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忍び寄る不穏な影。
エミリアは、まもなく十九歳になろうとしていた。
ダニエルのバーシャルでの警備も三年弱が経過し、そろそろ王都へ帰還出来るのではないかという噂もある。
バーシャルは緊張状態が続きつつも、警備を固めた為か、攻め込まれることは無かった。
ダニエルも元気にしているようで、エミリアも安心していた。
「エミィちゃん、邪魔するよ。元気?」
エミリアは高等部を無事に卒業したが、学校で会えなくなった分、ルシアンはエミリアの様子を見に侯爵家の屋敷まで訪ねてくることがあった。
「ルシアン様、ごきげんよう。元気です。ダニー様も元気みたいですね。」
「ああ、そうみたいだな。あいつら、やたらと鍛錬ばかりしてるみたいだから、帰ってきたらムッキムキになってるんじゃない?」
エミリアのラブレター騒動を知っているルシアンは、結構本気で言っているのだが、まさか自分の手紙が読まれていることを知らないエミリアは、ルシアンの冗談だと思って笑って聞いていた。
「ふふっ、私が大人っぽく変身して驚かせようと思っているのに、ダニー様のほうがムキムキに成長していたら、計画が台無しですね。」
ダニエルの、オレンジのアップリケのシャツがパツパツになっている姿を想像すると、笑いが止まらなかった。
「エミィちゃんは一気に綺麗な女性になっちゃったからね。経過を見られなかったダニエルが不憫で仕方ないよ。あ、面白いから、エミィちゃんは相変わらず小さくて可愛いって伝えてあるから。」
いたずらっぽく笑い、ルシアンがウィンクをする。
エミリアはここ二年ほどで背も伸び、体付きも女性らしくなっていた。
ボンキュッボンとまではいかないが、随分変化したので、ダニエルと再会した時に驚く顔を見るのを楽しみにしているのだ。
ふっふっふ。
胸もそれなりに成長したし、驚くダニー様に、「あら、見惚れて声も出ないんですか?」って言ってやるんだから!
ルシアン様もナイスアシスト!!
さすが、わかってるわ。
二人で悪い笑みを浮かべた後、エミリアはルシアンに今日の訪問の理由を尋ねた。
きっといつものように、顔を見に来ただけだと思っていたが、答えは予想外だった。
「それがね、バーシャルからの報告で、隣国が動きそうなんだ。襲撃に備えて、俺達も合流することになってね。明日発つ。エミィちゃんにも伝えておこうと思って。」
エミリアから一瞬で笑みが消えた。
まさかそんなことになっているとは思ってもいなかったのである。
「そんな!大丈夫なんですか?相手の兵力は?」
思わず訊いてしまうが、まだわかっていることは少ないらしい。
ルシアン様まで赴くなんて。
あともう少しで任務期間も終わりだったのに・・・
バーシャルで戦いなんて、ダニー様にとってはトラウマだろうし。
ダニエルは前回の戦いのせいで父をなくしたのだ。
青ざめてしまったエミリアを元気付けるように、ルシアンがわざと明るい声で話しかける。
「そんな心配しないで。情報の真偽を確認するのに、念の為向かうだけだよ。ダニエルももうすぐ戻ってくるんだから、エミィちゃんは結婚式の準備でもして待っててあげて?」
ルシアンの思いやりはありがたいし、式の招待客やドレスに関しても、実際密かに準備を始めていた。
でも、肝心の本人が無事じゃないと、意味がないじゃない。
杞憂で終わればいいけど。
エミリアは、忙しいだろうにわざわざ伝えにきてくれたルシアンに、感謝した。
「ルシアン様、教えて下さってありがとうございます。ルシアン様も十分気を付けて下さいね。彼女さんも心配しますから。」
ルシアンには、一年ほど前から付き合っている彼女がいるのである。
今回は本気らしく、ふらふら遊ぶのはやめたらしい。
「ありがとう。何かあったら連絡するから。」
ルシアンは翌日、王都を出発した。
しかし、その日の午後、バーシャルが攻め込まれたという報告が王都にもたらされたのである。
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