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断罪が始まりました
現在、屋敷に戻ったマリアンヌは執事見習いのアレンを問い詰めているところである。
……のらりくらりとはぐらかされているのだが。
「だから、なんでアレンがあの場所にいたのよ? あの薬は何? おかげで私の方が浮気を疑われるところだったじゃないの!」
「ですから私にも色々と事情があるのですよ。あの女の言うことを信じる愚かな者などおりませんから心配無用です。あ、一人だけいたな。あの馬鹿王子……」
「だからあなたは不敬なんだってば!」
不毛なやり取りに疲れたマリアンヌが馬鹿馬鹿しくなって溜め息を吐く頃、アレンは急にしおらしく俯くと切ない声を漏らした。
「お嬢様が心配で堪らなかったのです」
「え?」
「心優しいお嬢様のこと、もし揉み合いにでもなって逆に階段から落とされてしまったら……」
アレン、そんなに私を心配してくれていたの?
いつも飄々としているから気付けなかったわ。
「アレン、私……」
「なーんて。面白そうだと思っただけなのですけどね」
「……は?」
「いやー、思っていた以上にあの男爵令嬢は性悪でしたね。お嬢様以上に口が悪いし、お嬢様の方が断然可愛らしい」
「……うん、もういいわ」
ぐったりとしたマリアンヌがソファーに行儀悪く体を倒すと、少しも悪びれないアレンは紅茶を淹れ直しながら普通に話しかけてきた。
「私事で恐縮ですが、実家の都合で明日から三日ほどお休みをいただきます。お嬢様のせっかくの連休にお世話ができないのは心苦しいですが」
「そういえばそうだったわね。聞いているわ。私のことなら気にせずとも平気よ。お茶会なら規模が小さいものだし、ゆっくりしてきてちょうだい」
体勢を戻したマリアンヌがアレンを見つめて言うと、執事見習いは静かに頭を下げた。
アレンはマリアンヌが八歳の時からこの家で仕えている。
しかし、はっきりとした年齢、実家のこと、この国の出身なのかすらマリアンヌは知らなかった。
もちろん初めは何度も尋ねてみたのだが、本人が喋りたく無さそうにしているのに気付いてからは訊くのもやめてしまっている。
謎に包まれた執事見習いではあるが、マリアンヌはそれでかまわないと思っていた。
考えてみれば、アレンって顔まで隠れているのよね。
ふふっ、どれだけ秘密主義者なのよ。
機嫌を直したマリアンヌは生徒会室でのロザリーの様子を再現したりして、楽しいお茶の時間を過ごしたのだった。
◆◆◆
連休明け、学園では全校生徒出席の朝礼が行われていた。
学院長の挨拶に続いて、生徒会長のアルターが学校行事について話していると、「みんな聞いてくれ!」と学生の中から声が上がった。
アルターと共に講堂の壇上に立っていたマリアンヌが何事かと目をやれば、第一王子ジャルダンがロザリーの手を引いて壇上に上がってくるではないか。
え、ジャルダン様は何をするつもりなの?
まさかこんな朝っぱらから、教職員方もいる前で『アレ』じゃないでしょうね?
残念なことに、『アレ』らしい。
ジャルダンはアルターを邪魔だとばかりにどけさせると、学生に向かって叫んだ。
「私はこの場で宣言する。私は真実の愛を見つけたのだ。相手はロザリーであり、彼女を醜い嫉妬心から害をなそうとしたマリアンヌとは婚約を破棄する!」
本人は格好良くきめたつもりなのか、右手で空を指して陶酔したように動かないが、周囲は呆れすぎて言葉も出ない。
ロザリーだけが「かっこいいですぅ~」と煽てているが、お世辞にも少しも格好良くなかった。
マリアンヌは自分が出て行くべきだと一歩踏み出したが、アルターがその前に低い声音で問いただしていた。
「この場で唐突に宣言する理由が全く思い当たりませんが、まあいいでしょう。彼女が嫉妬などしているはずもないが、婚約を解消するなら手順に乗っ取って勝手にやっていただきたい。迷惑なので」
軽蔑していることを隠しもせずに淡々と述べるアルターにハラハラするマリアンヌだったが、この場にいる全員が同じ目でジャルダンたちを見ている。
「黙れ! 私がこれからその女の非道な行いを明らかにしてやろう。静かに聞いておけ!」
そしてジャルダンは、ロザリーがマリアンヌから受けたとされる虐めの数々について語り始めた。
陰口、私物の紛失、お茶会からの締め出し、階段から突き落とされたこと……いかに酷いかを切々と訴えかけ、隣でロザリーは涙を流すフリまでしている。
いやいや、盛り過ぎというか、自分の不注意でなくしたものまで私のせいなの?
