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最後の嫌がらせ(階段突き落とし編)
最後の嫌がらせ決行当日。
マリアンヌは朝からジャルダンとロザリーに絡まれていた。
こちらが出向く側だと思っていたのに、人生とは何が起こるかわからないものだ。
わざわざ教室まで押しかけて来た彼らは、今週末にマリアンヌが主催するお茶会にロザリーが呼ばれていないのはおかしいと言いがかりをつけてきた。
虐めだと言い張るのである。
「いえ、申し訳ないのですが、今回のお茶会は伯爵家以上の家格の令嬢に声をかけておりまして」
「ほら、私はそれが身分による差別だって言っているんだ。ロザリーが可哀想じゃないか」
「私、参加したいのにひどいですぅ~。また私を虐めるんですか?」
さきほどからまったく埒が明かない。
出席できる夜会や茶会が階級で区切られていることなど当たり前で、強引に参加をしたって恥をかくのは自分だと何故わからないのだろうか。
そんなにうちに来たいのかしら?
お父様が怒り狂いそうだけど。
通常のお茶会ですら勝手にいちゃもんつけてくれるなんて、悪役令嬢としては得した気分ね。
面倒臭くなって適当にあしらっていると、またまたベリックが助け舟を出してくれた。
彼はマリアンヌのクラスメイトなので、理不尽なやり取りを不憫に思ってくれたのかもしれない。
「いい加減になさったらどうですか。彼女は差別ではなく、区別をしているだけです。貴族社会では当たり前のことですよ。一度冷静になられては?」
「なんだと?」
ジャルダンは憤慨した様子だったが、やがてロザリーを連れて退散していった。
王子自らが階級を否定するような発言をしたまずさにようやく思い至ったようだった。
「ベリック様、今回も巻き込んでしまって申し訳ありません」
「いえ、マリアンヌ嬢こそ災難でしたね。僕があなたの役に立てたのなら光栄ですが」
以前はおっとりしていると思っていたベリックだが、そこはやはり侯爵令息。
言うべき時は言える男だなんて素晴らしい。
「頼もしかったですよ」とマリアンヌが笑いかけると、照れたように顔を赤らめたベリックをクラスメイトが微笑ましそうに眺めていた。
◆◆◆
放課後が近付き、とうとうロザリーを階段から突き落とす時がやって来た。
これぞ悪役令嬢の真骨頂とも言える見せ場である。
嫌がらせ決行の舞台は屋上に続く階段に決めていた。
例のバカップルは晴れた日の放課後は毎日のように屋上で逢瀬をしているらしく、これ以上の絶好の機会はないだろう。
いつも先に着いているジャルダンの元へとロザリーが駆け付け、二人は熱い抱擁を交わす――と、見たくもないものを見てしまった不運な令息が語っていた。
それからは放課後の屋上に近付く酔狂な者など彼ら以外は皆無な為、非常にやりやすい状況だった。
問題は突き落とすっていうことなんだけど……。
『突き落とす』じゃなくて『突き飛ばす』だけにしましょう。
やはり女の子に傷を付けるなどあってはならない。
それに、被害者ムーブが得意なロザリーのことだ。
仮に階段の踊り場で軽く倒されただけでも、階段から突き落とされたと大袈裟に言って回るのは目に見えていた。
ならばこちらもそれを利用するまで。
校舎の地図は頭に入っているわ。
最短ルートを爆走して階段の踊り場でロザリーを突き飛ばし、再びダッシュで戻って来て生徒会の定例会に出席すれば、私の完璧なアリバイが出来るってわけよ。
成績優秀なマリアンヌは生徒会の書記を務めていて、今日は週一回の会合の日なのだ。
マリアンヌの教室から屋上へ続く階段、そしてその階段から生徒会室へは、階も校舎すら違う上、広い学園の北と南を行ったり来たりの長距離移動となる。
マリアンヌの脚力とマル秘ルートの存在がなければ実現不可能間違いなしの計画だった。
キーンコーンカーンコーン
放課後の合図と共に、「それではわたくしは生徒会の定例会がございますので」と、マリアンヌは教室から離れた。
そのまままだ人気が少ない廊下をしずしずと歩いた後、さっと空き教室へと体を滑り込ませると、以前のようにベランダに出て一気に走り、そのままの勢いで柵を飛び越え隣の校舎のベランダへと飛び移る。
かつて木から木へと飛び移っていた彼女には、こんなことは朝飯前だった。
さらに走っていくと、ふと例の階段へ向かう第一王子の姿が目に入った。
今から屋上へ向かうに違いない。
ジャルダンが通り過ぎるのを待って、マリアンヌも階段を上り、途中の踊り場でロザリーを待つ。
すると、すぐにパタパタと軽やかな足音が聞こえてきた。
ロザリーだろう。
あとは油断している彼女を軽く突き飛ばして、その隙に逃げて生徒会室の近くまで走れば――
「お嬢様」
急に耳元で話しかけられたマリアンヌは、驚きで体を弾ませた。
バッと振り返れば、ここにはいるはずのない執事見習いのアレンが立っていて……。
「え? なんでアレンがこんなところに? いや、今はそれどころじゃ」
「えーーっ、マリアンヌってば、こんなところで逢引? あなたも隅に置けないわね」
ニマニマしているロザリーを前に、マリアンヌはピンチに陥っていた。
マリアンヌは朝からジャルダンとロザリーに絡まれていた。
こちらが出向く側だと思っていたのに、人生とは何が起こるかわからないものだ。
わざわざ教室まで押しかけて来た彼らは、今週末にマリアンヌが主催するお茶会にロザリーが呼ばれていないのはおかしいと言いがかりをつけてきた。
虐めだと言い張るのである。
「いえ、申し訳ないのですが、今回のお茶会は伯爵家以上の家格の令嬢に声をかけておりまして」
「ほら、私はそれが身分による差別だって言っているんだ。ロザリーが可哀想じゃないか」
「私、参加したいのにひどいですぅ~。また私を虐めるんですか?」
さきほどからまったく埒が明かない。
出席できる夜会や茶会が階級で区切られていることなど当たり前で、強引に参加をしたって恥をかくのは自分だと何故わからないのだろうか。
そんなにうちに来たいのかしら?
