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三度目の問いかけ
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泉の女神による三度目の問いかけが始まろうとしていた。
いよいよ物語のクライマックスである。
「じゃあこれがラストの質問よ。お嬢さん、あなたが落としたのは……ジャジャーン、この『鉄……っぽい髪色のへっぽこ男』ですか?」
「俺様を気安く引っ張るな! 無礼な奴め……って、お前色っぽくていい女じゃないか。俺の名はコール・アーデン。お前を俺の愛人に加えてやろう」
三人目に現れたのは予想通りのコールだった。
すこぶる元気そうだ。
生きていてくれたことは良かったけれど、やっぱりアイツ嫌いだわぁ。
女神様も、コールをグレイの髪色だけで『鉄の斧』に見立てるのはちょっと強引なんじゃないかな。
それを言ったら、三人とも髪色だけで決められた配役なのかもしれないけれど。
死にかけていたことも忘れているのか、早速女神を愛人に誘うコールのブレなささにルシアが引いていると、シグルドとヨハンの二人も彼が噂のアーデン子爵令息だと気付いたのか、冷たい視線でコールを観察していた。
「うわぁ~、なんなのこの男。キモッ! ルシアちゃんが嫌がるはずよ~。煩わしいことはさっさと終わらせるに限るわね。お嬢さん、あなたが落としたのは……こいつ?」
大事な局面にも関わらず、女神は面倒臭くなってしまったらしい。
コールの扱いが極めて雑だが、彼と関わりたくない気持ちはとてもよく理解できるので、ルシアもすぐに返事をしようと口を開いた——のだが。
「女神様、私が落としたのはそちらのコール様で」
「やはりお前が俺を突き落としたのか! 恐ろしい女だな。これだから顔だけの女は……。父上に言って厳罰に処してもらうから覚悟しろ!」
「は?」
「コール様です」と答えるつもりだったルシアの言葉は、コール自身の声によってかき消された。
しかも、ルシアに殺人未遂の罪まで着せてきたではないか。
そっちこそ不同意わいせつ未遂じゃないかと声を大にして言いたい。
「違います。私はコール様を突き落としてなんていません!」
「だって今、俺を落としたって言おうとしていたではないか!」
「それは言葉の綾というか、物語を正しい流れに導く為に敢えてそう言ったというか……。とにかく、コール様は勝手に落ちたのであって、私が泉に突き落としたわけじゃありません!」
もう、どうして私が悪者になるのよ。
まだ「コール様で」しか言ってないんだから、「コール様ではありません」の可能性だって残っていたはずなのに。
……まあ、「コール様です」って答えるつもりだったけれど。
でも仕方がないじゃない、私が関わったのは三人の中ではコールだけなんだよ?
ここでコールを選ばないとハッピーエンドで終われなくなって、全員また泉に戻されちゃうかもしれないんだから。
しかし、ここでルシアにある疑問が生まれてしまった。
正直であることの大切さを訴えていると思われる『金の斧銀の斧』の物語——
実際は泉に何も落としていないルシアが、『落としたのはコール』と答えることがはたして正直と言えるのだろうか。
でも「私は何も落としていません」って答えたら、女神様が「あ、そうなの? 落としてないなら今までのことは全部なしで~」とか言って、三人を泉に連れて帰ってしまう可能性だってあるよね?
王子様とヨハン様も本物みたいだし、いなくなったらそれこそ国の一大事じゃないの。
え、いよいよどうしたらいいのかわからなくなってきた……。
ルシアが必死に頭を回転させていると、何やら女神が自分の頭をちょいちょい指差している。
どうやらルシアに髪飾りを見せつけているらしい。
女神様、こんな時に髪飾りをアピールされても今はそれどころじゃないのよ。
確かに素敵なデザインだけど……あれ? 髪飾り?
ルシアの脳裏に過去の自分が浮かんだ。
いよいよ物語のクライマックスである。
「じゃあこれがラストの質問よ。お嬢さん、あなたが落としたのは……ジャジャーン、この『鉄……っぽい髪色のへっぽこ男』ですか?」
「俺様を気安く引っ張るな! 無礼な奴め……って、お前色っぽくていい女じゃないか。俺の名はコール・アーデン。お前を俺の愛人に加えてやろう」
三人目に現れたのは予想通りのコールだった。
すこぶる元気そうだ。
生きていてくれたことは良かったけれど、やっぱりアイツ嫌いだわぁ。
女神様も、コールをグレイの髪色だけで『鉄の斧』に見立てるのはちょっと強引なんじゃないかな。
それを言ったら、三人とも髪色だけで決められた配役なのかもしれないけれど。
死にかけていたことも忘れているのか、早速女神を愛人に誘うコールのブレなささにルシアが引いていると、シグルドとヨハンの二人も彼が噂のアーデン子爵令息だと気付いたのか、冷たい視線でコールを観察していた。
「うわぁ~、なんなのこの男。キモッ! ルシアちゃんが嫌がるはずよ~。煩わしいことはさっさと終わらせるに限るわね。お嬢さん、あなたが落としたのは……こいつ?」
大事な局面にも関わらず、女神は面倒臭くなってしまったらしい。
コールの扱いが極めて雑だが、彼と関わりたくない気持ちはとてもよく理解できるので、ルシアもすぐに返事をしようと口を開いた——のだが。
「女神様、私が落としたのはそちらのコール様で」
「やはりお前が俺を突き落としたのか! 恐ろしい女だな。これだから顔だけの女は……。父上に言って厳罰に処してもらうから覚悟しろ!」
「は?」
「コール様です」と答えるつもりだったルシアの言葉は、コール自身の声によってかき消された。
しかも、ルシアに殺人未遂の罪まで着せてきたではないか。
そっちこそ不同意わいせつ未遂じゃないかと声を大にして言いたい。
「違います。私はコール様を突き落としてなんていません!」
「だって今、俺を落としたって言おうとしていたではないか!」
「それは言葉の綾というか、物語を正しい流れに導く為に敢えてそう言ったというか……。とにかく、コール様は勝手に落ちたのであって、私が泉に突き落としたわけじゃありません!」
もう、どうして私が悪者になるのよ。
まだ「コール様で」しか言ってないんだから、「コール様ではありません」の可能性だって残っていたはずなのに。
……まあ、「コール様です」って答えるつもりだったけれど。
でも仕方がないじゃない、私が関わったのは三人の中ではコールだけなんだよ?
ここでコールを選ばないとハッピーエンドで終われなくなって、全員また泉に戻されちゃうかもしれないんだから。
しかし、ここでルシアにある疑問が生まれてしまった。
正直であることの大切さを訴えていると思われる『金の斧銀の斧』の物語——
実際は泉に何も落としていないルシアが、『落としたのはコール』と答えることがはたして正直と言えるのだろうか。
でも「私は何も落としていません」って答えたら、女神様が「あ、そうなの? 落としてないなら今までのことは全部なしで~」とか言って、三人を泉に連れて帰ってしまう可能性だってあるよね?
王子様とヨハン様も本物みたいだし、いなくなったらそれこそ国の一大事じゃないの。
え、いよいよどうしたらいいのかわからなくなってきた……。
ルシアが必死に頭を回転させていると、何やら女神が自分の頭をちょいちょい指差している。
どうやらルシアに髪飾りを見せつけているらしい。
女神様、こんな時に髪飾りをアピールされても今はそれどころじゃないのよ。
確かに素敵なデザインだけど……あれ? 髪飾り?
ルシアの脳裏に過去の自分が浮かんだ。
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