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人はそれを嫉妬と呼ぶ。
エミリアが騎士のダニエルと婚約(仮)をして、二年が経過した。
エミリアの父、バートン伯爵は、ビジネスの功績を認められ、侯爵へと陞爵していた。
巷では影で「マンゴリラ侯爵」と呼ばれているらしく、エミリアは笑いが止まらなかった。
エミリアも侯爵令嬢となったが、元々規格外の令嬢だった為、本人はあまり変化が無かった。
ただ、十二歳になったエミリアは、今までは天才少女のように扱われていたが、ここにきて弱点も見えてきた。
「エミリアちゃんは、何でもそつなくこなすのに、お名前を覚えるのはちょっと苦手なのねぇ。」
ある日母に言われ、エミリアはドキッとした。
バレてる!
なんとか誤魔化してここまで来たけど、やっぱりバレてた!!
エミリアは何しろ、前世が日本人なのである。
日本人脳なるものがあるのかわからないが、とにかくカタカナの名前が頭に入ってこない。
微妙に似ていたり、発音が難しい名前もある。
今までは幼かったのと、話の内容に皆が気を取られていて気付かれなかったが、エミリアは貴族の名前を覚えるのに苦労していた。
あーもう、いっそあだ名を付けてしまいたい・・・
それか、短く愛称で呼べればいいけど、そんなに親しくないのに呼んだら大変なことになりそうだし。
今や、勢いに乗るバートン侯爵家である。
迂闊に親しげな態度を見せると、勘違いされて、大きな問題に発展しかねない。
地道に覚えるしかなく、今日も家族の影でブツブツ復習をしていた。
「エミリアってば、そんなに真剣にならなくても、僕と父上がついてるから大丈夫だよ。」
「いいなー、お兄ちゃんはすぐに覚えられて。私、顔すら同じに見える人がいっぱいいるのに。」
優しい兄がいつもフォローしてくれるが、さすがにいつまでも頼りっぱなしは良くないと気合いを入れる。
しかし、エミリアには、いわゆる外国人顔の見分けも難しい。
女性はまだいいのだが、年配で小太りの、髪が若干寂しい男性など、全部同じに見えてしまう。
「そんなこと言いながら、ちゃんと持ち物を覚えて、商売に繋げるんだからね。エミリアは凄いよ。」
顔は覚えられないが、眼鏡や時計などの小物には目が留まるエミリアは、持ち物で年配男性の判別をしていた。
この前も、ある男性貴族の懐中時計の鎖が以前と違うことに気付き、指摘をしたら、そんな細かいことを覚えていたのかと感動され、奥様へのプレゼントを依頼されたのである。
苦手な部分を家族に補ってもらいながら、侯爵令嬢となったエミリアが社交を学んでいる頃、騎士のダニエルも環境が変わりつつあった。
「ダニー様、昨夜のパーティーは楽しかったですか?モテモテだったそうですね。」
エミリアが、屋敷に顔を見せたダニエルに尋ねる。
あら、なんだか浮気を問い詰める奥さんみたいになってる?
違うの、ただの確認だもの。
別に気になってる訳じゃないし。
冷静に、私は少しも気にしてませんよ風な口調を意識する。
「ん?もしかして、嫉妬か!?俺が他の令嬢と何かあったと心配してるのか?」
ダニエルの満面の笑顔が憎らしい。
「ちーがーいーまーすぅー!」
否定するが、なんだか恥ずかしくて目が見られない。
ダニエルは自分の膝にエミリアを乗せると、頭を撫でた。
「俺がエミィ以外に気を許すはずがないだろ?何年エミィを見てると思ってるんだ。」
ダニエルの言葉に嘘がないのはわかっているが、ダニエルは騎士団でも出世頭であり、婚約者のエミリアが幼い内に、一発逆転を狙う令嬢が多いと聞く。
パーティーにまだ出られないエミリアは、話を聞くとついモヤモヤしてしまうのだ。
「どうだか。そんなこと言いながら、ボンキュッボンなお姉さんにフラーっと靡いちゃうかもしれないし。」
まだ十二歳のエミリアは、体型では全く勝負にならない。
いまだペタンコな胸を見下ろした。
「ブッ!アハハハハ!!そこを気にしてたのか?エミィは可愛くて困る。」
ダニエルはギュッとエミリアを抱きしめた。
「焦らなくても、エミィは大人になってるよ。でもそんなこと言い出すなんて、そろそろ婚約者(仮)も終わりか?」
なんだか悔しくなったエミリアは、口を尖らせながら言った。
「まだ(仮)です!!」
ダニエルはしばらく笑い続けていた。
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