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少女の成長。
しおりを挟むエミリアは十三歳になった。
貴族学校の中等部に入学し、新しい生活が始まっていた。
ダニエルも二十六歳となり、現在騎士団の中で一番大きな騎士隊の隊長を拝命しているが、副団長の座も間近かと噂されている。
「エミリア様のご婚約者は、立派な殿方で羨ましいですわ。大人っぽくて、優秀で。私の婚約者はまだまだ頼りなくて。」
学校で、同じ年頃の令息を婚約者に持つ令嬢に言われる度、心の中で笑ってしまう。
そりゃあ、ダニー様は実際大人で、私達の倍も生きてるから。
同年代の令息は、成長期もこれからだしね。
まだ身長も体格も小さくて当然の為、お相手の令息に同情してしまうが、ちょっとだけ鼻が高いのも事実だった。
ダニエルは見た目の良さだけでなく、騎士団の中でも真面目で剣の腕がいいと評判なのである。
だからこそ、騎士として生活を安定させる為にも早く結婚し、子を持ったほうがいいと考え、もっと年頃の婚約者を持つべきだとダニエルに進言する者もいるらしい。
お互いが有名な十三歳差カップルの二人は、どこに行っても注目の的で、周囲が放っておかないのだった。
ダニー様と釣り合ってないのは、私が一番わかってるってば。
ほんと、なんであんなにモテる人が私と婚約してるんだろう。
私くらいの容姿なら珍しくないし、やっぱりどうしたって年齢差が気になるよね。
もっと大人になれば、大した問題じゃなくなるんだろうけど。
正直、年齢で否定されるのは、中身が大人のエミリアには腹立たしくも感じられる。
また何より、いつまでも子供っぽい自分の容姿と体型に、ジレンマも感じていた。
仮の婚約だとつい言い張ってしまうのも、自信の無さの現れなのである。
一方、ダニエルはダニエルで悩んでいた。
最近エミィが綺麗になってきた。
元々可愛いが、外見も大人びてきて、たまにドキッとさせる表情を見せるんだよな。
学校に行き始めて、エミィを狙って周りをウロチョロするガキも増えたし、ほんと気が抜けなくて困る。
早く出世して、邪魔な奴らを排除出来るだけの力を手に入れないとな。
真面目で腕はいいが、その原動力は決して褒められたものではなかった。
二人とも何故か自己評価が低く、お互い遠慮をしてしまうのを、シーラ、ルシアン姉弟はヤキモキしながら見守っていた。
◆◆◆
良くも悪くも特別な進展がないまま、エミリアは十五歳になった。
学校の噂好きな友人が、誰々が警護中のダニエルにアプローチをかけていただの、愛人でもいいからと捨て身で言い寄った女性がいるなど、エミリアに親切に教えてくれる。
入学当時はいちいち心がざわついていたものだが、最近は割合冷静に聞けるようになり、笑って流せる余裕が出来てきた。
ダニエルが他の女性に靡いたことなど一度も無かったし、エミリアが少し成長し、ダニエルと並んで立っても以前ほどの違和感が無くなってきたことも大きい。
同級生達の話も、終わりはいつも同じだった。
「エミリア様がいるのに、ダニエル様が心変わりなんてするはずがないのに。今までだって浮いた話もないし、二人はとってもお似合いですもの。」
年齢差を気にしてしまうエミリアには、友人の言葉はありがたかった。
元日本人としては、いまだ十五歳と二十八歳の婚約は普通だとは思えず、結婚に踏み切る勇気が出なかったのである。
最近、ダニエルも結婚を意識しているのか、それともただエミリアをからかっているだけなのか、二人で過ごしていると結婚の話を持ち出すことがあった。
「エミィ、そろそろ結婚しない?」
「俺と結婚したくなってきた?」
「早くエミィと一緒に暮らしたい。」
冗談っぽい口調なのだが、半分は本気のような気もする。
日本じゃ、私が生きてる時は十六歳からしか結婚出来なかったのに。
そんな若くして結婚する子もいなかったし。
ここは日本じゃないけど、もし結婚するならせめて高校卒業する年くらいまでは待ってもらいたい・・・
ダニエルもそんな気持ちに気付いているのか、結局はエミリアの意志を尊重してくれた。
「学校卒業までは待ってやるか。それ以上は待てないぞ?」
エミリアの頬を撫でながら、仕方なさそうに、でも愛おしそうに微笑まれると、申し訳無さも募る。
「その時にならないとわかりません。」
あえて強気に答えるエミリアだが、そっぽを向き、真っ赤な顔を見れば、照れてるだけなのは丸わかりで、ダニエルは益々嬉しそうに笑い、頬を突くのだった。
そんな二人に、出会って以来の大きな危機が近付いていた。
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