違うような?
抜け駆けって、それではまるでレンも私に『愛情表現』とやらをしたかったみたいじゃないですか。

「レン、悪かった。ついアイリスと二人きりになって自制が効かなくて……。でもアイリスが無防備に可愛いのがいけないと思う」
「俺も悪かった。つい触りたくなっちまって。でもいい加減、俺らが男だってことも自覚させなきゃだろ?」
「まあ、その気持ちは理解できます。アイリスもそろそろ僕たちの思いに気付くべきだとは思いますよ」

……彼らは何を言っているのだろうか?
まるで私のことを好きだと言っているように聞こえてしまう。

あら、私ってばモテモテ!
――って、そんなことがあるはずないじゃないの。

「もしかしてみんなは私のことが好きなのですか?……なーんちゃっ」
「やっと気付いたの?」
「鈍い奴だな」
「そこがアイリスのいいところですよ」

『なーんちゃって』と、冗談で終わらせるはずの私の言葉は、すぐさま彼らに肯定されてしまった。
……え、マジですか?
レンまで?

「冗談ですよね?」
「そんなわけあるか」
「どうして僕たちが婚約者もいないままこの年までいると思っているの?」
「アイリスのことが好きだからですよ」

うそうそ、そんな素振り今までなかったですよね?
うええっ、これからどうしたら――

焦った私は思わず告げていた。

「あの、アイドルは恋愛禁止ですから!」
「「「……はぁぁぁ!?」」」

彼らの抗議の声が部屋に響いていた。
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