もはや身に覚えのない罪のほうが多くて楽しくなってきちゃったじゃない。
ショックを受けているようで、実は笑いを堪えて震えているマリアンヌの前で、ジャルダンが高らかに言い放つ。
「以上の罪により、マリアンヌ・オーズリーには国外追放を言い渡す! 以上!」
断罪きたー。
よしよし、ここまでは希望された通りの悪役令嬢になれているみたい。
でも国外追放ってまた大きく出たわね。
ただの第一王子のくせに。
マリアンヌは無事に悪役令嬢として断罪されたことに喜びを感じていた。
……のらりくらりとはぐらかされているのだが。
「だから、なんでアレンがあの場所にいたのよ? あの薬は何? おかげで私の方が浮気を疑われるところだったじゃないの!」
「ですから私にも色々と事情があるのですよ。あの女の言うことを信じる愚かな者などおりませんから心配無用です。あ、一人だけいたな。あの馬鹿王子……」
「だからあなたは不敬なんだってば!」
不毛なやり取りに疲れたマリアンヌが馬鹿馬鹿しくなって溜め息を吐く頃、アレンは急にしおらしく俯くと切ない声を漏らした。
「お嬢様が心配で堪らなかったのです」
「え?」
「心優しいお嬢様のこと、もし揉み合いにでもなって逆に階段から落とされてしまったら……」
アレン、そんなに私を心配してくれていたの?
いつも飄々としているから気付けなかったわ。
「アレン、私……」
「なーんて。面白そうだと思っただけなのですけどね」
「……は?」
「いやー、思っていた以上にあの男爵令嬢は性悪でしたね。お嬢様以上に口が悪いし、お嬢様の方が断然可愛らしい」
「……うん、もういいわ」
ぐったりとしたマリアンヌがソファーに行儀悪く体を倒すと、少しも悪びれないアレンは紅茶を淹れ直しながら普通に話しかけてきた。
「私事で恐縮ですが、実家の都合で明日から三日ほどお休みをいただきます。お嬢様のせっかくの連休にお世話ができないのは心苦しいですが」
「そういえばそうだったわね。聞いているわ。私のことなら気にせずとも平気よ。お茶会なら規模が小さいものだし、ゆっくりしてきてちょうだい」
体勢を戻したマリアンヌがアレンを見つめて言うと、執事見習いは静かに頭を下げた。
アレンはマリアンヌが八歳の時からこの家で仕えている。
しかし、はっきりとした年齢、実家のこと、この国の出身なのかすらマリアンヌは知らなかった。
もちろん初めは何度も尋ねてみたのだが、本人が喋りたく無さそうにしているのに気付いてからは訊くのもやめてしまっている。
謎に包まれた執事見習いではあるが、マリアンヌはそれでかまわないと思っていた。
考えてみれば、アレンって顔まで隠れているのよね。
ふふっ、どれだけ秘密主義者なのよ。
機嫌を直したマリアンヌは生徒会室でのロザリーの様子を再現したりして、楽しいお茶の時間を過ごしたのだった。
◆◆◆
連休明け、学園では全校生徒出席の朝礼が行われていた。
学院長の挨拶に続いて、生徒会長のアルターが学校行事について話していると、「みんな聞いてくれ!」と学生の中から声が上がった。
アルターと共に講堂の壇上に立っていたマリアンヌが何事かと目をやれば、第一王子ジャルダンがロザリーの手を引いて壇上に上がってくるではないか。
え、ジャルダン様は何をするつもりなの?
まさかこんな朝っぱらから、教職員方もいる前で『アレ』じゃないでしょうね?
残念なことに、『アレ』らしい。
ジャルダンはアルターを邪魔だとばかりにどけさせると、学生に向かって叫んだ。
「私はこの場で宣言する。私は真実の愛を見つけたのだ。相手はロザリーであり、彼女を醜い嫉妬心から害をなそうとしたマリアンヌとは婚約を破棄する!」
本人は格好良くきめたつもりなのか、右手で空を指して陶酔したように動かないが、周囲は呆れすぎて言葉も出ない。
ロザリーだけが「かっこいいですぅ~」と煽てているが、お世辞にも少しも格好良くなかった。
マリアンヌは自分が出て行くべきだと一歩踏み出したが、アルターがその前に低い声音で問いただしていた。
「この場で唐突に宣言する理由が全く思い当たりませんが、まあいいでしょう。彼女が嫉妬などしているはずもないが、婚約を解消するなら手順に乗っ取って勝手にやっていただきたい。迷惑なので」
軽蔑していることを隠しもせずに淡々と述べるアルターにハラハラするマリアンヌだったが、この場にいる全員が同じ目でジャルダンたちを見ている。
「黙れ! 私がこれからその女の非道な行いを明らかにしてやろう。静かに聞いておけ!」
そしてジャルダンは、ロザリーがマリアンヌから受けたとされる虐めの数々について語り始めた。
陰口、私物の紛失、お茶会からの締め出し、階段から突き落とされたこと……いかに酷いかを切々と訴えかけ、隣でロザリーは涙を流すフリまでしている。
いやいや、盛り過ぎというか、自分の不注意でなくしたものまで私のせいなの?
もはや身に覚えのない罪のほうが多くて楽しくなってきちゃったじゃない。
ショックを受けているようで、実は笑いを堪えて震えているマリアンヌの前で、ジャルダンが高らかに言い放つ。
「以上の罪により、マリアンヌ・オーズリーには国外追放を言い渡す! 以上!」
断罪きたー。
よしよし、ここまでは希望された通りの悪役令嬢になれているみたい。
でも国外追放ってまた大きく出たわね。
ただの第一王子のくせに。
マリアンヌは無事に悪役令嬢として断罪されたことに喜びを感じていた。
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