お父様が怒り狂いそうだけど。
通常のお茶会ですら勝手にいちゃもんつけてくれるなんて、悪役令嬢としては得した気分ね。
面倒臭くなって適当にあしらっていると、またまたベリックが助け舟を出してくれた。
彼はマリアンヌのクラスメイトなので、理不尽なやり取りを不憫に思ってくれたのかもしれない。
「いい加減になさったらどうですか。彼女は差別ではなく、区別をしているだけです。貴族社会では当たり前のことですよ。一度冷静になられては?」
「なんだと?」
ジャルダンは憤慨した様子だったが、やがてロザリーを連れて退散していった。
王子自らが階級を否定するような発言をしたまずさにようやく思い至ったようだった。
「ベリック様、今回も巻き込んでしまって申し訳ありません」
「いえ、マリアンヌ嬢こそ災難でしたね。僕があなたの役に立てたのなら光栄ですが」
以前はおっとりしていると思っていたベリックだが、そこはやはり侯爵令息。
言うべき時は言える男だなんて素晴らしい。
「頼もしかったですよ」とマリアンヌが笑いかけると、照れたように顔を赤らめたベリックをクラスメイトが微笑ましそうに眺めていた。
◆◆◆
放課後が近付き、とうとうロザリーを階段から突き落とす時がやって来た。
これぞ悪役令嬢の真骨頂とも言える見せ場である。
嫌がらせ決行の舞台は屋上に続く階段に決めていた。
例のバカップルは晴れた日の放課後は毎日のように屋上で逢瀬をしているらしく、これ以上の絶好の機会はないだろう。
いつも先に着いているジャルダンの元へとロザリーが駆け付け、二人は熱い抱擁を交わす――と、見たくもないものを見てしまった不運な令息が語っていた。
それからは放課後の屋上に近付く酔狂な者など彼ら以外は皆無な為、非常にやりやすい状況だった。
問題は突き落とすっていうことなんだけど……。
『突き落とす』じゃなくて『突き飛ばす』だけにしましょう。
やはり女の子に傷を付けるなどあってはならない。
それに、被害者ムーブが得意なロザリーのことだ。
仮に階段の踊り場で軽く倒されただけでも、階段から突き落とされたと大袈裟に言って回るのは目に見えていた。
ならばこちらもそれを利用するまで。
校舎の地図は頭に入っているわ。
最短ルートを爆走して階段の踊り場でロザリーを突き飛ばし、再びダッシュで戻って来て生徒会の定例会に出席すれば、私の完璧なアリバイが出来るってわけよ。
成績優秀なマリアンヌは生徒会の書記を務めていて、今日は週一回の会合の日なのだ。
マリアンヌの教室から屋上へ続く階段、そしてその階段から生徒会室へは、階も校舎すら違う上、広い学園の北と南を行ったり来たりの長距離移動となる。
マリアンヌの脚力とマル秘ルートの存在がなければ実現不可能間違いなしの計画だった。
キーンコーンカーンコーン
放課後の合図と共に、「それではわたくしは生徒会の定例会がございますので」と、マリアンヌは教室から離れた。
そのまままだ人気が少ない廊下をしずしずと歩いた後、さっと空き教室へと体を滑り込ませると、以前のようにベランダに出て一気に走り、そのままの勢いで柵を飛び越え隣の校舎のベランダへと飛び移る。
かつて木から木へと飛び移っていた彼女には、こんなことは朝飯前だった。
さらに走っていくと、ふと例の階段へ向かう第一王子の姿が目に入った。
今から屋上へ向かうに違いない。
ジャルダンが通り過ぎるのを待って、マリアンヌも階段を上り、途中の踊り場でロザリーを待つ。
すると、すぐにパタパタと軽やかな足音が聞こえてきた。
ロザリーだろう。
あとは油断している彼女を軽く突き飛ばして、その隙に逃げて生徒会室の近くまで走れば――
「お嬢様」
急に耳元で話しかけられたマリアンヌは、驚きで体を弾ませた。
バッと振り返れば、ここにはいるはずのない執事見習いのアレンが立っていて……。
「え? なんでアレンがこんなところに? いや、今はそれどころじゃ」
「えーーっ、マリアンヌってば、こんなところで逢引? あなたも隅に置けないわね」
ニマニマしているロザリーを前に、マリアンヌはピンチに陥っていた。
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